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INTERVIEW
2026.05.06
画家・真田将太朗と音楽家・小西遼が語り合う。僕らが表現を続ける理由
Photo / Masashi Ura
Edit / Eisuke Onda
重力と時間を縦方向の筆致で描き、「新しい風景」を探求する画家・真田将太朗。東京藝術大学で絵画を学び、さらに東京大学大学院ではAI研究を通して、「描くことをいかに言語化できるか」という問いに向き合ってきた。
本対談では、音楽家として表現集団「象眠舎」を主宰し、数多くのアーティストのサウンドプロデュースを手がける小西遼を迎え、それぞれの表現について語り合った。
音と絵画のセッションを入り口に、漫画と美術の境界、そして“頭の中にある景色”をいかに立ち上げるのか──。ジャンルを越えながら、二人の思考は「なぜ表現し続けるのか」という問いへと深まっていく。
音楽とアートのセッション

——アートシーン、音楽シーンでそれぞれご活躍するお二人ですが、交差する部分も多そうです。昨年、真田さんは「BLUE NOTE PLACE」で、常田俊太郎さん、 石若駿さん、村岡苑子さんと、ライブペインティングをやったそうですね。
真田:そうなんです。僕が描いた絵にプロジェクションマッピングを投影するライブペイントをしました。各楽器にマイクをつけていて、例えば石若さんがドラムを叩くと、その音に反応して画面の一部が弾ける。さらに常田さんや村岡さんがチェロやヴァイオリンを奏でると、それぞれの音や強弱に応じて縦や横の線が増えていく。音そのものがビジュアルとして変換され、それをリアルタイムで受け取りながら絵を描いていくので、一人でキャンパスに向き合うのとは違った感覚がありました。音楽とのインタラクションがうまく噛み合って、とても印象的な試みだったと思います。
小西:それって、演奏が終わったら消えてしまうものなんですか。
真田:そうですね。
小西:その“消えること”も含めて描いていた、ということか。おもしろいですね。ちなみに、このパフォーマンスをすることになったきっかけは何だったんですか?
真田:もともと僕が常田さんの運営するギャラリー(Post-Fake)で受付のアルバイトをしていたんです。そこを卒業して、画家として本格的に活動するようになってから、「なにか一緒にやりたいです」と、話したのが始まりです。石若さんも10年上の芸大の先輩なんですよ。
小西:駿も10個上の先輩なのか〜!(笑)。
真田:結構、音楽シーンでお互いに繋がってる人が多そうですね。
絵画と漫画のグラデーション

真田:小西さんはどのような絵が好きですか?
小西:風景画や、抽象画が好きです。まだ見たことのない景色を見せてくれる絵が好きなので、真田さんの作品もとても好きだなと思いました。
真田:ありがとうございます。

真田将太朗《Between the landscapes Nagoya006》 2026年 キャンバスにアクリル
小西:この縦の線や、この円はなにで描いているんですか? 筆?
真田:筆やナイフです。円はコンパスみたいにぐるっと回して描いているんですが。
小西:むずかしくない? すごく綺麗。もともと漫画が好きなので、よくこの線を描けるなと思って。
真田:漫画がお好きなんですね。
小西:色々読みます。大友克洋の『気分はもう戦争』や『童夢』も好きだし、『ONE PIECE』も読んでる。
真田:僕は手塚治虫で漢字を覚えました。『火の鳥』や『ブラックジャック』とか。あと『紫電改のタカ』も。芸大でも活躍している漫画家がいるので、その作品も読んだりします。最近は芸大も現代美術だけでなく、漫画を描く人も多いんですよ。
小西:漫画がアンダーグラウンドな存在ではなく、芸術のひとつとして扱われるようになってきましたよね。

