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- KAMADO・柿内奈緒美に聞く、アートと寛容性のある社会とのつながり。 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.6
SERIES
2022.11.25
KAMADO・柿内奈緒美に聞く、アートと寛容性のある社会とのつながり。 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.6
Edit / Quishin
Photo / Ryo Tsuchida
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
お話を伺うのは、柿内奈緒美さん。2019年に「OUR ART IN OUR TIME.(僕らの時代の、僕らの表現)」を掲げる『KAMADO』を立ち上げ、現代の表現から地域に根付く時代の表現までを多様な切り口で紹介しています。雑誌とカルチャーを愛し、個性が花開く寛容な社会のつくり手であり続けようとする柿内さんが手にしてきたアートとは? はじめて手にした作品や柿内さんの想いと通じる作品と共に、柿内さんがどのようにアートと、そして社会と向き合っているのか紹介します。
アートを通じて「個性の花が開き、固有性を認め合える社会」をつくる
柿内さんのご自宅の様子。(撮影:柿内奈緒美)
――KAMADOを立ち上げる以前には、アートがライフスタイルになるウェブマガジン『PLART STORY』の創刊編集長を務められた柿内さんですが、アートへの関心はいつ頃から持っていたのでしょうか。
絵は子どもの頃から身近でした。小学生、中学生の頃なんかは、美術の時間に絵の具で描いたものをコンクールに出して賞をもらったりしていた記憶があります。岡山の出身なんですけど、倉敷市にある大原美術館など美術館にはときどき行っていました。
でも、地元にいたころは、情報もなかったし絵で食べていくということなど考えたこともなかったので、私自身が美大に進んだりしようとは思わなかったんですよね。高校卒業後は神戸にある服飾系の専門学校に進学しました。
――ファッションへの関心はどこから?
雑誌の影響です。地方で情報が少ないから、雑誌をよく読んでいました。雑誌って音楽からファッション、インテリアまで、ぜんぶ載ってるじゃないですか。それを読むことが楽しくって。ファッションの学校に進んでからお気に入りになっていた雑誌は『SPUR』『GINZA』『FIGARO』。すごく好きで、この3冊は特に読んでいた記憶があります。雑誌の影響で音楽も好きになりましたね。
雑誌を読んでは定期的にスクラップブックをつくっていました。自分が好きなファッション、インテリア、雑貨、音楽を切り抜いて好きに集めて貼って、それを眺めてることがすごく楽しかった。時代が進んで、インターネットが出てきたときは自分の持ってるものを写真に撮って「どこで買った・誰がつくっている・どこがいい」とひたすら紹介しているウェブサイトをつくって、個人で運営してました。
――いつも触れ合っていた雑誌やインターネットを入り口に、カルチャーとライフスタイルが融合していく体験を重ねていったのですね。そんな柿内さんが、アートにまつわるメディアを立ち上げたのには、どんな思いがあったのでしょう?
