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2024.11.27
アーティスト 井上時田大輔 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.32
Edit / Eisuke Onda
独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、北方ルネサンスを中心に西洋古典絵画を技術的標榜としながら、愛らしいキャラクターの絵を描く・井上時田大輔さんの背景に迫ります。
アーティスト リセイ 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.31 はこちら!
今回の作家:井上時田大輔
1989年生まれ。2019年度武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業。北方ルネサンスや西洋古典を技術的標榜としつつ、日本や中央アジア、コーカサスなどの地域を中心にユーラシアの文化や世界観を混ぜ合わせて自己の表現としている。主な展覧会に、「study:大阪国際芸術祭、アートフェア2023」(グランフロント大阪)、「D-art ART2023」(大丸東京店)、「WHAT CAFE EXHIBITION vol.37:Canvas of a Narrative 」(WHAT CAFE)、「かなた」(銀座蔦屋書店 スターバックス前展示)などがある。
《樹脂酸銅の調整》910×727mm 2024 キャンバスに油彩、テンペラ
《くつろぎ》910×727mm 2024 キャンバスに油彩、テンペラ
《ヒラニアガルバ》652×530mm 2021 キャンバスに油彩
井上時田大輔さんに質問です。(とに〜)
今回のゲストは、井上時田大輔さん。井上なのか、時田なのか。そんな謎めいた彼は、たぬきなのか、たぬきではないのか謎めいたキャラクターを描き続けています。実は以前、井上時田大輔さんとは銀座のとあるギャラリーの公式YouTube動画で一度共演したのですが、他のアーティストの出演者が霞んでしまうほどに、独特な個性を発揮していました。ペットが飼い主に似るとは、まさにこのこと。見た目こそ違いますが、井上時田さんが描く飄々としたたぬきは、彼自身によく似ているなァとつくづく思ったのを今でも覚えています。
そういえば、あの時は彼の個性に終始ツッコミっぱなしで、肝心の制作や技法について伺えていませんでした。この場を借りていろいろ教えてください。
Q01. 作家を目指したきっかけは?
なりゆきで……。
「もともとは刀鍛冶になりたかった」と斜め上の回答をする井上時田さん。「中学生の頃『るろうに剣心』が好きで刀を作りたかったのですが、いろいろと制約が多く自分のやりたい様にやれないかもしれないと思い、別の進路を探す事にしました」
「それで高校3年生の時に絵が好きなので美術予備校に通って、そこで初めて油絵を描き始めました。結局、当時の学力や実力を鑑みて適当に入れる大学の漫画コースに入ったのですが、油彩ばかり描いていて単位が取れず2年でやめてしまい、絵を描きつつバイトなどしながら過ごし、もう一度大学に行こうと思い立って武蔵野美術大学に入学しました。その後描いた絵がバズったりして依頼で絵を描いたり、展示をしたりしてきました。自分は画家というものに憧れや目標があって、作家という言葉に親しみがありませんでしたが、商業的に絵を描く事が作家であればすでに作家になっているし……というわけで“なりゆき”です」
Q02. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?
エヴァンゲリオン……。
補足:今回の回答は井上時田さんの意向で半角のカタカナを使用。「よくSNSでこの表記を見かけますが字面が可愛いので普段から使っています」とのこと。
Q03. アーティスト名に名字が2つあるのは何故ですか?
結婚して姓が時田になったので、スペイン人とかみたいに名前が増えると楽しいと思い付け足す事にしました。
Q04. 職業病だなぁと思うことは?
出掛けたり旅行に行ったりすると絵に使えそうな光景を探してしまう。
『NHK特集 シルクロード』という中国から中央アジア、西アジアを取材した番組が大好きで、この一帯の民族の文化に興味が湧きました。セルゲイ・パラジャーノフの映画『ざくろの色』(1969)にも影響受けましたね」
Q05. 鬼退治に行く時にイヌ・サル・キジ以外にもう一種お供を加えられるとしたら、どの動物を連れていきますか?
インドゾウ
Q06. たぬきを描くようになったきっかけを教えてください。
元々たぬきは好きだったのですが、自分が描いたピカチュウがバズった後にピカチュウで商売をしていくわけにはいかないため、徐々に歪めて自然に行き着いた成れの果てが今描いてる"たぬき"。
「ムサビの4年生の頃、将来の不安を抱えならがフラフラしていたらポケモンカードの絵柄を描くコンペを見つけて、応募したら落ちたんですけど、その事をSNSにアップしたらバズってしまい、そこから絵の依頼をいただけるようになりました」
Q07. 井上時田さんが描くたぬきと、生物学的なたぬきは違う生き物なのですか?
