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INTERVIEW

2026.10.14

【後編】言葉が通じなくても、美術で話せる。ジェシー・ホーガン×丹羽惠太朗が考える展覧会と教育

Text / Asuka Kawanabei
Photo / Kai Takaha
Edit / Eisuke Onda

英語と日本語。言葉が完全には通じないふたりの人間が、どうやってひとつの展覧会をつくるのか。2026年10月23日(金)〜11月15日(日)の金土日にSculpture Center Tokyoで開催される「Analogous Theatres(アナロガス・シアターズ)」を企画した、アーティストのジェシー・ホーガンと写真家の丹羽惠太朗はその答えを「美術史」と解く。

ギャラリーを劇場に、作品を舞台の小道具に見立てる本展には、ライアン・ガンダーを含む6名の作家が参加する。タイトルの由来や「日常の劇場」という構想を聞いた前編に続き、後編ではふたりの共同キュレーションの舞台裏から、それぞれが考える美術教育のあり方までを語ってもらった。

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【前編】何気ない日常が「劇場」になる? ジェシー・ホーガンと丹羽惠太朗がつくる展覧会「Analogous Theatres」

  • #ジェシー・ホーガン #丹羽惠太朗

言葉は通じなくても、美術史で話せる

──おふたりはどこでお知り合いになったのでしょうか?

ホーガン:はじめは今回の出展作家でもある彫刻家のアイザック・レオンを通じて知り合いました。

丹羽:アイザックの展覧会を僕がキュレーションしていて、アイザックはジェシーの展覧会にインストーラーとして入っていたんです。

ジェシーがキュレーションした《ACCUMULATIONS/蓄積》(2022年/青山目黒)。アイザックも参加した Photo: Koichi Nishiyama

──共通のお知り合いを通してだったんですね。

丹羽:はい。そこから仲良くなって、「展覧会を一緒にやろう」と話し始めたのが2025年の10月です。すでにそのときからジェシーの中には、テーマやアイデアがある程度完成した状態であったようなのですが。会場もジェシーが「Sculpture Center Tokyo以外考えられない」といってくれて、実現することになりました。

──そこもゆるやかにつながっていると。

ホーガン:実はそれが、このプロジェクト全体の重要なテーマにもなっています。このアートネットワークの中で、全員の立場が重なり合っている。キュレトリアル・コンセプトはもちろん大切ですが、全員の関係性がシンクロしていることも大事なんです。人が芸術実践や、作家やギャラリーのネットワークを通じて有機的につながっていること。それが、私のアートとキュレーションの哲学の重要な部分です。

──多くの人を巻き込む展覧会ですが、どのようにコミュニケーションをとっているのでしょう?ふたりでひとつの展覧会をキュレーションするということ自体にも、それならではの難しさがあるように思います。

ホーガン:相手がいいアイデアを持っている、プロジェクトの一部を担ってくれる、という気楽な信頼が私たちの間にはあります。仕事を直感的に分担できるんです。

丹羽:僕らは英語と日本語をそこまで話せるわけではないのに成立しているのは、共通言語があるからだと思います。それは言語ではなく美術史や、見てきたもの。このアーティストがこうやっていたから、これは成立するよね、という会話ができる。「英語を話せないのにどうやって外国の人と展覧会をつくってるの」とよく聞かれますが、好きなことを好きなように話しているだけなんです。それと、問題意識の共有ですね。現代美術はそもそも哲学的なものだと思っているので。

ホーガン:キュレーター同士で著者性の衝突が少ないのも大きいですね。私はチーフ・キュレーターとして名前を立てることに興味がありません。丹羽さんや他の作家と著者性を共有する、複数の著者によるプロジェクトにしたいんです。

丹羽:言葉がわからない部分があるから、お互い過干渉になりすぎない。それがうまいバランスになっているのかもしれません。

──それが気楽な信頼ということですね。制作過程で何か迷うことはないのでしょうか?

