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- 「アートは、映画のワンシーンのような非日常を叶えてくれる」FADE&LINE・石村航 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.18
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2023.12.01
「アートは、映画のワンシーンのような非日常を叶えてくれる」FADE&LINE・石村航 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.18
Photo / Takuya Ikawa
Interview&Edit / Miki Osanai
Edit / Quishin
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺ったのは、ヘアサロン「FADE&LINE」のプロデューサー・石村航さん。石村さんはヘアスタイリストとして長年美容室で勤務したのち、現在は美容室の内装やコンセプトの設計を手がけるなど、プロデュース業を中心に活躍されています。
自らフルリノベーションしたご自宅は、国内外の作家の作品が飾られた彩り溢れる空間。「自分の人生すべてをカッコよく演出したい」という石村さんにとって、アートはどんな存在なのでしょう? 石村さんの“好き”が詰まったご自宅で、アートへの想いを聞きました。
今関龍介 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.17はこちら!
# はじめて手にしたアート
「祖父が趣味で描いていた、思い出のスケッチブック」
自分にとって初めてのアートは、祖父が描いていたスケッチブック。ミシン屋さんだった祖父はいろんな家の様子を鉛筆で模写するのが趣味で、これは1995年くらいに描かれたものです。30年くらい前のものなのに、今も綺麗な状態で残っています。
祖父はあまり社交的ではなく、ご飯を一緒に食べた記憶もありません。ですが、デッサンのために出かけるときだけは、たまにですけど、外に連れていってくれました。できあがっていく絵をみて、人ってこんなに細かな表現ができるんだって、純粋に驚かされましたね。建物の前に座って黙々と家の模写をしている祖父の姿は、今でも脳裏に焼きついています。
実際にこのスケッチブックを受け継いだのは、祖父が亡くなってからで、最近のことなんです。家を整理するタイミングで欲しいものがあるか聞かれたとき、祖父の絵がパッと頭に浮かびました。
# アートに興味をもったきっかけ
「ライフスタイルを演出し、なりたい自分に近づいていく」
祖父の絵をきっかけに自分でも作品をつくってみたいと思うようになって、幼稚園のときに地元のアトリエ教室に通い始めました。油絵や水彩画で絵を描いたり、木材や紙粘土で造形したり。物づくりを通して自分を表現することの面白さに心惹かれていきましたね。
美容師を目指したのは、高校生のとき初めて美容室で髪を切ってもらったことから。それまでは床屋さんでしか髪を切ったことがなくて、どこで散髪しようとそんなに変わらないと思っていました。でもその美容室に一歩入った瞬間から、世界観に衝撃を受けてしまって。
髪を切る技術はもちろんですが、内装や接客の仕方、担当してくれた方のファッション、全部がカッコよかった。美容室の空間全体がステージで、パフォーマンスを体験しているような感覚に陥りました。
M.SLASHという美容室だったのですが、自分もこういうカッコいい空間で過ごす時間を提供する側になりたいと思って、そこに就職。ヘアスタイリストとしてお世話になりました。
アート作品を購入し始めたのは、ヘアスタイリストになりたての頃。新人としての給料は決して高くなく、生活に余裕はありませんでしたが、それでもカッコよく日々を送りたかったんです。
僕にとっての「カッコいい」とは、日常の中のなんでもない時間を映画のワンシーンのように非日常的に過ごすこと。その非日常をつくるのが、好きな人と過ごす時間や身の回りに置いているモノで、アートもそのひとつだと捉えています。
また、今の自分のステージよりもちょっと上の、理想的な生活を背伸びして送ることはモチベーションにもなる。家でも外でもオシャレして、カッコいいと思うアート作品や家具で生活空間を整えていくと、理想の自分にどんどん追いつける気がしています。
今も真面目に、自分のなりたい姿を妄想し続けています。理想の自分を実現させるために、ライフスタイルをどう演出していくか。アートはその手助けをしてくれる存在です。
