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2022.01.28

街にあるアートには素材を楽しむタイプもある / 連載「街中アート探訪記」Vol.2

Text / Shigeto Ohkita
Critic / Yutaka Tsukada

街のパブリックアートを美術の専門家と見て語ろうという本シリーズ、前回の大人気パブリックアート銀座駅吉岡徳仁作『光の結晶』に続いて訪れたのは……こちらも同じく東京メトロ銀座線銀座駅の隣に位置する京橋駅にある『Stripe Drawing – Flow of time』という作品である。
東京メトロでは銀座線のリニューアルを進めていてそれに伴ってアート作品を置いたようで、こちらも同様に2020年の新しい作品である。前回の吉岡作品はまばゆいばかりの光で人を集めていたが、今回も光を使った作品ということで続けて訪れたのだが……

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前回の吉岡作品はまばゆいばかりの光で人を集めていたが、今回も光を使った作品ということで続けて訪れたのだが……
vol.1もぜひご覧ください。

前回の吉岡作品はまばゆいばかりの光で人を集めていたが、今回も光を使った作品ということで続けて訪れたのだが……
vol.1もぜひご覧ください。

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銀座の地下、これほど人気のパブリックアートがあるのか / 連載「街中アート探訪記」Vol.1

  • #大北栄人・塚田優

京橋駅改札近くにある作品。銀座駅にはいくつか作品があったがここは大きなものが一つだけ。人が吸い寄せられていくわけでもなく、これぞパブリックアート的な佇まいである

こちらである。平日の午後3時あたりで銀座駅に比べると人も少なく、忙しそうに通り過ぎる人ばかりである。

中西信洋『Stripe Drawing – Flow of time』( 2020年、AGC株式会社寄贈 東京メトロ京橋駅3番出口付近)

ガラスを通した光の作品

大北:大きい、そして落ち着いた作品ですね。

塚田:これはネットにあがっている写真の印象とすごく違いますね。

大北:光というテーマでつながるかと思ってましたけど、明るさから全然違いますね。

上部に照明が設置されてあってガラスに当たって色のついた影ができている

塚田:この作品はガラスがすごいんですって。光を当てる角度や視線の位置によって微妙に色が変化するガラスなんだそうです。実際目にすると、ここの位置で見えている色と、向こうで見える色がちょっと違うことに気が付きます。

大北:あれ? でも歩きながら見てもそこまで劇的には変わらないような……。

塚田:一枚のガラスを見続けながら移動すると変わってるのがわかりますよ。

大北:あ、影でなくガラスの色ですね。影は光の角度が固定されてるから変わらないのか。おや? 照明がこまめに変わってますね。

塚田:一分間くらいで変わるみたいですね。作品の物体としては何も変わってないのに、光が変わることによってその作品自体も全然変わってしまうっていうのはおもしろいです。照明も作品の一部に近い働きをしている。

ダイクロイックミラーという特定の色だけを反射させるガラス(鏡)を用いたもの

素材そのものを楽しむ

塚田:ガラスにはかっこいい名前がついてます。ダイクロイックミラーっていう。この素材を提供しているAGCは自社の製品を使ってアーティストやデザイナーに作品を作ってもらうことを継続的にしてるんですよね。

大北:これがガムテープ作ってる会社だったら、そういうものを展示する可能性だってあったわけですよね。プールのレーン仕切るやつ作る会社とかじゃなくてよかった……。

塚田:そうですね(笑)。でもこれはガラスの違った一面に気づかされる作品です。ガラスって普通は面を見せてるじゃないすか。でもこうして見ることによって、ガラスは光を通すもので、しかもこうした特殊な素材によっていろんな見え方をさせている。

