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2024.08.28

【後編】トカゲ模様のようにちいさな変遷をたどりながら、ストライプを描き続ける/ 連載「作家のB面」Vol.25 今井俊介

Photo / Shiori Ikeno
Text / Yutaka Tsukada
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話しを深掘りする。

前編では今井さん行きつけの爬虫類ショップ〈レプタイルストア ガラパゴス〉で、大好きな爬虫類の話を伺った。後編ではアーティスト活動に迫りながら、爬虫類の飼育からの影響について話しながら考えていく。

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【前編】アートも爬虫類も、世界の見え方を変えてくれる / 連載「作家のB面」Vol.25 今井俊介

  • #連載 #今井俊介

 

もし死ぬまでストライプを描き続けられたら

前編で訪れたお店を後に、駒込周辺でお話を聞いた

――今井さんは2022年から翌年にかけて、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館と東京オペラシティアートギャラリーで大規模な個展『スカートと風景』を開催されました。やり終えての感想や、改めて展示についてお聞かせください。

個展の話を丸亀からいただいたとき、僕はストライプの作品を描きはじめてすでに10年くらい経ってたんですね。僕の中では変わってるんですが、ある意味ずっと同じことを続けている。だから一般的な認識としてはシマシマを描いてる人なんですね。でもそうした中で、2012年と2022年のシマシマを並べてみたことはなかったので、それを試したかった。オペラシティの展示ではストライプ以前の作品も少しだけ出しましたが、丸亀ではすべてストライプ以降の作品で構成しました。

『今井俊介 スカートと風景』(2022年/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)の展示風景。 photo by Kei Okano Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

個展では、あえて年代順に並べることをしませんでした。会場にはキャプションを掲示しなかったのでハンドアウトを見ると、隣り合ってるけど制作年は10年ずれてるとか、3年ぐらい制作年違うけど、共通点あるなとか能動的な見方ができるようにしました。結果、やっぱり自分でも気づかなかったことがあらわになりました。オペラシティで7点展示したポルノ写真を用いた初期作品も、ストライプ以後の作品と興味は変わっていないんだなと気づくことができました。結果的に、巡回とはいえ丸亀とオペラシティでは全く違う展覧会になりましたね。

『今井俊介 スカートと風景』(2022年/東京オペラシティ アートギャラリー)の展示風景。 Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

これは個展の話をいただく前から考えていたんですが、いつか死ぬくらいのときに回顧展を開いてもらえるような作家になってたとしますよね。そうなったときも40年くらいストライプを描いてて、最初と最後では全然違う絵になっているような、そういう作家になりたいと思っているんです。だからこれからも意識的にジャンプして違う展開になるよりかは、ちょっとずつ横にずれていこうと思っています。

『第8回 shiseido art egg』(2014年/資生堂ギャラリー)photo by Ken Kato Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

――お話を伺っていて、山田正亮のように「Works」「Colors」といったシリーズで形式をひたすら反復する作家のことを思い出しました。

山田正亮にしても、やっぱりあれを続けたっていうのがすごいと思うんです。続けた結果、晩年なんかよくわかんなくなってくるじゃないですか。あれが僕に起きるかもしれないし、年を取る楽しみでもあるというか。変わらないつもりでいても変わってしまって、ひどい絵を描き始めるかもしれないし。

制作をしていると意識的に変えていくことって必要だと思うんですけど、でもジャンプしてしまうと、その間で起きることを見逃すかもしれないという気持ちが強いんです。他の画家だったら半年でジャンプできたものを、僕の場合は3年ぐらいかけてやれたらいいなって。 だから「いつもと一緒だね」ってすごい言われるんですが、画家やずっと見てくれているコレクターは、「この色とか使ったことなかったよね」とか「塗り方ちょっと変わったでしょ」っていうことに気づいてくれるんです。それが楽しい。

 

制作も爬虫類飼育も試行錯誤が大切

――前編で爬虫類の繁殖について伺った際、ブリーダーは柄をコントロールしようとしているという話がありましたが、それはご自身の個展に際し、10年前の作品と最近の作品を並べてみたいという意識と共通する部分があるように感じました。どちらも個体差によるバリエーションから興味が出発しています。

たしかにそうかもしれませんね。うちで生まれたトカゲの子供もメスが3匹いるけど、1匹ずつ模様も色味も違う。でも顔を見ると、やっぱみんな似てるんです。たぶん200匹の中から探せって言われても見つけられます。うちのは父親の青い色味を受け継いでいて、けっこう青い個体なんです。本来メスは地味な色になりがちなんですけど、メスでもこんなに青くなるんだとびっくりした記憶があります。そういう驚きを絵でも見たいんだろうなと思います。

青みが美しい今井さんが自家繁殖させて、飼育するツナギトゲオイグアナの「チビ」(メス)

 ――今井さんの絵を見る人が、これまで使ってなかった色を見つけるみたいな感じですね。

きっとそうですね。ちゃんと見てくれてんだなっていう。作品の中でのちょっとした変化って、作家の中ではけっこう思い切って変えたところだったりするんですが、意外と見てる人は気づかないんですよね。でも気づかないぐらいのところでも、変えたから作品は面白くなってるはずだと思ってます。

でも制作と違って、爬虫類のほうはバリエーションを試すというよりかは、うちのオス親の綺麗な青色をいかに血統として固定するかに興味があります。ケリー・ポールというブリーダーはクシトゲオイグアナの黄味の強い個体を交配させて、イエローファントムという黄色い個体を生み出しています。それぐらいの個体が作れたら楽しいだろうなと。一方制作では、さっきも話したようにちょっとずつずれていきたいと思っているので、興味の持ち方は似てるかもしれませんが、そういう違いがあるからこそ、両方楽しんでいられるんだと思います。

左が『今井俊介 スカートと風景』(2022年/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)、右が『float』(2017年/HAGIWARA PROJECTS)展示された作品 Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

――作品に爬虫類の要素を取り入れたりすることは考えていますか?

