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2024.12.25

アーティスト 寺尾瑠生 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.33

Photo / Kyouhei Yamamoto
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回はバロック絵画や浮世絵などをモチーフに、網代編の手法を用いてコラージュを制作する若きアーティスト・寺尾瑠生(てらおるい)さんのルーツに迫る。

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アーティスト 井上時田大輔 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.32 はこちら!

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アーティスト 井上時田大輔 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.32

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:寺尾瑠生

2003年生まれ、鳥取県出身。
主な個展に、「Against the Death」(DB&BAR、東京、2023)、 「OUT OF BODY」(OFFS GALLERY、東京、2023)、「A NEW HOPE」(27gallery tokyo、東京、2023)、「CROSSROAD」(DB&BAR、東京、2024)。
グループ展に、「One FACE 2023」(roid works gallery、東京)、 「AaP2024 Towards The Future」(roid works gallery、東京)、 「ART SESSION」 (銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM、東京、2024) 等。

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《朧 〜UTAMAKURA I〜》


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《Right》 

 

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寺尾瑠生さんに質問です。(とに〜)

今回質問に答えて頂くアーティストは、2003年生まれの寺尾瑠生さん。おそらくこの企画史上最年少ゲストです。しかし、最年少であるものの、その作品はいい意味で熟練しており、もはやベテランみすら感じるレベル。バロック絵画や浮世絵といった既存のモチーフをカッターと定規を用いて1〜2mm程の線に分解し、それを1本1本丁寧に編み込んでいくという独自の制作スタイルをすでに確立しています。細かく切り分けるだけでも手間がかかるのに、手作業で編み込むだなんて! どう考えたって面倒な手法をわざわざ選んだのには、一体どんな理由があるのでしょうか? さらに手間を増やして大変恐縮ですが、質問へのご回答お待ちしております。


Q01. 作家を目指したきっかけは?

15歳の頃。
初めてコラージュ作品を作った時に
ぼんやり意識しました。

15歳からコラージュ制作を始めて現在、20歳になった寺尾さん。昨年(2023年)には初めての個展を東京・中目黒にあるセレクトショップ 『DB&BAR / DIET BUTCHER』 で開催した。「ブランドの方がInstagramにアップしていた作品を見て突然声をかけてくださって......びっくりしました。東京に行くのも修学旅行ぶりだったので2回目(笑)。めちゃめちゃ怖かったですけどいろいろな出会いがありましたね」

東京の個展をきっかけにファッション関係者からも注目される寺尾さん。写真はseveskigというブランドの2024AWのコレクションでコラボしたジャケット


Q02. 既存のモチーフを1~2mm幅に分解し、編み込む。この独自のスタイルに辿り着いたきっかけは何でしたか

10代の頃から精神状態が不安定な時期が続き、
セラピーの一種である、コラージュ療法として雑誌を切り抜いてコラージュを作っていました。
作っている間は精神が安定するのですが、
数十分で完成するため、完成するとまた不安定になることが多かったです。
同時期に近所の図書館に行った際、
網代編みという竹編み技法の本に出会いました。
時間のかかる細かい編み物と今まで自分が作ってきたコラージュを合わせることで
長い時間精神を安定させられるのではないかと考え、今のスタイルになりました。

制作途中の寺尾さんの作品


Q03. 具体的にはどうやって編み込んでいるのですか

横向きにカットしたモチーフに対して、
縦向きにカットしたモチーフを一本ずつ編み込んでいきます。

作品制作の様子。この作品では、デジタルでコラージュした浮世絵を出力した紙を2枚用意し、それを細かく裁断し、網代編みの技法を用いて編んでいく

「コラージュは簡単にできるからこそ有象無象、同じような作風の人がいて、個性が出しづらいんです。最初の3年くらいは試行錯誤していて、そんなときに網代編み技法を知りコラージュに取り入れてみました。アナログな手触りのあるものが好きで、こういう絵柄もデジタルを使えば一瞬で作れるとは思うんですけど、時間をかけたいんです。簡単にできることを、わざとめちゃくちゃ時間かけてやるのがすごく好きですね、自分」


Q04. この独自の制作スタイルならではの苦労があれば教えてください。 

編むことに関しては全く苦ではなく、
ずっと続けられるのですが
その前のカットの工程が大変です。
印刷したモチーフを0.1ミリ単位で
カッターと定規で裁断するため、カットする際の少しの力加減でズレてしまうことがあり、
印刷し直すことになると時間がかかってしまいます。

「裁断する幅も最初は1センチくらいで編んでいましたが、それじゃよくわからなくて。どんどん細くしていって今は2ミリくらいの幅にしています」

「大きな紙も切れるように床をカッターマットにしました。裁断はレーザーカッターとかでもできるとは思うんですけど、なるべく手を使うようにしています。アーティストの河村康輔さんを勝手に師匠だと慕っていて、影響を受けた以上は同じことをするわけにはいかないので、もっと面倒くさいことをしなきゃって」


Q05. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など 

細かい部分の作業に使っている錐は何年も同じものを使っています。
お気に入りです。


Q06. モチーフとする作品を選ぶ決め手は何ですか? 

