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- 日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)
INTERVIEW
2024.11.20
日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)
Text / Keiko Kamijo
Edit / Eisuke Onda
丸の内の目抜き通り。平日でも人が行き交う賑やかな道にあり、外からも中の様子が覗ける真っ白なギャラリーがある。
この場所を主催するのはCADAN(Contemporary Art Dealers Association Nipponの略で、日本語名は一般社団法人 日本現代美術商協会)。2015年に「現代美術」を取り扱うギャラリーが集まり発足された組合だ。丸の内にあるフラッグシップギャラリー《CADAN有楽町》では、所属ギャラリーによるグループ展を行ったり、様々な場所でアートイベントを開催したりと現代美術の振興のために様々な活動をしている。
今回は代表理事の山本裕子さん(ANOMALY)、理事の大柄聡子さん(Satoko Oe Contemporary)、顧問の山本豊津さん(東京画廊+BTAP)の3名に、CADANの活動と、12月10日よりリニューアルオープンする松坂屋名古屋店の美術画廊で開催されるこけら落としの展覧会「Contemporary Manners」について語っていただいた。
業界全体の認知度を上げるために集まった
写真左から顧問の山本豊津さん(東京画廊+BTAP)、代表理事の山本裕子さん(ANOMALY)、理事の大柄聡子さん(Satoko Oe Contemporary)
――まずは、CADANについて簡単にご説明をお願いします。
裕子:CADANは現代美術を扱うギャラリーの組合で、現在は日本全国のおよそ50軒の会員数の小さな組織です。所属しているのは、現代美術のフィールドで活動をしている、プライマリー(1次流通※)ギャラリーで、開業してから3年以上のギャラリーが招待制で加入できるようになっています。
※……ギャラリーなどから最初に販売される作品を購入できるのをプライマリーマーケットといい、一度コレクターなどに購入された作品が集まるオークションなどをセカンダリーマーケットという。
――主にどんな活動をされているのでしょうか。今日訪問した《CADAN有楽町》では定期的に展覧会を開催されていると思いますし、以前に天王洲のWHAT CAFE、T-LOTUS Mで「CADAN:現代美術 2023」という展覧会を開催していた記憶があります。
裕子:活動の主軸は、現代美術の社会的な認知度の向上です。現代美術ってアーティストにしてもギャラリーにしても、ちょっと華やかなイメージがあるかもしれませんが、実はすごく小規模な産業で、知っている人も限られています。そうした中で、現代美術を扱うギャラリー同士がともに手を取り合って業界全体の認知度を上げていこうと。また、様々な活動をしてはいますが、CADANの活動は強制力を持ちません。ギャラリーもアーティストも基本的に自由を好む人たちですから。参加したいギャラリーが活動に参加するというスタイルをとっています。
Chim↑Pom from Smappa!Group、篠原有司男、今津景などが所属する現代美術ギャラリー「ANOMALY(アノマリー)」のディレクター山本裕子さん
――なるほど。それぞれのギャラリーは独立して精力的に活動されていると思いますが、業界団体として組合を立ち上げたきっかけというのはどういうことだったのでしょうか?
裕子:業界内のニーズというよりは、業界の外の方から組合はないのかと問い合わせがあったのがきっかけ。同じ産業の者同士の組合があるということが、その産業が存在している証になるそうなんです。例えば、文化庁や経産省に陳情したいことがあった時、ひとつのギャラリーが申し立てても何の効力も持ちませんが、ひとつの産業として認知されていれば意見を発言できる。だから、どんなに小さくてもいいから組合が必要なのだと。
東京と北京を拠点に、幅広い世代・地域のアーティストを国内外に発信する「東京画廊+BTAP」の代表である山本豊津さん
豊津:また、こうした業界団体に所属しているということは、お客さんにとっての保証、安心材料にもなります。
大柄:もちろん所属していないギャラリーが悪いということでは全くありません。でも、CADANに加盟しているギャラリー同士は、お互いに知らない仲ではないという意味で、ひとつの信用に繋がるかもしれません。
裕子:活動としては、CADANのメンバーが集まって展示イベントをしたり、勉強会もよくやっています。最近では、税の勉強会をやっています。
大柄:私たちもお客様から個別に相談を受けることが多いので、こうした勉強会が開かれるのはすごく有意義です。CADANには顧問弁護士もいるし、顧問税理士もいて、会員であれば誰でも相談をすることができます。
2016年に開業したギャラリー「Satoko Oe Contemporary」(池崎拓也、池田光弘、岩永忠すけ、鹿野震一郎などが所属)のギャラリスト、ディレクターの大柄聡子さん
丸の内の多様な価値観に触れる場所
――《CADAN有楽町》のスペースの運営方法について、もう少し詳しく教えてください。
裕子:《CADAN有楽町》という独自のスペースを持ったのは2020年。今年(2024年)の5月に、同じ有楽町内で移転して、丸の内仲通りに面した「国際ビル」の1階に再オープンしました。
大柄:現在、丸の内ではあちこちで再開発が進んでいて。前のビルもそうでしたが、今入居している国際ビルも来年建て替えがあります。CADANはお金持ちの団体ではないので、建て替えが決まったビルの隙間の期間に間借りさせてもらうようなスタイルをとっています。このビルに移った時は、私たちが壁のペンキを塗ったんですよ(笑)。
豊津:理事会は肉体労働が多いんです。
――なぜ丸の内を選んだのでしょうか?
