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2024.04.05

アーティスト 足立篤史 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.27

Photo / Gyo Terauchi
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、第二次世界大戦中の航空特攻兵器「桜花」を昭和の新聞紙を用いて制作した《OHKA》で第26回岡本太郎 現代芸術賞を受賞した話題の作家・足立篤史さんの背景に迫ります。

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アーティスト ネイネイ 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.26 はこちら!

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アーティスト ネイネイ 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.26

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今回の作家:足立篤史

1988年横須賀市生まれ。2014年東京造形大学美術学科彫刻専攻卒業、東京造形大学卒業研究・卒業制作展「ZOKEI賞」受賞。主な展示に、個展「記憶-Kioku-」(ニューヨーク、2014)、「第18回岡本太郎現代芸術賞」(川崎、2015)、「都美セレクショングループ展「紙神」」(東京、2016)、「Tanagokoro」(ロサンゼルス、2022)、「BankARTU35 “REMEMBER”」(横浜、2022)、「第26回岡本太郎現代芸術賞、『特別賞』受賞」(川崎、2023)、「KAIKA TOKYO AWARD 2024、『審査員賞』受賞」(東京、2024)等。

「私は過去の記憶を、モチーフが存在した当時の資料(印刷媒体)をもとに、今まで形がなかったものを“実体化”させ、目に見えないものとして存在していただけの記憶を“記録”として残すことに意味があると考え、当時存在した物を作品の表面に刻み付けています。
それによりその時代の空気、リアリティを表現し、ただの記録資料というだけでなく、その記憶の存在自体をリアルに感じてもらうことで、当時の出来事を考えるきっかけを作ることができると思っています」 

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DSC_3227《OHKA》 /岡本太郎美術館提供

 

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足立篤史さんに質問です。(とに〜)

岡本太郎の遺志を継ぎ、「時代を創造する者は誰か」を問うための賞、岡本太郎現代芸術賞。通称「TARO賞」。その第26回で特別賞を受賞したのが足立篤史さんの《OHKA》でした。第二次大戦時に作られた航空特攻兵器「桜花」を、開発・実戦投入された昭和当時の実際の新聞を用いて実物大で再現した作品です。その発想もさることながら、作品自体のクオリティの高さに思わず唸らされました。以来、気になっているアーティストの一人です。

《OHKA》のような大きな作品も作れば、精緻な作りの手のひらサイズの作品も作る足立さん。そのあまりに精密な仕事ぶりから、もはや彼自身が機械なのではないかと疑いはじめています。質問の答えに人間らしさが垣間見えますように。

 

Q01. 作家を目指したきっかけは?

昔から模型作りをしたり絵も描いていたので、物作りは好きでしたが、「作家」というものを目指したという記憶は正直なく、いろいろやって「気付いたら作家になってしまった」という感じでした。

 

Q02. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

明確な「なりたい職業」を持たずに、なんとなく流れで生きてきたので、正直わかりません。ただ言えるのは、どの世界にいたとしても「モノを作る人」にはなっていたと思います。

小学校の頃、祖父から戦車のプラモデルをもらったことをきっかけに、プラモデルにのめり込んだ足立さん。今の手法を始めたきっかけは美大浪人中、予備校であたえられた「本のデザイン」というテーマの課題。「僕、多浪していたのでひねくれてたんです。ただ本を作っても面白くないなと思っていた時、模型の本を見て閃いたんです。本で模型作れたら面白いんじゃないかって。それで作った戦艦大和のウケが良くて、その後、大学入ってからも定期的に作っていたら評価がついてきた感じですね」

Q03. 機械をモチーフにした作品を金属ではなく、あえて紙で制作するのはなぜですか?

機械という「硬く冷たい無機物」ではありますが、その存在には使用した人、時代、気持ちや記憶が息づいていると思っています。その表現をする上で新聞や雑誌(紙)という素材が相応しかったので主な制作素材として使用しています。

また「紙」と言う素材の、無機物(鉄)とは真逆な有機物的温かみも一つの理由にあります。

アトリエにあった制作途中の氷川丸。「今度、横浜でやる展示のために制作しています。氷川丸は1930年に就航し、戦中の軍による接収、戦後の復員船、客船として復帰した歴史があります。1960年代のラストランまでの新聞を船体右舷に『就航から軍の接収』、船体中央上面に『戦中』、船体左舷に『戦後復員船から客船としての復帰』の時代の新聞を選び、貼り付けています」

同じく横浜の展示に向けて制作中の作品たち。「これは明治5年に新橋から横浜(桜木町)まで日本で一番最初に走った蒸気機関車。貼り付けた新聞『横浜毎日新聞』は初めて日本語で創刊された日刊新聞なんです」

「OHKA_1944」
税込:143,000円
作品詳細はこちら

「OHKA_1944」
税込:143,000円
作品詳細はこちら

OHKA_1944

Q04. モチーフにしたい機械と、モチーフにしたくはない機械。その線引きはありますか?