真田:僕の中では、絵画と漫画はグラデーションで同じ要素があるなと思っています。たとえば絵画って、作品の横や下にキャプションがつくじゃないですか。タイトルや素材、コンセプトの説明が書かれている。これって、構造としては漫画の絵とセリフと同じ状況ではあるなと。
小西:あー、吹き出しと同じような。
真田:そう。絵でどういうことが起こってるか見せると同時に、どういう動作をしているのかを言葉である程度確定させているというか。そのうえで言うと、それがある種、行き過ぎた結果でもあるのかなと。
小西:それは、漫画が?
真田:どちらも行き過ぎてるかな。けど、絵画がそれを別のものとして切り分けて、“絵画だけに力がある”みたいな状況を作りたがっているのが、美術の方面だと思うんですけど。
小西:なるほどね。
真田:ただ、それに対する感度を高めるか、あるいはあえて下げるかによって、同じベクトルのものとして楽しめるとも思うんです。漫画も現代アートも。
小西:その距離感を変えれば同じものとして見えるってことか。
真田:そうそう、そういうことです。
小西:濾して考えるとそうなるってことだよね。おもしろい。そういう考え方はしたことがなかったなー。
僕らが表現し続ける理由

—―今のお話を聞いていて、真田さんが絵を描くこと自体の動機や衝動についても気になりました。
真田:自分の経験を振り返ると、かなり本能的に「描きたがっている」側面はあると思っています。それこそ、幼少期はひたすらコピー用紙に端から端まで塗り潰すような絵を描いていたらしいですし、暇さえあれば手を動かしてしまう。絵を描くことが、かなり身体に紐づいた欲求なんだと思います。けど、こういったインタビューだと、このことを明文化しないといけないので。
小西:それって、意味を後から見つけようとしている? それとも、描くときにはすでに何かそこに意味があると思って描いているんでしょうか。
真田:僕も大学院でAIの研究をしているときに、アウトプットや、出力に対して原動力のようなものをプログラムとして組み込む必要があって。それを考えたときに、僕らの行動も、これまで自分が体験してきたものから抽出されているものではないのだろうかと思ったんです。例えば今、僕が少し体の重心が左に寄っているのも、これまで生きてきた中で「このほうが心地いい」と無意識に選び取ってきた結果。そういう無意識下で集積してきた情報や体験から、今この行動が立ち上がっていると思うんです。そういう理由付けはできると思っていて、だから、“絵を描いている”、“描きたい”と思う初期衝動や、一筆ごとの選択も、ひとつずつ分解できるんだろうなと思っています。今は、その「言葉にならない感覚」を言葉で語る努力をしている、という状況ですね。
小西:じゃあ、そこには思想や、物語が先にあるわけじゃないのか。
真田:もちろん作品ごとに物語は必要だと思っています。ただ、それが先にあるというよりはーー。
小西:後からついてくる?
真田:同時並行ですかね。物語がその絵画に接続してる時点で、その“描く”という行為の連続のなかにある気がしています。

真田:小西さんは、なぜ音楽をやっていると思っていますか?
小西:俺はね、ずっと妄想の中で生きている感覚があって。さっき真田さんも、小さい頃ずっと絵を描いていたって話していましたけど、僕の場合は頭の中で風景や物語をずっと描いていたんです。それを表現したいと思ったときに、歌を歌ってみたり、絵を描いてみたり、いろいろな角度から試したんですけど、どれも自分にはしっくり来なかったし、技術を磨きたいという欲求もあまりなかった。そんなときに音楽をやってみたら、それだけがピタッとハマった。だからそのときから今に至るまで、頭の中にある景色を立ち上げるために吹いている感じです。ただ、その景色をまだ一度も完全には見られていなくて。だから死ぬまでにそれを見たい、という欲だけで生きているところはありますね。
真田:最後の部分は僕も同じですね。頭の中にあるものを立ち上げたいと思うけど、完成したことはない。

真田将太朗《Between the landscapes Nagoya001》 F30号 2026年 キャンバスにアクリル
小西:たぶん、人の作品を見て「いいな」と思ってしまうから、一生うまくいかないのかもしれない。目標は景色の完成なんですけど、音楽だけで描ききれるのか、でも描ききらなきゃいけないのか、そのあいだでずっと揺れている。ちなみに、真田さんの周りの作家たちも、さっき話してくれたように、割と分解脳で考えている人が多いのかな。
真田:多いと思いますが、もちろん分解脳で考えない人もいますし。それはそれでおもしろいんですが。

