- ARTICLES
- アートをインテリアのように愛でて、自宅に好きな場所を増やしていく。IDÉE・小林夕里子 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.20
SERIES
2024.01.05
アートをインテリアのように愛でて、自宅に好きな場所を増やしていく。IDÉE・小林夕里子 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.20
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Quishin
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺うのは、オリジナルの家具や国内外からセレクトした雑貨を扱うインテリアショップIDÉE(イデー)でディスプレイを監修する小林夕里子さん。Instagramでも暮らしを楽しくする術を発信する小林さんのご自宅には、たくさんのアートが飾られ、インテリアと調和しながら空間に溶け込んでいます。
ご自宅ではどんなアートとともにどのような暮らしをしているのでしょう? 小林さんにインテリアやアートへの想いを聞いていくと、好きなものでお部屋をコーディネートしていくことが自宅に心地よい場所を増やすことにつながることがわかりました。
松田崇弥 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.19はこちら!
# はじめて手にしたアート
「アートは、洋服を選ぶときのように気楽に選んでいます」
実家にいた頃からずっと、自分で自分の部屋をつくりたいという気持ちを持っていました。
実際に一人暮らしを決めたのは25歳のときで、和室のお部屋に住むことになりました。その直前にひと月ほど、北欧にホームステイをしていたのですが、そこで自分でDIYをしたり古いものをメンテナンスしながら暮らす楽しさを知りました。一人暮らしのお部屋もなんとか北欧の暮らしのようにできないかと考え、和室にDIYで板を敷きつめフローリングにしたり、ヴィンテージの黒いひとり掛けのソファや北欧のチェストを置いたりしました。
はじめて購入したアートは「つくりたい部屋のイメージに、これがあったらいいだろうな」という感覚で選んだもので、ソファーや棚を選ぶような感覚で購入して飾りました。それが、レイモン・サヴィニャックのポスターです。
レイモン・サヴィニャックの絵と出会ったのは、一人暮らしをするより以前のこと。渋谷パルコの地下一階にあった橋本徹さんの「アプレミディ・セレソン」というお店に行ったとき、レコードやCD、雑貨が並べられている中にサヴィニャックの作品を見つけました。
いいなと感じて購入したいと思ったのですが、値段で迷っているうちに売れてしまって。それがずっと心に残っていました。でもその後、一人暮らしを始めたタイミングでもう一度あの絵がほしいなと思って調べたら、ポスターが見つかったんです。すぐに購入してお部屋にお迎えしました。
# インテリアやアートに興味をもったきっかけ
「インドではじめて一人部屋を与えてもらい、自分で部屋をつくる楽しさを知った」
インテリアに興味を持ち始めたのは、小学校4年生の頃です。父の仕事の都合でインドに引っ越しをして、そこではじめて自分の部屋を与えてもらったことで、ベッドやカーテンはどんな雰囲気にしようかなど、自分で部屋の組み合わせを考える楽しさを知りました。
頻繁に模様替えをしていただけでなく、ベッドカバーなどは親に「こういうものをつくってほしい」とお願いして、自分でも手を加えたりしていました。インドは日本のように既製品が多いわけではないので、ほしいものはつくることが当たり前。私は今の自宅もDIYしていますが、当時のことも影響しているように思います。
小さい頃からずっと、好きなものに囲まれて心地よく暮らしたい、という気持ちがあります。自分が好きな服を着ている時って、心地いいですよね。インテリアも、洋服を選んだり組み合わせるのと同じ感覚で手に取ってきました。アートに対してもインテリアの一部のような目線で捉えて、ここにあったほうが部屋全体としていいなと、選んできた感じです。
# 思い入れの強いアート
「ファニーフェイスなど、端正ではない物が好きなんだと思います」
好きなアートのひとつの共通点は、顔がついていること。中でも、ファニーフェイスのどこか愛嬌がある整った顔ではないものに惹かれがちです。
ダイニングのサイドボードに飾っているMadoka Rindalさんの作品は、椅子に座ったときにちょうど目線の高さになるように少し高さを出しているので、作品とよく目が合います。
菅裕子さんの作品も可愛いですよね。会社の先輩と行った展示会で出会い、直感で「すごく好き」と感じて購入しました。
ダイニングの一角に室内窓をつけて一室を仕切った空間は、ダイニングとはまた違うテイストの場所となっています。今住んでいる部屋にはIDÉEに入社してすぐに買ったデスクが合わなかったのですが、デスクを手放したくなかったので書斎のようなスペースをつくりました。
壁には古賀充さんとワイズベッカーさんの作品集を飾っています。コロナ禍でテレワークが増えたタイミングで、「顔を上げたときに何かあるといいな」と思うようになって、作品を飾りました。古賀さんは立体のものを平面に落とし込んでいて、ワイズベッカーさんも立体のものを独特のラインで描く。ファニーフェイスしかり、端正ではない物が好きなんだと思います。
