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2022.10.07

コピーが集まるこの世界を渋谷のアートから感じる / 連載「街中アート探訪記」Vol.11

Text / Shigeto Ohkita
Critic / Yutaka Tsukada

私たちの街にはアートがあふれている。駅の待ち合わせスポットとして、市役所の入り口に、パブリックアートと呼ばれる無料で誰もが見られる芸術作品が置かれている。
こうした作品を待ち合わせスポットにすることはあっても鑑賞したおぼえがない。美術館にある作品となんら違いはないはずなのに。一度正面から鑑賞して言葉にして味わってみたい。

今回はARToVILLAが主催する独自の展示イベント企画、ARToVILLA MARKETが11/11(金)~13(日)に渋谷で開催されることから渋谷のアートを見ることにした。商業ビルがパブリックアートを設置することは多いが、今も新たにビルが林立していく渋谷はパブリックアートの街とも言える。渋谷の街でパブリックアートを楽しみ、ARToVILLA MARKETで現代アートに触れてみる。そんな1日があってもいいかもしれない。

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前回は藤野の街を巡りました!こちらからご覧ください。

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街にアートをいきなり置いたら今や先進的な街になった藤野町の話 / 連載「街中アート探訪記」Vol.10

  • #大北栄人・塚田優

 

渋谷で見られるアートは多い

大北:ARToVILLAが主催するARToVILLA MARKETが渋谷の道玄坂を上がったところであるんですよね。Fabcafeのとこか。マーケットってことは作品を見て買えるってことですよね。
編集吉田:今回のマーケットのために独自にキュレーションした作品が買えるほか、ARToVILLAの記事に出ていただいたDOORS(*1)の方のトークイベントや映画の上映会、DJイベントなどもあります。

*1……日常にアートを楽しむ扉をひらく” ためにARToVILLAがコラボレーションするパートナー。コレクターや異業種のクリエイターとともに、様々な切り口のWebコンテンツやイベントを通して「アートのある生活」を提案します

塚田:じゃあ行けば一日楽しめる的な感じだ。
大北:じゃがバターとか出るのかな。
塚田:もうちょっとおしゃれなのが出るんじゃないですか?笑
大北:渋谷にアートを見に来ることになるわけですが、そもそも渋谷ってアートあるんですかね?
塚田:けっこうあるんですよ。さっきも間違って入ったビルのエントランスにジュリアン・オピーの作品がありましたよね。
大北:ビルの数だけパブリックアートがあるのかもしれないですね。
塚田:ということで渋谷駅西口から徒歩4分ほどの桜ヶ丘のインフォスタワーにある粟津潔作『天女』を見に来ました。

《天女》粟津潔

 

台座から見る

大北:プレートがありますね竣工記念、このインフォスタワーができたときかな。平成10年(1998年)だと24年ぐらい前ですか。ライトアップされそうだし作品の扱いが手厚いな~。
塚田:台座が高いですね。

大北:前に塚田さんから台座は大事って話を聞きましたね。美術の学生の講評で、台座のことツッコまれるのがあるあるだって。
塚田:台座で持ち上げると近づいたときに僕らが見上げる形になりますよね。これが見下げちゃうと「天女??」ってはてなついちゃいますよね。
大北:天女伝説って各地にありますよね。関係あるのかな。

塚田:天女は粟津さんが複数の作品で使ってるモチーフでもあります。成田空港にもたくさんの天女が飛んでいるステンドグラスがあります(『飛翔する天女たち』)。
そっちはカラフルだしにぎやかなんですが、こういう風に一つだけにすると少しおごそかになるというか、モニュメンタルな感じが出ますね。
大北:あ、そっちもやっぱりこういうつるんとした天女なんですね。

 

手がかりから作品を解釈する

大北:天女だとしてなんでこのポーズなんでしょうね。
塚田:やはりこんな風に頭を下にしたほうが、重力から自由であることが伝わりやすいからだと思います。これだけ台座が高いとはいえ、足が地面についていたら飛んでるイメージは持ちづらい。
大北:あ~、そっか、逆立ちのように見えるとあんまり面白くないですが、これは「重力から自由である状態」とも言えますよね。浮かんでるイメージか、なるほどなあ。
塚田:そうだと思います。

大北:上から下にズブズブって入っていってるところかもしれないし。
塚田:そういう風に彫刻がどういう状態なのか、あるいはこれからどういう状態になるかは見る人に委ねられてるところがありますね。彫刻というものは固定的だけれど、一つ一つの作品の中の手がかりからこれを落下というか…ズブズブと下に行くのかもしれないなっていう想像をしてもいい。
大北:あ、材質とかで手がかりを、なるほど。天女を浮かばせたいなと思っても彫刻作品だからどこかに接着してないと成立しないというのもありますしね。