「とくに作らない物」はあっても「作りたく無い」は今のところありません。機械だけに縛って作っているわけでもないので、コンセプトとモチーフと素材が合致すれば「作品として生み出す」という感じになります。

戦闘機以外にも動物や昆虫などをモチーフに制作する足立さん。「動物の場合は一部樹脂を使って、まとわせる洋服を新聞で制作することもあります。まだ実験中なのですが、蝉のシリーズは、夏が戦争の記憶と結びつくので戦時中の新聞を使って制作しています」

Q05. 古新聞や古雑誌を貼る際にもっともこだわるところは何ですか?

手に入りやすいものもありますが、基本どの素材も「1点もの」なので、失敗したら取り返しがつかないので、素材を貼る際はかなり慎重に選んでいます。

基本的にはモチーフに関係する内容、その時代がわかりやすい言葉を慎重に選んでいます。あとは貼る場所に(意味合い的に)適しているか、見えやすいかなども考えつつ、作品の大きさにもよりますが、数時間から数日かけて選んでいます。

「最後の古紙を貼り付ける工程には相当時間をかけています。意味を考えながら貴重な新聞を貼る、失敗できない一発勝負なんです」

「古新聞を探すときは神保町などの古書店で探したりもしますが、ネットオークションで買うことも多いですね」

Q06. これまで古い新聞記事や雑誌記事の中で、もっとも印象的だったものは何ですか?

いろいろありますが、特に印象的なのは「広告」ですね。特に新聞の広告で、日本の新聞の話ですと、戦前は意外にも戦後と同じと言うか、むしろ現代に近い感じですごい栄えた感じの広告が多いです。戦中でも、現代でもお馴染みの商品や、商品は今と同じでも戦中ならではのキャッチコピーの広告が、今見るととても興味深くて面白いです。

戦時中の新聞は足立さんいわく、「広告の欄が少なくキャッチコピーも控えめなんです」

「一方で戦前の広告は賑やかなものが多いんですよ」

Q07. 古新聞あるあるを教えてください。

古いので埃っぽいです、あと独特な「古い紙の匂い」がキツイ時もあります。
(鼻炎なのでかなり辛いです)

あとたまにメモやラクガキなどがあるのは、発行されてから長い時間の流れを経てここにたどり着いたんだなとしみじみ感じたりします。

 

Q08. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

自慢というか、一番お金がかかっている道具はやはりレーザー加工器です。現在は2台使用していますが、そのうちの1台がだいたい30万円で、今まで買った機材の中では一番高価です。

ただやはり、一番の道具は「自分の手」ですね。
(レーザー加工器はあくまでパーツのカットだけで、組み立ててはくれません。そうなるとやはり作品の仕上がりは自分の手が左右するので)

足立さんのアトリエの様子、左の棚には黒いパワーが強いレーザーカッター(約30万円)、右奥がパワーの弱いレーザーカッター(約7万円)が置かれている

「No.98」
税込:60,500円
作品詳細はこちら

「No.98」
税込:60,500円
作品詳細はこちら

No.98

「洗濯機って洗濯してくれるだけで、干すのもたたむのも自分じゃないですか。レーザー加工機もカットはしてくれるんですけど、やっぱり組み立てまではしてくれないんで手が大事ですね」

Q09. 制作する中で一番“面倒くさいなぁ”と思う作業・工程は何ですか?

正直基本めんどくさがり屋なので、だいたいの作業が「面倒くさい」です。
(最後の組み立て、仕上げ作業、完成の姿が見える瞬間だけが楽しみで作っている感じです)

あえてその中でどこが一番かといえば、作品本体の芯の部分の形を削り出す作業です。
これがちゃんとしてないとその後の表面作業、細部作業が全部ダメになるため、目に見えて進んでる感もない中ひたすら削ったり足したりと微調整を長時間繰り返すので、とても面倒くさいので早くこういうのを削り出す機械などを買って機械に全部作業させたいです。

「ほとんど文字は読めないんですけど、細かいパーツにも古紙を使うようにしています」

Q10. ディスプレイに関してのこだわりがあれば、教えてください。

360度全てを見れるのが立体の魅力の一つなので、なるべく作品表面や細部が見やすく、かつ「作品がカッコ良く」見えるように工夫しています。
あとやはり「生で見る」というのも重要なので、本当は安全のためアクリルケースなどをかぶせたいのですが、なるべくケースなしでの展示を考えています。

 

Q11. 職業病だなぁと思うことは?

