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INTERVIEW
2025.10.08
SUMIRE×長田真作がふたり展を開催。「色彩感覚」と「和歌の世界」が融合した秋の物語『ほろほろもみじ』
Photo / Daisuke Murakami
Edit / Quishin
もみじの落ち葉から生まれた“こびと”のリリア。ある日、タカに襲われそうになったところをモモンガに助けられ、彼らの森にかくまわれます。そこは傷ついた動物たちが手当を受ける診療所で──。
これは、リリアという小さな命の大冒険が描かれた絵本『ほろほろもみじ』(303BOOKS)のあらすじです。2025年10月31日に出版される本作は、気鋭の絵本作家・長田真作さんが文を、モデルや俳優、アーティストとしても活躍するSUMIREさんが絵を手がけました。10月30日からは大丸松坂屋百貨店が運営するギャラリー「Artglorieux GALLERY OF TOKYO」で、本作にちなんだ展覧会も控えるおふたりに、制作の舞台裏から展覧会への想いまで語っていただきました。
「互いに新たな挑戦だった」と明かす、今回のコラボレーション。秋の気配を感じる9月の昼下がり、杉並区立中央図書館で行われた対談からは、色彩感覚が生んだ化学反応や、ファンタジーの持つ普遍的価値が見えてきました。
渋谷PARCOでの偶然の出会いから始まったコラボレーション

──おふたりのコラボレーションが生まれたきっかけを教えてください。
長田:2年くらい前かな? 僕が、渋谷PARCOでSUMIREさんを見かけたのが始まりだよね。
SUMIRE:そうですね。当時、私はdiscord ヨウジヤマモトや、(ヨウジヤマモト社のフィルターを通したブランドである)Ground Yとのコラボグッズを発表していたのですが、その一環として渋谷PARCOに入っているGround Yでライブペインティングをすることになったんです。そこを偶然、長田さんが通りかかって。
長田:そう。まさに壁に描いてる最中でした。ちょうどその頃、僕のなかに『ほろほろもみじ』の原型となる構想があったのだけど、「絵を描くのは自分じゃない」と思っていた。また、絵と文を自分だけで完結させない制作方法にもチャレンジしたい気持ちが芽生えていたこともあり、「『ほろほろもみじ』を誰に描いてもらうのがいいんだろう?」と、アンテナを張りながら日々を過ごしていたんです。そんなときに出会ったSUMIREさんが、鮮やかな色を、迷いなく重ねていっているように見えて。わあ、すごいなって、ずっと目が離せなかった。
SUMIRE:うれしいです。
長田:直感で、「この人に描いてもらいたい」と思い、お声がけさせていただきました。
SUMIRE:私自身、アーティスト活動の中でいくつかやりたいことがあるんですけど、そのうちのひとつが絵本をつくることだったんです。

SUMIRE:Instagramを通じて、長田さんの作品を拝見させていただいたり、松坂桃李さんとコラボレーションで絵本を作られていることを知ったりして、「何か一緒にできるとおもしろそう」という気持ちが湧いてきました。
和歌の世界と色彩感覚が融合して生まれた『ほろほろもみじ』
──お声がけした段階で長田さんのなかには構想があったとのことですが、「もみじの落ち葉から生まれた“こびと”リリアが主人公の物語」は、どんな発想から生まれたのでしょうか。
長田:『ほろほろもみじ』というタイトルが、最初に浮かんだんですよね。僕は昔から和歌の世界が好きで、副詞でひとつの風景を指し示せることに惹かれる。このタイトルで言えば、「ぽろぽろ」だと涙みたいになっちゃうけど、「ほろほろ」だと、もみじが落ちていくさまを表現できる。ほろほろもみじ、という言葉が降ってきたとき、我ながら「いいぞ」って思えたんです。
そこから、小人が出てきて、秋の物語で……と構想が膨らんでいきました。ただ、SUMIREさんにお声がけした段階では、文まではできていなくて。僕はこれまで絵と文ならほとんどの作品で絵のほうを先に描いてきたこともあり、文をつくるまでに1年くらいかかりました。ヘトヘトになりつつ、この“半分だけのもの”にSUMIREさんがどう答えてくれるんだろう?とワクワクしながら、バトンタッチしました。

