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INTERVIEW

2025.06.09

世界を魅了するアダチ版画の手仕事 / ステンシル表現を木版画で再現したアーティスト、マーティン・ワトソンインタビュー

Text / Daisuke Watanuki
Translator / Saori Bradley

大河ドラマをはじめ、展覧会『浮世絵現代』でも再注目されている日本の木版画。時代の〈今〉と社会を色鮮やかに映し出すメディアとして、新しい取り組みを続けるアダチ版画研究所。

そして、伝統木版画の表現に魅了された海外アーティストのひとりが、ノルウェーを拠点として活躍するストリート・アーティスト、マーティン・ワトソン。これまで2作のアダチ版画研究所とのコラボレーション作品を制作してきた。

次代へと継承されていく伝統木版画から生み出された作品の魅力を、同研究所代表の中山周さん、マーティン・ワトソンそれぞれにうかがった。

さらに今回、ARToVILLA MARKETでは新作《Sea Turtle》の抽選販売が実現。日本では貴重な、マーティン・ワトソンのアートワークが購入できる機会となる(6月17日申込開始予定)。

写真提供:アダチ版画研究所

浮世絵の制作技術を高度に継承する職人を抱える唯一の版元であるアダチ版画研究所。版元と彫師・摺師が一つ屋根の下で作業をする工房スタイルにこだわり、高い品質水準で制作を行っている。

アダチ版画研究所
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 写真提供:アダチ版画研究所

アダチ版画研究所は、彫師・摺師が一つ屋根の下で仕事をしている現代で唯一の浮世絵版元。江戸時代に生まれた高度な木版技術を継承する職人によって、これまでに約1,200種類の浮世絵復刻版を制作。その浮世絵を技術の基礎とし、現代のアーティストたちと新しい木版画の可能性を追求し続けている。

中山:そもそも江戸時代から浮世絵は、絵師、彫師、摺師という職人たちが分業して制作していました。この商業的な性質ゆえに、制作効率を重視した簡潔で洗練された独特の美が生まれました。分業制なのは効率性だけでなく、一人の職人が二つの役割を担えるほど簡単な技術ではないという側面もあります。伝統木版の職人は、一人前になるまでに、彫師が7年、摺師が5年と言われています。

写真提供:アダチ版画研究所

江戸時代の浮世絵を技術の基礎としながら、近年は現代アーティストたちとタッグを組み、新しい木版画の可能性を広げてきた。特に2014年の草間彌生氏との取り組み以降は、海外のアーティストとも積極的にコラボレーションを行っている。シャープな線と鮮やかな発色。浮世絵の海外人気はゴッホやモネなど印象派の画家たちをも魅了した事実からも明らかだが、現在も多くの海外アーティストを惹きつけている。ノルウェーを拠点として活躍するストリート・アーティスト、マーティン・ワトソン氏も浮世絵に魅了された一人だ。

中山:マーティンさんとのコラボは今回で2回目。ステンシルとグラフィティを融合させた手法が特徴の作家で、モノクロのベースに極めてカラフルな色彩を乗せています。それを木版の技術で色鮮やかに再現することで、普段のマーティンさんの作品とはまた違った良さが生まれていると確信しています。

写真提供:アダチ版画研究所

ストリートアートと浮世絵の融合と聞くと突飛に思う人もいるだろう。しかし「浮世」が江戸時代には「当世風」「現代風」といった意味で使われてきたことを思うと、常に現代性を持つことは重要。世相を映し出す作品を、技術としてサポートしながら新たな作品を生み出すのは、ある意味当然の使命とも言えるだろう。マーティン自身も来日する際はたびたびアダチ版画研究所を訪れている。

マーティン・ワトソン
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1984年生まれ。ノルウェーを拠点に活躍するストリート・アーティスト。アート全般とグラフィック・デザインを学んでいた学生時代に BANSKY と DOLKのステンシルに出会いアート活動をスタート。日本では渋谷PARCOで展覧会が開催されるほか、自国のノルウェーはもちろんヨーロッパや米国でも人気が高く、世界を代表するストリート・アーティストとして活動の幅を広げている。

マーティン:北斎など有名な浮世絵師のことはもちろん知っていました。ただ、自分の作品がどの程度の細かいディテールまで木版で再現できるのか、そこには不安もありました。しかし、実際に工房を訪れてみて、その不安は吹き飛びました。最初に草間彌生さんの作品の工程を見せてもらったのですが、1万個のドットを版画で表現する作業には、その途方もない手間と、それを可能にする職人の技術に感銘を受けました。また、私の作品はステンシルの技法で6レイヤーで制作しているのですが、浮世絵版画の技法もレイヤーを重ねて制作する点において親和性を感じました。

今回販売する《Sea Turtle》は、ステンシルで表現されたウミガメにグラフィティを融合させた作品。絶滅危惧種を描く視点からは、環境保全への関心や儚いものへの繊細な思慮がうかがえる。そんな本作は、摺り上がり後に、作家自身が手描きのハンドフィニッシュを加えている。それにより、一点ずつユニークな個性を持つ新しい木版画作品となっている。

マーティン:多くの人が手に取れる印刷技術であることが版画の良さではありますが、作品を購入していただく方に少しでも特別感を味わっていただきたく、最後に手を加えています。そのため、同じ作品は二つとしてありません。唯一のものとして手に取っていただこうと考えました。

写真提供:アダチ版画研究所

今回のコラボレーションは、古典的なものと新しい芸術の融合に非常に面白みを感じていますし、本作自体、自分なりの思いを込めて制作した、お気に入りの作品です。ぜひ喜んでいただければ幸いです。

Information

ARToVILLA MARKET 抽選販売

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《Sea Turtle》 ※こちらの作品は抽選販売となります
¥423,500 (作品代 ¥385,000+TAX ¥38,500)
別途送料がかかります
H374 x W540mm 
※額を入れた際のサイズは縦横+15mm
作家サイン入り、シリアルナンバー入り 計15枚  
箱付き・額装込み

■抽選受付期間
6月17日 (火) 10:00 ~6月30日 (月) 20:00
■当選メール配信日
7月4日 (金) 
※繰り上げ当選が発生した場合、翌日以降に当選メールが送信される場合があります。
商品発送予定:8月1日 (金) 〜 順次
※海外在住のお客様へ 
本商品は日本の免税対象となります。送料(保険代込)、関税、現地課税分については、お客様負担となります。詳細はご当選された方にご案内させていただきます。

ARTIST

マーティン・ワトソン

アーティスト

1984年生まれ。ノルウェーを拠点に活躍するストリート・アーティスト。アート全般とグラフィック・デザインを学んでいた学生時代に BANSKY と DOLKのステンシルに出会いアート活動をスタート。日本では渋谷PARCOで展覧会が開催されるほか、自国のノルウェーはもちろんヨーロッパや米国でも人気が高く、世界を代表するストリート・アーティストとして活動の幅を広げている。

GUEST

アダチ版画研究所

アダチ版画研究所は、彫師・摺師が一つ屋根の下で仕事をしている現代で唯一の浮世絵版元。江戸時代に生まれた高度な木版技術を継承する職人によって、これまでに約1,200種類の浮世絵復刻版を制作。その浮世絵を技術の基礎とし、現代のアーティストたちと新しい木版画の可能性を追求し続けている。

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