モチーフとなる作品が作られた理由や
作者の人生をリサーチして、
自分とリンクすると思うものを使うことが多いのですが、
モチーフの表面的な情報だけで選ぶことも
あります。

「そもそも浮世絵って海外の人が“これは美術品だ”って規定したことで評価された歴史もあって。日本人が一度、手放しちゃったものだと思うんです。それを僕がもう一回コラージュして、海外に持っていくことでアートとして規定し直すことができないかと」

「コラージュは歴史が浅くて、アートの世界ではまだまだ評価されないこともあると思うんです。でも、僕自身はコラージュが大好きだし、どんどん開拓していきたい。絵画という”でっかい権威”に対して、“赤ちゃん”コラージュが立ち向かっていく。絵画をモチーフにコラージュを作ることは反骨精神みたいな面もあるのかなと思っています」


Q07. 作品の上下にあるビラビラとした部分。その部分に対するこだわりがあれば教えてください。

一目見て自分の作品と分かるようにするために、
残しています。


Q08. 集中力はどうやって保っていますか? 切れた時はどうしていますか?

作り始めると、のめり込んでしまい、
毎日10時間程は集中が切れないのですが、
それ以降は
切れたら軽食を摂ると復活します。


Q09. お弁当に入っていたらテンションがあがるものは何ですか?

唐揚げが好きです。


Q10.
 職業病だなぁと思うことは?

街中で、編んでいる籠などを見つけると
どんな素材でどんな幅でどんな編み方で
作っているのか凝視してしまう。


Q11. 好きなキャラクターは何ですか?

ミギー (寄生獣)。


Q12. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

日本のSF小説(筒井康隆、小松左京、安部公房、星新一、眉村卓、海野十三)など、
ホラー漫画(伊藤潤二、楳図かずお)などにも影響を受けました。

「学校の図書室にあった星新一先生をきっかけにSF御三家を知ってどっぷりハマっていきました。本を読むと、例えば『公園』という文字が出てきたら、近所の公園を思い浮かべながら、自分だけの情景を作っていける。それがすっごく楽しいですね」

「伊藤潤二先生は筒井康隆先生の影響も受けていて、不条理な感じがちょっと似ています。伊藤先生は楳図かずお先生からの影響も公言していたので、好きな人をきっかけに掘り下げながら読書するのも好きですね」


Q13.
 何度も見返してしまう、あるいは読み返してしまうものは何ですか?

筒井康隆さんの「ヒストレスヴィラからの脱出」、
小松左京さんの「飢えなかった男」
は何十回と読み返しています。
書ききれないのですが他にも沢山あります。

寺尾さんが週4回くらい聴くというお気に入りのレコード。小松左京が企画したアルバムで、書き下ろしのサウンドドラマ(SF DISCORAMA)が収録されている。「デジタルもいいですけど、やっぱり実物を買って所有したくなりますね」


Q14.
 宇宙人が目の前に現れました。まず何をしましょう?

文明の最先端の技術を見せてほしいとお願いする。


Q15. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

海洋学者。

今後の活躍が益々期待されるアート界のホープということで、自分の心の中で勝手に“寺尾君”と親しみを込めて応援していました。しかし、質問への真摯な回答とその内容、特に宇宙人とのファーストコンタクトの動じなさに、もはや貫禄のようなものを感じたので、これからは“寺尾さん”・・・いや“寺尾ニキ”“寺尾先生”と呼びたいと思います。
何よりも驚かされたのは、編み込むだけでなく裁断まで手作業だという事実。コスパやタイパが重視されるご時世に、逆行するかのようなスタイル。そこにアーティストとしての矜持を感じました。
読者の皆様の身の回りに「最近の若者は~」が口ぐせの方はいませんか? もしいるなら、是非この寺尾先生の記事を読ませてあげてください。(とに〜)

Information
『寺尾瑠生展 -増殖-』

■会期
2025年1月9日(木)~1月15日(水)
10:30~20:30 ※最終日は18時閉場

■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F

詳しくはこちら

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ARTIST

寺尾瑠生

アーティスト

2003年生まれ、鳥取県出身。 主な個展に、「Against the Death」(DB&BAR、東京、2023)、 「OUT OF BODY」(OFFS GALLERY、東京、2023)、「A NEW HOPE」(27gallery tokyo、東京、2023)、「CROSSROAD」(DB&BAR、東京、2024)。 グループ展に、「One FACE 2023」(roid works gallery、東京)、 「AaP2024 Towards The Future」(roid works gallery、東京)、 「ART SESSION」 (銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM、東京、2024) 等。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

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