裕子:CADANのギャラリーがあったらいいねと話していた時に、ビジネスマンを中心に観光客など多様な人々が多く往来する丸の内への出店を薦められ、この周辺の開発を一手に手掛ける三菱地所さんのお力添えがあり、入居することができました。丸の内周辺は、現在再開発のるつぼにあり、あちこちのビルが交替でリノベーションしている隙間を、期間限定でお借り受けした格好です。ビジネスマンの方々が日常的にアートに触れることで、ものの考え方に影響を与え、文化的な役割を果たすかもしれない。普段からアートに親しむことで、多様な価値観に触れることができる。そうした人たちが増えていくことで、結果的に世の中が寛容になっていったら、という思いもあります。
――先ほどお昼休みの時間帯に通りを歩きましたが、多くの人が往来していてびっくりしました。ギャラリーにも入ってこられますか?
裕子:はい。最近だと海外から旅行でいらしているインバウンドの方も多くいらっしゃいますね。
豊津:丸の内は地の利もいいし、ホテルも増えました。最近では、観光客の方たちも旅と画廊巡りをセットにする方たちが増えていると聞きます。ホテルのコンシェルジュでは、画廊巡りができるよう、情報を集めているところもあるようです。
裕子:外からオープンに見えるので、毎日見ていて気になると入ってきてくださる方もいます。作家や作品のことを何も知らなかったとしてもスタッフが案内できますし、「この絵、どうしようもなく気になる」という気持ちって、きっとあると思う。あとは、扉を開けて一歩踏み込む勇気でしょうか(笑)。
松坂屋名古屋店のアートフロアには東海地方の若手アーティストを支援する学生スタートアップ「artkake」のスペースも
━━丸の内に拠点をもうけて、何か印象的な出来事はありますか?
裕子:前に店番をしていた時に高校生が何人かで入ってきてくれて、突然「これいくらっすか?」って聞かれたんです。その時に、今私が300万円って答えたら、彼らにとってこれは作品ではなく「300万円」というお金に見えてしまうなと。なので、作品そのものを見てほしいなと思い、「どう思う?」とか「じゃあいくらに見える?」など、金額の話も含めていろいろと話をして。彼らとの会話はとても楽しくて、その後もギャラリーに遊びに来てくれた時は、本当に嬉しかったです。
大柄:それはいい話ですね。美術って、ニュースなどで取り沙汰されるのはお金にフォーカスしたものばかり。「この絵が何億円!」「えーびっくり!」で終わってしまって、なぜその金額になったのかという説明はしない。その繰り返しなんです。値段なんて気にせずに、まずは作品そのものを見てほしい。だからCADANでも、自分のギャラリーでも作品の横にプライスを表記したキャプションをつけていません。気になる作品があったら、大抵の場合はギャラリー内に価格表が置いてありますから、作品をご覧になられた後に価格表をお手に取ってみられるといいのではと思います。
ライフスタイルと現代美術の関係を探る試み
――12月10日にアートフロアがリニューアルする松坂屋名古屋店のこけら落としの展示をCADANが担当するとお聞きしました。その話を教えていただけますか?