壁にかかっている右上がワイズベッカーさんの作品集、その下2点が古賀充さんの作品
# アートの飾り方
「自分が家の中でどうやって過ごす時間が多いか、よく見る目線の先からお部屋づくりを考えています」
IDÉEの店内では、お客さまにお店でどう過ごしてほしいかという視点で商品の見せ方を考えていますが、家でも同じ考え方でインテリアやアートを並べています。自分が家の中でどうやって過ごす時間が多いか、よく見る目線の先から何をどう置くのかを考えるんです。
私はダイニングで家族と食事しながら話をしている時間が好きなので、ダイニングテーブルに座った時の目線の先にサイドボードを置いて、お気に入りのコーナーをつくっています。壁には井上陽子さんのコラージュ作品を中心に他の作品も配置して、色や素材感に共通点を持たせたりしています。
飾り方としては、組み合わせが合うものをグループ分けしてから、まとめて配置しています。IDÉEでのディスプレイでもよく使っているグルーピングという手法です。グルーピングを考えながら並べるとごちゃごちゃ散らからないんです。
それから、なんとなくでものを置かないよう意識しています。その場所の雰囲気に合わない感じがするのに無理やり飾ってしまうと、バランスが崩れてしまう。今の家の中にも、本当はもっと飾りたいものがあるのですが、バランスを優先して潔くしまっています。
パートナーは器のギャラリーで働いており、「夫の趣味で、書斎には渋めの壺や器がたくさん置いてあります。たまにダイニングのほうに持ってきて、空間を全然違う雰囲気につくりかえて楽しんでいます」と小林さん
# 好きなものと暮らす豊かさ
「アートが家の中に増えていくと、好きな場所が増えていく感覚」
お部屋の雰囲気って、意外と簡単なことで変えられるんです。家具のレイアウトを変えなくても、雑貨やアートなどで違った印象を与えることができる。
私は定期的に小さな模様替えをして、気軽に気分転換をしています。お部屋に飾っているアート集のページをめくったり、グルーピングの組み合わせをちょっと変えたりするだけでも変化を楽しめますし、この空間がこうやって見えてくるんだという新たな発見もあります。定期的な模様替えは、「ここにお花を飾ったら可愛いよね」など、家族との会話が生まれるきっかけにもなっています。
アートを含め、好きなものが家の中に増えていくことで、家の中での好きな場所が増えていくような感覚があります。
それを強く実感したのも、はじめての一人暮らしのとき。私は新しい場所に慣れるのに時間がかかるタイプなのですが、はじめて一人暮らしした家は古いタイル張りのお風呂で、なかなか馴染めませんでした。
そのときに偶然、スタイリストの岡尾美代子さんがお風呂でクマのボディースポンジを使っているということを知って、「これと同じものをお風呂場に飾ろう」と飾ってみたんです。そうしたら途端に、お風呂場が好きな場所に変わりました。そこから、「石鹸もこういうものを置くのがいいな」など、お風呂場にこだわるようになっていき、気づいたらすごく心地いい場所になっていました。
# アートと近づくために
「好きなものを飾ることで楽しくなる感覚が、アートを身近に感じさせる」
アートってちょっと敷居が高いものという印象を持っている人が多いと思います。でも私自身は、アートかどうかということに捉われずに好きな雑貨を手に取る感覚で選んでいます。
そういうふうに家具やカーテン、インテリアを選ぶのと同じようにアートを手に取ってもいいんじゃないかなと思っています。むしろ、好きなものを飾ったら楽しくなった、という経験をしていくことが、結果的にアートを身近に感じさせてくれる気がします。
洋服を選ぶ場面では誰もが自然と、トータルコーディネートを考えて、「これは可愛いけど、自分の手持ちのものと合わないな」「これを買うなら、こっちのパンツも買わないと」といった判断をしていますよね。
そういうふうに、この組み合わせ素敵だなとか、どうしたらいつも過ごす部屋がより心地よくなるんだろう?と考えてみることが、アートと暮らしを近づけてくれるかもしれません。
DOORS
小林夕里子
IDÉE VMD / インテリアコーディネーター
大学卒業後、インテリアの商社に就職。仕事をしながら専門学校に通い、インテリアコーディネーターの資格を取得し、家具屋へ転職。その後、IDÉEに入社し、VMDに就任している。著書には『暮らしを愉しむお片づけ』(すばる舎)がある
新着記事 New articles
-
INTERVIEW
2024.11.22
ロクロから生み出される記憶のパーツ / 陶作家・酒井智也がマンガから得た創作の宇宙
-
INTERVIEW
2024.11.22
笑って楽しんでくれる目の前の人のために / イラストレーター・平沼久幸がマンガから得た観察力
-
INTERVIEW
2024.11.20
日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)
-
SERIES
2024.11.20
東京都庁にある関根伸夫のパブリックアートで「もの派」の見方を学べる / 連載「街中アート探訪記」Vol.34
-
SERIES
2024.11.13
北欧、暮らしの道具店・佐藤友子の、アートを通じて「自分の暮らしを編集」する楽しさ / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.29
-
NEWS
2024.11.07
アートと音楽で名古屋・栄を彩る週末 / 公園とまちの新しい可能性を発明するイベント「PARK?」が開催