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INTERVIEW

2023.09.22

オークショニアに聞く、現代アート市場のこれまでとこれから/毎日オークション 代表・望月宏昭インタビュー

Interview&Text / Yutaka Tsukada
Photo / Ryu Maeda
Edit / Eisuke Onda

名作たちがずらりと並ぶ、オークション会場に行ったことはありますか? ここ〈毎日オークション〉は古今東西のアートや陶芸、家具、ジュエリーなどを取り扱う日本でも主要なオークションの一つだ。

この会場で「オークショニア」として進行役を務めるのが〈毎日オークション〉の代表でもある望月宏昭さん。今回は長年この業界に携わってきた望月さんに、オークションにまつわる素朴な疑問や、現代アートの価値や市場の動向、そして今後の展望を伺った。

オークショニアの仕事って?

ーー「オークショニア」のお仕事とはどのようなものなのか教えてください。

望月:まず、私が代表を務める〈毎日オークション〉では年度の始めにオークションのジャンル、テーマによってその年の開催日程を決定し、スケジュールにあわせ営業スタッフが分担してご出品者様から作品をお預かりする方法をとっています。そこからお預かりした作品を全て撮影し、贋作がないかを確認し、来歴や展覧会歴、画集掲載の有無を調査し、出来るだけ参加者にアピール出来るようなオークションカタログを作成します。

そして「オークショニア」とは作品をご出品者様と、お預かりしたスタッフの間で事前に取り決めた条件に則って競りを進行する司会者のようなもので、複数の希望者の入札を捌いて落札者と落札価格を決定するのが主な仕事です。出来るだけ高く落札されるよう、参加者が飽きないようにテンポよく進行し、人気を集めている作品の時には盛り上がるのを狙って、入札を数十秒間待ったりするなどペースを変え、会場の雰囲気を感じながら進めています。

オークション会社は落札価格に応じて手数料を頂戴する事業なので、作品が高く売れることを目的としています。その点では、ご出品者様と利害が一致しています。だからお預かりした作品が人気を集め、事前の予想をはるかに超えて落札され、ご出品者様に喜んでいただけた時は私も同じように嬉しいですし、誇らしく思います。

オークション中の望月さん

ーー具体的にオークションはどのように進行するのでしょうか?

望月:1回のオークションでは様々な作品が出品されますが、〈毎日オークション〉では絵画、彫刻などのジャンルごとに進められます。さらに細かく言うと、そのジャンルで1番皆さんの関心があるのだろうなという作品を中心に、そこに向かってピークを作るように流れを構成しています。

 

アートの値段はどう決まる?

ーー最近のオークションの傾向について教えてください。

望月:昭和から平成を経て令和になり、求められる作品は随分と変わりました。昭和の人気作家はまだ高値で取引されていますが、二番手以降の作家は認知度の低下からか、高い値段が付きにくくなっています。ただ昭和の作家でも特徴が良く出ている作品は需要があり、根強い人気を感じます。

また、比較的年齢の若い、新しい購買層は、再評価されたバスキアなどの戦後美術や、ホックニーといった現存作家による現代美術に高い関心を持っています。その点では作品と購買層の入れ替わりが起こっており、現在は過渡期であると言えます。それに今の住宅には和室がないことも多い。そうなると購入する作品もおのずと方向性が変わってくるんです。

例えばアニメのようなテイストのものだったり、流行で言うとバンクシーのようなストリート系のものですね。また、かつてに比べて作家に惚れ込んで、画集などを通じて作風を理解したうえで良い作品を購入するというよりかは、見た目の良さみたいなものを重視して作品を買われるようになったのも最近の傾向です。

それに以前であれば、プライマリーマーケットで取引されてからオークションのようなセカンダリーマーケットに出品されるまで(*)、10年くらいかかっていたのですが、近年は買って2、3年しか経っていない作品が出品されるようになってきています。その時は人気があって、価格も高かったりするんですが、まだ評価の定まっていない作家だと1年後とか2年後には人気が下火になり、価格が乱降下する場合もあります。もちろんいわゆる名品・良品は一度出品されるとなかなか市場には出てこなくなり、大事にされたり、美術館に入ったりするので、全ての作品がこうした早いサイクルで流通するわけではありません。

(*)ギャラリーなどから最初に販売される作品を購入できるのをプライマリーマーケットといい、一度コレクターなどに購入された作品が集まるオークションなどをセカンダリーマーケットという。

ーーオークションでの価格の相場というものはどのように定まっていくのでしょうか?

