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2024.03.29

アーティスト ネイネイ 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.26

Photo / Kyouhei Yamamoto
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、日本の原宿文化に影響を受け、全く新しい「カワイイ・カルチャー」を発信する中国出身のクリエイター・ネイネイさんの背景に迫ります。

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アーティスト 星山耕太郎 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.25 はこちら!

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アーティスト 星山耕太郎 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.25

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:ネイネイ

「グローカル化」に焦点を当て、日本発「カワイイ」現象を歴史的・考現学的に研究し、「カワイイ」の解体と再構築の可能性を提示することが制作のコンセプトである。自作のタイトルである<東京少女>を通して言葉や国の枠を超えて、新たな「カワイイ・カルチャー」の発信に挑戦していく。

1993年 中国 宝鶏市 生まれ
2015年 中国 重慶師範大学 アニメーションデザイン卒業
2019年 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程グラフィックデザイン学科イラストレーション専攻修了
2023年 多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻修了、博士号取得

 

neinei_ARTWORK001《東京少女遊楽図》1,620x5,212mm キャンバス、アクリル、銀箔2023
neinei_ARTWORK002
《無垢》1,303×1,303mm キャンバス、アクリル、銀箔2023
neinei_ARTWORK003
《引き寄せ》1,620×1,303mm キャンバス、アクリル、銀箔2023
neinei_ARTWORK004
《拡張》1,940×2,240mm キャンバス、アクリル、銀箔2023

 

tony_pic

ネイネイさんに質問です。(とに〜)

今回ご登場いただくのは、今注目の中国生まれのアーティスト・ネイネイさん。この企画が始まって以来の海外作家です。いつの間にやら『作家のアイデンティティ』もグローバル化、いや、グローカル化したものですね。
カワイイけれども、どこか挑発的でどこか毒がある。<東京少女>と名付けられたオリジナリティー溢れる少女像を通じて、新たな「カワイイ・カルチャー」を発信し続けているというネイネイさん。そんな彼女に15の質問に答えて頂きました。“世の中のいわゆるカワイイってよくわからない…”とお悩みの人は是非ご参考になさってくださいませ。

 

Q01. 作家を目指したきっかけは?

情報を伝達する「メディア」と強く関連するイラストレーションを描いていく中で、自然にアートとイラストレーションの境界的な立ち位置において、私が描く<東京少女>が自立する存在になってきました。その正体を探求しながら、ずっと疑問を持ち続けて創作していきたいと考えたのがきっかけかもしれないです。

ネイネイさんが日本に来たのは2015年のこと。多摩美術大学でイラストレーションを専攻する中で人の目を引く表現に着目していったのだとか。一方で幼い頃から少女の絵を描いたアート作品も制作。二つの領域の接点として〈東京少女〉が生まれた

Q02. <東京少女>にモデルはいますか?

モデルはいないです。<東京少女>はたしかに「東京」と「少女」というすごく限定的な表現となっていますよね。しかし、特定の誰かのモデルは存在していません。ただし全く虚構でもないかと思います。

アトリエに飾られた《ガールズ》。「作品制作をするときは原宿で取材をします。いろいろな少女たちを観察しながら、その中の共通性を見出して、イメージが湧いたら絵を描きます」

「な~に~」
税込:121,000円
作品詳細はこちら

「な~に~」
税込:121,000円
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な~に~

¥121,000-

Q03. 笑顔の<東京少女>は少ない気がします。なぜですか?

<東京少女>は誰かに可愛い面を見せるけれども、流される人間ではないです。だから笑顔が少ないかもしれないですが、見る人を少しだけ笑顔にできたらもう最高です。

私が制作している<東京少女>は、外国人が原宿を見る目線を大切にしています。原宿にいる少女たちを見ていると、外見から読み取りにくい、近寄りがたいけど、どこかで違和感を感じるような可愛い姿勢が流出していると感じます。また、「可愛くふわふわして頼りなさそうな人」が突然しっかりすることがあり、それが面白いです。

 

Q04. <東京少女>を描く上でもっともこだわっているところを教えてください。

幼さと蠱惑(こわく)などの両義性を持たせることによって、目を惹きつける強い表現を意識的に行っています。

 

Q05. 一目でネイネイさんの作品とわかるほど、色遣いが個性的です。色彩のこだわりがあれば教えてください。

一言で言えば、錯視表現で強いコントラストを作ることです。

「私たちが“見ている”ことが本当だとは限らない。正しいかどうかわからないからこそ、錯視効果を用います」

Q06. ここ近年の作品は背景がシルバーのものが多いですね。その理由は何ですか?

私はアート領域にイラストレーションを持ち込み、越境的イラストレーション表現を行なっています。いわば誇張的で省略表現によるコントラストを試みるため、銀箔の素材使いによってイラストレーションでは表現できない不思議な空間性と微妙な違和感を作りたいと考えています。江戸時代の舞踊図の女性が浮いているような不思議な感じからも影響を受けました。

 

Q07. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

それはたぶん私の養生壁です。アトリエに遊びに来るお友達は落書きでサインをするんですよ。一人で制作するときにそれを見ていると、とても幸せな気分になります。

養生壁に書かれた友人たちのサイン

Q08. 日本で食べたもので一番美味しかったものは何ですか?

