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2023.04.21

芸術大国フランスで暮らす魅力って? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.13

Interview&Text / Mami Hidaka
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。2022年2月からは大好きなフランスに留学中で、古典絵画から歴史的建築、現代アートまで、日常的にさまざまなカルチャーに触れているようです。

Vol.13のテーマは、世界有数の芸術大国・フランスでの暮らしについて。現在フランス留学中の和田さんは、フランスで暮らす中でアートを身近に感じ、アートのとらえ方に広がりが生まれたそうです。

今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに繙く「和田彩花のHow to become the DOORS」も、連載スタートから1年を迎えました。Vol.13と14はスペシャル回として、和田さんが今気になっている方をゲストとしてお迎えし、お二人でフランスのアートシーンについてお話していただきます。ゲストは『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』などの著書で知られるノンフィクション作家の川内有緒さん。川内さんの5年半にわたるフランス滞在時のアートにまつわる思い出を聞いていきます。

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アートに参加する意義って? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.12

  • #和田彩花 #連載

街のそこかしこにアートの息吹。
フランスでは「アートが生きている」

和田:私は2022年からパリに語学留学しています。川内さんはいつ頃フランスに滞在されていたんでしょうか?

川内:私がいたのは2004年から2008年、30代の半分以上をフランスで過ごしました。フランスは、暮らしの中でアートとの距離がとても近く、周りを見渡せばアーティストだらけでした。当時私は国連職員として働いていましたが、職場にも仕事終わりにパフォーミングアーツや演劇に取り組む人がいるなど、アーティストをはじめ表現の現場に携わる人が多かったです。

和田彩花さん、川内有緒さん

和田:フランスは、アートそのものやアーティストが身近な存在で、すべての人がアーティストになったり、表現活動に関わったりすることができるという可能性を感じますよね。
10月の第1土曜日の夜から翌日曜日の朝にかけて街中にアートが展示される「Nuit Blanche / ニュイ・ブランシュ」をはじめ、こどもから大人まで気軽にアートを楽しめる機会も多いと思います。

川内:夏至にフランス各地の街中で開催される音楽祭「LA FÊTE DE LA MUSIQUE / フェット・ド・ラ・ミュージック)」も、明け方まで大盛り上がりですよね。その日は、クラシックからロック、ジャズ、クラブミュージック、民族音楽まで、プロやアマチュアを問わずに誰でもなんでも無料で演奏し聴くことができるので、たくさんの人が楽器を持って街に繰り出していきます。

フランスは、こうして美術館やギャラリーにかぎらず街中にもたくさんのアートシーンがあり、「アートが生きている国」だと感じます。私がいた頃から今日まで、そこはずっと変わらない部分なのかなと思いますが、和田さんから見たフランスはいかがですか?

和田:変わらず今も街は生き生きとしていて、アートに関わる人の多さやアートの身近さなど、川内さんのお話すべて頷きながら聞いていました。アートイベントが年中絶え間なく開催されていることに加えて、イベント期間は深夜まで無料で美術館に入れるなど、アートファンにかぎらず誰でもカルチャーを楽しみやすい環境も整っていると思います。

 

おしゃべりやディスカッションも
アート鑑賞の醍醐味!

和田:あとは、フランスは列車の中が賑やかで、おしゃべり好きな国という印象があります。たとえば展覧会でも、抽象画を見てキャンバスに何が描かれているかわからないとき、日本だと一人静かに考え込んだり、インターネットを使って作品について調べたりすると思いますが、フランスでは人目を気にせずすぐに誰かと話し合います。それは気軽なおしゃべりで終わる場合もあれば、深いディスカッションに発展する場合もあって面白く、私がフランスに来て新鮮に思ったことの一つです。

川内:フランスの人たちは本当におしゃべり好きですよね。それに比べると日本では「美術館では静かにしなければいけない」という感覚が人々の中に染み付いていますが、実際のところ、おしゃべり禁止の日本の美術館はほとんどないと思います。

古典絵画などを中心に取り扱う美術館は、たしかに気を遣ってしまう部分がありますが、現代美術を専門とする美術館は、大きな音や光を用いたインスタレーションが展示されることもあるので鑑賞者に対しても寛容なところが多いです。自己規制によってアートの楽しみ方の可能性を狭めてしまわないように、美術館にももうちょっとゆるやかに楽しめる空気感があるといいですよね。