大柄:「Contemporary Manners」というタイトルで、所属しているギャラリーから50点強ほどの作品が展示される予定です。
豊津:複数のギャラリーの作品が同じ空間で一同に会すことで、お客さんは幅広い選択肢の中から気になる作家の情報を得ることができます。もちろん気に入ったら購入もできる。そして、ギャラリーと新しいお客さんとの関係がつながる。一軒の画廊だけから自分の好みを見つけるのは難しいかもしれませんが、何軒かある画廊の作品を一気に見ることができれば、少しでも自分の好みに近いものと出合えるのではないかと。
大柄:普通、美術というと絵画を想像されるかもしれませんが、現代美術は絵画だけじゃなくて、写真も映像もインスタレーションもあって、非常にメディアが幅広い。それらを紹介できるように、絵画、彫刻、映像、写真と多岐にわたるメディアの作品を準備しています。また、作家の世代も巨匠から若手まで幅広く紹介する予定です。あとは、松坂屋名古屋店という場所柄もありますので、東海地方出身の作家も積極的に紹介したいと思っています。
豊津:名古屋は美術大学もたくさんあり、90年代に現代美術の画廊が一気に増えて、アートシーンを形成しました。そうした動きのなかで生まれた作家が奈良美智さんです。豊田市美術館もあり、アーティストが育つ土壌がある。
裕子:私たちもそうですが、大丸松坂屋さんは洋服や家具、食品等の「モノ」を販売しているところ。でも、モノだけじゃなくて文化的な貢献をしようと努めていらっしゃる。これまでの活動もそうですし、今回の話でもそういった気持ちが伝わってきます。
豊津:キーワードはライフスタイルです。まだ調整中ではありますが、私たちCADANのメンバーと異分野の方と一緒に、生活にアートを取り入れることについて話ができればと思っています。
――現代アートの作品を購入すると、その方の生活にはどんな変化があるのでしょうか。
裕子:ちょっと真面目な話ですが、現代美術作品と一緒に生活をするということは、覚悟が必要だというコレクターさんがいました。現代アートの作品というのは、単にキレイな花の絵というわけではなく、複雑な時代背景や思想が込められたものも多いからだと思います。
豊津:ロダンに《考える人》という作品があります。今後、人工知能を中心とした生活になってきますよね。そうなった時に、「考える人」と「考えない人」に極端にわかれるんじゃないかと。エンターテインメントは考えなくてもいい。でも、本を読んだり、アート作品を鑑賞するっていうのは観る方の人が考えなきゃいけない。
大柄:しかも、答えや正解があるわけじゃなくて。私たちも毎日禅問答をしているような気持ちです(笑)。作品って、自分の写し鏡のようなものだと思っていて。自分の中で積み重ねてきた経験や知識でしか見ることができない。だから、最初は何が描いてあるのかわからないって思っていたものがだんだん年を経て知識や経験を深めることでわかるようになったり、突然なるほど!って思える瞬間があったり。美術館やギャラリーでは、ひとつの作品と数時間、数日と向き合うことってないと思うんですが、生活空間に作品があると常にその作品のことを気にかける。長年付き合うことで感じ方は変わると思います。
Information
CADAN「Contemporary Manners」
会期:2024年12月10日(火)~12月20日(金)
営業時間:10:00~19:00(最終日は16:00閉場)
会場:〒460-8430 名古屋市中区栄三丁目16番1号
電話:050-1782-7000
公式サイトはこちら
GUEST
山本裕子
ANOMALYディレクター
日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)レントゲン藝術研究所、白石コンテンポラリーアートでの丁稚奉公を経て、2004年に独立し「山本現代」をオープン、以後2008年に白金、2016年に東レントゲン藝術研究所、白石コンテンポラリーアートでの丁稚奉公を経て、2004年に独立し「山本現代」をオープン、以後2008年に白金、2016年に東品川の倉庫街に転居し活動。2018年「URANO」「Hashimoto Art Office」と協業し「ANOMALY」を立ち上げた。品川の倉庫街に転居し活動。2018年「URANO」「Hashimoto Art Office」と協業し「ANOMALY」を立ち上げた。
GUEST
GUEST
山本豊津
東京画廊+BTAP代表
武蔵野美術大学卒業後、衆議院議員村山達雄氏の秘書を経て、東京画廊に参画、2000年より代表を務める。世界中のアートフェアへの参加や展覧会や都市計画のコンサルティングも務める傍ら、日本の古典的表現の発掘・再発見や銀座の街づくり等、多くのプロジェクトを手がけている。
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