• ARTICLES
  • 【前編】急速に進化するAIと向き合っていくために / 連載「作家のB面」 Vol.42 草野絵美

SERIES

2026.05.27

【前編】急速に進化するAIと向き合っていくために / 連載「作家のB面」 Vol.42 草野絵美

Text / Shunsuke Kamigaito
Photo / Rio Watanabe
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。

今回訪れたのは、神楽坂のギャラリー「√K Contemporary」。待ち合わせたのは、この場所で個展「Ornament Survival」を開催中のアーティスト・草野絵美さんだ。レトロフューチャーな作品が並ぶ会場でうかがったのは、作品制作にも取り入れている「AI」について。海外でも作品を発表してきた草野さんが見てきたAIとアートの関係性、そしてAIと人間はいかに協働していけるのかについて聞いた。

四十二人目の作家

草野絵美

002_sideb-42_emi-kusano

次世代の国際的なデジタルアートシーンにおける先駆者の一人として、独自の位置を築いてきたアーティスト。AIなどの新技術を取り入れながら、インターネットカルチャーやノスタルジア、集合的記憶をテーマに、写真、映像、インスタレーションなど多様な表現を手がける。近年は国内外で作品発表を行い、テクノロジーと人間の創造性の関係を問い続けている。

003_sideb-42_emi-kusano

《Office Ladies》(2025)

004_sideb-42_emi-kusano
《Altar of Attention》(2026)

005_sideb-42_emi-kusano《The Ornament Reactor》(2026)

 

AIを用いたアートに作家性は宿るのか?

神楽坂のギャラリー・√K Contemporaryで開催中の草野さんの個展「Ornament Survival」の会場で取材。2023年に制作した《Neural Fad》の前からスタート

――今回のB面では、私たちの生活にもすっかり根付いているAIについて、草野さんからさまざまなお話をおうかがいしたいと思っています。ニューヨークでの個展『Ego in the Shell』の開催や「アート・バーゼル香港2026」への出展など、草野さんは生成AIを活用した作品で国際的に高い評価を受けていらっしゃいます。そうした活動の中で、AIを取り巻く環境に変化を感じていることはありますか?

国内外での活動を通じて実感しているのは、アートの現場におけるAIへの関心の高まりです。国際的なアートフェアや美術館にとって、AIは無視できない存在になっています。AIを用いたアート作品を発表する以前の私は、音楽や写真などの分野でクリエイターとして活動していましたが、その際はコンテンポラリーなアートの世界、たとえばアートフェアなどで展示されるといったことはなかなか考えられませんでした。しかし、生成AIを用いた現在の活動を始めてから、そうした発表の機会を多くいただけるようになりました。

そもそも、AIアートが美術的な文脈として語られるようになったきっかけとして、2018年にクリスティーズがAIによって制作された肖像画《Edmond de Belamy, from La Famille de Belamy》をオークションに出品し、落札されたことが挙げられると思います。その後、2019年にドイツのデジタルアーティストであるMario KlingemannのAI作品《Memories of Passersby I》がサザビーズのオークションで落札されたことにも注目が集まりました。それ以降の動向として注目すべきなのは、AI作品のほとんどが、NFTとして取引されるようになったことです。2020年代初期にはひとつのブームとして注目されていたNFTですが、すでにデジタルアートのインフラとして定着しています。AI作品に関心を持ってコレクトする層の多くが、ブロックチェーンで購入しているという状況が続いています。

私は2023年に「Bright Moments Tokyo」でAIを用いた作品を初めて発表し、そこからクリスティーズとGUCCIのコラボレーション・オークションにおいてClaire Silverとの共作《Shinjitai》を発表するなど、日本では考えられないような大きなステージに招いていただくことができました。これが可能だったのは、やはりデジタル分野でアート活動をしていたことが大きいと思っています。デジタルアートとNFTの仕組みが結びつく時代の流れの中で、生成AIを活用した作品が美術の1分野として定着しつつあるという実感がありますね。

GUCCIとコラボレーションオークションで発表したバーチャルドレス《Shinjitai》(2023)

――AI作品が一過性のブームではなく、美術の文脈において認められるようになったと。その過程において、作品自体の受け入れられ方も変化しているのでしょうか?

