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2026.10.21

【後編】「仕組み」を再現すると自ずと表現になる。どこまでも作業的なパフォーマンスを目指して / 連載「作家のB面」 Vol.47 迎英里子

Text / Yu Ikeo
Photo / Kaho Okazaki
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。

さまざまな現象を動かす不可視の仕組みに注目し、装置に置き換えた作品を制作する迎さん。前編では、作品制作の起点となるリサーチ及び読書についての話を伺った。続く後編では、仕組みに注目する理由やパフォーマンスの可能性、さらには作品における主体性の話まで、すべての作品に通底する考えを聞かせてもらった。

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前編はこちら!

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【前編】考え続けることでしか「わかる」は持続しない。知識ゼロからのリサーチ&読書術 / 連載「作家のB面」 Vol.47 迎英里子

  • #迎英里子 #連載

「仕組み」の発見が今の作風を導いた

——そもそも、迎さんが物事の「仕組み」に着目したきっかけは?

大学生の頃、美術をやるといっても何をすれば良いのかわからず、もがいていた期間がありました。木を彫ったり粘土をこねてみたり色々やってはみましたが、自分にとっては全部違う。ふと思いたって、その辺にあったラジカセを解体してみたら、各パーツがどんなふうに作用し合って音が出ているのかが目に見えてわかりました。そこで、各パーツをスキャンして、形と動きを抽出してパラパラアニメのようなアニメーションを作ってみました。それぞれの動きがもっと細かく可視化されて、これはおもしろいなと。

《ラジカセ》(2012)

ですが、当時の私にとっての一番の発見は、こうした行為自体が自ずと作品になる、ということでした。仕組みをアニメーション化したことで、動きは実物より遅く、ぬるっとしたものになっていて。モチーフを再現すると、どうしたって同じものにはならないんだと思いました。どこまで忠実な再現を試みたとしても、再現した時点で、全く別のものになってしまう。


——大きな発見でしたね。それが今の作風の出発点になっているんですね。

当時から、自分の美的判断みたいなものを信用していなかったんだと思うんです。誰かの作品を観る時も、自分が作品を作る時も、作者の意図に対して、とても反抗的でした。だから、作り手が意図して何かを作るのではなく、ある手順を踏んで外部的なエラーが入ることで立ち上がる表現がある! というのは、当時の私にとってすごく嬉しい発見だったんです。


距離があるからこそ、見て、考えられる

——迎さんの作品は、仕組みの抽象化と言われることが多いですが、毎回モチーフを形にする作業についてどう考えていますか?

作品を通じて、元のモチーフという正解を理解してもらうことは目的ではありません。むしろ、作品を観た人のなかに、これ何なんだろうなぁっていう時間を作りたいという思いが強いですね。なので、作品に形を与える上では、色なり形なり素材なりの要素を、元のモチーフとは全く別のものに変えるようにしています。ただ、ここが難しいところではあるんですが、その不明瞭ななかでも、なにかの法則がありそうだ、などと観た人が気づける程度には(元のモチーフの要素を)残したいと思っていますね。元のものをギリギリのところまで捨てるという意味では、「捨象」という言葉もしっくりきます。抽象だけれども、抽象にとどまらないものを表現できたらと思っています。

——観る人の「これ何なんだろうなぁ」という時間は、彼らのなかに新しい解釈を引き出すことを促しそうです。一方で、思いもよらぬ受け取られ方をしてしまうことも多分にありそうですが、そこはどう考えますか?

私としては、いろんな受け取り方をしてもらえて良いと思っています。そもそも、作品は見られないと意味がないと思っていて。例えば、過去に作った屠畜をモチーフにした作品。牛を殺すというかなりショッキングなことをモチーフにしていますけど、それを知っただけでしんどいとなってしまったら、作品を凝視するどころか、もうそれ以上近づけなくなってしまう。だからそうならないためにも、モチーフとの間に大きなクッションを挟んで見せているイメージです。一定の距離があるからこそ、作品を見て、考えることができる。そうした距離感を作りたいというのも、抽象化を行う大きな理由です。

《approach 0.1》(2014) Photo:前谷 開

——確かに、迎さんがモチーフにされる、身近にあるけれどよくわからない仕組みは、その内実を知ることで衝撃や不快感、複雑さ、憤りなどをもたらすものでもあります。抽象化は、そうしたものを見て考えるための手法でもある。作品の素材選びにも同様の考えが反映されているんでしょうか? 

