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- 「アートやカルチャーの背景を吸収することが、自らの世界観を表現することにつながっている」soerte・今関龍介 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.17
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2023.10.27
「アートやカルチャーの背景を吸収することが、自らの世界観を表現することにつながっている」soerte・今関龍介 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.17
Photo / Takuya Ikawa
Interview&Edit / Miki Osanai
Edit / Quishin
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺ったのは、アパレルブランド「soerte」のディレクター・今関龍介さんです。大学生の頃からSNSを中心にファッションやライフスタイルを発信し、ジャンルミックスなコーディネートの提案が人気を集めています。最近では自宅のインテリアも注目を浴び、雑誌やウェブでも多数取り上げられています。
今関さんのご自宅へ伺うと、年代も国も様々な、お気に入りのアート作品で溢れていました。好きなものに囲まれて生活する今関さんに、アートへの想いやファッションのお仕事への影響を聞きました。
平田はる香 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.16はこちら!
# はじめて手にしたアート
「流行り廃りのない、タイムレスなデザインに惹かれる」

学生の頃はアートを購入する一歩が踏み出せなくて、雑誌やネットで惹かれる作品を目にしても、憧れの気持ちを抱くばかりでした。2年ほど前に勇気を出して買ったのが、ドイツを代表するインダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスがデザインした真空管ラジオ・レコードプレーヤーです。まだ大学生だった頃に雑誌で目にし、佇まいに魅了され、ずっとほしいなと思っていました。
このプロダクトは機能性に優れていますが、僕としては、最初は見た目に惹かれて興味を持ったので、デザイナープロダクトでありつつもアートとして捉えています。

ディーター・ラムスがデザインした、BRAUN SK5
ラムスはブラウン社でオーディオシステムのデザインをいくつも手がけていて、これは1957年に発表されたSK5というタイプ。50年代のプロダクトはメカニックの要素が強いものが大半ですが、この真空管ラジオはオフホワイトのボディにウッドが合わさり、優美で洗練されている印象を受けます。「白雪姫の棺」とも呼ばれているそうです。
真空管ならではの少しこもったレトロな音質も気に入っていて、昔のクラブミュージックやR&B、ジャズなどのレコードをよく聴いています。

60年以上昔の作品なのに今っぽさを感じる流行り廃りのないデザインで、「時代を超えても最先端でいられるように」というディーター・ラムスの哲学を感じます。
僕自身、洋服をデザインするときにトレンドは追いません。もちろん、生み出したものが結果としてトレンドになることはあります。でも、自らマーケティングして流行を追いかけることはしていない。時代を問わず、長く着続けられるものをつくりたいという洋服づくりへの思いは、ラムスの哲学と重なっていますね。
# アートに興味をもったきっかけ
「アートからインプットして、つくり手の着想や想いを自らの表現につなげていくようになった」
僕はもともとアパレルの道に進もうと思っていたわけではないんです。大学では農業を学んでいました。でも昔から洋服は好きで、大学生の頃からSNSでコーディネートを発信していました。
三日坊主の自分がファッションの投稿だけは続けることができて、その延長線上で3年ほど前にアパレルのブランドを立ち上げ、ブランドディレクターに。この仕事を始めて、意識的にインプットの時間を設けるようになりました。そのひとつが、アートと向き合う時間です。

アート作品やデザインのバックボーンやベースが、いつも気になるんですよね。つくり手がどうやって着想を得たのか、どんな想いで生み出したのか。美術館で作品のキャプションを読んだり、デザイナーさんのアートブックを購入したりして、考えや思考を探っています。

洋服は、ファストファッションの普及もあり、最近では新しいものや安いものが好まれがちです。でも「つくり手の世界観」を伝えることで洋服の魅力を感じてくれるお客さまはいるはずで、洋服を通じて考え方が変わる人もいると思っています。
だから僕も、お客さまに想いがきちんと届くよう、SNSやウェブページの文章にもこだわり、YouTubeでも発信しているんです。アートやカルチャーを深堀り、様々な表現やそこにある背景を吸収することが、自らの世界観を表現するときの説得力につながっている気がします。
# 思い入れの強いアート
「世間の評価ではなく、自分の感覚を大切に」
2023年1月、仕事で初めてパリを訪れました。朝、蚤の市を散策していたときに一目惚れしたのが、この油絵です。