和田:私はこの一年間語学学校に通って勉強しているのですが、学校でも先生から与えられたテーマに沿ってグループでディスカッションをすることが多いです。以前「アートは人の心理状態を変えることができるか」というテーマでディスカッションしたことがあり、アートに強い興味関心を持つ人ではなくても誰でも話せるテーマの一つとして、アートが選ばれることに驚きました。

川内:面白いディスカッションになりそうですね。フランスは現代アートに取り組んできた歴史が長く、アートを育む土壌が豊かであるということに加えて、昔から議論する文化が根付いているからこそ特に話しづらいテーマがないのかもしれません。

和田さんが購入した絵画

 

蚤の市でカジュアルに
アートを購入できる楽しさ

和田:アートを広義で捉えると身近な映画や音楽なども含まれてくるので、それらが人にもたらすものについていろんな角度から話し合えて楽しかったです。

私はこの留学を機にアートがより身近に感じられるようになり、パリの蚤の市で初めてアートを購入することもできました。抽象画で何が描かれているのかも作品の天地もわからないのですが、きれいな色彩に惹かれて直感的に購入しました。たくさんあるお店の中から好きなアートを掘り出し、カジュアルかつお手頃なお値段で購入できる体験そのものが楽しく、そういった思い出も含めて、自分にとっての大事なアートになっていくのだと思います。川内さんは、アートの購入に関して、日本とフランスの違いを感じたことはありますか?

川内さんのご自宅

 

川内:素敵なお買いものですね。私はフランスでは、ギャラリーを通して作品を買うこともありましたし、アーティスト本人から直接購入という場合も多かったです。1000ユーロ以下くらいの絵画をいくつか購入して日本に持ち帰り、今でもお気に入りの作品を家の玄関などに飾っています。

パリのリヴォリ通りに、アーティストが廃ビルを不法占拠して生まれた伝説的な「59 Rivoli」というアトリエがあるのですが、そこで初期から制作している小林悦子さん(Etsutsu)の絵が大好きで集めています。そうするうちに、小林悦子さんの絵を100点以上コレクションしているミシェルという人と知り合ったのですが、ミシェルの家はどの部屋を開けても壁一面にぎっしり彼女の作品が飾られているんですよ。

和田:100点以上も!一人のアーティストの作品をかなりの数集める人もいたり、ファン同士繋がってお互いにコレクションを褒め合ったり、推し活みたいで楽しそうです。

ミシェルさんのご自宅 Photo by Sachiko Shintani

 

絵を買うことがアーティストの糧になる。
推し活としてのコレクションが幸せ

川内:ポツポツと余白を持ってアートを壁に飾るのも素敵ですが、ミシェルのように家中をアートで埋め尽くしていくのもかっこいい。「こんな飾り方もあったんだ!」という楽しい発見でした。

そしてフランスでは、作品をつくって暮らしていける専業のアーティストがいっぱいいます。コレクターとしても「1枚の絵を買うことがこのアーティストの糧になるんだ」という喜びや実感が伴うことで、推し活的に次々集めたくなっていくんですよね。フランスではアーティストと直接会えることも多いので、作品そのものを超えて次第にアーティストの人間性も好きになり、応援の気持ちが強まることもあります。

和田:アートの推し活、いいですね・・・!推し活の文脈だったら、日本でも今後さらにアートコレクターやアートを楽しむ人が増えていくような気がします。

今日はフランス留学を機にアートの捉え方に広がりが出たことを、川内さんと共有できて嬉しかったです。次回は、アートをより社会にひらいていくためにはどのようなことが重要なのか、海外の事例をもとにアートの公共性についてお話ししてみたいです。素敵なお話をありがとうございました!

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

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DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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川内有緒

ノンフィクション作家

ノンフィクション作家。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。大学卒業後行き当たりばったりに渡米。中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。 『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で、新田次郎文学賞を、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を、「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(集英社インターナショナル)でYahoo!本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。 著書に『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』(共に幻冬舎文庫)、『晴れたら空に骨まいて』(講談社文庫)、『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎)など。 白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー中編映画『白い鳥』、長編映画『目に見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督。 現在は子育てをしながら、執筆や旅を続け、小さなギャラリー「山小屋」(東京)を家族で運営。趣味は美術鑑賞とD.I.Y。「生まれ変わったら冒険家になりたい」が口癖。

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