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2026.01.21

アーティスト田中悠 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.42

Photo / Kyouhei Yamamoto
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は「何かが布で包まれているような造形」を陶器で制作するアーティスト・田中悠さんのアトリエにうかがった。

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今回の作家:田中悠

1989年愛媛県出身。2013年京都嵯峨芸術大学工芸専攻卒業。京都市立芸術大学大学院陶磁器専攻を修了。現在は京都に工房を構える。陶磁器が内包する空間と手びねりの技法から発想を展開させ、何かが布で包まれているような造形を制作する。
主な展覧会に、「第16回パラミタ陶芸大賞展」(パラミタミュージアム、三重、2022)、「Pureform」(南オーストラリア州立美術館、2022)、「Toucher le feu. Femmes céramistes au Japon」(ギメ東洋美術館、フランス、2022)など。国内外の美術館に作品が収蔵されている。

001-artist-identity-42《tsutsumimono 25Y-8》

002-artist-identity-42左から《tsutsumimono 25Y-9》《tsutsumimono 25Y-10》

 

tony_pic

田中悠さんに質問です。(とに〜)

ご飯を海苔で包んで、おにぎりにしたり。お金を紙で包んで、おひねりにしたり。お菓子を一つ一つ個包装にしたり。日本人にとっては当たり前の“包む”という行為は、今や『TSUTSUMU』として海外でも通じる日本文化となっています。

今回のゲストの田中悠さんも、そんな“包む”に魅了されたのでしょうか。デビューより一貫して、「何かが布で包まれているような造形」をモチーフに作品を制作し続けています。それも、陶器で。唯一無二の個性ある作品ですが、一方で田中さん自身がどんな人物なのか一切のベールに包まれている気がします。ここはひとつ、質問に包み隠さずお答え頂いて、少しでもその人物像に迫れたら幸いです。

 


Q01. 作家を目指したきっかけは?

苦手克服のためにイラストの勉強を始めたことです。私は子供の頃から絵が下手で、描くことに苦手意識を持っていました。18歳の頃に急に時間に余裕ができたことをきっかけに、新しい趣味としてあえて苦手だった絵に挑戦しました。すると次第に描くことの面白さに気づき、アートに深く関わりたいと思うようになりました。

「学生時代に絵を始めてみたら、すごく楽しくて。どうせやるならトップまで行きたいと思い、美大を目指しました」と田中さんは振り返る。そうして入学した京都嵯峨芸術大学では油絵を専攻。しかし次第に、キャンバスと向き合うことに違和感を覚えるようになったという。「子どもの頃から絵が苦手で、やりたいイメージを平面に落とすのにすごく時間がかかるんです。そんな時に受講した『陶芸論』の授業で、作陶する作家の姿を目にして。素材と向き合って静かに作る、あの生き方をしてみたいと思ったんです」。それが、陶芸を始めるきっかけだった

Q02. 職業病だなぁと思うことは?

なかなか制作を切り上げることができず、昼夜逆転してしまうことです。

 

Q03. 「何かが布で包まれているような造形」をモチーフにするようになったきっかけは何ですか?

手びねりの技法を、土で空間を包む行為だと感じたことがきっかけです。その後手びねりから生まれる造形らしさや、陶造形の中にある空間を作品の一部にできないかを意識するようになり、何かが布で包まれた造形を制作するようになりました。

「空間を包むというアイディアは、学部生の頃に一度出てきていました。70センチほどの大きな作品を作る課題の最中、何もアイディアが浮かばなくて、とりあえず“手びねり”をしていたんです。作っている途中で重力に引っ張られて、真ん中あたりで土がぺたんと折れて。それがシワのように見えた瞬間に、手びねりって空間を包んでいる行為なんだ、という発見がありました」

「当時はそこまで意識していなかったのですが、陶芸には技法や素材から造形が生まれる、という文脈がありますよね。それに自然と行き着いていたのかなと、後から思うようになりました。大学を卒業して数年経った頃、あの感覚をもう一度やってみようと思い立ち、空間を包むシリーズが始まりました」

Q04. 実際に何かを包んで、それを忠実に再現しているのですか? それとも、自分の中にあるイメージをもとに制作しているのですか?

全てイメージで制作しています。以前は実際に布で何かを包んだモデルを作り、それを見ながら制作していました。しかしそれではコピーするだけで面白くなかったり、モデルの布に入った折れ目が邪魔で美しく作れないという問題がありました。モデル制作をやめて全てイメージで制作するようになったことで、そうした問題から解放され、より自由な造形ができるようになったと思います。

制作途中の作品。スケッチやマケットを作らずに下から自由に思い描いた形を作っていく

Q05. 好きなパッケージデザインを教えてください。

森永ミルクキャラメルです。なんとなく懐かしさを感じて好きです。今でもよく買います。


Q06. ひだの表現のこだわりがあれば教えてください。

土と布の間にあるようなひだの形を目指しています。土を伸ばしていく力を利用して作る伸びやかでハリと勢いのある形や、土を触っている間に生まれる即興的な形などを取り入れているので、本物の布で同じように包んだ形を作っても実際は全然違う形になります。

形作った後は、自作のスクレーパーで手の痕跡を削り、化粧土の塗布と磨きを何度も重ねていく。形が整ってきた段階で彩色を施し、焼成する。「いわゆる素焼きして本焼き、という一般的な工程ではないですね」

