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2024.04.19

藤原さくらは、音楽もアートも「ビビッとくる」心の声を聞きながら次の扉を開けてゆく。 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.22

Text / Tomomi Fujisawa
Interview / