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2024.01.05

アーティスト 星山耕太郎 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.25

Photo /Gyo Terauchi

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、作品に漫画のコマ割りを取り入れ、多様なメディアから学んだ様々な表現手法を、コマ毎に描き分けを表現するアーティスト、星山耕太郎さんの背景に迫ります。

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アーティスト 角谷紀章 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.24

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:星山耕太郎

1979年 東京生まれ
2003年 多摩美術大学日本画専攻卒業
2010年 個展「顔の中へ」(Gallery Q/銀座・東京)
2012年 個展「彼岸の考察」(Gallery百想/吉祥寺・東京)
2017年 個展「Alter Ego」(The Artcomplex Center of Tokyo/信濃町・東京)
2018年 個展「FIyer」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X /日本橋・東京)
2020年 個展「PSYCHOLOGICAL COLLAGE」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X/日本橋・東京)
     個展「Psychological Collage Ⅱ FRAGMENTS」(roidworksgallery/湯島・東京)
2021年 個展「Psychological Collage Ill NAKED」(roidworksgallery/湯島・東京)
2022年 個展「EXPERIMENTAL GROUND #1」(Gallery A8T / 仙台・宮城)
     個展「Into the Face」(高島屋大阪店 ギャラリーNEXT / 難波・大阪)
     個展「COMEDY」(roidworksgallery / 湯島・東京)
2023年 個展「CROWD」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X /日本橋・東京)
     個展「Psychological Collage Ⅳ FIGURE-GROUND」(roidworksgallery/湯島・東京)

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「Jam Ⅲ」

 

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星山耕太郎さんに質問です。(とに〜)

いくつにも分割された画面の中に、写実絵画のような画風や抽象表現主義を彷彿とさせる荒々しい画風もあれば、アニメや漫画、あるいはピクセル画のような画風もある。一見すると、さまざまなアーティストの絵画をコラージュした作品のように思えますが、すべて一人の画家が描いた作品と知って驚かされました。いや、正確に言えば、今でも「星山耕太郎」というのは、複数の画家によるユニット名なのでは?と疑っています。あるいは、ご本人の中に複数の画家の人格があるのかも。ドラマ『VIVANT』の乃木憂助的な。
謎に満ちたその正体に迫るべく、さまざまなテイストの質問を織り交ぜてみました。

 

Q01. 作家を目指したきっかけは?

子供の頃から絵を描くのが好きでしたが、高校三年の進路相談では美術の道など考えていませんでした。今と違って1997年当時は、絵やマンガを描くやつには陰気なイメージがあったので、趣味でコソコソ描いていればいいや、と思っていました。まあ、音楽関係の技術者でも目指そうか、と投げやりに卒業を待っていたのです。
そんなある日、母から美術予備校の夏期講習パンフレットを渡されました。
「あんたは昔から絵を描くのが好きなんだから」。
今思えば、美術という世界が存在することを知ったのはこれがきっかけに思います。
その後、多摩美術大学日本画専攻に入学させてもらい、4年間いろんなスタイルの作風を模索しました。しかし、卒業までに作品の中心テーマは見つかりませんでした。何を描いても未完成で作品提出する私を見かねて、教授も「向いてないね」とピシャリ。私は卒業と同時に筆を捨て、広告デザインの道に進みました。 7〜8年くらい夢中で仕事を覚えた私は、30歳で一息つきます。夜、自分の部屋を見渡すと、仕事の鬱憤を晴らすためにコソコソ描き続けていた絵がたまっていました。その光景を見ているうちに、今度は能動的に「とことん美術をやろう」と決心し、会社を辞めました。そして2010年最初の個展を開きます。

Q02. 現在の作風に辿り着いた理由は何ですか?

私は飽き性で、ルーティンが苦手で、しかも衝動的です。
絵を描くと数枚で画風が変わってしまいます。大きい絵になると同じ画風で描き切ることすらできません。「一体何が表現したいのか」「作風がブレて中心テーマが見えない」「一枚一枚個別のエピソードがあるが一貫していない」行く先々で散々言われましたので、この弱点を克服しようと思いました。 まず表現方法を「水墨画」に絞り、テーマは雪舟の国宝で有名な「慧可断臂図」、これを4年ほど繰り返し描き続けました。しかし200枚ほど描いてみて、どれも自分の作品じゃないような気がして結局1枚も発表しませんでした。この4年が今思うとスランプ期間だったと思います。
ここでは省略しますが、様々な気づきを経て、自分の性に合わないことは即座に辞めることにしました。そして弱点を克服するのではなく、逆に肯定する作品を描こうと思いました。つまり、表現の多様性を作品のテーマに据えたのです。私は、一枚の作品の中にいろんな表現を取り入れることで自由に絵が描けることを発見しました。あとは異なる表現を一枚のキャンバスに「どのように共存させるか」それだけです。
色々試した結果、漫画のコマ割りで共存させる「Psychological Collage」シリーズを現在開拓しております。

Q03. 作品内で画風を組み合わせる際のこだわりはありますか?