大きなきっかけのひとつ目は20代後半の頃に、体を壊しかけて精密検査を受けながら「この検査でもし自分が健康だったら、もっと必死に生きよう」って決心したこと。なんでそう思ったのかというと、やっぱりそれは、私の中で社会に対するモヤモヤした気持ちがずっとあって、そのために何かしたいと思っていたから。
当時は今よりも個性が伸ばされにくい時代だったと私は考えていて、社会全体を見回したときに、みんな周りの目を気にして好きに生きれていないし、社会の中で生きる自分と本来の自分とのオンオフの差が激しすぎて鬱になっちゃう人もいるというのがすごくイヤだった。「なんでもっと固有性を認め合える社会にならないんだろう?」という気持ちが根底にありました。
柿内さんが取材時に着てこられたのは、カルチャーブランド「Ay(アイ)」の、伝統的工芸品として登録されている「銘仙」でつくられているワンピース。「ファッションでも、少しでもKAMADOを体現したいと思って着ています」(柿内さん)
そんな中で、東京に出てくる機会があったときに、大型シェアハウスに住んだんです。リビングや共有スペースでは、異なるバックグラウンドを持った人たちが集まって、よくパーティーやイベントを開催し、私は幹事役になることが多かった。収益なんてない中で、みんなで自分の得意なことをそれぞれ持ち寄って1個のコミュニティをつくることがものすごく楽しいなと感じました。
私自身もコミュニティの中にいながら、「みんなの個性の花が開いて、その固有性を認め合える社会をつくりたい」というもともとあった気持ちが、シェアハウスを通して自分の中でしっかりと定まったんです。それをどうすれば実現できるのか突き詰めていくうちに、アートってまさにそれを可能にできる手段なんじゃないかという結論に至りました。そこからもう十数年経ちますが、今のKAMADOまでずっと「百花繚乱の世界をつくる」が私の根っこにあるビジョンです。
部屋に飾られたアートは、心の映し鏡になる
――「みんなの個性が花開く、その固有性を認め合える」そんな社会をつくりたいとメディア運営される柿内さんは、日頃どんなアートに触れて、手にしてきたのか教えてください。
一番最初に手にしたアートは、2012年に下田昌克さんに描いてもらった肖像画です。私が出会ったときは、ちょうど下田さんが世界中を2年ほど旅しながらいろんな人々の肖像画を描いていた作風でした。今では布で恐竜の骨をつくり、コムデギャルソンとのコラボレーションでもとても有名になられて。購入してから10年くらい経って思うのは、同時代のアーティストの作品に触れるおもしろさって、その価値観が変わっていく様子をリアルタイムで見られて、一緒に成長の道を辿れることだなと思いますね。
下田昌克 / 肖像画(撮影:柿内奈緒美)
もうひとつ紹介したいのが、私はノダッチと呼んでいるんですけど、2010年代の後半に購入した友人のノダマキコさんのイラスト。下田さんの作品は偶然手に入れた感覚が強くて、ノダッチの作品は私の中で、人の絵を購入しようと自分の中で決めて購入した、初めての作品です。
ノダマキコさんのイラスト(撮影:柿内奈緒美)
神戸にいた頃によく遊んでいたけれど私が上京後しばらくは疎遠だったノダッチの個展に行ったら、自分のテーマカラーにしている色に似通った作品に出会い、購入しました。私のテーマカラーは、青、白、黄色で、それは空、雲、太陽で世界がつながっているのを表しています。そこにポンポンポンと、まさに人がそれぞれの個性を発揮するようにカラフルな色が咲いてほしいという願いを込め、この3色をテーマカラーにしているんです。
――KAMADOを運営する中で手にした作品で、特に思い入れのあるものはありますか?
現代アーティストの蓮輪友子さんの作品ですかね。蓮輪さんにはPLART STORYのときも取材させていただいて、KAMADOで2回目の取材をさせていただいたことをきっかけに購入したんです。KAMADOの記事の中にもある、蓮輪さんの「個人的な想いが必要」という部分に私が共鳴・共感して、私自身も自分の個人的な思いをしっかりと自分の中に持っているからこそKAMADOを運営していく中でのいろんなことを乗り越えていきたいと、蓮輪さんの作品を購入しました。
蓮輪友子 / 左《De Ham 35》右《De Ham 39》(撮影:柿内奈緒美)
――柿内さんはアート自体、あるいは作品の向こう側にいるアーティストと対話をすることで、自分自身を見つめ直しているような印象を受けました。
今日の取材に向けて、インテリア雑誌で昔、受けたインタビューを読み直していたら、「ココシャネルが『インテリアは心の表れよ』と言っていた」と私自身が話していて。それってもう、空間が美しいってことが心にも響いてくるということだと思うんですよね。だから、自分の部屋にあるインテリアも、アートも、自分の心の写し鏡みたいなものなのかなと思っています。そこに作品があったら自分と向き合えるし、向き合っていく中で自分自身が向上していけるというか。部屋にアートを飾ることで、心の拠り所になったり強い意志のようなものをもらえるのかなと思います。そして数枚所有していくと自分と共感・共鳴する作品がスッと分かるようになって、直感的にアートを購入するようになりました。もちろん金額のハードルがあるのでバジェットに合うものを。
アートがもたらす創造・想像力と寛容性
――「みんなの個性が花開いて、その固有性を認め合える社会にしたい」というご自身の思いが起点となって、KAMADOを運営される柿内さんですが、そのためにアートができることはどういったことだと考えているのでしょう?