# 思い入れの強いアート
「自分の好きを100%詰め込んだ空間にしたくて、先輩のアーティストにフライヤーをお願い」
自分でお金を払って初めて購入したアート作品が、このイラスト。幼稚園のときに通っていた絵描き教室で一緒だった友人、清須史門くんが描いたものです。
長らく会えていなかったのですが、僕が20歳のときに彼が開いていた個展で久しぶりに再会しました。いくつかイラストが並んでいるなかでこの作品が目に留まり、応援の気持ちも込めて購入。バックパックを背負う姿が旅人を彷彿とさせて、旅好きの自分にとっては見るだけでワクワクするんです。色味が鮮やかなところも気に入っています。
飾っているのは、自分の仕事部屋。「思いつくままにお気に入りの作品を並べています」と石村さん
また、イラストレーターのYuki Otukaさんが描いた作品もお気に入りのひとつ。
額装は石村さんが用意。「絵は額装も含めてひとつの作品になると思います」と語る
Yukiさんは海外旅行が好きで、海外のレシートやチケットに旅先での記憶をイラストで乗せています。独特なタッチがかわいいですよね。
こちらは仲のいい先輩でもあるフライヤーアーティスト・endflyerさんの作品。endflyerさんには12月15日にオープンする渋谷のバーバーショップのフライヤーの制作もお願いしています。
endflyerさん制作のフライヤー
仕事は長らくプロデュース業が中心になっていましたが、新しいお店では久しぶりに現場に立ってヘアスタイリストとして活動します。自分の好きを100%詰め込んだ空間にしたくて、彼にお願いしました。
オープンするお店は誰でも気軽に足を踏み入れられる、コミュニティスペースのような空間にしたいと思っています。美容室っぽくないカフェのような場所に、みんなが集まってくつろぐ光景を思い浮かべています。オープンするのが楽しみです。
# アートと近づくために
「今の自分を知ることができるのも、アートの楽しみ方のひとつ」
いろんな作品に触れることで、自分が何が好きなのかを知れることが面白いなと感じます。僕自身はアート作品を集めていくうちに、オレンジ色や原色系のものが好きなんだということに気づきました。
床に置いて壁に立て掛けている作品は、グラフィティ・アーティストのバリー・マッギーの作品です。以前サーフボードをデザインしたものを目にしたことがあって、作家さんのことは知っていたのですが、作品そのものに目を奪われました。他にもオレンジなど原色系のものはエネルギッシュで惹きつけられます。
メルカリで購入したメキシコの雑貨もリビングの壁に飾っています。上の3つは刺繍の作品ですね。色鮮やかですごく気に入ってます。メキシコにも惹かれるところがあるんです。行ったことはまだないんですけどね(笑)。
自分の感情や好みは、年齢を重ねればどんどん変わってくると思います。そうした変化をアートを通して理解することができる。今の自分を知ることができるのも、アートの楽しみ方のひとつだと思います。
# アートを取り入れた空間づくり
「自分の生き方すべてを、カッコよく演出したい」
今の家には3年くらい前に引っ越してきて、フルリノベーションしました。壁も全部取り払ってスケルトンの状態にして、一からつくり上げていったんです。
内窓がある家に昔から憧れがあったので、自分の仕事部屋とリビングの間の壁に窓をつけました。夕方になると西陽が綺麗に仕事部屋にまで差し込んできます。仕事部屋から見るリビングも、リビングから見る仕事部屋も、どちらも好きですね。
昔から、自分の生き方すべてをカッコよく演出したいという思いが強いんです。ファッションもそうだし、遊びに行く場所、家にいる時間も、いつもカッコよくありたいと思っています。
石村さんの愛車。写真は本人提供
車に乗っている時間もそう。アメリカ映画が好きなこともあって、1970年代のシボレーに乗っています。乗ると映画の世界にトリップする感覚が味わえて、走っている時間がドラマチックになる。非日常を味わえるこの車も、僕の大切なアートのひとつと捉えています。
自分が過ごす空間が好きなもので溢れていたら、それだけで気持ちいいじゃないですか。他人の評価は関係なくて、「これが好き」と胸を張って言えたらそれでいいと思います。自分の好きをアートで表現して、楽しい日々をこれからも送り続けていきたいですね。
DOORS
石村航
ヘアサロン「FADE&LINE」プロデューサー
1988年12月11日、神奈川県川崎市生まれ。高校生のとき美容師に憧れ、ヘアサロン「M.SLASH」でスタイリストとして6年間勤務。その後「FADE&LINE」に入社し、美容室の内装やコンセプトの設計など、プロデューサーとして活躍する。
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