並置した表現が互いにハレーションを起こしながらも全体では調和されている状態を理想にしています。そのために、隣り合った画風と画風の間に強くコントラストが出るよう意識しています。そのコントラストが「色」なのか「テクスチャー」なのか「構図」なのか「意味」なのか、それは作品ごとに異なります。

作品の制作過程を見せていただきました。日記のように毎日1コマずつ描いていきます。描く際には他のコマが見えないようにしています。

Q04. いろんな画風で描かれていますが、描いていて本人的に一番しっくりくる画風はどれですか?

試行錯誤の結果「一番しっくりくる画風」というものが私にとって存在しなかったことが、この「いろんな画風」が生まれた実存的動機になります。絵を描くたびに作風が変わってしまうという困った性格を、逆に肯定していこうと開き直ったことがモチーフとなって、この画風が自然と生まれました。

Q05. ポートレートにこだわる理由はありますか?

理由は分かりませんが、人を描かないと絵を描いた気がしません。小学生のとき近所のお絵描き教室に通っていましたが、その絵を今見返すと人物画ばかりです。美術教育を受ける前は趣味でマンガを描いていましたが、大抵登場人物を描いていました。
「人を描きたい」という欲望が私が絵を描く理由の底板なのかもしれません。

Q06. 「描きたい!」と思う人と、「この人は描きたくないなぁ…」という人はいますか?あるとしたら、その違いは何ですか?

あります。描きたい人は「よく親しんだ人」です。描きたくない人、もとい、描けない人は「よく知らない人」です。
例えば、直接会っていない過去の偉人でも、その作品や文章に何度も触れているうちに想像力でその人物像に輪郭が出てくると、表現素材が豊富なので「描きたい!」と思います。反対に、よく知らない人は、私の中に表現素材が乏しいので、網膜に映ったものだけを手がかりに写しとるか、あるいは様式的に技術だけで描くことになってしまいます。
なので、受注で肖像を描く際は、モデル御本人にたくさんインタビューをしてイメージを膨らませてから仕事に入ります。

Q07. 人物を描く上でもっとも難しいことはなんですか?

人間がわからない、ということだと思います。
例えばここに机があります。今その机にパソコンを置いて執筆しています。もし地震が来たら下に潜り込み机はバリケードになります。もしこの部屋の蛍光灯が切れたら交換するため机は踏み台となります。机にはそういう幾つもの「本質」があります。絵はその本質を描きます。

しかし人間は何のために存在しているのでしょうか。例えば「痛い」とか「怖い」とか、ものを食って「苦い」といった機能は、生物学的には危険を回避するための予測能力と言われています。しかし我々は「苦いのがうまい」とか「痛いのがきもちい」とか「怖いもの見たさ」とか言ったりします。人間の本質は人間には分かりません。
その分からなさをもイメージとして描き切るのが、私にとって人物を描く難しさです。

私たちは「いい人」「悪い人」「せっかちな人」「呑気な人」「神経質な人」などと他人に対してレッテルを貼りますが、本当はそういった側面があるというだけで、心の内は多様な表情がモザイク状に並んでいるのかもしれません。そして、上司の前や、家族の前や、友人の前で一番オススメの表情を使い分けているだけなのではないでしょうか。
私の作風は今ちょうどこの辺りをうろついています。

80年代のテレビ番組のイメージで描かれている作品

Q08. 「このマンガがすごい!」というものを教えてください。

「神の左手悪魔の右手」楳図かずお
「想」という少年を主人公にした5つのホラー短編で構成されています。とにかく一度見たら忘れられないビジュアルがすごいです。そしてトリッキーな設定。さらに同じ絵をズームを変えて反復する表現など、ホラーの演出テクニックもオリジナリティー溢れるものになっています。 ちなみに「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドなどのアイデアはこの漫画が元ではないかと私は空想しています。ネタバレになるので多くは語りませんが必読の一冊です。
「わたしは真悟」「洗礼」など楳図先生の作品はどれもぶっ飛んでいて素晴らしいです。

「ムーたち」榎本俊二
「GOLDEN LUCKY」で有名な榎本先生の傑作。虚山無夫(むなやまむーお)という少年とそのお父さんが日常の中から哲学的で不条理な問答を展開するシュールギャグ漫画。価値観の逆転やメタ視点などいろんな実験的要素が詰まった家族ドラマ。何よりお父さんが無定形で、一コマごとに顔が変わったりするのには、感動すら覚えました。絵も可愛いです。

「ホモホモ7」みなもと太郎
男性VS女性の戦争を描いたギャグ漫画ですが、見どころは複数の画風が混在しているところです。子供の落書きみたいな主人公と劇画調のお姉さんが共存しています。今でこそキャラクターがリアルになったりギャグ顔になったりする漫画は当たり前にありますが、本作がそのパイオニアだと思います。美術や映画などの引用もあって気づくとニヤリ。

左:「ホモホモ7」みなもと太郎、中央・右:「神の左手悪魔の右手」楳図かずお

Q09. プライベートでは、即決で一つに選べるタイプですか?あるいは、悩んで決めきれないタイプですか?(メニュー選びとか服選びとか)

