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2026.05.27
【後編】AIと人間は互いを映し出す〈合わせ鏡〉 / 連載「作家のB面」 Vol.42 草野絵美
Photo / Rio Watanabe
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun
アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。
今回登場するのは、AIを活用した作品で国際的な注目を集めるアーティスト・草野絵美さん。前編ではAIとアート、人間との関係性について話を聞いた。後編では、生成AIを用いた制作の背景や、ノスタルジックな世界観が生まれる理由、そして神楽坂のギャラリー「√K Contemporary」で開催中の個展「Ornament Survival」についてうかがった。
マルチバースを覗くカメラを手に入れた感覚だった


前編に引き続き草野さんの個展「Ornament Survival」(√K Contemporary)で取材
――草野さんが生成AIを作品に取り入れた経緯について教えてください。
私はもともと“テッキー”な人間ではないんです。大学でもプログラミングの授業はあったんですが、それも友達に手伝ってもらってようやく乗り越えられたほどすごく苦手で。一方、SFの小説やアニメは大好きで、その世界に強い憧れを持っていました。SF作家と科学者は、お互いを刺激し合ってきた歴史があります。SFアニメで見たテクノロジーを自分で研究して作りたいと考える科学者が生まれたり、科学者の話す専門用語に感化されて作家が物語を紡いだり。それでいうと、自分は完全にフィクションを作る側のタイプ。具体的なテクノロジーよりも、それがどのように社会や人間の感覚を変えていくのかというところに興味を持っていたんです。「Satellite Young」というバンドで音楽をしていた際にも、マッチングアプリやAI、SNSなど、新しいテクノロジーがもたらす人間の変化を主題にして曲を作っていました。
最初にAIに関わったのは、2017年にバンドのMVを制作した時でした。「機械であるAIが人間の夢を見ている」という構図にロマンを感じ、バンドメンバーでありエンジニアでもあるベルメゾン関根さんが中心となって、ディープラーニング技術の活用を試してみることにしました。
――なるほど。
個人的な制作に生成AIを取り入れたのは、「Midjourney」や「Stable Diffusion」が普及し始めた2023年頃です。当時は生成したいイメージが無数にあって、時間を忘れて没頭していました。「この世界線にこれがあったらどうなるんだろう?」という好奇心を満たすのが楽しすぎたんですよね。
もともと写真や音楽、ファッション、インターネットカルチャーを横断して活動してきたこともあって、テクノロジーを活用して制作することに抵抗はありませんでした。写真家をしていた時には被写体とコラボレーションしているという感覚があったし、ミュージシャンの時もMVのディレクターなどと一緒に制作する機会が多かった。ずっとコラボレーティブに自分の世界観を広げてきた実感があったので、AIに指示して作るというスタイルも自然に受け入れられたんだと思います。

《Neural Fad》(2023)
――現在の作品に見られるファッションやレトロカルチャーとの接続は、すぐに確立されたものだったのでしょうか?
そうですね。私が最初に発表したAI作品《Neural Fad》も、画像生成AIジェネレーター「Midjourney」を用いて、ノスタルジックな東京のストリートファッションを再現しようというところから始めたものでした。当時の自分は、昔の日本にタイムスリップしたかったんだと思います。高校時代は原宿でストリートスナップを撮影していましたが、当然ながらその時代の景色しか切り取ることができなかった。しかし、AIを使えば過去に戻ることもできるし、未来にもいけるし、まったく違う世界線にも行ける。まるでマルチバースを覗くカメラを手に入れたような感覚がありました。
顔があることによって想像が広がる


《Office Ladies》(2025)の映像作品。意味をなさない言葉を延々と話し続けるコールセンターの女性をAIで生成した映像を、古いPCに投影して展示されることで、どこかノスタルジックな質感を帯びている
――ノスタルジックな世界への憧れはいつ頃から抱いていたのでしょう?
小さい頃からですね。私が生まれたのは、マスメディアの影響力が強かった時代からインターネットの時代へ変わるタイミング。幼少期には音楽やファッションのシーンを牽引する存在がいることをギリギリ感じていましたが、ティーンになった途端にグローバル化が進み、雑誌が次々と廃刊して、ファストファッションが洗練され始めていった。そんな時代を過ごしていたからこそ、自分が生まれる以前のカルチャーに異様に興味があったんだと思います。
――時代を象徴するカルチャーやファッションが見えづらくなったことで、過去への憧れが強くなったんですね。
あと、ファッションデザイナーをしていた父が過去のアーカイブを見せながら、各年代に流行したスタイルを解説してくれたことも大きかったです。その影響で、時代ごとにカルチャーを分類するのが好きになって。例えば、『ひみつのアッコちゃん』というアニメが好きでよく観ていたんですが、制作された年代によってキャラクターの設定や作画が異なっているんです。それが面白くて80年代版のアニメのビデオを借りに行ったり、赤塚不二夫先生の漫画版を読んだりして掘り下げていました。特撮ヒーローにも型があって、忍者だったり恐竜だったり、その時代に流行っているものがモチーフとして取り入れられているんです。それが数年おきに繰り返されていることに興味を持ったりと、すごくオタクな人間でしたね。