丹羽:実は、作品のイメージはシェアしているけれど、どんなプロセスでつくっているかはお互い知らないんです。むしろこの機会にジェシーに聞いてみたいです。

ホーガン:アイデアが先か、制作が先か。それは一方通行ではありません。制作の過程で「何かを発見した」と作品が現れてくることもあれば、コンセプトが先にあって、実行するための最も効率的な方法を探すこともあります。

丹羽:ジェシーのつくり方は結構ロジカルですね。それに絵も描ける。僕は写真は撮れても、それ以外はできません。なんなら美術をしていない方よりも不器用なくらいです(笑)。

ただ、自分で手を動かすことだけがアーティストの仕事じゃないとも思っていて、今回は2点とも外部に委託しています。ツバメの巣はアーティストの阪根友紀恵さん、額は中内安紀徳さんに制作をお願いしています。プリントもほかの人にお願いしていて、額に写真を入れる作業すら僕はやっていないんです。

──その方法をとる理由は何でしょうか。

丹羽:僕が美術をやる目的は二つあります。一つは、労働を生み出すことです。芸術を志す人でも、制作と関係ない仕事をしながら活動しなければならない状況がある。アーティストが制作を依頼して、つくり手や職人に仕事が生まれれば、文化を支える循環ができるんじゃないか。ルネサンス期のダ・ヴィンチやラファエロも、僕が影響を受けたドナルド・ジャッドも、人に制作を任せていました。関わった人や時間、技術、関係性も含めて、一つの作品として完成していると思っています。

ホーガン:今回の出展作家のライアン・ガンダーも、インタビューでよく「自分では作品をつくらない」と話しています。外部の製造やスタジオのチームが、難しい技術的な作業を担っている。彼にとって大事なのはコンセプトで、どうつくられるかはそれほど重要ではないんです。

 

展覧会をつくること、教育を受けること

丹羽:ジェシーには、展覧会をつくること、自分の制作、大学での教育が、どうつながっているのかも聞きたいです。

ホーガン:その境界は、ときにとても曖昧になります。私自身、美術の学部を出た後に美術教育の修士に進み、オーストラリアの高校で美術教師をしてから、研究者として藝大に来ました。長く教育の場に身を置いてきたんです。

概念的には、どれもアプローチがよく似ています。美学、美術史、芸術実践という同じ主題を扱っているからです。だから教育、展覧会、スタジオでの制作が、それぞれ互いのアナロガスになる。授業では展覧会のような環境をつくることがあるし、自分の制作は、学んできたことや教えていることに強く影響されます。

《ReverseArchaeologies》(2024)TinSheds gallery – University of Sydney – USYD Architecture, Design and Planning © 2024

《Double Fictions/二重の虚構》(2024/same gallery)

──ご自身の制作では、何が軸になっているのでしょうか。

ホーガン:特に私の作品の主題は、美術史と美学です。日本語で「美学」と書くと、美しいものを学ぶ学問のように見えますよね。日本の美学研究も、最終的には同じ哲学的な内容にたどり着くと思いますが、名前だけが単純化されているように見える。ヨーロッパの美学は、それが感情や体験にどう作用するかに、もっと深く関わっています。だからこそアーティストは、さまざまな美学的な技法を使って、見る人の体験に影響を与えることができるんです。

丹羽:美学という言葉は、日本ではあまり馴染みがないですよね。「職人の美学」のような使われ方はしても、学問としての美学そのものに目を向けることは少ない。僕もジェシーから聞くようになって、本を読むようになりました。ところが本屋や図書館に行っても、「何々の美学」という本はあるのに、美学そのものを扱った本は日本には極端に少なかったんです。美学という言葉には本来、批評性も含まれているはずなのに。日本ではそれだけ美学が扱われていないんだな、と思いました。考えてみると、ガンダーももともとはギャラリーでレクチャーをするようなアーティストで、そこから作品をつくるようになったんですよね。そもそも教育的な部分から始まっている人なんだと思います。

 

美大を出なくても、アーティストになれるか

丹羽:ジェシーは教育者ですが、僕は大学を出ていない、高卒のアーティストです。日本では「アーティストです」と言うと、「美大卒なんですね」と必ず返される。でも、少し住んでいたドイツでは、大学を出ていないアーティストも結構いました。もちろん美大で技術や知識、制作の場を得ることはすごく大事です。ただ、美術を学ぶ方法はそれだけじゃない。好き嫌いなく何でも見て、外の世界をいかに自分の中にアーカイブし、作品として出していくか。それがアーティストの本質だと思っています。

ホーガン:優れたアーティストになるために美大に行く必要はない、というのには完全に同意します。一方で「university」の語源は「universe」。つまり大学はリソースと知識の小宇宙です。行けばいい作家になれる保証はありませんが、大学が提供する最も重要なものの一つはコミュニティ・ネットワークであり、そこに自分をどう組み込むかが大事なんです。丹羽さんは大学に行かなかったけれど、長年真剣に活動してきたことで、そうした関係を自然に築いてきました。