誰がいつ描いたのか、作品に関する情報は何もありません。でも、見ているだけで吸い込まれそうな感じがいい。ターコイズブルーとサンドの色合いのコントラスト。キャンバスの左上には人っぽい顔が見えるような気もします。お気に入りなので、玄関のドアを開けてすぐ目に飛び込んでくる場所に飾っていています。
日本に持って帰るのには苦労しました。蚤の市では作品を入れる袋など何ももらえなくて、剥き出しの状態で作品をホテルに持ち帰り、段ボールやサランラップでぐるぐる巻きに(笑)。空港では「大事な絵だから壊さないでほしい」と懇願して。そういう意味でも、思い入れがものすごく強いアートですね。

購入した金額は4000円。アートの価値は世間からの一定の評価やそれに伴ってつく値段ではないと、改めて思います。大切なのは自分自身がどう評価するかであり、どう思うかなんですよね。

イッタラのデザイナーとして知られるフィンランドのガラスデザイナー、オイバ・トイッカの作品
好きな作品でいうと、フィンランドのデザイン企業「イッタラ」のサマーフィンチもお気に入り。2009年の夏限定で製作されたもので、一点一点が職人さんによる手作業で生まれています。それぞれ個性が異なり、同じものはありません。たまたま入った都内のアンティークショップで目に留まって心惹かれ、半年くらい好みのものを探し続け、ようやく購入しました。

「たくさん見た中で、この色味やフォルムが一番好きだと感じた」と今関さん
ガラスが光を取り込むので、太陽の下や蛍光灯のもとなど置く場所、時間帯によっても色味が変化します。じっくり見つめて鑑賞しなくても、眺めているだけで楽しい作品です。
# アートと近づくために
「自らつくることに挑戦し、アートとの距離を縮めてみて」

子どもの頃を思い返すと、体育よりも図工の授業のほうが好きでした。
家ではずっと、絵を描いたりレゴで遊んだり。昔も今も、デートや遊ぶ場所は静かな空間が好きで、美術館にもよく行きます。美術館はいろんな作家さんの作品に出会えますし、建築物としても魅力的。自然と建築、アートを一度に味わえる、箱根のポーラ美術館は特に好きな場所です。
とはいえ、美術館に行くのはちょっと敷居が高いという人もいますよね。そういう方にオススメしたいのは、「つくる体験」をしてみること。

今関さんが手がけた「たらし込みアート」
たとえば、絵の具の流動性を利用してつくる「たらし込みアート」。自分で好きな絵の具を選んでキャンバスに流すだけで、簡単に作品をつくることができます。僕がやったときは一時間くらいで完成しました。
アートバーや陶芸など、クリエーションできる施設はたくさんあります。外に行かなくても、自宅で絵を描いたり粘土で何かを作ってみたり。「ものづくり」に挑戦すると、アートとの距離が縮まります。
友だちやパートナーと一緒にやるのも楽しくて、不思議なことにその人っぽい作品ができあがるんです。作品を通じて人となりが見えてくるので、面白いですよ。
# アート観が見える空間づくり
「レイアウトを試行錯誤することで、バランス感覚を養える」

少し前まではアートをあえて雑多に置いて飾っていたのですが、今はギャラリーみたいな空間にしたくて、要素ごとに配置しています。
ブラウン系、緑、青といった色や、石やガラスなど素材別で分類し、まとまった印象をつくり出しています。

イタリアの作家アルド・ロンディが陶器メーカーのビトッシにて手がけた作品。アンティークショップやネットで少しずつ集めたのだそう

アートを飾る配置を考えることで、自分なりのデザインの黄金比を養えると思います。これは作品を買って、自分の物にしなければできないことですね。

今関さんのお部屋の一角
アート作品を購入すると、自分はこういう物が好きなんだとか自己理解することもできるんです。
惹かれたものを購入して、レイアウトを試行錯誤し、空間を整えていく。日常生活のなかでアートやデザインに触れていることが、仕事のアウトプットに大きく活きていると感じますね。
DOORS

今関龍介
ブランドディレクター
1997年、東京都生まれ。アパレルブランド「soerte」ディレクター。WEARやInstagramなどSNSを中心にファッションやライフスタイルを発信し、インフルエンサーとしても注目される。インテリア、ファッションともにジャンルミックスなコーディネートが人気。趣味は映画鑑賞、美術館巡り、読書。
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