作品を観る際に、よく注目してしまうのが「細かい場所の処理」とかです。特に好きな作家さん、作品はめちゃくちゃ細かく観て、写真OKなら大量に写真を撮るんですが、そうやって観ていると、だんだんと「あれ……ここの処理、これくらいで良いんだ」みたいなことを思ってしまいます。
(粗探しをしているわけではなく、なんとなく見えてきちゃいます……)

 

Q12. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

漫画やアニメや映画などいろいろありますが……一つ挙げるとしたらBBCのドキュメンタリー『Space Race 宇宙へ ~冷戦と二人の天才~』です。冷戦時の宇宙開発競争の中心にいた二人の科学者のドキュメンタリードラマで、偶然深夜にテレビをつけていたら放送していて、とても面白くてすっかりハマってしまい、それ以前もロケットとかには興味がありましたが、「宇宙開発」というものにものすごく興味が湧いた作品でした。

日本の新聞だけではなく、古今東西の新聞、雑誌なども収集する足立さん。「これはアポロが月面着陸した時の『LIFE』ですね。宇宙開発の記事もたくさん持っていますよ」

Q13. 制作中に視聴しているものはありますか?

最近はだいたい映画のサウンドトラックをいろいろながしています。
(『ゴジラ-1.0』『The Right Stuff』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』などなど)

BGMとしてラジオや音楽を主に聴いたりしていますが、BGVとして映画・ドラマ・アニメ・ドキュメンタリー、他だいたいなんでも気分に合わせて作業時にながしています。

 

Q14. 自分を機械に例えると何ですか?

叩けば治る昭和の家電みたいな感じでしょうか?(ポンコツなので)

 

Q15. もし、一つだけ現存しないものも含めてどれでも好きな機械に乗れるとしたら何を選びますか?

乗ってみたいと思うのはいろいろありますが、乗ってしまうと外側(乗りたい物自体)が見えないので、乗りたいけど外から眺めたいというのが本音ですね。

でもあえて言うなら、ベタではありますが旧日本軍試作機「震電」でしょうか。
(スミソニアン航空宇宙博物館に分解されて収蔵されている実物がいいです)

見るからに作品が緻密に作られているので、足立さんはきっと精密なスイスの時計のような人物だろうと予想していたのですが、自己評価では“昭和の家電”とのこと。一気に親近感が湧きました(笑)。

面倒くさがったり、古新聞の埃や匂いに苦しんだり、完成した姿に喜びを見出したり。ご回答の端々から人間らしさどころか、むしろ人間くさいほどで、それだからこそ機械をモチーフにした作品ながらもぬくもりが感じられるのだと実感しました。

改めて丁寧なご回答ありがとうございました。すべて頷きながら拝見しましたが、旧日本軍試作機「震電」がベタなのかどうなのかだけはわからなかったです(笑)。機械に詳しくないので。(とに〜)

Information
今後の展示スケジュール一覧

『KAIKA TOKYO AWARD 2024』  

■会期
2024年3月16日(土)~2026年3月

■会場
KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS
東京都墨田区本所2丁目16−5

■入場
無料(ホテル利用者でなくてもご覧いただけます。)

 

『SIGNS OF A NEW CULTURE vol.19』

■会期
2024年4月25日(木)~5月8日(水)
10:30~20:30※最終日は18時閉場

■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F

■入場
無料

 

『足立篤史「時代のカタチ、刻まれたキオク」』 

■会期
2024年6月5日(水)~10日(火)
10:30~20:00

■会場
横浜高島屋美術画廊
神奈川県横浜市西区南幸1丁目6−31 美術工芸サロン 横浜高島屋 7F

■入場
無料

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ARTIST

足立篤史

アーティスト

1988年横須賀市生まれ。2014年東京造形大学美術学科彫刻専攻卒業、東京造形大学卒業研究・卒業制作展「ZOKEI賞」受賞。主な展示に、個展「記憶-Kioku-」(ニューヨーク、2014)、「第18回岡本太郎現代芸術賞」(川崎、2015)、「都美セレクショングループ展「紙神」」(東京、2016)、「Tanagokoro」(ロサンゼルス、2022)、「BankARTU35 “REMEMBER”」(横浜、2022)、「第26回岡本太郎現代芸術賞、『特別賞』受賞」(川崎、2023)、「KAIKA TOKYO AWARD 2024、『審査員賞』受賞」(東京、2024)等。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館) 

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