「このシリーズを始めた当初は、もっと風船のような形で、シワも少なく、絵付けもしていました。当時は、形に密度がない分を絵で補っている感覚だったんです。でも、だんだんと造形そのものの密度が増してきて、絵付けがない方がもっと形が見えやすくなるのではないかと気づいて。それからは、絵付けをやめて、形の美しさを追求するようになりました」

Q07. 結び目の表現のこだわりがあれば教えてください。

結び目は作品において要の部分です。布をギュッと結んだ時の力強さや、布の薄くて繊細なところ、さらには全体の形のバランスを支える役割など、多くの魅力が集まる所になっています。

小さいサイズの作品と、制作途中の結び目

右は結び目を取り付ける前の本体、左は形が完成し、色付け中の状態の作品

Q08. 作品の「正面」は決めていますか?

正面は必ず決めています。いつもは制作中、全体のイメージが見え始めたあたりで決まるのですが、たまに作品の完成後に正面を変えることもあります。

Q09. 近年は黄色の作品が多いように思います。この色を選んだ理由は何ですか?

重たい陶器の作品を柔らかく軽やかに見せ、尚且つ強い印象を与える色として、黄色を使用しています。

田中さんがコレクションしている作家による陶芸作品。「こういった作品に触れながら、形や色付けのインスピレーションにすることもあります」

 

Q10. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

自分で制作した道具たちです。成型用の道具は限りなく自分の手に馴染むものであって欲しいため、自作することが多いです。例えばヘラは竹を削って作り、スクレーパーはノコギリの刃を切り取って制作しています。

竹筒から削って制作しているというヘラ

ヘラの上にあるのは、アルミ板を切って制作したスクレーパー。その上は、ノコギリから切り出したものだ。「これらを、土の状態に合わせて使い分けています」

スタジオには電気窯が3台あり、写真はその中でも一番大きなサイズのもの。「陶芸家あるあるなんですけど、作品以外にも窯でピザを焼いて食べることもあります(笑)」

Q11. 日本に初めて来た外国人を1日エスコートするとしたら、どこに連れていきますか?

普通に京都観光をした後、最後に私がよく行くカフェ&バーに連れて行きます。冬は畳で火鉢を囲みながらコーヒーやお酒が飲めるので、和を感じてもらいながら色々お話ができるかなと思います。

Q12. 頑張った自分への一番のご褒美は何ですか?

鉱物を買うことです。形や色の参考にもなります。

田中さんの鉱物コレクション。「鉱物って、自然の中でできた色の組み合わせなんですよね。黄色の中にもオレンジがあったり、下地にどんな色を入れるかで印象が変わったり。その相性を見るのが面白くて集めています」

Q13. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

テニス選手たちです。18歳までテニス選手になることを目指していて、スポーツの世界に身を埋めるつもりでいました。限界を感じてテニスを辞めることになりましたが、私の青春はテニス一色だったと思います。

「12歳の頃からテニスをやっていて、選手を目指していた時期もありました。テニスを通して、自分の体がどう動いているのか、空間をどう把握しているのかは、人より少しわかる気がします。陶芸を選んだのも、体を使う素材だったから、というのはありますね。最近はまたテニスを始めて、週に1回はやっています」

Q14. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

地元でテニスコーチをしていたと思います。

Q15. 陶芸家あるあるを教えてください。

器の裏側まで見てしまいがちなところかと思います。

オブラートに包まずに言いますと、田中さんの作品を観た時に、伝統的な陶芸の世界とは無縁の新世代の造形作家という印象を受けました。しかし、ご回答を通じて制作の工程や意図を知り、新しい表現を模索しつつも、むしろ陶芸作家らしい陶芸作家であると感じました。

特に目からウロコだったのは、田中さんが発見した「手びねり=空間を包んでいる行為」という考え方。これまで鑑賞時に意識したことがなかったですが、確かに、碗や壺などの器には空間があるわけで。包むことで、空間そのものを作品の要素に取り入れる発想に大きな感銘を受けました。

包まれた空間だけでなく、もちろん包む側の造形にも見どころがいろいろあります。土でしか表現できないという襞や、唯一無二の個性的な色も魅力的ですが、やはり自分は全体を引き締める結び目に惹かれることを告白して、結びとさせていただきます。(とに〜)

Information

田中悠展

■会期
2026年2月4日(水)→2月10日(火)

■営業時間
10:00~19:00(※最終日は16:00閉廊)

■会場
松坂屋名古屋店
本館8階 ART HUB NAGOYA open gallery
愛知県名古屋市中区栄3丁目16-1

■入場料
無料

展覧会の詳細はこちら

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ARTIST

田中悠

アーティスト

1989年愛媛県出身。2013年京都嵯峨芸術大学工芸専攻卒業。京都市立芸術大学大学院陶磁器専攻を修了。現在は京都に工房を構える。陶磁器が内包する空間と手びねりの技法から発想を展開させ、何かが布で包まれているような造形を制作する。主な展覧会に、「第16回パラミタ陶芸大賞展」(パラミタミュージアム、三重、2022)、「Pureform」(南オーストラリア州立美術館、2022)、「Toucher le feu. Femmes céramistes au Japon」(ギメ東洋美術館、フランス、2022)など。国内外の美術館に作品が収蔵されている。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

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