丹羽:そうですね。美大の仕組みに批判的なわけではないんです。ただ、受験には大きな経済的負担があるし、独自のルールや文化もある。美術にアクセスできる人が限られてしまうのは問題だと思っています。

ホーガン:美大には、学ぶ人に対しても社会に対しても責任があります。日本の国立機関で働く外国人としてはタブーに近い問いですが、私たちはできるだけ多くの人を卒業させようとしているのか、それとも質の高いアーティストを育てようとしているのか。現実には、卒業後5年で作家活動を続けているのは、おそらくほとんどの国で約10%です。

丹羽:途中でアートをやめて別のことを始めても、それはそれで社会貢献だと思います。でも、アートを続ける人が増えた方が、文化は底上げされるんじゃないかと思っています。

 

展覧会と教育、その先へ

──今回の展覧会は、教育とどう接続しているのでしょうか。

ホーガン:藝大の主催ではありませんが、参加者の半分以上が藝大の卒業生で、藝大は重要な観客基盤です。会場のスカルプチャーセンターも藝大と近く、最近では、藝大のみならずトークイベントが行われる時は多くの都内の美大生が聴きに来ています。

丹羽:ジェシーの研究室の学生と一緒に設営する予定もありますし、予算次第ですが、図録を学生と一緒につくれたらいいね、とも話しています。

──丹羽さん自身は、教育にどう関わっていきたいですか。

丹羽:先ほど話した「労働を生み出すこと」に加えて、僕が美術をやるもう一つの目的は、国が用意したのではない学びの場をつくることです。美術を本気で学びたい人が、さまざまな制約から外れて学び、制作を続けられる場所。どんな形になるかはわかりません。でも僕にとって美術教育とは、技術を教えることだけではなく、その人が自分の可能性を見つけられる場所をつくること。少しでもそういう場所ができて、美術で人を救えるなら、それが本来僕のやりたいことなのかもしれません。

Information

"Analogous Theatres"

◾️アーティスト
ホーガン・ジェシー / Jesse Hogan
丹羽惠太朗 / Keitaro Niwa
アイザック・レオン / Leon Isaac
楊いくみ / Ikumi Yang
橋本 聡 / Satoshi Hashimoto
ライアン・ガンダー / Ryan Gander

◾️会期
2026年10月23日(金)~11月15日(日)
※金土日のみ営業

◾️開館時間
13:00~19:00
オープニングレセプション: 10月23日(金) 17:00~20:00

■フィニサージュ(最終日)
展覧会最終日の11月15日(日)には、クロージングパフォーマンスイベントを開催します。
パフォーマンス: 各種イベント予定ございます。アーティストのSNSにてご確認ください。

◾️会場
Sculpture Center Tokyo
東京都荒川区東日暮里2丁目10−7 第二コーポ嶋田 1F

◾️企画
アーティスト・コレクティブ「Analogue Theatres」

◾️協力
YUKO YAMAMOTO、TARO NASU、SOLID HOUSE、明治硝子株式会社, 東京藝術大学

◾️Design
樋口舞子/Maiko Higuchi @higuchimaiko

◾️Photo
丹羽 惠太朗

ARTIST

ジェシー・ホーガン

アーティスト / キュレーター

東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了(2020年)、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(2017年)、西シドニー大学大学院芸術教育修士課程修了(2009年)、シドニー芸術大学美術学部学士課程修了(2005年)。 ホーガンは、空間的、美的、文化的、社会発展の重要な場としてのアートスペースに特に関心を持ち、複数の媒体で作品を制作。展示をニュートラルな存在ではないという認識のもと、インスタレーションを美術の言語や周辺の実践を含有する地平と捉え実践を行う。現在、ペインティングのほか、日本やオーストラリアの現代アーティストとのキュレーションや出版プロジェクトに取り組んでいる。

ARTIST

丹羽惠太朗

写真家

日本人、1994年生まれ。写真を「見る」という行為として捉え、「見ること」と「積層」の関係を軸に制作している。見ることは、対象を認識するだけでなく、それまでに見てきたものや経験、記憶、時間を重ねながら、ものや空間と関わることである。つまり、見るという行為そのものが積層でもある。同時に、目の前にあるものや空間にも、そこに存在してきた時間や人の行為が積層している。そうした重なりから一部分を切り出し、別の場所へ移すことで、作品を制作している。作品を見ることもまた、新たな積層となる。

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