大北:なるほど、反射してるのもそうだし。

塚田:色がついたり変わったりするのもそうですよね。

一番色の強い場所。光の位置と向きとガラスの配置と配色を考えていくと無限にありそうだ

ガラスではなく光と影を見ている

塚田:前回取り上げた吉岡さんの作品はギラギラしていたので、すごく落ち着きますね。

大北:そうですね、山の風景みたいにも見えるし。

塚田:タイトルに「ストライプドローイング」ってあるじゃないですか。作者の中西さんには、鉛筆とかでずっと縦線を引いてるドローイングのシリーズがあるんですが、その縦線をガラスに置き換えたってことですよね、きっと。そのドローイングのシリーズも風景がモチーフになっていたりもするので、だから結構、絵的というか、イメージを連想させる要素はありますよね。

大北:前回の吉岡作品は絵っぽさはなかったですね。

塚田:そうですね。その意味では前回同様「光」が重要なモチーフになっていますが対照的です。あと特徴的なのは、彫刻は普通モノで何かを表現するじゃないですか。なので例えば、このガラスの配置で何かを表現するという方法にいってもおかしくないと思うんですけど、これはむしろ影の方が主役というか。

大北:たしかに。たしかに私たちはガラスより影を見ている。

塚田:鉛筆で描かれた他のシリーズもひたすら縦の線を引くことによって白い板が浮き上がってくるみたいになる、ポジとネガが反転してるような感じなんですね。

大北:なるほど、それが中西作品の特徴かもしれないですね。

塚田「これぐらい何か慎ましい方が、地下鉄から外に出る道としてはちょうどいい感じはしますね」

大北:前回も今回も、どっちも照明ありきの作品でしたね。これ、配置してあるガラスはたくさんありますね。照明の角度は一定ではなさそう。

塚田:多分全部均等にしちゃうと、影が重なっちゃうんじゃないかと。きっと何重にもなってこんな綺麗なラインが出ないのではないでしょうか。そういうことを考えると複雑な作品ですね。

大北:光とガラスをどう置こうかなと考えると、ちょっと頭が痛くなりますね。

問題意識って何?

大北:作者の中西信洋さんは知ってました?

塚田:恥ずかしながら存じ上げなかったんですが、調べると現代美術家として着実に活動されていて、現在は京都の嵯峨美術大学で教鞭もとられているようです。彫刻出身ですがいかにもな彫刻作品はあまり発表されていません。でもその一方で、問題意識はとても彫刻的なところから出発されているようです。

大北:問題意識って? 「問題」??

塚田:すみません。少し難しい言い方ですよね(笑)。つまりテーマのことだと理解していただければ。例えば彫刻って、全く平面じゃないからぐるっと一周できるわけじゃないですか。そのとき、結果的に一周すると「時間」が生まれるわけですよね。つまり彫刻を制作するには、後ろ側も見られるってことも考えないと作品が作れないわけです。それをさらに広い意味でとらえると「時間」のことを考えるってことでもあるわけです。ざっくりな要約なんですが、そういったこともテーマにしてる旨のことを中西さん自身がインタビューでおっしゃっていました。だからこそこのような、状況によって見え方が変わる作品を作っているのかなと思いました。

大北:問題意識、あ~、なるほど。前回の吉岡徳仁さんのときの自然の光のくだりもそうか~。彫刻家の人はそういうことを抱えていたり、場所だったりメディアごとの特性にも左右されたり……。

塚田:そうですね。だから中西さんは、一見「彫刻的」じゃない方法で彫刻的な問題を追求している、と言ってもいいでしょう。

大北:ほおー。問題意識、……これからはちょっと意識して見るようにします。

塚田:パッと見のルックは前回の吉岡さんの方が強いですけど、両方とも自然がテーマになっている。その表出のさせ方は、吉岡さんの場合はフラクタルな構造だったりして明確に形になったりするけども、中西さんは見え方だったり、時間の経過だったりとかっていうところそれを表現されていて、スタンスは異なっています。

大北:自然ってのは山みたいに見える~ってことじゃなく?

