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2024.04.12

国立西洋美術館初の現代アート展へ! / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.4

Text & Edit / Mami Hidaka
Photo / Yuri Inoue

大学で西洋美術史を学んで以降現代アートにも関心を広げ、日々熱心にアートシーンを追いかけ続ける和田彩花さん。一年以上にわたるフランス留学を経て、アートと社会の結びつきについても関心が深まったといいます。アートにまつわる疑問やハウツーを専門家の方をお呼びして繙いてきた「和田彩花のHow to become the DOORS」。Season2では、時代やジャンル関係なくアートを楽しむ和田さんが「もっと深く知りたい!」と思うアートについて、専門家と話しあう様子をお伝えしていきます。

第4回は、東京・上野の国立西洋美術館で開催中の展覧会「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」(〜5月12日(日))の会場からお届け。

国立西洋美術館初となる現代アート展を出発点に、和田さんの視点から日本の現代アートの現在地と未来を深掘りしていきます。ゲストは、本展を担当する同館主任研究員の新藤淳さんと、個人としてもパープルームとしても本展に参加されている作家の梅津庸一さんです。

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“公共”彫刻ってなに? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS Season2 もっと知りたいアート!」Vol.3

  • #和田彩花 #連載

国立西洋美術館は、未来のアーティストにとってどんな場所になりうるか?

和田:個人的に国立西洋美術館はお堅いイメージがあったのですが、今回の展覧会で見え方が変わりました。新藤さんは、なぜここでこのような企画を行おうと思ったのですか?  

展示風景。和田さんの後ろに映る三連作は、梅津庸一《緑色の太陽とレンコン状の月》(2022)、手前の展示台に並ぶのは、近年梅津さんが信楽で制作してきた陶芸作品の数々

新藤:いろいろな理由がありますが、たとえば各国の美術史や美術館において脱西洋中心主義が叫ばれるようになって何十年が経ったいまなお、国立西洋美術館はその名前からして、どうしても西洋中心主義を保持せざるをえません。この美術館の役割は、日本で西洋美術の歴史を示したり、その研究機関として機能したりすること。実際に、当館は主として20世紀前半までの西洋美術だけを収蔵/保存/展示しており、ここには、いわゆる現代美術は存在しません。そういった「国立西洋美術館」のあり方を、今日を生きるアーティストの方々の作品群を通じて一度揺さぶってみたいと思ったのが理由のひとつです。

和田:本展には、脱西洋中心主義やポストコロニアル、フェミニズムなどをテーマにした作品が集まり、また子供や車椅子の鑑賞者の目線の高さ、キャプションの翻訳言語に配慮された作品もありました。現代アートの展覧会の中でも、特に社会性が強いキュレーションだと思います。

新藤:私自身はこれまでにも国立西洋美術館の展覧会や小企画で、部分的に現代美術を招き入れる試みをしてきました。でもそれだけでは不完全燃焼で、そういう試みを一回、全面化してみてもいいのではないかと思っていました。

小田原のどかによる、ロダンの彫刻作品を倒して展示するインスタレーションも

新藤:国立西洋美術館には基本的に、過去を生きた、遠き異邦の死者の作品群のみが収められているとも言えます。では、1959年の開館以後の未来を生きてきた人たち、あるいは生きているアーティストたちをいかに触発できるだろうか。この美術館の根源的な記憶を見つめ直したときに、今生きている・未来を生きていくアーティストの方々を大々的に招き入れる必要があると思いました。そのときには当然、今日的な諸問題もさまざまに飲み込んでいかなければならないだろうと。

和田:新藤さんは、西洋美術館にいながら梅津さんをはじめとする現代のアーティストの活動も追いかけていらっしゃいます。時代が大きく違う異なる美術をどちらも追いかけるのは大変ですか?

