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2024.08.21

アーティスト 山脇紘資 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.30

Photo / Kaoru Mochida
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、動物をモチーフに大きな絵画を制作する山脇紘資さんの背景に迫ります。

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  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:山脇紘資

1985年千葉県我孫子市生まれ。 東京藝術大学大学院美術研究科修了。 BEYOND THE BORDER ,Tangram Art Center(上海)の展覧会では世界的に活躍する Zhou Tiehai やオノデラユキ、辰野登恵子らと展示を行う。 近年では森山大道、五木田智央らが出品するグループ展の参加や、北海道日本ハムファイターズの新球場を含めたエリア「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」にて2mを超す大作が公開展示された。

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「Purple no,4」1303×970 oil on canvas 2024

 

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山脇さんに質問です。(とに〜)

古今東西、動物をモチーフに描く画家は少なくありません。動物が好きだからモチーフにしている画家、モチーフとしての動物の面白さに魅せられた画家、動物の生命力を表現しようとする画家など、さまざまなタイプがいますが、今回のゲストである山脇紘資さんは、動物を描く他のどの画家とも異なっているような。動物画のようで動物画でない。それは何かとたずねたら、一体どんな答えが返ってくるのでしょうか。以前より、山脇さんの唯一無二の動物画がずっと気になっていたので、この機会にいろいろ聞いてみたいと思います(ついでに、プライベートな質問もいくつか織り交ぜてみました)。

Q01. 作家を目指したきっかけは?

予備校時代、デザイン科に在籍していたのだが、講師に「ここはおまえの居場所じゃない!」と言われ油絵科に連れて行かれた。

アートの道を志した背景を聞くと、「勉強も苦手だったので、大学に行くなら美術かなというくらいの動機でしたね」と山脇さん。最初は「かっこいいかな」という理由でデザイン科を目指すも、授業の課題で山脇さんの提出物を見た講師が油絵科を薦めた。「最初は油絵もしっくりこなかったんです。それに藝大を4浪もしてますから(苦笑)。志望校を他の美大に変えたけど油絵科に受からなくて、最初は版画科。3年目でようやく油絵科に転入して、大学院で藝大に入りました。回り道ですね」

Q02. ズバリ、動物をモチーフにするようになったきっかけは何ですか?

21歳の頃、よく人を描いた。同じ時期に、たまたま動物、人、植物の剥製、標本の山に取り囲まれる体験をした。

「動物を描き始めたのは浪人中の頃でした。当時、GEISAIに作品を出そうとしていたんですけど、受験でしか絵を描いてこなかったので何を描いていいのかわからない。美術館や博物館を巡って辿り着いたのが、国立科学博物館の地球館 3階の剥製展示でした。それで、一番最初に猿を描きました」

Q03. 描かれている動物たちにモデルはいますか?

Q02の内容が僕にとっての全能のモデルだが、それもたまに飽きるので、図鑑やネットを参照したり、会いに行ったりする。

 

Q04. 山脇さんの描く動物たちの目力に圧倒されます。なぜ、多くの動物が画面のこちらを見つめているのですか?

自分の瞳は自分で見ることが出来ないから。
(ただし自己の瞳を描こうとしたことは一度もない)

「動物園や自然の中で見かけた動物をモチーフにすることもあれば、ネットで検索した画像から絵を描くこともあります。自然の雄大さやその動物らしさを再現することには興味がなくて、自分の中にある動物像とは違う事象を表しています。オオカミやヤギの表層を借りて描いてるだけなんです」

Q05. 瞳を描く際のこだわりがあれば教えてください。

極力瞳を描こうとしないこと。キレイに描こうとしないこと。

作家のアイデンティティでは毎回、とに〜さんのアンケートを作家自らが手書きで記入する。同じように山脇さんに回答用紙を送ると、そこには大きな目が描かれていた

Q06. 瞳と同じくらいに、毛並みの表現に目を奪われます。毛並みを描く際のこだわりがあれば教えてください。

書家になったつもりで描く。あ、描くじゃダメか。

Q07. これまで描いた動物の中で、意外と描くのが大変だったものはありますか?

死んだ象。死んだ象のことを僕は何も知らなかった。

「写真で死んだゾウのホルマリン漬け標本を見たんです。実物は神戸の動物園にあるということを聞いて、現地に向かうと既に東京大学に寄贈されていました。大学にも問い合わせたところ標本学の遠藤(秀紀)教授から、個人に見せることができないと断られてしまいました。代わりに資料をもらったんですけど、どうしても描けなかった。でも、その1枚の写真をきっかけに旅をして、人に出会って。これを機に制作における過程はとても大切だと考えさせられました」

Q08. 大画面の作品が多いのはなぜですか?

鑑賞者が作品を見るという構図よりも、鑑賞者が作品に見られる「鑑賞者よりも大きな存在=自然」という構図を作り出したいから。

Q09. 職業病だなぁと思うことは?

すぐアトリエで寝落ちすること。

 

Q10. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

真っ白(何もない)で、広い(可能性)こと。

2023年に新しくオープンしたアトリエは広々としたホワイトキューブ。「いくら才能があっても、環境が整っていなければ作品制作はできません。その環境を用意できるかがアーティストになるための第一歩だと、大学時代に教わりました。その一歩を踏み出せたということが可能性です」

真っ白い空間とは対照的に、山脇さんが集めた古今東西の骨董品が際立つ。棚は中国のアンティーク、足元には日本美術や工芸、民藝の本が並ぶ

繋ぎ合わせた日本の古紙、その上に置かれたテーブルはアフリカの住居で使われていたドア

Q11. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

床屋か旅人。

 

Q12. サインをする際に「一言添えてください」と言われたら、何と書きますか?

よく聴く、よく観る。

 

Q13. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

手賀沼。

「地元が千葉県の柏市なんです。沼があったり自然もありながら、都心にも近いという距離感が僕のアイデンティティを築き上げました」

Q14. 最近食べた中で一番美味しかったものは何ですか?

奥多摩の湧水。

 

Q15. 自分を動物に例えると何ですか?

そのような質問が一番困ります。
なぜなら創作において擬人化を行うことほど愚かな行為はないと考えるから。
ただし人の在り方を何かに託すことには興味があります。

いわゆる動物画とは似て非なる絵画だとは感じていましたが、改めて、頂いた回答によってその理由がわかった気がします。現実に存在する動物を描いている、というよりも、新たな種をキャンバスの中に誕生させているかのよう。少し大げさな言い方をすれば、創造主というような印象を受けました(最近食べた中で一番美味しかったものが湧き水というのも、なんとなく神様っぽいですよね)。
そんな山脇さんがこれからどんな作品を生み出していくのか。ますます瞳を凝らしていきたいと思います。アンケート用紙に描いて頂いた瞳も大切に保管したいと思います。(とに〜)

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ARTIST

山脇紘資

画家

1985年千葉県我孫子市生まれ。 東京藝術大学大学院美術研究科修了。 BEYOND THE BORDER ,Tangram Art Center(上海)の展覧会では世界的に活躍する Zhou Tiehai やオノデラユキ、辰野登恵子らと展示を行う。 近年では森山大道、五木田智央らが出品するグループ展の参加や、北海道日本ハムファイターズの新球場を含めたエリア「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」にて2mを超す大作が公開展示された。

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アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館) 

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