望月:安定した相場になるには時間と取引が積み重ねられる必要があります。そしてそれを作るのはコレクターやディーラーです。ディーラーの場合は、ある程度の価格でも利益をつけて販売できるから落札するのですが、逆を言えばその見通しがないと購入しません。ですのでコレクターからの人気もなくなってしまうと、誰も買わなくなる。そして結果的に、相場というものが定まらない作家や作品も結構あるんです。

毎日オークションでの競り合いの様子

ーープライマリーマーケットとセカンダリーマーケットのお話が出ましたが、両者の関係についてはどのように捉えていらっしゃいますか?

望月:セカンダリーはプライマリーがなければ存在できません。プライマリーで発表された作品のうち、人気や需要がある作品をセカンダリーは取り扱うことが出来ます。プライマリーで作品を購入した方が十分楽しみ、売却したいと考えた時にオークションに出品出来て、かつ納得した価格で売却できる時は2つのマーケットの関係が健全であると言えるでしょう。納得のいく金額で売れるのであれば、安心してプライマリーで作品を買えますからね。

また、セカンダリーで人気が高まり、欲しい人が増えた時にはプライマリーのマーケットでも需要が拡大し、販売価格が上昇するケースもあるので、2つのマーケットは相互補完的な関係であると言えます。このように人気があり、需要の高い作家をプライマリーとセカンダリーの双方で育てていければ、マーケット全体の拡大につながるでしょう。

さらに付け加えると、まだセカンダリーに登場していない作家にも期待しています。そういう作家の中には、プライマリーで作品が売れてるけど、コレクターに大事にされているからオークションに出てこないという場合もあります。継続的に発表をする中で、作品が全部売れるような作家に成長すると、セカンダリーに出た時にすごくいい値段で落札される可能性があります。

 

オークショニアから見た、現代アート市場って?

ーー日本の現代アートの市場は、昔に比べて盛り上がっているのでしょうか?

望月:美術市場全体の中で現代アートの占める割合は間違いなく拡大しています。草間彌生奈良美智 、村上隆らは海外のオークションでも取り扱われ、高額で落札される作家が増えてきています。マーケットは2008年に起きたリーマンショック前の2、3年間もすごく盛り上がっていました。でもその当時人気のあった作家全員が今でも人気があるかというとそんなことはなくて、今も買われている作家はその中の1割程度なんです。だからマーケットが活況でも、なかなか予測がつかないところがあります。

先ほど名前をあげた草間、奈良、村上といった作家たちはリーマンショック前に価格が上がったのですが、1990年代はそこまで高い値段ではありませんでした。ただ彼らの活躍がグローバルなものになるにつれ海外のコレクターも購入するようになり、それが契機となり一気に価値が上昇しました。中国や韓国といったアジア圏、欧米圏のコレクターも参加するようになり、やがて〈サザビーズ〉とか〈クリスティーズ〉といった世界的なオークションでも取り上げられるようになりました。

時代は遡ってしまうのですが、グローバルな美術市場との関わりも踏まえながらお話ししますと、80年代には経済力があったので日本は外国から良い作品をたくさん買っていました。しかし90年代に景気が悪くなると、その名作たちが出品されるようになったので、国内のオークションが海外コレクターからの注目を集めることになったんですね。草間、奈良、村上が外国人に購入されるようになったのは、こうした歴史的背景も存在しています。

 

毎日オークションのビジョンって?