2023年頃から、生成AIを活用したアート作品が、芸術史・美術史においてどのような意味をもたらすのかという議論が重ねられるようになりました。これまでの歴史を振り返ってみても、最先端のアート作品は常に議論を巻き起こします。写真は記録に過ぎないのではないか、ストリートアートは単なる落書きではないのかといったものですね。その議論を経て、一過性のムーブメントから確立されたアートとして認められるという歴史的な流れがあります。

AI作品における議論のテーマはさまざまですが、その中心となっているのは「作品に作家性が宿るのか?」という点です。テクノロジーによって生成された作品に、アーティストの意思や時代の空気感が反映されるのだろうか。AIアートが世に登場した当初は、その点を疑う声も多く聞かれました。しかし、AIの進化するスピードは目まぐるしく、毎日のように新しい技術が発表されています。数年前の技術と現在の技術では、生成される作品もまったく違っていて、その変化が面白いと語る人々が増えている印象があります。

2024年に制作した映像作品。「この映像では一部、SORAを使用していますが、Web/App版は現在では使えなくなってしまいました。集合の動き、群衆を面白く描くのは得意なAIだったと感じます。その時代のAIにしかできない表現もあります」

――なるほど。草野さんは直近でも海外に行かれていますが、AI作品に対する関心の高まりを肌で感じられる場面はありましたか?

今年の3月に開催された「アート・バーゼル香港2026」内のグローバル・イニシアティブ「Zero 10」は、まさにAI作品の受け入れられ方の変化を実感できる機会でした。これはデジタル時代の芸術に特化したプロジェクトで、昨年末の「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」からスタートしたものです。今回、アジア初の開催となり、私もキュレーションしていただきました。

驚いたのは、この「Zero 10」が「アート・バーゼル香港2026」の中でも最も注目すべきセクションとしてプロモーションされていたことです。街中に「Zero 10」の宣伝がラッピングされていて、会場にも観客が密集しているような状態でした。これまで、デジタルアートはアートフェアの中で周辺的に扱われることも少なくありませんでした。そうした時期を見てきた自分にとって、デジタルアートがこれほど前面に出ている状況はとても印象的でした。そんな中で参加している作家や関係者の多くは、AIが人類にどんな意味をもたらすのかを考えながら制作に取り組んでいるように感じています。

 

情報が多すぎて社会への関心を失う時代

《Magical Compact 02: Aqua Halo》(2026)

――近年はChatGPTをはじめ、誰もが気軽にAIを活用する時代になりました。草野さんはこうした状況を予想していましたか?

正直、ここまでになるとは予想していなかったですね。私が本格的に生成AIを用いて作品を作り始めたのは2023年頃ですが、それ以前にも「Style Transfer」というディープラーニング技術をMVに使ったり、「GAN(敵対的生成ネットワーク)」を実験程度に触ったりしていたんです。ただ、当時は「生成AI」とも呼ばれていなかったし、誰がプロンプトを入力しても同じ質感のものが生成されるようなレベルの技術で。人間の画像を生成しても、不完全な顔になってしまうという状況でした。当時もAIを活用した作品を発表しているアーティストはいましたが、自分としては、その時点ではまだ差異や作家性を出す手応えが持てませんでした。生成されたものを、自分の作品として引き受けられる感覚がなかったんです。より高精度なものが生成されるようになった2023年頃からはAIが社会に普及する可能性を覚えるようになりましたが、そのスピードが思っていた以上に早くて、自分が想像していなかったところまできているなと感じています。

《Pixelated Perception》(2023)

――多くの人々がAIの進化による恩恵を享受している一方で、フェイク動画などに悪用される事例も発生しています。AIが普及した現代社会において、草野さんが懸念されていることはありますか?

たくさんありますよ。現代社会には膨大な量のコンテンツが溢れていて、ただでさえ情報が多すぎる世の中だと思っているんです。特にここ数年、ソーシャルメディアが短いアテンションスパンの動画をメインコンテンツにするようになってから、おかしなことが起きているじゃないですか。AIのアルゴリズムによって過激な行動や考えをする人物が注目されやすくなり、それが政治の世界にも広がって分断を加速させている。同時に、情報が増え過ぎたことによって、世の中で何が起きているかが見えづらくなっているという問題もあります。世界的な大事件が発生しても、その次の瞬間には忘れているぐらいの感覚になってきていますよね。

――さながら SFの世界ですね。

かつてジョージ・オーウェルをはじめとするSF作家たちが描いたのは、情報の統制によって世の中の動きが見えなくなってしまうディストピアでした。しかし実際には、情報が多すぎることで社会への関心を抱けない時代になってしまった。誰もがAIと関わらざるをえない世の中において、その傾向がますます加速していくんだろうなという一抹の不安があります。ChatGPTに相談をしているうちに、自分の考え方が強化されていく。そして、自分と違う考えを知ることができなくなってしまう。そんなことが続けば、二度と戻らないぐらいに分断が広がるのではないかと危機感を抱いていますね。

SERIES

後編はこちら!