 

デザイナーの草分け的存在、粟津潔

大北:粟津さんっていうのはどういう方なんですか。彫刻家ですか?
塚田:じゃないですね。第1回目で吉岡徳仁さんの紹介をしたじゃないですか。
大北:デザイナーのスターでアートもやるという吉岡徳仁さん。
塚田:今の感覚だとデザイナーさんがパブリックアートをやるのって普通になってるんですけれど、この方1929年生まれで。
大北:98年にここが竣工されたなら当時69歳か。
塚田:この人がいたことで、デザイナーがこういった公共の空間に何かを作ることが定着していったところもあるんですよね。日本のデザインの歴史において時代を先がけて切り拓いてくれた人です。
大北:こういうのもやっちゃっていいんだよっていう感じの。へえ~。
塚田:いや、そんな「なんちゃって」じゃなくてもっとちゃんと意志を持って「これからのデザイナーはこういうこともやるんだ」って感じです。
大北:語尾大事ですね。そりゃもう「やるんだ」でやってもらうべきですね。

塚田:デザインという言葉ってけっこう実は新しいんですよ。定着しはじめたのは1950~60年代にかけてなんです。
大北:へえ~。いわゆる「デザイン」ってくくりが。
塚田:それまでは商業美術とか図案と呼ばれていたんですね。いろんな言葉で呼ばれていて、各分野にデザイン的なものが散らばっている状況の中で、とりあえずデザインとしてひとまとめにして、我々はそもそもどういうことをやっているのかいろんな分野の人を集めて聞いてみようと。そんな目的のもとに世界中から様々な分野のデザイナーを集めて1960年に東京で開かれたのが世界デザイン会議というイベントでした。
大北:え~、世界のデザイン大集合だ。わんにゃんパーク(※)みたいですな。
塚田:大北さんファーレ立川に行った時もわんにゃんパークみたいって言ってましたよね?世界中から集まってるだけですぐわんにゃんパークみたいだって言わないでください!笑
大北:世界からと聞くと『映画ゲゲゲの鬼太郎、世界妖怪会議』みたいなオールスター感を感じちゃうんですよ。
塚田:なるほど笑、でも確かにその頃ってまだまだ一般の人は「デザインってなんなの?」という状態なんで、なにをしているのかよくわからない人という意味では妖怪みたいな感じもあったかもしれませんね。
大北:2個目のたとえでしつこいかと思いましたが言ってよかったです。
(※わんにゃんパークという世界のワンちゃんネコちゃんが大集合するようなテーマパークはなくて、ニュアンスで発言してました)

 

建築の流れに乗ったデザイナー

塚田:粟津潔さんはその世界デザイン会議で黒川紀章さんら建築方面の方や都市論を書くデザイン評論家とか、そういった人と交流を持って環境デザイン的な仕事をやるようになるんです。
大北:粟津さんはもともとグラフィックの人だったんですね。
塚田:そうです。黒川紀章も参加していたんですけれども、当時メタボリズムっていう建築運動があったんですね。これは建築を固定的なものと捉えずに、都市や社会の変化に対応できるような建築を作ろうじゃないかという運動なんですが、そこにも粟津は参加してたぐらいなんです。グラフィックデザイナーとしてはつい最近亡くなったゴダールの日本版ポスターをデザインしたり、こういうパブリックな仕事もしている。尖ったカルチャーの仕事とパブリックな公の仕事という一見かけ離れた仕事を同時に一人でやっちゃう幅の広いデザイナーなんです。あと、映画の美術監督をやっていたりとかもしていますね。
大北:吉岡徳仁さんとか佐藤可士和さんとかの先人だ。
塚田:今はデザイナーの人がなんでもやっちゃえる時代になっていますが、その可能性を切り開いてくれたのが粟津さんなんです。粟津さんがいなければ、今のようにデザイナーがいろんな仕事をできるような状況にはなってなかったかもしれない。

大北:粟津さん建築も詳しかったから、タワー作る記念の彫刻もやっぱりこういうズドーンとタワーに寄せていくようなものにしたのかもなー。でもグラフィックの人だと色をもっと使いたくならないんですかね。
塚田:成田空港にも作品があるんですが、それはステンドグラスなんでカラフルです。実際カラフルな絵もたくさん描いてますよ。横尾忠則みたいな感じというか…ざっくり言えば横尾と粟津は同時代人なんで、共通性はあります。
大北:ああいう絵がたくさん。
塚田:ビルを背景にしたりするとかっこいいですね。飛んでる感じもしますよ。
大北:確かにそうですね、このビルもこのビルも、どこを向いてもビルが視界に入るなって制作当時に思ったんですかね。