「落ち葉に生命が宿り、こびとにトランスフォームするという発想になっていったのは、僕がもみじ饅頭が銘菓のひとつである広島県出身なのも影響しているかも」と長田さん
SUMIRE:その渡してくださった文に加えて、「ここのシーンは森の病院で」とか「ここにモモンガがいて」とか、表には出てこない詳細な情報を載せたものも送ってくれましたよね。
長田:脚本のト書きみたいな。
SUMIRE:はい。私としてはすごく汲み取りやすかったです。その長田さんの言葉をもとに下描きをつくり、打ち合わせをして、色を乗せていきました。
──描く際、SUMIREさんが大切にしたことは?
SUMIRE:普段から大切にしてるのが、自分の色彩感覚なんです。服で言えば、「白と黒が組み合わせやすい」のような、みんなが思う定番ってある気がするんですけど、私はそういったものを覆したい。「赤で描いているところに、この色がくるの?」みたいな意外性を色でつくりたいんです。
今回は、主人公のリリアをどういう風に描くかを一番大事にしたのですが、リリアの感情によって髪型が変わるようにしました。そのずっと動いていそうな感じを出すために、色で躍動感をつくり出しています。そういった色の生きている感じと、色の組み合わせによって生まれるギャップ性は、常に意識しています。

主人公・リリアを描いた表紙の原画
役割分担を超え、互いの表現がぶつかり会うことで生まれた化学反応
長田:今、SUMIREさんが言ったとおりの罠に、僕は最初からハマっていたんだと思います(笑)。ライブペインティングを見たときに「この人だ」と思ったのも、やっぱり色彩感覚に惹かれたからなんですよね。「あっ、ここでこの色くるんだ」っていう驚きの連続だから、全体として出来上がったものに対してすごくインパクトを感じられる。
そういう驚きって、絵と文をただ役割分担するだけでは生まれなかったんだろうな。表現と表現がぶつかり合うからこそ、生まれた化学反応。SUMIREさんから「リリアの髪は感情によって動くんです」と言われたとき、「ト書きには書いてなかったけど、いいな」となったのは制作初期のエピソードですけど、何かそこから物語が立ち上がって、動き出していった気がします。

SUMIRE:もちろん絵も大事だけど、同じくらい文章も大事で。長田さんの物語がなければ、当然、この絵も生まれていないわけなので。『ほろほろもみじ』はお互いにいい化学反応が起こった、挑戦的な作品のひとつになるのかな。
長田:僕としては、今回は特に、制作のプロセスがひとつのストーリーのように感じられたのもおもしろかったところ。それはSUMIREさんが、グーっと一つひとつ捻出するように丁寧に作画を生み出されていたからなんですよね。「10枚出来上がりました」と渡されるのではなくて、今週は一枚、次の週はまた一枚、というふうに出来上がったものを渡してくれる。「連載を待つ読者」のような楽しみがありました。
絵本は自分の時間を戻し、ニュートラルな状態にしてくれるもの
──「アーティスト活動の中でいくつかやりたいことのうちのひとつが、絵本をつくることだった」というお話がSUMIREさんからありました。絵本は、SUMIREさんにとってどういった存在なのでしょうか?
SUMIRE:私自身、絵本が好きで、今でもよく買います。映画だと、今はビデオ屋さんがどんどんなくなっていて、もちろんサブスクで観ることもできるけど、昔の作品を手に取りづらくなっている。そういうなかで絵本って、わりと自分が子どもの頃に読んでいた作品も、ずっと置かれてあるように感じます。だから私にとって絵本は、いつでも会える存在なんです。そしていつでも、時間を戻してくれるものでもある。
長田:うん。不思議ですね、絵本って。
SUMIRE:その世界が好きだから、絵を描いている身として、人生のなかでつくれたらいいなという思いがありました。