後編はこちら!

SERIES

【後編】AIと人間は互いを映し出す〈合わせ鏡〉 / 連載「作家のB面」 Vol.42 草野絵美

  • #草野絵美 #連載

 

作家の物語が失われることはない

写真上は《Blue Core Assembly》(2026) と草野さん。写真下は《Model LIne》(2026) 。作品によく近づいてみると、AIならではのエラーもあり、そこもAIアートの面白さだと草野さんは語る

――これから人間がAIと向き合っていく上で、良い関係性を築いていくためのポイントがあれば教えていただきたいです。 

人間もAIも“不完全な存在”だと意識することだと思いますね。完璧な人間がいないように、AIも絶対的な存在ではないと理解しておくことが重要です。あと、私は自分の子どもに、「AIは人間じゃないよ」とよく伝えているんです。やっぱりAIと会話していると、人間みたいに思えてきちゃうんですよね。でも、当然ながら人間とは異なる存在です。だから、ペットのように、“人間が手なずけていく”感覚を持ったほうがいいのかなと思います。

――AIを便利なツールとして使いこなしている人がいる一方で、漠然とした恐怖を抱いている人も少なくないように思います。人間にとってAIがどのような存在なのか、いまだに距離感をつかめていないのかもしれませんね。

もちろん、AIに対する批判には、著作権や労働、既存の作家のイメージが消費されることへの不安など、正当な論点もあると思っています。AIに怖さを感じる人がいるのも自然なことだと思います。

ある時、AIを用いた作品に強い違和感を持っている海外の作家の方に会ったことがあって、「身近な場所にAI作品を扱う美術館ができたことに抵抗がある」と話していたんです。その反応に触れた時、AIへの拒否感には、単なる技術への不信だけではなく、自分の仕事や積み重ねてきたものが、置き換え可能なもののように見えてしまう怖さもあるのかもしれないと感じました。

私自身も、自分の顔や身体をAIに学習させることで、自分のイメージが分裂したり、複製されたりするような不気味さを感じることがあります。その違和感も含めて、AI時代に人間の身体や記憶、作家性がどこに残るのかを作品の中で考えていきたいと思っています。

――人間にしかできない領域が残されているということですか?

アーティストの立場からすれば、どれだけAI技術が発展したとしても、作家の物語が失われることはないと信じていて。AIはツールであると同時に、社会に蓄積されたイメージや欲望、偏見を映し返す媒体でもあります。生成にはインプットが必要だし、そのインプットは人間の個人的な体験や記憶に由来している。もしかしたら今後、完全なバーチャルヒューマンによる作品が評価されることもあると思います。ただ、その場合でも、人々が惹かれるのは、単に生成されたイメージだけではなく、その背後にある思想や設計、運営する人間たちの意思や物語なのではないかと思います。人間のアーティストの場合は、限られた時間を生きる身体や記憶、その人が残してきた痕跡が作品に重なって見える。そこはAIだけでは簡単に置き換えられない部分だと思っています。100年程度しか生きられない人間が、どんなことを考えて、どのように生きた痕跡を残すか。コレクターの人々はそこに興味を持っているし、たぶんこれからもそうだと思うんですよね。だから、少なくともアートの分野では、人間は替えの効かない存在であり続けるのかなと思っています。 

Information

個展「Ornament Survival」

■会期 
2026年5月16日(土)~6月20日(土)

■開館時間 
13:00~19:00 

■休廊日
日曜日、月曜日

■会場
√K Contemporary(ルート K コンテンポラリー)
東京都新宿区南町6

詳細はこちら

mini_sideb-42_emi-kusano

ARTIST

草野絵美

アーティスト

1990年生まれ、東京都出身。高校時代に原宿でストリートファッションを記録する写真家として始動し、作品がヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)に展示される。2013年頃に音楽ユニット「Satellite Young」を結成し、主宰・リードシンガーとして活動。23年より生成AIを用いた写真・映像作品の発表を本格化し、同年クリスティーズとGUCCIのコラボレーションオークションでバーチャルドレスを発表。25年に世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。26年には「アート・バーゼル香港」のデジタルアートセクション「Zero 10」に出展し大きな反響を呼んだ。

新着記事 New articles

more

アートを楽しむ視点を増やす。
記事・イベント情報をお届け!

友だち追加