大北:彫刻ってデザイナーの方でもできるもんなんですか。
塚田:完全に1人でやったのではないのかなと予想はします。
大北:制作者が別にいそうですよね。
塚田:成田空港のステンドグラス作品については職人の人が作ったという記事を読みました。だから職人と共同して制作することに対する抵抗感は持ってなかったんじゃないかなと思います。
大北:いや、そうですよ、佐藤可士和が汗水たらしてノミをふるってても世の中的にいいことなさそうですよね。
塚田:デザイナーは自ら手を動かさなくても成立する職業ですからね。でもそれこそ、佐藤可士和には「FLOW」という絵画のシリーズがあるんですが、必ずしも汗水たらすわけではないデザイナーが汗水をたらしたものって案外面白かったりもしますよ。

 

コピーで世界が作られているグラフィズムという考え方

塚田:縦横無尽の活躍をしていた粟津さんですが文章も達者でね。粟津潔の考え方で重要だなと僕が思うのはグラフィズムという考え方です。
大北:あんまり聞き慣れない言葉ですね。
塚田:今、世の中ってコピー(複製)がいっぱい溢れてるじゃないですか、デザインにしても、この作品だってもし鋳造であればコピーと言えるわけですし。 そういうコピーの断片が繋がり合うことによって、都市や社会はできているんじゃないかと粟津は考えてたんです。
大北:へえ~、複製されたものの集合で。たしかに工業製品とかも複製だし。ビルの部材とかもそうですね。
塚田:少し飛躍があるんですけれども、グラフィズムという言葉は平面に限定されるのかなと思いきやちがうんですよね。世の中はそういった複製技術によって様々なものが作られているから、その中でデザイナーはどういうことができるかを考えて、粟津はいろんなところで仕事をやった人なんです。
大北:いや、面白い考え方ですよね。デザインに収まらない、世の中の捉え方ですよね。
塚田:だからこそデザイナーとして、こういうパブリックアートも作るし、本も装丁するし、ポスターも作るしと。

塚田(左)大北(右)でお送りしました

大北:粟津さんはまだご存命ですか?
塚田:もう亡くなられています。
大北:有名作品とかあるんですか?
塚田:それこそゴダールのポスターとかですかね。絵画制作も活発で、結構たくさん描いてます。でも生涯デザインはし続けました。デザインという枠組みの中で、グラフィズムっていう自分の考えを持ちながらいろんなことをやりました。
大北:コピーでないものはなかなかないよなー。食べるものにしても作られたものにしても。
塚田:デザインにはいろんな可能性があるけれども、じゃあ自分はどのような「芯」を持ってそれに取り組むのかという実存的な問いがあったんだと思うんです。粟津自身の中にね。その時に生み出されたのが、グラフィズムっていう考え方だったんじゃないかな。
大北:なるほど、粟津、やりきりました。グラフィズム。
塚田:粟津の作品とか資料とかは金沢の21世紀美術館に寄贈されていまして、展覧会があればそこでまとめて見られますね。2019年にも大きめの展覧会(『粟津潔 デザインになにができるか』展)があって。これからもどんどん研究されていろんなことがわかってくると思います。
大北:そしたら粟津、やりきったかどうかはこれから。

infomation

ARToVILLA MARKET

 

ARToVILLA-Market_web-banner

ARToVILLA主催、現代アートのエキジビション兼実験店舗「ARToVILLA MARKET」を開催いたします。

■会期
2022年11月11日(金)〜11月13日(日)

■会場
FabCafe Tokyo, Loftwork COOOP10
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7道玄坂ピア1F&10F
神泉駅から徒歩5分、渋谷駅から徒歩10分
Google map

■入場料
無料

詳しくはこちら

DOORS

大北栄人

ユーモアの舞台"明日のアー"主宰 / ライター

デイリーポータルZをはじめおもしろ系記事を書くライターとして活動し、2015年よりコントの舞台明日のアーを主宰する。団体名の「明日の」は現在はパブリックアートでもある『明日の神話』から。監督した映像作品でしたまちコメディ大賞2017グランプリを受賞。塚田とはパブリックアートをめぐる記事で知り合う。

DOORS

塚田優

評論家

評論家。1988年生まれ。アニメーション、イラストレーション、美術の領域を中心に執筆活動等を行う。共著に『グラフィックデザイン・ブックガイド 文字・イメージ・思考の探究のために』(グラフィック社、2022)など。 写真 / 若林亮二

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