塚田:まあそれでもいいですけど、自然の理(ことわり)。それが光ってことです。あと作品に時間経過があって、移り変わっていくこととか。

じっと眺めてるとだんだん好きになっていく

大北:じっと見てると、変わってくるのか、ここはこうだったっけ? ってなりますね。

塚田:多分大きくは変わってないんでしょうけど。

大北:これ飽きない系のやつじゃないですか。洗濯槽が、洗濯機の中がぐるぐるなってるの見てて飽きない人とかいますよね。あの一つ。

塚田:待ち合わせ場所にちょうどいいですよね。

大北:大きな意味では待ち合わせ機能がある。

塚田:光ってるものもそうですけど、動いてるものもけっこう見てられちゃいますよね。

大北:はい、人はロフトの看板を見て時間をつぶします。

塚田:僕の勝手な予想ですけど、動いてるものを見ちゃうのは獲物を捕まえるためなんじゃないかなと。狩猟採集をしていた太古の記憶が呼び起されてるんじゃないか(笑)。

大北:なるほど、猫とか動くもの好きですしね。

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今回編集部から提案されたのは「今注目される三島喜美代作品」であり、それは「でかい」らしい。パブリックアートは大体大きいがその中でも「でかい」と感じさせる作品とはどんなものだろう?
vol.3もぜひご覧ください。

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vol.3もぜひご覧ください。

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「ゴミ箱にしてはでかい」三島喜美代のパブリックアートを見に行く / 連載「街中アート探訪記」Vol.3

  • #大北栄人・塚田優

パブリックアートを拝みにいく

大北:この前を毎日通ってたらわが町の誇りみたいに思うんですかね。

塚田:う~ん、なかなか作品鑑賞の仕方って誰しもが訓練されているわけではないので、もうちょっとモニュメンタルな彫刻でないと感情移入まではしないんじゃないでしょうか。

大北:これは平面に近いですもんね。

塚田:すごくアンビエントな感じですよね。でもアンビエントなんだけど、作家の意思は強くこもってます。長さを微妙に変えながらこんなにたくさんのガラスを配置するなんてとても大変な作業だと思うので、そこにかける思いはやっぱりかなり強いですよ。

大北:これ、知らない素材で配置の仕方は無限ですよね。となると吐きそうになるくらい頭が痛い。

塚田:前回の吉岡さんと同じく素材の特性を生かした作品ではありますけども、アプローチが違うところがあるとすると、吉岡さんはわりと素材そのものに近いようなところがあると思うんですが、中西さんはもう完全に一つの絵の具としてガラスを使っています。その辺りも関わり方に違いが見られます。

この組み合わせを考えるのは無限……

大北:じっと見てるとだんだん好きになってきたな。

塚田:するめ感はあるかもしれないですね。

大北:左側の方が色は強いのはなんでですかね。

塚田:光源が近いからではないでしょうか。

大北:それも中西さんに差をつけていただいてるから……。はあ、ありがてえありがてえ……。

こっちもざっくりくくると、あの世っぽさはありますね。拝みたくなる系の。ただで見せていただくのをめちゃくちゃありがたがるというのもパブリックアートの鑑賞の仕方なんじゃないですかね。いや、パブリックアートをじっくり見るのありだなー。

塚田:ありです。もちろん。

大北:そうですよね。そもそもこんなガラスは家にはないですから。公共に置いてあるものをありがたがりにいきましょう。

DOORS

大北栄人

ユーモアの舞台"明日のアー"主宰 / ライター

デイリーポータルZをはじめおもしろ系記事を書くライターとして活動し、2015年よりコントの舞台明日のアーを主宰する。団体名の「明日の」は現在はパブリックアートでもある『明日の神話』から。監督した映像作品でしたまちコメディ大賞2017グランプリを受賞。塚田とはパブリックアートをめぐる記事で知り合う。

DOORS

塚田優

評論家

評論家。1988年生まれ。アニメーション、イラストレーション、美術の領域を中心に執筆活動等を行う。共著に『グラフィックデザイン・ブックガイド 文字・イメージ・思考の探究のために』(グラフィック社、2022)など。 写真 / 若林亮二

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