「海味鮮」という豆のお菓子です。

 

Q09. もっとも衝撃を受けた日本のカワイイものはなんですか?

原宿で出会った「ラジカセおばさん」です。永遠の23歳を名乗り、派手派手な服装でラジカセをガンガン鳴らして歌っています。衝撃というよりはエネルギーをもらいました。

Q10. 日本と中国でカワイイの捉え方は違いますか?

違います。日本では小さいものや弱いものも「カワイイ」と言いますが、私の考えでは、中国では完成度の高い立派なものも「カワイイ」と感じます。

 

Q11. わりと気に入ってる絵文字を教えてください。

❣️
感嘆符は強い表現ですが、ハートが入ると柔らかくなりました。

 

Q12. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

宇野亜喜良先生の画集で先生を初めて見たとき、そのギャップにびっくりしました。

「小さい頃から少女を描いていて、中国にいたときに宇野先生の絵と出会って衝撃を受けました。宇野先生は今90歳なんですけど、ずっと少女を描き続けていて凄いなって」

「連れて行こう」
税込:121,000円
作品詳細はこちら

「連れて行こう」
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連れて行こう

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Q13. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

よくわからないです。たぶん中国でフリーで何かをしていると思います。

 

Q14. 職業病だなぁと思うことは?

私の画題の原点は原宿なのですが、とにかく原宿が大好きで、一人で行くときも、友達と遊びに行くときも、作品の取材なのか、ただ欲求を満たしたいのか、区別がわかりません。私の生活そのものが「原宿」という感じになっています。

アトリエにはさまざまな「カワイイ・カルチャー」の資料が置かれている。「『カワイイ・カルチャー』をつくった増田セバスチャンは大好きで、原宿の〈KAWAII MONSTER CAFE〉(現在は閉店)にも通っていました」

「日本の女性文化やポップカルチャーを研究していて出会ったのが鶴田一郎先生の作品。とても惹かれました。美大の作品講評にゲストで来たときにはサインもお願いしました(笑)」

Q15. 東京という街にどんなイメージを持っていますか?

原宿自体が、特に日本人の多くの方々にとって、うるさい、賑やか、若い人が集まるところなどなどのイメージで捉えられています。

私ももちろん、最初は異彩を放つ原宿に惹かれました。しかし、私から見れば、このような特殊で、人を惹きつける磁場的なエネルギーを持つ原宿は、多層的なイメージを包含しています。明治神宮、東郷神社という宗教的・歴史的な系譜から遡ると、日本古来からの信仰をはじめ、米軍占領下の原宿エリアは欧米文化の浸透、第1回東京オリンピック後の原宿·青山エリアは新しさを創造するエネルギーが究極に達する場、そして現在は文教地区として指定され、結界みたいなものが若者を守っています。狭いエリアの中に複合的なレイヤーが存在し、そこから何が生まれるかを予想できない、秘められた力を内包していることが、原宿が持つ磁力の正体だと思っています。

ネイネイさん曰く、原宿という狭いエリアの中に複合的なレイヤーが存在しているとのこと。それと同じように、<東京少女>という1枚の絵の中にはカワイイだけでなくさまざまなレイヤーが存在している。ネイネイさんの熱のこもった回答を読んでいて、そのことを強く実感しました。それゆえ、<東京少女>は観るたびに新鮮な発見があるのですね。これからの新作がますます楽しみになりました❣️

ちなみに、ネイネイさんのアンケートを通じて、久しぶりに原宿を散策してみたくなりました。あと、久しぶりに海味鮮も食べたくなりました。 (とに~)

Information
今後の展示スケジュール一覧

『SIGNS OF A NEW CULTURE vol.19』

■会期
2024年4月25日(木)~5月8日(水)
10:30~20:30 ※最終日は18時閉場

■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F

■入場
無料

 

『ネイネイ個展』

■会期
2024年5月18日(土)~5月25日(土)

■会場
八犬堂


『ネイネイ個展』

■会期
2024年7月19日(金)~7月30日(火)

■会場
medelgalleryshu

 

『神戸アートマルシェ2024』

■会期
2024年4月19日(金)~4月21日(日)

■会場
神戸メリケンパークオリエンタルホテル9階

 

『OSKA ART FES』 

■会期
2024年8月14日(水)~8月20日(火)

■会場
阪神百貨店

 

『ネイネイ×李倩』

■会期
2024年10月3日(木)~10月9日(水)

■会場
Ginza Six Artglorieux

artist-identity_bnr

 

ARTIST

ネイネイ

クリエイター

2023年 多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻修了、博士号取得。2019年 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程グラフィックデザイン学科イラストレーション専攻修了。2015年 中国 重慶師範大学 アニメーションデザイン卒業。1993年 中国 宝鶏市 生まれ。 「グローカル化」に焦点を当て、日本発「カワイイ」現象を歴史的・考現学的に研究し、「カワイイ」の解体と再構築の可能性を提示することが制作のコンセプトである。自作のタイトルである<東京少女>を通して言葉や国の枠を超えて、新たな「カワイイ・カルチャー」の発信を挑戦していく。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館) 

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