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2024.03.08

SIRUPの「社会とのつながりが見えるアーティスト」に寄せる共感と信頼 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.21

Interview&Text / Miki Osanai
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

今回お話を伺うのは、R&BアーティストのSIRUPさん。自身のルーツであるネオソウルやR&Bをベースとし、ジャンルにとらわれずにラップと歌を自由に行き来するアーティストです。総勢11名のアーティスト集団・soulflexのクルーの一員としても活動し、国内外で活躍の場を広げています。

ご自宅には、SIRUPさんが“仲間”と敬愛する方々の作品が、部屋中ずらり。「共感できるのに自分とは違う発想をするアーティストが好き」「社会に対する想いが伝わってくるアーティストに惹かれる」など、作品のつくり手に対する想いを語ってもらいました。

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小林夕里子 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.20はこちら!

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アートをインテリアのように愛でて、自宅に好きな場所を増やしていく。IDÉE・小林夕里子 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.20

  • #小林夕里子 #連載

# はじめて手にしたアート
「僕もKenちゃんもR&Bやヒップホップをよく聴いていて、自由を求める気持ちを共有しているように感じます」

何をもってアートと呼ぶのかは人それぞれだと思いますが、自分の中でわかりやすく「アート」と感じたものは15年ほど前、Kentaro Okawara(以下、Kenちゃん)にもらった作品だと思います。

友人のイベントに僕が出演した際にKenちゃんもライブペイントとして出演しており、彼が自分で描いた作品の裏面にメッセージを書いて、その場にいたみんなに配っていたんです。そのひとつをもらいました。

Kenちゃんの作品のスタイルは昔から大きく変わらず、色づかいは元気はつらつとしていて、愛を感じます。でも悲しみもわかる人だと伝わってくるような作風なんです。はじめてKenちゃんのアートに出会ったとき、人間味のようなものを感じてすごく共感できたことを覚えています。

個人的な意見ですが、最近は複雑だったものが削ぎ落とされ、パワーが増した感じがしますね。

写真左上は、Kentaro Okawaraさんの作品の原画

Kentaro Okawaraさんの作品の原画(写真左上)。「Kenちゃんの原画をずっとほしいと思っていて、コロナ禍に引っ越したタイミングで購入しました」とSIRUPさん

Kenちゃんも僕も、R&Bやヒップホップなど同じジャンルの音楽をよく聴いていて、自由への思いを共有しているように感じます。

R&Bやヒップホップは、アフリカ系アメリカ人発祥の黒人文化。アーティストという存在もマイノリティ性があるものだと思いますし、僕個人としては母子家庭で育った中でそれを強く感じていたので、黒人の音楽に共鳴する部分が強いんです。

そういった中で、「人はもっと自由に生きていいはずなのに」という思いを子どもの頃から持ってきましたが、この思いはKenちゃんとも共通しているように感じています。

Kentaro Okawaraさんと一緒に、グッズとしてつくったクッション

Kentaro Okawaraさんの個展で購入。「『個展の入り口に置いてあるやつちょうだいや』と言ってもらった作品」とSIRUPさん

 

# アートに興味をもったきっかけ
「自分の絵がアートという自覚はなかったけど、子どもの頃から絵を描くこととの距離は近かったと思います」

5、6歳くらいの小さい頃から、チラシの裏に顔を描いて遊んだりなど絵を描くことが本当に好きでした。絵を描いていれば、悪さすることなくおとなしくしているので、周りの大人は推奨していたと思います。

小学生の頃にマウンテンバイクが流行っていた世代で、あるとき授業でマウンテンバイクを描くことになりました。周りが1日かけて全体を描きあげる中、僕がキャンバスいっぱいを使って描いたのは、前輪の4分の1だけ。前輪のボコボコしている部分など細かい部分を描きたくてしょうがなくて。それを見た先生たちが盛り上がってくれてうれしかったですし、一時期は絵で賞をもらったりしたのも、思い出です。小さな成功体験ですね。

家にアートがあったわけではないけれど、子どもの頃からアートが身近なものとして側にあった感覚があります。

 

# 思い入れの強いアート
「仲間とつくった作品は人生のアーカイブとして大切にしているし、一番のアートだと思っています」

家に飾っている作品の多くに共通していることは、自分に関わった人や応援している友人たちの作品であることです。

今は韓国を中心に活動するKenちゃんは、クッションの展示やブランドとのコラボ、好きな居酒屋のコンセプトデザインをしたりしていて、彼の多岐に渡るお仕事が自分の刺激になっています。僕のアーティスト写真を撮ってくれている小見山峻(以下、こみしゅん)は、お互いアウトプットの方法は違うけれど、社会や業界に対して思うことや作品への熱量などが似ているなとよく感じますね。そんなふうに信頼できる仲間のアートを飾ると、心の安心につながるんです。