ある批評家の友人からも、トカゲの鱗みたいな絵描けよってずっと言われています(笑)。ネタとして言ってるのはわかるんですけど、たぶん彼は半分本気。それぐらいのことをしてほしいというのは、たしかに分かります。けど、すでにスタイルとして認知されてるし、さっきも話したようにジャンプしたときに起こることを見逃したくない。だからそこまで変わるかどうかは置いといて、長い目で見て、時間をかけて変わろうかなと思ってます。

それこそトカゲの繁殖も数年単位で考えてくんですね。 数年後に繁殖させるために、まず子供を買うってことから始めたりする。しかもちゃんと殖えるかわからないので、けっこう試行錯誤なんです。前年の失敗を踏まえて温度調節したりとか。

飼育における、この季節はこれぐらい温度を下げた方がいいのかとか、去年これダメだったから今年はこれでやってみようとかっていうのも、絵画の制作のやり方に結構近いかもしれません。以前描いた絵はあそこが問題だったからここを変えてみようとか。絵の具に混ぜる水の量も気を付けないとムラが出ちゃうとか。意図的に再現できたなら、それはもう技術です。その技術が5年後ぐらいに生きてくるかもしれないって思うと、失敗も重要です。再現出来なかったらその理由を考える。そういうときは季節が違ったりするんです。湿度とか室温で、絵具が乾くスピードって全然違うんですよ。そういうのは覚えるようにしています。

 

僕の作品には古い作家たちの影響がすごくある

――最後に最近の制作での取り組みや、今後の活動について教えてください。

去年夏から秋にかけて、府中市美術館で公開制作を行いました。そこでは若干彩度を下げてみたり、ソースとして使う柄をリピート柄にすることで歪み方は異なるけれど同じパーツを画面上に並置したりしました。昨年末から今年初頭にかけての国分寺のsecond 2.での個展『Paintings and somethings』では、ギャラリーが古物も扱うスペースだったので、浮世絵の登場人物が着てる着物の柄や、昭和の古い布をぐにゃぐにゃさせて描いてみるとかを試して、自分で色を決められない状態で制作を行いました。それをやることで自分の趣味ではない、自分でこの色は使うことないなと思っていた色も使えるようになるかもしれないなという期待があったんです。それが良い絵になったかって言われると、まだよく分かってはいないのですが、やって良かったなと思います。

『Paintings and somethings』(2023/国分寺のsecond 2.) Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

それと僕の絵画はデータで下図を作るのでドローイングがないのですが、紙の作品を作ってみたいなと思っていたので、9月に開催される予定の個展では、レーザーカッターで紙を切って、それを組み合わせて1枚の絵を作る試みをしてます。何年か前からアルミとか鉄板で作品を作る構想を持っているのですが、そのための布石にもしたいと思っています。絵は5枚ぐらい出そうかと考えてるんですが、その中で1枚くらい、1色しか塗られていないように見える絵を描いてみたいと思っています。

『Red, Green, Blue, Yellow, and White』(2021年/HAGIWARA PROJECTS) Copyright Shunsuke Imai, Courtesy of Hagiwara Projects

――1色だけの絵画といえば、美術史上ではカジミール・マレーヴィチのペインティングなどさまざまな先行例がありますよね。

美術の世界の人たちは作品を見ればそういうのに興味があることはわかってくれるんですけど、2021年の個展は『Red, Green, Blue, Yellow, and White』というタイトルにして、アメリカのカラーフィールズの作家たちのタイトルの付け方をそのまま持ってきました。僕の作品には古い作家たちの影響がすごいあるので、そういったことは意識的にやっていきたいなと思ってます。

Information

『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』
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高橋龍太郎コレクションは、現在まで3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術の最も重要な蓄積として知られています。本展は、1946年生まれのひとりのコレクターの目が捉えた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家115組の代表作とともに辿ります。今井俊介の作品も展示されています。

会期:2024年8月3日(土)~ 11月10日(日)
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
*8月の金曜日は21:00まで開館
休館日:月曜日(9/16、9/23、10/14、11/4は開館)、9/17、9/24、10/15、11/5
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F、ホワイエ
公式サイトはこちら

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ARTIST

今井俊介

アーティスト

2004年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。東京都を拠点に活動。主な個展に、「スカートと風景」東京オペラシティアートギャラリー (2023, 東京)、「スカートと風景」丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (2022, 香川)、「Red, Green, Blue, Yellow, and White」 HAGIWARA PROJECTS (2021, 東京)、「range finder Kunstverein Grafschaft Bentheim (2019, ノイェンハウス、ドイツ)など。主なグループ展に、「いろ・いろいろ。色と作品の世界。」福井県立美術館 (2021, 福井)、「MOTコレクション第2期 ただいま/はじめまして」東京都現代美術館 (2019, 東京)、「MOTコレクション第1期 ただいま/はじめまして」東京都現代美術館 (2019, 東京) など。

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