衝動タイプですので即決です。ただ自分にとって本当に大事なものは過剰に熟考します。

Q10. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

●アトリエのこだわり
特にありません。アトリエは自宅の6畳間ですが、画材と資料がところ狭しと積み上がっていて、その空きスペースで描いております。理想のアトリエをいつか実現させたいです。

●自慢の作業道具
特にありません。文房四宝と言いましょうか、高い筆、珍しい紙、ブランド硯(すずり)を集めて悦に入っていた時期もありましたが、私は決まった道具を使い続けるのが苦手だということを悟りましたので、今では近所のホームセンターで揃えています。

Q11. 「せ」「ふ」「ほ」のスマホ予測変換で本性がわかるらしいです。掲載できそうなものであれば、それぞれ教えてください。

「せ」是非
「ふ」風呂
「ほ」星山

Q12. もし、自分の顔のパーツを一つだけ、誰かのものと変えられるとしたら、誰の何と交換しましょう?

左まぶたの皮膚。5年前の秋花粉でやられる前の自分の皮膚と交換。

Q13. 職業病だなぁと思うことは?

デザインと美術をダブルワークしているとたまに思います。
あくまで私見ですが、デザイナーとして作ったビジュアルは、その目的、必然性、効果などを誰にでも理解できるような言葉を用いてクライアントに説明できなければ、世に出ません。したがって言葉(概念)からビジュアルを導き出すケースが多くなります。
それが美術になると反対に、ビジュアルから発想して言葉(概念)を生みだすことが往々にしてあります。
私は、描いた作品があまりにも言語で説明し尽くせてしまった時、これは職業病だなぁと自戒します。

Q14. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

音楽、映画、美術、文学、ゲーム、マンガなどたくさんありますので、一つに絞るのは困難ですが、学生時代に強烈な影響を受けた美術家を3人挙げるとすれば、ロバート・ラウシェンバーグ、中村宏、月岡芳年です。

Q15. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

やはりデザイナーでしょうか。駅構内の誘導サインに問題意識を持っていましたので、その分野のデザインをしていたかもしれませんね。いやどうかな。。。でも性格的に続かないでしょうね、やっぱりバイトしながら絵を描いていたと思います。

たっぷりとご回答頂きありがとうございます。そして、必読のマンガもありがとうございます!読みます!
本質がわからないゆえ、人物を描くのは難しい。それでも、人物を描かないと絵を描いた気がしない、というところに、アーティストとしての業のようなものを感じました。
飽き性と自覚しつつも、国宝《慧可断臂図》を4年間描き続けたり(200枚も!)。一番しっくりくる画風が見つからずとも、結果的に自分に合った画風を見出したり。1人の中にいろんなアイデンティティのある星山さんが、自身をモチーフに描いたらどんな作品に仕上がるのか?いつか描いて頂きたいものです。是非。

Infomation
今後の展示スケジュール一覧

星山耕太郎 特別展示販売

▪展示会期
2024年1月11日(木)10:30~2024年1月31日(水)20:30

▪場所
Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 1F 交詢社通り側ウィンドウ)
東京都中央区銀座六丁目10番1号
※Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 5階)内での展示はございません。

展示作品は本サイトから抽選のお申し込みが可能です。

▪作品お申込み受付期間
2024年1月11日(木)10:00~1月24日(水)23:59
※ご当選者様へのみ、1/25(木)以降、Artglorieux GALLERY OF TOKYOよりメールまたはお電話にてご連絡いたします。

作品詳細はこちら

 

『AaP2024』

▪展示会期
2024年2月17日(土)~2024年2月25日(日) 12:00~19:00

▪場所
roidworksgallery
東京都文京区湯島4-6-12 湯島ハイタウンB棟1F

 

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ARTIST

星山耕太郎

アーティスト

1979年 東京生まれ 2003年 多摩美術大学日本画専攻卒業 2010年 個展「顔の中へ」(Gallery Q/銀座・東京) 2012年 個展「彼岸の考察」(Gallery百想/吉祥寺・東京) 2017年 個展「Alter Ego」(The Artcomplex Center of Tokyo/信濃町・東京) 2018年 個展「FIyer」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X /日本橋・東京) 2020年 個展「PSYCHOLOGICAL COLLAGE」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X/日本橋・東京)      個展「Psychological Collage Ⅱ FRAGMENTS」(roidworksgallery/湯島・東京) 2021年 個展「Psychological Collage Ill NAKED」(roidworksgallery/湯島・東京) 2022年 個展「EXPERIMENTAL GROUND #1」(Gallery A8T / 仙台・宮城)      個展「Into the Face」(髙島屋大阪店 ギャラリーNEXT / 難波・大阪)      個展「COMEDY」(roidworksgallery / 湯島・東京) 2023年 個展「CROWD」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊X /日本橋・東京)      個展「Psychological Collage Ⅳ FIGURE-GROUND」(roidworksgallery/湯島・東京) ※2003年〜2023年広告グラフィックデザイナーとして会社勤務。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館) 

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