• ARTICLES
  • なぜ日本のミュージアムグッズは充実しているの? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.2

SERIES

2023.11.03

なぜ日本のミュージアムグッズは充実しているの? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.2

Interview&Text / Mami Hidaka
Photo / Rakutaro Ogiwara
Illust / Wasabi Hinata
Photo / Rakutaro Ogiwara

19世紀の画家 エドゥアール・マネに魅せられたことをきっかけに美術史を学び、日々熱心にアートシーンを追いかけ続ける和田彩花さん。一年以上にわたるフランス留学を経て、絵画やインスタレーション、パフォーマンスといった作品そのものだけではなく、アートと社会の結びつきについてもさらに関心が深まったといいます。

今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに繙いてきた「和田彩花のHow to become the DOORS」。Season2では、時代やジャンル関係なくアートを広く楽しむ和田さんが「もっと深く知りたい!」と思うアートについて話しあったり、それぞれの専門家と一緒に展覧会をまわったりする様子をお伝えしていきます。

Season2 第2回は、「日本のミュージアムグッズ」について深掘りしたいという和田さん。フランス留学から帰国後、改めて日本のミュージアムグッズのバラエティの豊かさとクオリティの高さに驚き、日本の美術館・博物館におけるミュージアムグッズの重要性について気になったといいます。

そんな和田さんの関心を出発点に、今回はミュージアムグッズ愛好家として活動する大澤夏美さんをゲストにお迎えします。全国各地の美術館・博物館を知り尽くす大澤さんが、都内一押しという東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館のミュージアムショップで、国宝や重要美術品をモチーフとした様々なグッズを手に取りながらの楽しい対談となりました。

SERIES

Vol.1はこちら!

Vol.1はこちら!

SERIES

抽象画、どう世界に広まった? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.1

  • #和田彩花 #連載

ミュージアムグッズに、美術館のあり方を見る

和田:フランス留学から帰国して、改めて日本のミュージアムグッズが魅力的で充実していることに気付きました。今回は、大澤さんイチオシのミュージアムショップとして静嘉堂文庫美術館を選んでいただきましたね。イチオシポイントを教えてください!

大澤:私は、ミュージアムグッズは美術館・博物館にとってのメディアであり、美術館・博物館が大事にしている理念や経営方針などの姿が反映されるものだと思っています。静嘉堂文庫美術館は、創設130周年を記念して2022年に世田谷から丸の内に展示ギャラリーを移転し、それに伴ってショップも新しくリニューアルされました。

のどかな世田谷区岡本から、ビジネス街である丸の内へと場所が変わることで、美術館としての考え方やあり方も変わらざるを得ないところがあるのではないかと想像していて、ぜひその変化を和田さんと一緒に見てみたかったんです。

和田:大学時代に西洋美術史を専攻していたこともあり、西洋絵画にちなんだミュージアムグッズを見ることが多かったので、日本の絵画や焼き物、屏風などをモチーフに、素材も形も様々なグッズを種類豊富に展開している静嘉堂文庫美術館のグッズはすごく新鮮です。

 

名物は「国宝・曜変天目」!豪華コレクションを活かしたグッズ展開

和田:静嘉堂文庫美術館は圧倒的なコレクションを活かして、国宝や重要文化財を含む名品のマグネットや、展覧会に合わせてつくられた中国のお皿の裏表をプリントしたオリジナルTシャツ、ミニ屏風、手ぬぐいなどを展開していて、グッズを通してたくさんの素晴らしい作品と出会うことができて嬉しかったです。

開館1周年記念特別展 「二つの頂 ―宋磁と清朝官窯」に際して制作された吹青輪花盤「大清雍正年製」のオリジナルTシャツ。「Tシャツなどの布製品はアイロン転写プリントやインクジェットプリントなど、印刷方法によって仕上がりが変わります。資料の良さを生かすためにどのような手法を使っているのかを意識して見るのも面白いですよ」と大澤さん

和田:今日大澤さんは「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」を実際に購入されていましたね!

大澤:この「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」は一日10個限定のレア商品で、今もなかなか手に入らないものなので、ようやく購入できて本当に嬉しいです!個人的に2022年に販売がスタートし、現在も大変話題のミュージアムグッズだと思っています。

和田:サイズも実寸大ですし、実物の国宝と同じように見る角度によって色味が変わったり、きらめいたり、手に取るとうっとりしてしまいますね。すごいクオリティです。

大澤:名だたる美術展のグッズを手がけてきた株式会社Eastさんによるミュージアムグッズです。ぬいぐるみという陶磁器から対角にある素材を選んで、ほぼ原寸にこだわって立体にしたのは、国宝である曜変天目を、両手で包み、持ちあげ、愛でるという擬似体験が出来たらそれだけで大勢の人が笑顔になるかもしれないという想いからだったそうです(https://twitter.com/TeamEastest/status/1576002575316328450)。