ーーそのような背景、経緯がある中で、〈毎日オークション〉はどのようなビジョンをもっているのか教えてください。

望月:先ほどもお話ししましたが、最初に発表されてからあまりにも早く作品がセカンダリーマーケットに登場するため、その再販価格が適正であるのかどうか、判断できないケースが多くなっています。以前から現代アートは経済状況に左右されている印象が強く、美術品の中では金融商品に近い感覚で取引されているように感じられます。

最近はコンテンポラリーよりも評価の定まっている戦後美術、例えばウォーホルやリキテンスタイン、キース・ヘリングといった既に評価が安定しており、将来的にも値下がりが起こりにくいと考えられる作家の作品に買い手が移っているように思われます。現存でキャリアの短い作家はオークションでの取引例が少なく、適切なエスティメートを設定することが非常に難しい。それでも私たちとしては、同業他社のオークションの落札結果に応じて、適切な相場感を提示したいと思っています。

また、海外と比較して日本はオークションで取り扱われてるジャンルが限定的であり、まだまだ拡大できる余地があるとも思っています。外国では非常に高額な美術品や宝飾品、恐竜の化石、スーパーカーといった非日常的なものから、普段使いの日用品や、個人の住宅で使われていた調度品等のハウスセールが行われていたりと様々なジャンル、価格帯のオークションが頻繁に行われています。ニューヨークやロンドンといった歴史のあるオークションには、世界中から出品作品が集まってくるのに対し、日本のオークションは国内からの出品がほとんどで、日本国外から出品されるのは日本人に好まれる作品に限定されています。

毎日オークションは絵画や彫刻だけではなく、ガラス作品や家具といった装飾美術、ジュエリーや時計、工芸や古美術も取り扱っています。こうした品ぞろえは創業以来変わっていません。日本のオークション会社としてはかなり幅広い作品を出品し、質の高い作品を届けることで、様々なニーズに応えることを目指しています。

10月に大丸梅田店にて開催される〈毎日オーション〉のカタログ

ーー10月には大丸梅田店を会場に毎日オークションが開催されます。どんなオークションなのか教えてください。

望月:ウォーホル等の戦後美術からカウズバンクシーといったコンテンポラリー、草間、奈良、村上といった海外からの人気が高い作家、走泥社を代表する八木一夫、鈴木治の陶芸、日本のコンテンポラリーでも既に十分なオークションでの取引例があり、評価が定まっている作家の作品が出品されております。価格帯も下は数万円から上は数千万円までと様々な嗜好に沿う内容を揃えてます。

オークションの下見会場の様子

ーー下見会に参加するだけでもいいのですか?

望月:オークションに参加している人でも、最初は見るだけの人が多いです。ただ現代アートは単価も低いので、来てみると「自分でも買える」と思われる方もたくさんいるはずです。お買い得な作品にも出会えるかもしれません。

それに、日本は展覧会の動員数が世界的に見ても多い。つまり、見るのが好きな人が多いんです。だから下見会に来たら実物を見て楽しめますし、さらに若い作家の作品はそこまで高くない金額で手に入るのもオークションのいいところです。是非足をお運びいただき、気に入った作品を見つけてもらえればと思います。

Information

第758回毎日オークション
STUNNING CONTEMPORARY ART, OSAKA

日程:
2023年10月1日(日)14:00(13:30受付開始)

下見会:
2023年9月28-30日(木-土)10:00-18:00
2023年10月1日(日)10:00-15:30 ※オークション中も下見いただけます

会場:
大丸梅田店15F 「大丸ミュージアム」内 ( 〒530-8202 大阪府大阪市北区梅田3丁目1−1)

参加方法:
事前入札(書面・WEB)、当日来場参加、当日電話・オンライン入札を予定

GUEST

望月宏昭

毎日オークション 代表取締役社長

明治大学政治経済学部政治学科卒業。1991年 株式会社毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に入社。出版、海外事業部勤務を経て1997年4月より美術事業部に配属。2001年10月 美術事業部が株式会社毎日オークションとして分社化。2006年12月 取締役、2008年5月 代表取締役社長に就任。

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