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2022.03.11

アートの価値は、誰がどう決める? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.3

Interview&Text / Mami Hidaka
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Yuri Inoue
Illustration / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。今日では、古典絵画のみならずパフォーマンスやインスタレーションなど、現代アートの展覧会も数多く観に行くのだそうです。

日常的にアートに触れながら関心を広げる和田さんの次なる疑問は、「現代アートの価値は誰がどう決めているの?」ということ。難解なイメージもある現代アートに、適正価格の指標や評価基準は存在するのでしょうか?

「和田彩花のHow to become the DOORS」は、今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに紐解いていく連載シリーズ。第3回も、第1回・第2回に引き続き、世界的オークションハウス「サザビーズ」での経験を生かし、現在はGINZA SIX内にあるアートギャラリー「THE CLUB」のディレクターを務める山下有佳子さんにご登場いただき、現代アートの価値付けについてお話を伺いました。

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第2回は、第1回に引き続き、世界的オークションハウス「サザビーズ」での経験を生かし、現在はGINZA SIX内にあるアートギャラリー「THE CLUB」のディレクターを務める山下有佳子さんに、「アートの買い方・飾り方」についてお話を伺いました。

第2回は、第1回に引き続き、世界的オークションハウス「サザビーズ」での経験を生かし、現在はGINZA SIX内にあるアートギャラリー「THE CLUB」のディレクターを務める山下有佳子さんに、「アートの買い方・飾り方」についてお話を伺いました。

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アート作品ってどこで購入できるの? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.2

  • #和田彩花 #連載

アートは社会を映す鏡。価格設定される要因にはどんなものがある?

左:和田彩花さん 右:山下有佳子さん

和田:第2回「アート作品ってどこで購入できるの?」でお話を聞きながら気づいたことなんですが、家に飾りたい作品と純粋に価値を感じる作品は、必ずしも一致しないと思うんです。今後アートコレクターがますます増え、アートを購入する機会が身近になればなるほど、社会におけるアートのあり方や意味も変わってくるのでしょうか。
  
山下:アートのあり方とは主観的なもので、人それぞれまったく違う考えを持っていると思います。時代や社会によってアートのあり方が変わり、また反対に世相が反映されていろんなアートが生まれていくという意味で、私自身はアートを「社会を映し出す鏡」だと捉えています。アートそのものだけでなく、アートを買う人や購入手段といった周縁にも、今の世相が浮かび上がってきます。

和田:山下さんがおっしゃる通り、「社会を映し出す鏡」だからこそ現代アートの中には価値を判断しづらい難解な作品もあると思います。今回は、そもそもアートの価格は誰が、何を基準に決めているのか、ということについて教えていただきたいです。

山下:第2回でご説明した「プライマリー」のマーケットに関しては、アーティストとギャラリーの間で話し合い、しっかりとアーティストの同意を取ったうえで作品に価格を設定しています。作品ありきの世界なので、何よりも作品を生み出すアーティストの存在を大事にしています。一方で、オークションなど「セカンダリー」のマーケットでは、アーティストや所属ギャラリーからの直接の出品ではなく、コレクターをはじめとする作品所有者からの二次的な出品になるので、その時々の市場状況を踏まえたときに妥当な価格が設定されます。

和田:セカンダリーでは、その時々の市場状況がアートの価格を左右するんですね。価格が動く要因には、どういったことが挙げられるのでしょうか?

山下:アートも商品なので社会の経済状況にもよりますし、もしくは、例えばアーティストが亡くなってしまった場合は作品の供給がストップするので、需要があれば必然的に作品の希少性が上がり価格も高騰します。また、若手の場合はどんどんキャリアを積んでいくことで、アーティストとしてのステータスとともに作品の価格も上がり、需要が高まっていきます。

和田:昔から今日まで、時代ごとに需要が高まるアーティストや作品はそれぞれ特徴的だと感じます。でも時代にフィットしていない作品の中にも価値ある作品はたくさんあると思うんです。アート特有の、このなんとも言葉にしづらい価値の部分は、どのくらいの割合でお値段に反映されているんですか?
  
山下:和田さんのおっしゃる通り、結局は一つひとつの作品が持つ魅力によって価値は上がるんです。同じアーティストでも群を抜いて出来映えがいい作品があったり、作品それぞれ違う個性があるので、それが価値もしくは価格を決める要因にもなります。
  
和田:まだキャリアのスタート地点にいるアーティストの作品は、何を基準に価格が割り当てられるのでしょうか。

山下:学生やキャリアの少ない若手作家は、同世代のアーティストの作品の価格をもとに判断することが多いです。ただ作品の売買は「買いたい」と言ってくださる方がいて成り立つものなので、その方と直接交渉をしたり、対話によって価格が決まっていくこともあると思います。

アーティストのクリエイティビティに価値を見出す

和田:素材の希少性や原価などは、アートのお値段を決める際に考慮されますか?
  