新藤:私は元々、現代美術について論じられるようになりたくて東京へ出てきたのですが、学生時代のあるとき、歴史の深いところに足を踏み入れてみたいと思ったんです。その深みに足を取られつつ、同時代の芸術も見てゆける方途を考えられないかと思いました。
今日の芸術はアンテナを張っておけばある程度までは見ることができるかもしれないと考え、それを少しでも両立しようと努めてきました。私自身は過去の芸術と対峙するときも今日のそれを見る際も姿勢に変わりはないつもりなので、大変に感じたことはありません。

 

切実な制作活動が、美術館という大きな主体性に飲み込まれないために

和田:梅津さんは個人としての作家活動に加えて、パープルームを主宰し、移動式の画廊「パープルームギャラリー」の運営や、機関誌「パープルームペーパー」の発行など、ご自身で一からいろんなことをされていらっしゃいます。国立西洋美術館での展覧会は、どのようなお気持ちで参加を決めたのですか。

梅津:とても光栄に思う一方で、やはり美術館という大きな主体や歴史に飲まれてしまうのではないかという危機感がありました。だから今回は、パープルームおよび梅津個人で展覧会のために新作はつくっていません。

パープルームの展示空間では、ラファエル・コラン《花月(フロレアル)》(1886)と、同作品を擬態した梅津庸一《フロレアル(わたし)》(2004-07)が初めて横に並ぶ。梅津さんは、コランの存在に日本の美術教育の問題の歴史的根源を見出した

新藤:裏話ですが、梅津さんは制度批判の画家としてデビューし、それこそ脱西洋中心主義を意識しながら活動を続けてこられたようなところがあるので、最初は、第2章「日本に『西洋美術館』があることをどう考えるか?」にご登場いただく予定でした。

梅津:せっかくのいい舞台なので新作を制作しようとも思いましたが、国立西洋美術館からの依頼を受けてつくると、クライアントワークみたいになってしまう。あくまでも、「普段の活動を国立西洋美術館でプレゼンテーションするとしたらこんな感じかな」という取り組み方を貫きました。

和田:西洋美術館という場所で、社会性の強い現代アートを展示することへの難しさはありましたか。

梅津:まず、本当の意味での現代アートを美術館で展示できるだろうかという疑問があります。美術館は、価値の殿堂という特性が強く、権力や歴史的場面を誇張する装置という側面も大きい。実際にそういった作品を収蔵することで、作品の価値を強化したり、国家のアイコンにしたり、大きな力を有してきました。

新藤:これまで現代美術を扱ってきませんでしたが、国立西洋美術館にも、いま梅津さんがおっしゃったような力学は働いているでしょうね。また西洋美術館は、和田さんがおっしゃった脱西洋中心主義やポストコロニアリズム、フェミニズムなどの社会にとって重要な問題群に、少なくとも展示のなかではほとんど触れてこなかったと思います。

梅津:その上で、現時点で価値が定まりきらない現代アートの展覧会をするということは、美術館や作家にとっては価値の前借りでもあります。「未然のものを美術館で紹介することに意義がある」と大々的に言える機会でもあると思います。適度な制度批判が、逆に美術館の寛容さをアピールするために使われることもあるので、作家は簡単にその流れに乗ってしまってはいけないんです。

和田:美術館という大きな主体に取り込まれないギリギリのところを狙って作品をつくる、ということですね。そのバランス感覚を鍛えるのはなかなか難しそう……!
でも会場では、ステイトメントや各作家のキャプションだけではなく、西洋美術館の成り立ちもテキストで説明されていたので、参加作家の視点と重なり理解が深まりました。

新藤:美術館の自己批判という態度を取っているつもりです。それはしかし、この美術館の力学をある意味では利用していることにもなるのかもしれません。西洋美術館だからこそとれる自己批判的な身振りがあるだろうと。とはいえ、いろいろな問題を問い直そうとしたあげく、会場のテキストの分量が多くなってしまいました……。国立西洋美術館でここまで大々的に現代美術を取り上げることができるのはこれが最初で最後だと考えて、思い切って詰め込んだというのはあります。

梅津:たしかに、こんなにたくさんの問題を1日で問い直せるかなと(笑)。でもボリューミーで熱量があって、かなりお腹いっぱいになる展覧会だと思います。

和田:それでいうと、パープルームの展示室もテキストの量は多いけれど、ともすると壁床の柄の一部に見えるような工夫がされ、楽しい空間構成になっていました。

梅津:ありがとうございます。「インスタ映えするね」と写真を撮ってもらえるくらいカジュアルなデザインを心がけました。長文のキャプションだと読む気になれないという人も、パープルームの床は別に踏んでおけばいい。僕は、美術は政治的な部分と美学的な部分が拮抗して成り立つと思っているので、その意味で、今回の展示は政治的なメッセージを全部自身の美学的に基づいたデザインに落とし込みました。

