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2023.07.28

「生命力があるものに強く惹かれる」海から陸へと、表現の場を広げるプロサーファー・湯川正人 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.14

Interview&Text / Yuuri Tomita
Photo / Takuya Ikawa
Edit / Quishin & Miki Osanai

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺うのは、プロサーファーの湯川正人さん。「20歳までは本当にサーフィンしかしてこなかった」という湯川さんは現在、プロサーファーとしてだけでなく、クリエイティブディレクターとしても活躍されています。
海にとどまらずに活動の場を広げることができたのは、アートとの出会いがあったからなのだそう。「生命力があるものに強く惹かれる」と語る、湯川さんのアートへの想いを聞きました。

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西村聖子 編 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.13はこちら!

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  • #西村聖子

# はじめて手にしたアート
「見ているだけで、気持ちをポジティブに変えてくれる」

旅することが、大好きなんです。サーファーとして世界中の海へ行きますし、プライベートでも国内外いろんなところを訪れます。出会う人々や自然、得られる経験のすべてが刺激的。刺激をたくさん吸収したら、新しい自分に出会えてワクワクします。

コロナ禍は、旅ができない日々が続きました。そんな中で「アートを家に飾りたい」という気持ちが湧き上がってきて。友人であるアーティストのYOSHIROTTENに制作をお願いしたのが、"光る波"をイメージされた「WAVE」。この作品が、はじめて手にしたアートです。

アートって捉え方は人それぞれで自由。波に太陽が降り注いで、キラキラと光っているみたいに見えます。なんだかいつも自分がサーフィンしている相模湾の形にも見えませんか?自分を構成するものが、詰まっている作品のように思えます。

作品はリビングに飾っていて、家では必ず目に入ります。作品自体は静止しているのに、海のように流動的というか、日によって見え方が変わるんです。見ているだけで想像が膨らみ、旅と同じような「刺激」をもらえます。

コロナ禍は自分がやりたいことが上手くいかなくて、辛い思いもたくさんしました。「アートを飾りたい」と思ったのは、ネガティブな気持ちになっていたからなのかも。日常にアートを取り入れることで心に余裕をもたらし、明るくポジティブに毎日を過ごせるようになりました。

 

# アートに興味をもったきっかけ
「自然以外の表現と出会って、陸でも挑戦するように」

ずっとサーフィンしかやってこなくて、自分を表現できる場所は海しかないと思っていました。
なのに21歳のとき、足を怪我して半年以上サーフィンができなくなってしまって。自分を表現することができず、「自分は陸では何もできないんだ」と悔しかったですね。

ちょうどその頃、草間彌生さんの展覧会に行く機会があったんです。意識してアートを観に行ったのは、あれが最初のこと。草間さんの作品を見た瞬間、「なんだこの世界は」とものすごい衝撃を受けて。自然ばかりに触れてきた自分にとって、誰かの脳内がアウトプットされた“人工物”と向き合うのは初めてでした。「一体どういう人なんだろう」「何を考えてこれを創り出したんだろう」「頭の中はどうなっているんだろう」と、次々に興味が湧いてきちゃって。

アートという自然以外の表現と出会って、陸でもいろんなことに挑戦するようになりましたね。もともと東京の墨田区にある下町の繊維工場で育って、ものづくりには興味があったんです。プロダクトデザインをしたり、様々なプロデュースをしたり、少しずつ表現の幅が広がっていきました。

自分にとっての学校は、海でした。あらゆることを教えてくれたのは、海であり、自然です。人生の厳しさや楽しさというものを自然が教えてくれました。海だけでなく陸で表現できるようになってきた今も、やっぱり自然からのインスピレーションが根っこにはあります。サーファーという枠に捉われることなく、海でも陸でも自分にしかできない表現を創り出して、“今までに無いレール”を走っていきたいです。

 

# 思い入れの強いアート
「カラフルになっていく自然の世界がとても魅力的」

「WAVE」を描いてくれたYOSHIROTTENは、10年以上前からの友人であり、尊敬するアーティストなんです。初めて会ったとき、彼が「なんで山って緑なんだろう」と言っていたのを今でも覚えています。

彼は自然をモチーフにした作品を多く手がけているのですが、山だから緑、海だから青、という描き方はしません。イマジネーションのままに、山をピンクにも黄色にも描くのはきっと、彼の頭の中の世界がカラフルだからだと思います。彼を通してカラフルになっていく自然やイマジネーションワールドの世界は、とても魅力的です。

そんなYOSHIROTTENと共に、「Y__D」というDigital architects studioを立ち上げました。“フィジカルとデジタルを行き来する”をコンセプトに自社プロジェクトや、クライアントワークをしています。

その中でいま取り組んでいるのが「SUN」という複合型メディアアートプロジェクトです。

「SUN」の始まりは2020年。YOSHIROTTENが、コロナ禍に突き付けられた行動の制限を創造性に転換するかのように、太陽をモチーフにした作品 「SUN」を1日1つずつ制作し始めたんです。1年間365日、描いた日付がその作品のタイトルになっています。