小見山峻さんの作品

小見山峻さんの作品はリビングだけでなく、ベッドルームにも飾っているという

それともうひとつ、最新のEP『BLUE BLUR』のアナログレコードもお気に入り。

このジャケットは、僕のMVやステージ映像などのクリエイティブでよくお世話になっているmaxillaというチームと一緒に、部屋をテーマにつくりました。美術一つひとつの作り込みから、写真家のMitsuo Okamotoさんが写し出す世界観もあいまって、長時間の撮影にも関わらず現場にいる全員が終始盛り上がりながらつくっていたのを、今でも印象的に記憶しています。アート作品としてかなりの力作です。

BLUE BLURのディスクジャケット

BLUE BLURの世界観をイメージした、SIRUPさんの写真を盛り込んだポスター

仲間とつくり上げたものって、自分ひとりでは人生のうちに絶対につくれないもの。だからこそ人生のアーカイブとして大事にしているし、それが一番のアートになると思っています。

 

# アートのもたらす価値
「信頼できる仲間に共通していることは、社会とのつながりが見える人たちであること」

家に飾るアート作品から直接的に何か刺激を受けているというよりは、アーティスト本人から影響を受けることが多いですね。僕は共感できるアーティストが好きなんです。共感できるのに違う発想を持っているような人に惹かれます

Kenちゃんもこみしゅんも、自分の作品を持って僕の家に遊びにきてくれたことがあり、その時はソファに座っていろんな話をしました。社会や業界の中で無駄に感じる仕事のことや、アーティストが搾取されがちな構造について話したりしましたね。

キッチン付近の棚にも、SIRUPさんが所属するsoulflexクルーの作品などが飾られている

「仲間の作品を飾ると安心感が生まれる」という話にもつながりますが、周りの信頼できる仲間に共通していることは、しっかりと社会とのつながりが見える人たちであること。

アーティストやアートと呼ばれるものには、必然的に社会性が出てくるものだと僕は思っています。日本の音楽業界では政治的なことはあまり語られませんが、自分の場合は、未だ続く差別や偏見を乗り越えようとする文脈で発達してきたR&Bやヒップホップをルーツにアーティスト活動をしているので、自分の影響力を社会のために使うのは当たり前だという意識で活動しています。

 

# アートと近づくために
「誰も見ていない場所でできることっていっぱいあると思うんです。」

どうしたらアートがより身近になるのか?ということは、実は、音楽でも同じことを考えていて。答えとしては「やってみること」が一番の近道だと思うのですが、音楽に関しては現状、日本では原体験の場がそこまで多くないと感じます。

やってみる、というのは学校の授業でやらされている感覚とはまた違うものですよね。そのハードルを高くしているのが、日本のなんでもかんでも嘲笑する文化が邪魔していたり、アートへの理解の低さにあると思っています。でもまずは、ひとりで始められることっていっぱいあると思うんです。

アートに関して今すぐに自分でできることで言えば、たとえば画用紙に自分が一番かっこいいと思う丸を描いてみるとか。簡単な丸や直線を描いてみることからはじめてもいいと思うんです。それを壁に貼ったら、なんかかっこよくなると思いませんか?

SIRUPさん自身もメディテーションとして、よく絵を描くという

僕は子どもの頃に自分が描いた絵を褒めてもらったことで、アートが身近な存在になりました。自分で描いてみたあとにプロの絵を見てみると、緻密に計算されていることやたくさん描いたからこそ到達できる表現であることなど、プロのすごさを実感できる。そこからさらにおもしろみを感じられたりもします。だからまずは、自分で絵を描いてみることからはじめてみてもいいかもしれないですね。

hajimeteart

 

DOORS

SIRUP

シンガーソングライター

1987年、大阪府出身。R&B、ネオソウル、ヒップホップなどをルーツとするシンガーソングライター。ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルを持つ。中学・高校と吹奏楽部に所属し、トロンボーンを担当。兄や友人の影響で、ブラックミュージックに興味を持つ。国内外、さまざまなクリエイターとコラボし、ジャンルにとらわれない洗練されたサウンドで音楽を発信し、活躍の場を広げている。代表曲に「LOOP」「Do Well」などがある。

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