小西:そこに世代性みたいなものを感じたりします?
真田:やっぱり僕たちの世代は、すごく引いた目線で物事を見ているな、という感覚はあります。SNSなどいろんなものの発達で、世界が近いような錯覚をしながら、同時に別の分断も煽って。かなり特殊な状況にいると思うんです。そうなると、自分がやっていることそのものへの疑いが強くなる。デカルト的に言えば、それはそれで健全とも言えるんですけどね。
小西:疑うんであって、別に否定ではないもんね。
真田:ただ、疑いと否定って紙一重でもあって。一度バランスが崩れると、そのまま否定に振れてしまう危うさもあると思います。
小西:同世代では批評性は高まっているのかな? というのも、俺らの世代は、SNSではなくインターネット黎明期だったんだけど、その前後で世代ごとの分断の仕方が違う気がしていて。自分たちの2世代上くらいは、情報へのリーチがしにくいゆえにコミュニティが強くて。その下の世代はその反動で個人主義に振れた。そんな流れのなかで、俺らはわりとコミュニティを作るようになって。個人よりグループが強かったぶん、そのなかでの批評性はあまり育ちにくかったのかなと思っていて。結局、面白い人って自分の見え方とかも含めてちゃんと設計してる人が多くて、そこには批評性もあると思うんです。俺らの世代はそこが弱かった気もしていて、Z世代の“少し引いた目線”が、批評性をまとっているのかなというのが気になりました。
真田:ただ今の話を聞いていると、あまり世代間みたいなもの自体は重要ではない気がしていて。結局は、個々人がどれくらい自分を引いた目線で見られているかどうかって、その視点の設定の仕方の差でしかないのかなと。けど、その前提として世代ごとの傾向はあると思います。みんなで一致団結しなきゃいけないわけでもないし、強いコミュニティを作って派閥を築く必要も別にないというか。なんか、ちょっと“さとりっぽい”こと言ってますが(笑)。

小西:その姿を見ていて、かっこいいなと思う一方で、ちょっとだけ寂しそうにも見えるというか。40代っぽい発言になってしまったけれど(笑)。 今っていろんな情報にアクセスできるから、そのぶん“正しさ”がすごく際立つ時代だと思っていて。かっこいい/かっこ悪い、これをしていい/してよくないとかが、明確な倫理規範というより、社会の空気として成立している感じがある。同調圧力というより、もう少し曖昧で、「こうあるべきだよね」「これがかっこいいよね」みたいな空気感が、立ち振る舞いや身なりのレベルまで浸透しているというか。
真田:間違ったことを一言も言ってはいけない、みたいな。
小西:セルフィーを一枚撮影するのもさ、ダサい/ダサくないがある時代じゃん。
真田:そうですよね。けど、僕は大学ではダサいと思われていたと思います(笑)。
小西:そうなんだ?
真田:僕は18歳までは地元にいて、まさか自分が東京で画家になると思っていなかったので。ある意味でアート業界に対して、外側の目線を持ちながら活動をしてきました。アーティスト然とすることが、どこの線引きになるのかにもよりますが、僕は外側の目線を持ち合わせていたから、“世間に接続する”ことに対して向き合ってきたタイプなんです。
小西:なるほど。
真田:いわゆるアーティストらしからぬ、ビジネス的な目線を持ち合わせていることで、僕をそのような視点で見ていた方もいたと思います。けど、僕の中では、ちゃんと作品を見てもらう機会をきちんと作って、仕事を増やしていく努力をし続けなきゃいけないなというのを思ってきて。
小西:わかる! ダサいことをしていたとしても、ダサくない生き方をしたいよね。何事もバランスが大事だなと思います。


Information
小西遼主宰
象眠舎Live Tour 2026
ひかりと、せかい(前編)