曜変天目は静嘉堂文庫美術館一番の名物なので、このぬいぐるみ以外にも、アロハシャツやハンカチ、マグネットなど様々な形でグッズ化され、曜変天目の宇宙のような美しさに魅了された人々から熱狂的な人気を集めています。

私は、普段からお土産として配るために曜変天目タオルハンカチをストックしています。繊細な刺繍がとても可愛く、素材も今治ガーゼを使うなどとてもこだわっているんです。

和田:すごい!大澤さんのセンスが光る素敵なお土産ですね。話も盛り上がりそうです。

 

ミュージアムグッズは、美術館の個性を生かして来館者の記憶を彩るメディア

和田:ミュージアムグッズを通じて、作り手の方の熱意や創意工夫だけでなく、その美術館・博物館のあり方までを見ようとしている大澤さんの視点が素敵で、ずっとお話ししてみたかったんです。大澤さんがミュージアムグッズに魅了されたきっかけはなんだったんですか?

大澤:大学時代にメディアデザインを研究する中で博物館学を学び、実習を通じて美術館・博物館の役割である収集・保存・研究・展示・教育の重要性と楽しさを知りました。美術館・博物館を舞台に、自分が学んできたメディアデザインを活かしたいと考える中で、ミュージアムグッズやミュージアムショップは美術館・博物館のミッションとバリューを象徴するメディアであり、来館者の記憶を彩るメディアでもあることに気づいたんです。

そこから全国各地の美術館・博物館のミュージアムショップを駆け回るようになり、大学の卒業制作はミュージアムグッズをテーマにしましたし、その後進んだ北海道大学大学院でも、博物館経営論をベースにミュージアムグッズの修士論文を書きました!不定期ですが、自費出版でミュージアムグッズとショップに関する専門誌『ミュージアムグッズパスポート』を発行したり、愛されるミュージアムグッズを考えるワークショップを開いたりしています。

和田:東京、大澤さんが暮らす北海道、私が生まれ育った群馬県と、それぞれ全然違う景色が広がっているので、土地土地で、美術館・博物館の色やグッズの方向性も変わってきそうですよね。静嘉堂文庫美術館のミュージアムグッズは、洗練されたビジネス街という丸の内の場所性が反映されている気もしました。

大澤:おっしゃる通りです。今日は、北大総合博物館のミュージアムショップで販売されているアンモナイトキャンドルと、学生がミュージアムグッズ研究の一環で企画した植物や海藻のクリアカード(植物標本)、『ミュージアムグッズパスポート』の最新号をお土産に持ってきました。

北海道はアンモナイトの産地として世界的に有名で、北大総合博物館にはアンモナイトコーナーが常設展示されているので、まさに北海道ならではのミュージアムグッズです。このキャンドルは、実際のアンモナイトから型を取って製作されたんですよ!

和田:ありがとうございます!こんなに貴重なキャンドル、もったいなくて火をつけられない(笑)。観賞用として大事に飾らせていただきます。大澤さんは、どれくらいの数のミュージアムグッズをコレクションされているんですか?

大澤:700まではコレクションを数えましたが、キリがないのでそこで数えるのを諦めてしまいました。自宅にびっしりと保管しています。特にお気に入りのミュージアムグッズもいくつか選りすぐって持ってきました。黄色のポーチは、ファッション・雑貨通販でお馴染みのフェリシモが伊丹市昆虫館とコラボレーションしたミュージアムグッズです。中身はなんだと思いますか?

和田:サナギのポーチを開くと、蝶の翅(はね)を模したエコバッグが出てくるんですね!アイデアがすごい・・・。シースルー素材で作られているのも羽化したての蝶の翅のようで可愛いです。

ほぼ新品のきれいな状態なので、大澤さんは観賞用にグッズを購入されているんですね。私はChim↑Pomのトートバッグやペンのほか、「アナザーエナジー展」(森美術館、2021〜22)の目玉の一つであったミリアム・カーンの絵画がプリントされたペンケースなどの実用的なグッズを愛用しています。

ミリアム・カーンの絵画がプリントされたペンケースやペンを紹介してくれた和田さん

 

ミュージアムショップは展覧会の延長

和田:これまで私の中でミュージアムショップは、「美術館の展覧会を見た後にお買い物を楽しむ場所」という位置付けでしたが、それだけではなく「作品と出会える場所」でもあることを知りました。

思い返してみれば、展覧会の後にショップでグッズを選ぶ時間は、自分の好きな作家や作品を改めて確認できる楽しい時間になっています。

大澤:私もグッズを選ぶ時間が大好きです!ミュージアムショップは展覧会の延長線上にある場所であり、保存の観点からなかなか長期間一般公開されない資料もミュージアムグッズを通じて知ることができるんですよね。それに、キュレーションされた展覧会を観た後にショップでグッズを選ぶ時間は、キュレーターや学芸員から来館者へと選ぶ主体が逆転するような面白い体験ですよね。

 