セーラームーンのような女性ヒーローのような作品《Transit Bouquet》(2026)
――抽象的な表現も多いAIアートにおいて、ご自身の身体性を取り入れているところも草野さんの作品における魅力のひとつです。そこにはどのような意図があるのでしょうか?
自分の顔が登場することによって、作品に一貫性が生まれているように感じています。AIでは毎回まったく違う架空の人物を生成することもできますが、だからこそ私は、自分の顔や身体をもとにしたモデルを使い続けることで、作品の中に自分自身の身体性や記憶の痕跡を残したいと思っています。私の場合は、その核になるモデルがセルフポートレートでした。


《She/Body/Null》(2024)
写真家をしていた頃も人物だけを撮影していましたし、従来からフィギュアティブなものへの関心は強かったように思います。それもあって、人物の顔をうまく生成できない頃には、AIに対しても興味を抱けなかった。たとえAIが生成した架空の人物であっても、顔があることによって、その人がどんなことを考えているのか、どんな人生を歩んできたのか、そんな想像ができるところに面白さがあると思っていて。実在しない人間のリアルな姿を見られるというのは、これまで人類が体験できなかった新しい刺激です。さらに自分の顔を使うことで、まったく違う世界線で生きている自分をイメージすることができるようになります。たしかに自分の顔なのに、全体としては違和感がある。それを見るとゾワッとして、その感覚に惹かれているんだと思います。
AIとともに人間も進化しなくてはならない


アートバーゼル香港の「Zero 10」でも大きな反響を呼んだシリーズ『Ornament Survival』。そこで発表した《Nursing the Machine》(2026)は、何かただならぬものが生まれ落ちる瞬間を生成した作品だ
――「アート・バーゼル香港」で大きな反響を呼んだ『Ornament Survival』が、日本でも公開されました。このシリーズにはどのような思いが込められていますか?
『Ornament Survival』では、自分の顔や身体を学習させたAIモデルを用いて、魔法少女や制服、ケアを担う女性像を再構成しています。生成AIやアルゴリズムが一般化する中で、話題さえ集められれば利益を得られるというアテンションエコノミーの流れも加速しています。AIに薦められた商品を購入するだけでなく、デジタル加工された美の基準が、現実の身体のあり方にまで影響を与えるようになっている。まるで“魔法少女”のように自分の意志で変身しているように見えるけれど、実はデータ資本主義にオプティマイズしてしまっているのではないか。そうした着想からスタートしたのが『Ornament Survival』でした。


女性ヒーローに変身するためのコンパクトのような作品《Ornament Survival》(2026)
――アニメの世界を想起させるモチーフが印象的です。
私が1990年代に観ていたアニメでは、変身ヒロインの活躍を通じて「女性の憧れ」のようなものが数多く描かれていました。『美少女戦士セーラームーン』の戦士たちはセーラー服で戦いますし、『愛天使伝説ウェディングピーチ』には「お色直し」によって変身するヒロインたちが登場します。さらに『おジャ魔女どれみ』では子育てをしながら悪と戦うなど、女の子にとって憧れの職業や将来を落とし込んだ作品が流行していたんです。しかし、今になって振り返ってみると、女性のジェンダー的な役割をステレオタイプとして押しつけられていたようにも感じられて。子どもの頃からサブリミナル的に刷り込まれていたことが気になりました。

《Office Ladies》(2025)
私は昨年発表した《Office Ladies》において、自分の分身たちがステレオタイプな姿で終わらない感情労働に従事する様子を映し出しました。AIモデルが最適化して人間の感情労働を再現する中で、ジェンダーステレオタイプさえも再生産してしまう危険性を表現したかったんです。今回の『Ornament Survival』でもそれを受け継ぎつつ、着飾ることによって新しい世界を「サバイブ=生存する」という前向きな意味合いを持った作品にしたいと考えました。
――作品を通じてテクノロジーやカルチャーに対する憧れと危機感を同時に発信されている草野さんが、これからのAIに期待していることはありますか?
AIが理想的に進化していくためには、人間が進化していかなくてはならないと思います。早すぎる変化のスピードに対し、どのように人間がキャッチアップしていくのかが問題だと思っています。だからこそAIに関する制度の議論も進められるべきだと思うし、「人間性とは?」という哲学的な問いについても考える必要があると感じていて。現代社会で生きていると、お互いの気持ちに注意を払った方がいいなっていう瞬間があまりにも多いんですよね。AIと人間は互いを映し出す”合わせ鏡”です。AIが理想的に進化していくためには、人間側の制度や倫理、想像力も更新されていく必要があると思います。その上で、人類が平和を追求するためにアシストしてくれたらいいなと思っています。

Information
個展「Ornament Survival」
■会期
2026年5月16日(土)~6月20日(土)
■開館時間
13:00~19:00
■休廊日
日曜日、月曜日
■会場
√K Contemporary(ルート K コンテンポラリー)
東京都新宿区南町6
詳細はこちら
ARTIST

草野絵美
アーティスト
1990年生まれ、東京都出身。高校時代に原宿でストリートファッションを記録する写真家として始動し、作品がヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)に展示される。2013年頃に音楽ユニット「Satellite Young」を結成し、主宰・リードシンガーとして活動。23年より生成AIを用いた写真・映像作品の発表を本格化し、同年クリスティーズとGUCCIのコラボレーションオークションでバーチャルドレスを発表。25年に世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。26年には「アート・バーゼル香港」のデジタルアートセクション「Zero 10」に出展し大きな反響を呼んだ。
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