◾️出演アーティスト
ARTIST:象眠舎
Guest Vocals:塩塚モエカ、吉田沙良、るーか
Keys:宮川純
Bass:熊代崇人
Drums:So Kanno(BREIMEN)
◾️大阪公演
日程:2026年6月17日(水)
会場:心斎橋CONPASS
開場 18:00 / 開演 19:00
◾️東京公演
日程:2026年6月18日(木)
会場:新代田FEVER
開場 18:00 / 開演 19:00
◾️チケット(両公演共通)
スタンディング 5,500円(税込・ドリンク代別)
象眠舎オフィシャルサイトはこちら
Information
真田将太朗個展「PLAYSCAPE」
◾️会期
2026年5月21日(木)〜6月2日(火)
10時~19時 ※最終日は16時閉場
◾️会場
松坂屋名古屋店
本館8階 ART HUB NAGOYA open gallery
愛知県名古屋市中区栄三丁目16番1号
詳細はこちら
DOORS

真田将太朗
画家
2000年生まれ。東京藝術大学美術学部卒、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。株式会社 SANADA WORKS 代表取締役、赫赫共同代表。重力と時間を縦方向の筆致で描く「新しい風景」を主題とした抽象絵画を制作。Art Olympia 2022、東京藝大アートフェス優秀賞、ベストデビュタントオブザイヤー2025など受賞多数。JR長野駅の永久常設壁画やJR上野駅構内の30m級壁画をはじめ、常設作品は50点を超える。Google Japan、Y's、Aquascutumとのコラボ作品や、Super Formula、Super GT、ミラノ・コルティナ冬季五輪2026 スキークロス日本代表のヘルメットデザインも担当。近年はGINZA SIX 銀座蔦屋書店、Tokyo International Gallery、台湾新光三越などで個展を開催。OSAKA Art & Design 2025では阪急阪神グループのメイン作家に選出、百貨店史上最大級の個展と新装フロア全体のアートディレクションを手掛けた。幕張メッセ AI EXPOでのライブペイントや、音楽家 常田俊太郎・石若駿らと結成した「Contrapunctus」による BLUE NOTE 公演など、活動は多岐にわたる。
DOORS

小西遼
音楽家
1988年7⽉25⽇、東京都⽣まれ。 作編曲家、サックス・フルート・クラリネット・シンセサイザー・ボコーダー奏者。 洗⾜⾳楽⼤学にて前⽥記念留学⽣奨学⾦を受け、卒業後渡米。Berklee⾳楽院を⾸席卒業。 Bob Zung、原朋直、George Garzone, Frank Tiberiに奏法を、Ayn Insarto、松本治に作編曲法を師事。表現集団"象眠舎"主宰、バンド"CRCK/LCKS"リーダー、ビッグバンド企画"Com⇄Positions"挾間美帆と共同主宰。 作編曲など制作⾯では、ボーダレスかつオルタナティブなアプローチを作家の基調としつつ、ジャンルを超越したバランス感を持ち、ポップス、ジャズ、クラシック、ファンクといった幅広い多⾊性アプローチによるクリエイティビティに定評がある。「第75回NHK紅白歌合戦」オープニング音楽担当、 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開会式・パフォーマンスプログラム「Physical Twin Symphony」作編曲・音楽監督、東京2020パラリンピック開会式音楽担当、TBSテレビロゴサウンド、フジテレビ系水10ドラマ「全領域異常解決室」劇中音楽、映画「ザ・ファブル」劇中音楽、Netflixドラマ「お耳に合いましたら」劇中音楽、Amazon Primeドラマ「More Than Words」劇中音楽制作をはじめ、Chara+YUKI、中村佳穂、milet、Mrs. GREEN APPLE、TOMOO、Omoinotake、吉澤嘉代子、長谷川白紙、King & Princeなどのサウンドプロデュースを担当。プレイヤーとして複数の楽器を駆使、演奏することをスタイルとして、常⽥⼤希率いるMILLENNIUM PARADEやCharaなど多くの現場でマルチ奏者として重宝されており、NHK紅白歌合戦、FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC を始め国内外のフェスにも数多く参加。
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