生物学上のたぬきとはだいぶ容態が違うのでたぶん違うのでしょう。
Q08. たぬきたちの仕草が人間臭くて愛らしく感じられます。たぬきの仕草を描く際のこだわりはありますか?
我々を取り巻く苦労や嫌な事や煩わしさが無いように。
Q09. たぬきを使った新しいことわざを考えてください。
“岩の下のたぬき”
普段暢気な人でも流石に少し苦しそうなさま。
Q10. たぬきのように変身できるとしたら、何に変身してみたいですか?
ねずみ。
Q11. 作品に一貫して込めているメッセージがあれば教えてください。
楽……。
「観てくれた人が、ストレスとかから解放されてくれたらいいなって思います」
Q12. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など
ないかも……。
アトリエ兼住居の本棚には美術や哲学、宗教、旅、サブカルチャーにまつわる本や漫画がずらり。その合間にちいかわなど可愛らしいフィギュアも並ぶ。「今はなし崩しで自宅をアトリエにしているのでこだわろうにもこだわれないですね……。前のアトリエにあった本も今の数倍ありましたが実家に押し込めています。人形たちは可愛いのでいます」
さまざまな種類の筆や絵の具など画材が置かれる作業スペース
Q13. 絵具や画材を自分で作られているそうですね。“こんなものをブレンドしています”という意外な素材があれば教えてください。
卵、ロジン、泥炭、炭酸銅、酢酸銅、鉛白、鉛丹、とか……。
アマゾンで購入している激安の細筆をさらに改良して細かい線を描くための筆に仕上げる
「学生時代に北方ルネッサンスの絵画に影響を受けて、絵を細かく描く様になりました。画材はいろいろな材料を試しましたが、どんどん古典的な材料にこだわるようになりました。もちろん画材店で売っている絵の具も使用することもあるのですが、自分が理解していない材料や技術で作られた画材では自分自身を表現するのに齟齬があるのではないかと思い、生活の周りにある古くから使われてきた素材や材料を用いて試行錯誤しています」
Q14. “ひょっとしたら、こんな体験をしたのは僕だけかも?” という体験があれば教えてください。
生きたまま火に焼かれる。
「ムサビに自己推薦で合格した頃、アスファルトという黒い樹脂をテレピンという揮発油と共に鍋に入れて電熱線ヒーター(IHではない)で加熱していたらまあ、引火してしまい......。燃えた樹脂が自分の手や足に掛かってしまいまして、なんとか火は消したのですが、爪は剥がれ、皮膚は垂れ下がり、皮下組織が剥き出しになっており命の危険を感じて急いで救急車を呼びました。あの時は大変でしたね。画材の熱加工はIHでやりましょう。みなさんも気をつけましょう」
Q15. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?
無敵の人。
ねずみに変身してみたい、だとか。作家になっていなかったら無敵の人になっていた、だとか。いちいち斜め上の回答をしてくる井上時田さん。それらの回答の飄々とした雰囲気が、まさしく彼の描くたぬきが醸し出す雰囲気と一致しています。
挙句の果てには、生きたまま火に焼かれた体験があるという衝撃のカミングアウト。字面だけ見たら、全身火だるまになったのかと思いました。それでも重度といえば重度ですが、もう少し伝わりやすい言い回しをしてくださいよ!
今回ばかりは抑えようと思ったのに、結局のところ終始回答にツッコミまくりで、さすがに少し苦しかったです(笑)。自分も暢気なほうなのですが、これぞまさに“岩の下のたぬき”です。(とに〜)
Information
『井上時田大輔 個展 -たぬき小路-』
■会期
2024年12月5日(木)~12月11日(水)
10:30~20:30 ※最終日は18時閉場
■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F
詳しくはこちら
ARTIST
井上時田大輔
アーティスト
1989年生まれ。2019年度武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業。北方ルネサンスや西洋古典を技術的標榜としつつ、日本や中央アジア、コーカサスなどの地域を中心にユーラシアの文化や世界観を混ぜ合わせて自己の表現としている。主な展覧会に、「study:大阪国際芸術祭、アートフェア2023」( グランフロント大阪)、「D-art ART2023」(大丸東京店)、「WHAT CAFE EXHIBITION vol.37:Canvas of a Narrative 」(WHAT CAFE)、「かなた」(銀座蔦屋書店 スターバックス前展示)などがある。
DOORS
アートテラー・とに~
アートテラー
1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館)
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