長田:SUMIREさんが、「絵本はいつでも会えるもの」と言うのは、やっぱりそこにガンとした普遍性があるからなんだと思います。特に、今回の『ほろほろもみじ』のような、思わぬものに生命が宿り、それが中心になって世界が成り立っているファンタジーって、世の中の表面的な動きには左右されない。時代や地域は関係ないし、落ち葉がこの世界からなくなることも、人類が生きているうちにはおそらくないから。
そういう落ち葉みたいなものを、「ただのゴミ」や「道を塞ぐもの」以外の視点で見ようとしてみると、世界が豊かに見えてくる。その扉を開けてくれるもののひとつが、絵本じゃないかと思うんです。
この作品を手に取ってくれた方が、落ち葉を見て何も感じないことはきっとないはずで。子どもだったら、リリアのように動き出すんじゃないかって思うかもしれないし、大人でも、それまでただのゴミだと思っていたものに生命を感じたり、きれいだなって思ったりするかもしれない。自分の心がニュートラルな状態に戻るきっかけをくれるもの。そういう価値が、国を問わず、絵本にはあると思います。
ミュージシャンのライブのように、「原画」からしかわからないものがある
──10月30日からは、GINZA SIX 5階のArtglorieux GALLERY OF TOKYOで、ふたりの展覧会が開催されます。長田さんはご自身の新作からインスパイアされた絵画作品を、そしてSUMIREさんは『ほろほろもみじ』の原画を展示されます。展覧会の見どころについても教えてください。
長田:それは僕としても、SUMIREさんからお聞きしたいです。
SUMIRE:やっぱり原画でしかわからない、色彩の表現を見てもらえたらうれしいです。絵の一つひとつに対して絵の具の色はそのまま使っておらず、配合しているのですが、ところどころで蛍光色やラメも使っています。たとえば、蝶の羽にオレンジの蛍光色を乗せたり、蝶の周りや木にかかるモヤに紫のラメを使ったり。

森にかかっている紫のモヤには、ラメが施されている

蝶の羽にはオレンジの蛍光色、その周りにラメが使われている
SUMIRE:こういった蛍光色やラメなどは、印刷では表現することが難しかったりするので、ぜひ足を運んで見てもらいたいですね。
長田:森の色や花の色もね、僕が思っているそれとは「全然違う」という驚きが、はじめて見せていただいたときに、やっぱりあって。そういう違いも楽しめるんじゃないかと思います。
SUMIRE:リリアの髪型の話もさせていただきましたけど、原画だと筆の質感まで見えてくるので、より躍動感を感じられる気がしています。
長田:原画という形で、絵本の世界がもっとクリアに見えてくるんじゃないかな。
SUMIRE:そうですね。ミュージシャンのライブのように、そこに訪れた人たちにしかわからないものがあると思っています。

Information
ARToVILLA主催企画
長田真作×SUMIRE 出版記念展
ひかげ 絵と本と生まれる
■会期
2025年10月30日(木)→11月5日(水)
営業時間:10:30~20:30 (初日ならびに最終日は18時閉場)
■場所
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 5階
■入場料
無料
取材協力
杉並区立中央図書館
住所:〒167-0051 杉並区荻窪3丁目40番23号
施設の利用時間:
月曜日~土曜日 午前9時~午後8時
日曜日・祝日・12月29・30日 午前9:00~午後5:00
休館日:毎月第1・第3木曜日
詳細はこちら
DOORS

長田真作
絵本作家・アーティスト
1989年生まれ。広島県出身。2016年『あおいカエル』(リトルモア)で絵本作家デビュー。『タツノオトシゴ』(PHP 研究所)『かみをきってよ』(岩崎書店)を刊行。デビュー以来、絵本作家としては異例の30冊以上の作品を刊行。ドラマや映像作品など、ジャンルを超えて活動中。他に、ONE PIECE picture book『光と闇と』(集英社)『きみょうなこうしん』(現代企画室)『ごろごろごろ』『ざわざわざわ』(東急エージェンシー)『ほんとうの星』『そらごとの月』『まろやかな炎』(303 BOOKS)『赤い日』(汐文社)など。『光と闇と』『かみをきってよ』『タツノオトシゴ』『コビトカバ』は、海外で翻訳され出版。
DOORS

SUMIRE
俳優・モデル・アーティスト
1995年生まれ。俳優、モデル、アーティスト。2014 年から『装苑』専属モデルを務める。2018年に映画「サラバ静寂」で俳優デビュー。「リバーズ・エッジ」(2018)「ボクたちはみんな大人になれなかった」(2021)「階段下のゴッホ」(2022)「インフォーマ ー闇を生きる獣たちー」(2024)などに出演。アーティストとしては2023年秋に初の絵画個展「たまごがゆめをみていた」を開催。また数々のコラボ展への参加やアーティストグッズのデザイン、アパレルブランドとのコラボ商品を手掛けるなど幅広く活動している。
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