和田:最後に、この展示を通して得た課題などがあれば教えてください。

梅津:いくら上野ゆかりの美術館とはいえ、参加作家の東京芸大出身の割合が高すぎると思いました。東京以外に東北からも、九州からも作家を呼ぶべきですし、明確にテーマが定まりきっていない作家ももっといてよかったかなと。地方や美大を卒業していない作家でも地道に頑張っている人はいくらでもいます。コネクションや地理的条件が、作家選定の基準に反映されていた。

新藤:おっしゃるように、地道に頑張っている方たちの中には、コネクションが切れている場合があるでしょうし、いくらSNSが普及しても、そういうのを一切やらない自由もありますからね。

梅津:その一方で作家側も、発掘されるのを待っているだけが今の表現者として正しい態度なのかどうかはわかりません。東京一極集中と言いますが、僕も地方出身で東京に出てくるコストは負担していますから。本当に様々なパラメータがあり一概には言えませんが、それでもやっぱり約半数が東京芸大出身者というのは多すぎます。たとえばこれからは30%くらいに抑えるとか……、ちょっとずつ是正されていってほしいです。

新藤:最後に、参加作家の東京芸大出身者率は30%までという基準が提示されましたね(笑)。でも具体的に考えていくことから、さまざまな課題の乗り越えに近づけると思います。

和田:参加作家の多様性もまた重要ですよね。展覧会はもちろん、お二人と色々とお話しできてとてもうれしかったです。

Information

(トリミング10済)現代美術展ポスター

「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」

【開催概要】
◼会期 : 2024年3月12日(火)~5月12日(日)
◼会場 : 国立西洋美術館 企画展示室
◼休館日 : 月曜日、5月7日(火)(ただし4月29日(月・祝) 、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)
◼開館時間 : 9:30~17:30(金・土曜日は9:30~20:00)
※入館は閉館の30分前まで
◼入館料 : 一般2,000円、大学生1,300円、高校生1,000円
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方及び付添者1名は無料。
※大学生、高校生及び無料観覧対象の方は、入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください。
※国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は、本展を学生1,100円、教職員1,800円でご覧いただけます。(学生証または教職員証をご提示のうえ会期中、ご来場当日に国立西洋美術館の券売窓口にてお求めください)
※観覧当日に限り本展観覧券で常設展もご覧いただけます。
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DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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GUEST

新藤淳

国立西洋美術館主任研究員

1982年生まれ。国立西洋美術館主任研究員。2007年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程芸術学専攻修了(西洋美術史)。共著書に『版画の写像学』(ありな書房)、『ウィーン 総合芸術に宿る夢』(竹林舎)、『ドイツ・ルネサンスの挑戦』(東京美術)など。展覧会企画(共同キュレーションを含む)に「かたちは、うつる」(2009年)、「フェルディナント・ホドラー展」(2014-15年)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典」(2015年)、「クラーナハ展―500年後の誘惑」(2016-17年)、「山形で考える西洋美術|高岡で考える西洋美術――〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき」(2021年)など。

GUEST

梅津庸一

美術家

1982年山形生まれ。美術家、パープルーム主宰。美術、絵画が生起する地点に関心を抱く。日本の近代洋画の黎明期の作品を自らに憑依させた自画像、自身のパフォーマンスを記録した映像作品、六古窯のひとつ信楽での作陶、私塾「パープルーム予備校」の運営、「パープルームギャラリー」の運営、展覧会の企画、テキストの執筆など活動は多岐にわたる。主な展覧会に『梅津庸一個展 ポリネーター』(2021年、ワタリウム美術館)、『未遂の花粉』(2017年、愛知県美術館)。作品論集に『ラムからマトン』(アートダイバー)。作品集『梅津庸一作品集 ポリネーター』(美術出版社)。

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