美術館の経営を支えるミュージアムグッズの発展

和田:海外の話になりますが、個人的に、フランスの美術館はミュージアムグッズにそこまで力を入れていない印象を受けました。もちろんお土産として楽しめるものはありますが、日本のものと比べるとグッズへの強いこだわりは感じず、例えば絵画や写真、建築の風景写真がプリントされた定番のポストカードも、実際の作品の色と違う印象だったり、使用する写真そのものが古かったり。ボールペンのラベルはズレていたり剥がれていたり・・・(笑)。でもよくよく考えてみれば、もちろん国によってグッズ制作への予算も違いますよね。

私自身が歌手としてコンサートをするときも、グッズは、ファンの方たちの思い出をつくるという意味でも、コンサートの売上を支えるという意味でも、すごく重要な役割を担っています。同じようにミュージアムショップの売上が美術館の経営を支えている部分も大きいのでしょうか。

大澤:私が研究していた2011年頃の日本は、今ほどミュージアムグッズは注目されておらず、バリエーションも豊富ではありませんでした。当時はまだミュージアムショップをたんなる付帯施設と考えている館も多かったと思いますが、小泉政権の構造改革によって、国立の美術館・博物館は独立行政法人化や指定管理者制度を導入し、たくさんの人に足を運んでもらうための経営を考えるようになっていきました。それに伴って、ミュージアムショップも、美術館・博物館の収益確保や来館者を増やすための広報手段として発展しました。

ここ10年で人々の日常にフィットするように、「East」をはじめ多様な作り手の方たちと多彩なグッズ開発を模索し、それをSNSの発展が後押ししてきたのかもしれませんね。今後ももっと興味深いミュージアムグッズがたくさん登場すると考えています。
その一方で、博物館学という学問分野はまだあまり多くの人に知られておらず、私がミュージアムグッズを研究していると言うととても驚かれます。これまでミュージアムグッズは雑貨の文脈と重ねて語られてきましたが、博物館学の研究テーマとして成立するんだということも、自分の活動で広めていけたらと思いますね。ミュージアムグッズをきっかけに展覧会に足を運び、博物館全体を盛り上げていく活動に繋がっていけばいいな。

和田:なるほど!たしかに、事前に美術館の公式SNSでグッズをチェックして、それを目的に展覧会にいく人も増えたように思います。研究者ではなく、愛好家というスタンスを選んだのはなぜですか?

大澤:私は研究者の皆さんをリスペクトしているので、継続的に論文を書いていない身からすると安易に「研究者」を名乗りたくないのもありますし、「愛好家」という言葉に含まれるアマチュアリズムも愛しているんです。美術館・博物館の中で知らず知らずのうちに生まれてしまうような権威性とは距離を置きたい。グッズ開発に関わってくれる作り手や研究者の方や人との協働や感謝の気持ちを忘れずに、あくまでも愛好家であり、人と人、そしてアカデミックとマーケットをつなぐ中間人材として、美術館・博物館のよりよい未来を考えていきたいんです。

 

対談を終えて

和田:今回の対談を通して、かわいい美術館グッズを買って・使って楽しむだけでなく、美術館グッズがもたらす大きな意義について知ることができて勉強になりました。それから、特別展に限らず、町にある身近な美術館・博物館のグッズも見逃せませんね。

Information

静嘉堂@丸の内 開館1周年記念特別展
「二つの頂 ―宋磁と清朝官窯」

【開催概要】

◼ 会 期 : 2023年10月7日(土)~12月17日(日) ※会期中一部展示替えあり
◼ 会 場 : 静嘉堂@丸の内(明治生命館 1 階) 〒100-0005 東京都千代田区丸の内 2-1-1 明治生命館 1 階
◼ 休 館 日 : 毎週月曜日
◼ 開館時間 : 午前10時~午後5時(金曜は午後6時まで)※入館は閉館の30分前まで
◼ 入 館 料 : 一般 1,500円 大高生 1,000円 中学生以下無料
◼ 問い合わせ : TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
◼ ホームページはこちら
◼ twitterはこちら
◼ Instagramはこちら
◼ 主 催 : 静嘉堂文庫美術館(公益財団法人静嘉堂)

how-to-2

 

DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
「LOLOET」
HPはこちら
Twitterはこちら
Instagramはこちら YouTubeはこちら
「SOEAR」
YouTubeはこちら

GUEST

大澤夏美

ミュージアムグッズ愛好家

1987年生まれ。札幌市立大学でメディアデザインを学ぶ。在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。2023年4月より、北海道大学大学院文学院人文学専攻文化多様性論講座博物館学研究室で博士後期課程に進学。主な著書に『ミュージアムグッズのチカラ』シリーズ(国書刊行会)、『ときめきのミュージアムグッズ』(玄光社)がある。最新号「ミュージアムグッズパスポート」vol.6やバックナンバーはオンラインショップ百物気から購入可能。
オンラインショップはこちら
noteはこちら
ミュージアムグッズコレクション紹介Instagramはこちら
(プロフィール写真撮影:菅未里)

新着記事 New articles

more

アートを楽しむ視点を増やす。
記事・イベント情報をお届け!

友だち追加