そうですね。できるだけ、誰もが慣れ親しんでいる素材や経験したことのある動きを取り入れるようにしています。例えばこれは、100円ショップやホームセンターなどで手に入るボールと綿ファスナー。こういう身近な工業製品を使うことで、ボールの軽さだったり、マジックテープを剥がす時の引っかかる感触や擦れる音だったりを、観る人は容易に想像でき、その体験をトレースすることができます。それはパフォーマンスでも、純粋な作品展示でも同じです。

反対に、石や粘土などの自然素材は避けていますね。あまりにも素材としての存在感が強くなってしまうので。試作で使ってみたこともありましたが、現象の仕組みそのものを受け取ってほしい私の作品としては、それら素材から滲みでる情報がノイズになってしまうように思いました。

「反対に、石や粘土などの自然素材は避けていますね。あまりにも素材としての存在感が強くなってしまうので。試作で使ってみたこともありましたが、現象の仕組みそのものを受け取ってほしい私の作品としては、それら素材から滲みでる情報がノイズになってしまうように思いました」


理想はどこまでも作業的なパフォーマンス

——パフォーマンスという手法にこだわられている一番の理由はなんですか?

やっぱり、作者の編集や意図をなるべく排除したかたちで作品を見せられるからじゃないでしょうか。パフォーマンスではその場で起きることを直接観るので、どこから観るか、どの距離で観るか、どこに注視するか、といったこと全てがそれぞれの選択に委ねられているわけです。反対に、一つの記録として提出された映像作品では、作者の視点や編集の意図がすでに組み込まれていると言えます。それらが限りなく排除されたのが、パフォーマンスという手法だと思います。

——作者の意図をなるべく排除したい、という先ほどの意見とも繋がります。

ただ、展示期間中ずっとパフォーマンスしているわけにもいかないので、パフォーマンス後の展示ではパフォーマンスの映像やその痕跡そのものを展示します。そこでも観る人は、立体物と映像を照らし合わせる作業などをして、作品世界を想像することを促されます。なので、パフォーマンスはその後の展示においても、観る人にある種の能動性を求める状況を作ると思います。

《approach 13.0》(2022) Photo:松見拓也

《approach 3.1》(2025) Photo:松見拓也

——仕組みを可視化するという作品の狙いからすると、パフォーマンスにおいてどんなことを大事にしていますか? 

人体をなるべく入れたくないというのは、常々思っています。人間の身体って、自在に動ける便利な存在である反面、ブラックボックスでもあると思っていて。人間の動きがパフォーマンスに入ると、せっかく仕組みの可視化に取り組んでいるのに、よくわからない構造体がそのまま出てきてしまうような感覚になります。だから人の介入は最小限に抑えて、どうしても必要な時は、例えば装置の1箇所を押すだけとかハサミで紐を切るだけのように、単純なワンアクションにとどめるように工夫しています。

加えて、人の動作が振り付けにならないようにも気をつけています。理想としては一種のパーツのように「作業」に見せたいんだけれども、本当にただ作業しているだけの状況になると、それって作品と言えるの? という疑問が今度は立ち上がってしまい。そんなふうにここ数年は、作業と演出の塩梅について考えていますね。

Art Collaboration Kyoto(ACK) Special Program

「迎 英里子 : supported by Daimaru Matsuzakaya Ladder Project」

新作《approach 2.1》を発表します。
私たちの社会や暮らしを駆動させる
ガソリン、軽油、灯油などの燃料は
すべて原油を蒸留することで作られます。
沸点の違いによって異なるものを取り出すというその手法は
技術革新が進む現代において
意外なほどに単純かつ大胆なものでもあります。
本展では、こうした原油の蒸留段階で起きる分子の動きと
それが実際に行われる蒸留塔のプレート構造の作用
といった2つの仕組みを抽象化した装置からなる
インスタレーションとパフォーマンス作品を展示します。

対極的なスケールの2つの動きが
一つの作品のなかで同時に進行する様は
微細な風向きの変化によって
全く異なる結果を容易に生み得るという
原油をめぐる物事の不確実性を表出させるだけでなく
こうした複雑さに向き合うための
これからの人文科学的な知のありかたを
観る者の内へと投げかけます。

Information

Art Collaboration Kyoto(ACK)

■会場
国立京都国際会館

■日時
展示:
2026年11月7日(土) 12:00–19:00
11月8日(日) 12:00–19:00
11月9日(月)  11:00–17:00
パフォーマンス:
2026年11月7日(土) 14:00〜14:30(天候等により変更の可能性あり)

※最終入場は閉場の1時間前まで
※内覧会11月6日(金)は招待者と報道関係者のみ
※入場料は Art Collaboration Kyotoに準ずる

Ladder Project詳細はこちら 
Art Collaboration Kyoto詳細はこちら

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ARTIST

迎英里子

アーティスト

1990年生まれ。2015年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2024年より愛知県立芸術大学美術学部彫刻専攻講師。屠畜や石油の採掘、国債の仕組みなど、世の中に存在する不可視の現象=システムをモチーフとし、そのメカニズムを等身大の装置へ変換し、動作させることでシステムを実際に作動させるパフォーマンス作品を制作している。主な展覧会に2025年開館30周年記念コレクション展「VISION 星と星図 | 星図Ⅱ:独りと、集団と」(豊田市美術館/愛知)、個展「approach 3.1」(京都市京セラ美術館ザ・トライアングル/京都)、2022年国際芸術祭「あいち2022」( 墨会館・小信中島公民館 /愛知)、2020年「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」(秋田県立近代美術館/秋田)。

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