私は、アートからもらえるものはふたつあると考えていて、それをKAMADOでも伝えたいなと思っています。ひとつは創造・想像力。作家のキャプションなど説明的なものをあえて見ないで作品を観ると、「これはなんだ?」って想像していくしかないじゃないですか。観賞してる人の歩いてきた物語や記憶があるからこそ、作品を読み解くことができます。そうやって観ることで創造・想像力が生まれるんですよね。それを体験してほしいなと思っています。
もうひとつは固有性による寛容性も、アートから育まれるものとしてあると思っています。1度目は見なかったキャプションなどを今度はしっかり読み、「この作家はこんなことを考えているからこういう表現なんだ!」と作家の意図と照らし合わせながら知ってもらいたい。そうすることで、「他人の表現がこんなに飛び抜けていていいんだったら、自分も飛び抜けていいし、他人も個性を発揮していいよね」と思える寛容性につながっていくと考えています。
――アートが想像力と寛容性を一人ひとりにもたらすという柿内さんの視点に共感できますし、だからこそ、雑誌のように間口を広く、いろんな切り口からアートと近づける場が増えていけばいいなと思いました。
そうですね。今思えば私自身も最初は、アートが好きでアート作品を部屋に置いていたかと言えばそうではなく、例えば音楽が好きでよくジャケ買いしていた中で、奈良美智さんと知ったり。UKロックが好きでBlurのアルバムを購入したらジュリアン・オピーという現代美術家が描いていることを知ったり。展示に行って好きになったアンディ・ウォーホルのカレンダーやポストカードを、インテリアのひとつのように捉えて飾っていたりしていました。
そういうふうに、音楽やファッションやインテリアなど、いろんなカルチャーの入り口から手にしたものにアートとの関連性やアーティストの存在を見つけていったなと思います。だからKAMADOも、現代アートだけでなく、工芸、民芸、写真、建築、デザイン、モノづくりといろいろなテーマを平面的に見せて、アートにつながる間口を広く設けているんです。最終的にアートから創造・想像力と寛容性を受け取って、それがある社会を考えるきっかけになればいいなって。
空にカラフルな風船が浮かぶ、KAMADO読者へのお手紙。
また、以前よりは少しずつ、固有性を認め合う社会になってきているなと感じる一方で、今はアートしかり、お金がないと文化を楽しめない時代になっている危機感もあります。百花繚乱の世界をつくるというビジョンにこれからも根差しながら、「アートを購入できるまとまったお金がないから最初の入り口の心理的なハードルが高くなって、買えるアートの存在を知らないまま諦める」という社会を変えていきたいというのが、これからの思いですし、この課題を解決して文化にもお金が届くサービスをこの冬、β版リリース予定です。
DOORS
柿内奈緒美
株式会社KAMADO 代表取締役・KAMADO編集長
岡山県生まれ。編集者。ジョージクリエイティブカンパニーなど数社を経て、ニューヨークのカルチャーを発信するウェブマガジン「HEAPS」にて勤務。のち、個人事業主となり同親会社の新事業として「PLART STORY」創刊編集長に就任。2019年8月より「KAMADO」を運営。2020年6月、株式会社KAMADOを設立、代表取締役に就任。表現のアイデンティティを通じて人が繋がり認め合える文化の土壌を創るため、現代の表現であるアート、時代の表現である工芸・民芸・モノづくりを軸に発信。2022/23年冬より2C向けアート販売のウェブサービスをリリース予定。
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