山下:アートの醍醐味は、たくさんの人が同じキャンバスと絵具を手にしたとしても、それぞれの感性によって千差万別の作品が生まれるところだと思います。そういった原材料とは関係のない、アーティストのクリエイティビティや技術に対する感謝としての価値付けが、私たちの仕事です。例えば、男性用小便器を作品化したマルセル・デュシャンの『泉』や、キャンベル缶を作品に用いたアンディ・ウォーホルといったレディ・メイドの文脈を踏むアーティストも、原材料に関していえばごくありふれたものですよね。でもそれに非常に大きな価値がついたのは、デュシャンやウォーホルが自身のクリエイティビティによって、当時の美術史にはまだなかった美しさや価値基準、概念を新たに作り出したからなんです。

マルセル・デュシャン『泉』(1917年)

和田:なるほど……。歴史と交差するという意味で、アーティストにとって作品を出すタイミングはものすごく大事だとわかりました。一方で、ついこの間、コンクリートのようなものをひたすら食べるパフォーマンスの記録映像を見たのですが、こういう人間の奥底の部分に訴えてくるような生々しい作品は、いいと思っても買ったり支援をすることが難しいですよね。

山下:重要なのは、マーケットを含む美術史や歴史において、その作品が持ちうる意味や役割、もしくは新しさを見出すことだと思います。アートメディアやギャラリストの説明によって評価の指標は得られますが、最終的にその作品を良しとするのか、あるいは購入に踏み切るのかどうかは、本当にコレクター個人の感性でいいと私は思います。それぞれの主観を伴うアートの素晴らしさは数値では測れず、株価のように毎日数値が出ることもありません。評価の仕方について何を良しとするかもそれぞれの感性によるので、だからこそコンクリートを飲み続ける映像も存在できるのです。

和田:あとは、どうしてもアートの適正価格を決めているのは誰なのかが気になるところです。オークションでは自分が設定した値段で買うことも可能ですが、マーケットにおけるアートの適正価格を決めているのはギャラリーなんじゃないかと予想しています。

山下:正直に話すと、今のアート業界には適正価格の指標を出す機関のようなものはないんです。例えばオークションでは、作品を競っている人が3人になると価格が2倍になったり、競りなので最後には心理的要因も大きくなります。「ここまで来たらどうしても競り落としたい」と思うことも含めて、さまざまな要因が重なって、ギャラリーも作品の価格をコントロールできなくなります。でも、ギャラリーは作品を売るだけではなく、アーティストのキャリアを一緒に形成していくことも大きな使命なので、私はもちろん、どのギャラリストも作品の適正価格についてはいつも非常に注意深く考えていることだと思います。

和田:「美術館とギャラリーの違い」に始まり、「現代アートの価値」という壮大なテーマまで、手取り足取り教えていただきありがとうございました。改めてInstagramで 「#Contemporaryart」 でハッシュタグ検索をかけてみると、こんなにたくさん国内外のアーティストやギャラリーがヒットするんですね! 今はまだ海外には行きづらいですが、SNSを通じて世界のアートシーンの動向をチェックしたり、日本でも気になるアーティストの展示に出かけてみようと思いました。

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THE CLUB

丁寧なキュレーションのもと、日本ではまだ目にする機会が少ないコンテンポラリーアーティストを中心に、時代や分野を超えた展示を行うギャラリー。GINZA SIX6階銀座 蔦屋書店内に2017年にオープン。

公式サイト

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『私的礼讃 LIVE Album』 / 和田彩花
2022年1月30日(月)配信リリース

  1. エピローグ (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  2. 空を遮る首都高速 (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  3. mama (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  4. スターチス (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  5. ゆりかご (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  6. #15 (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  7. Une idole (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  8. みやしたぱーく (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)    
  9. ホットラテ (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  10. For me and you (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  11. 私的礼讃 (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)
  12. パターン (Live at SHIMOKITAZAWA SPREAD , TOKYO, 2021)

Spotify / Apple Music

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

DOORS

和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
「LOLOET」
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GUESTS

山下有佳子

1988年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒。ロンドン Sotheby’s Institute of Art にてArt Business修士課程を修了。 2011年より 2017年まで、サザビーズロンドン中国陶磁器部門でのインターンを経て、サザビーズジャパンにてコンテンポラリーアートを担当。主にオークションの出品作品集め、及び営業に関わり、ヨーロッパのオークションにおける戦後日本美術の取り扱い拡大に携わる。 2017年よりアートギャラリー 「THE CLUB」マネージングディレクターを務める。 2020年より、京都芸術大学 旧京都造形の客員教授に就任。 「THE CLUB」は2022年6月に閉廊

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