この作品は、皆様にとって“特別な日”に注目してもらっています。人それぞれ特別な日には、様々なストーリーがあると思いますので。

作品を観てくださった方に話を聞くと、それぞれの誕生日や記念日の日付の作品は、カラーや雰囲気が感覚的に「しっくり」くることが多いそうです。僕自身も、プロサーファーになった日の作品を購入したのですが、その作品を一目見た瞬間、心を掴まれてしまいました。

まさに“運命的”といえる出会いをくれるのが、YOSHIROTTENの作品。彼の作品には、スピリチュアルな力があると思っています。

SUNは、これからも唯一無二な表現方法で、更なるストーリーを生んでいきます。最新情報はInstagramを是非チェックして頂けたら幸いです。

 

# アートと近づくために
「人もアートも、好きになるのは直感的なフィーリング」

人を好きになるのって、出会ってからの時間の長さではなく感覚的なもの。お互い気が合えば、一瞬で仲良くなれます。慎重に人のことを探るより、動物的に生きる術を身につけれると、人生楽しいなと思います。同じように、アートもどれだけ時間をかけて向き合うかは、個人的には関係ないと思っています。

直感的に「いいな」とフィーリングが合う作品が、自分の側にあるといいんじゃないかな。好きな人と一緒にいたら幸せを感じるように、好きなアートが近くにあれば気持ちは絶対にプラスになる。ちょっと値段が高くて手が出しにくいと感じても、多少は無理してでも購入するのをおすすめします。日常のなかで“返ってくる”もののほうが、きっと大きいと思うので。

好きなアートと出会うために、まずは美術館や様々なギャラリーなどに足を運んでみることをオススメしたいです。そこは、いろんな人の感性と出会えるセレクトショップのようなもの。人もアートも一期一会だから、とにかく出会える場所に行ってほしい。街をブラブラしているときに、外から気になるものが見えたら、まずは入ってみること。それが運命的な出会いになるかもしれない。

アート作品って本来は、世間でどう評価されているのか、どのくらいの価値があるのかというのは関係ないと思っていて、もっとフラットに“感じる”ものだと思います。お金の投資ではなく、日々のライフスタイルが良くなる“ハートの投資”をしてほしい。ぜひ、作品そのものと心で会話してみてほしいです。

 

# アートのもたらす価値
「生命力があるものに、強く惹かれる」

母なる自然が相手となるサーフィンでは、自然体でいることがとても大切なんです。変に考えすぎると、バランスを崩して転けてしまう。サーフィンも人生も、バランスが大事なんですよね。

サーフィンをやっているとよく、「自然に生かされているな」と感じます。何度も死にそうになった経験があるのに、自分は波を求めてしまう。

それは僕自身が「生命力」があるものに強く惹かれるからなんだと思います。家やオフィスでは植物をたくさん育てていて、草木から命を感じながら過ごしています。アーティストの想いが込められているアートも、エネルギーに溢れていて、強い「生命力」を感じます。

アートや自然など、活力に溢れているものが自分の近くにあると、「生きる実感」が湧いてきます。世の中には悲しいニュースも多々ありますが、皆さんもぜひ日常にアートを取り入れ、ポジティブなライフスタイルを過ごしてほしいです。自分もアートの力で、これからも生き生きとした人生を歩んでいきたいと思っています。

Information

MICUSRAT - Loves music and art - SUN/YOSHIROTTEN | Installation in Makuhari New City

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■会期
2023年8月18日(金)~20日(日)

■会場
幕張海浜公園、見浜園、幕張メッセ前広場、幕張の浜、タウンセンターバス停、幕張メッセ東口バス停、幕張新都心の夜空

詳しくはこちら

hajimeteart

 

DOORS

湯川正人

プロサーファー/クリエイティブディレクター

1992年生まれ。東京都出身、湘南茅ヶ崎育ち。10代の頃はコンテストで国内外を飛び回り、17歳でISA U-18日本代表に選出され 、翌年にプロ資格を取得するが、その後コンテストを辞退。自らのライフスタイルとエンターテイメント性の高いサーフィンを武器に、 世界中を飛び周りプロのフリーサーファーとして多くのメディアで活躍。その後、日本アクションスポーツ連盟JASA AWARDSにて、アクションスポーツの発展に貢献した人物に送られるSPECIAL AWARDを受賞。2022年には、世界のトップエアリスト20名のみが招待されるSTAB HIGHに日本人唯一選出され、世界に認められたエアリストとなった。クリエイティブディレクターとして、コンセプトデザインやブランディング、様々なブランドのイベントプロデュースなどを行う。
Y__D
https://ydst.io/
SUN PROJECT https://sunproject.ydst.io/

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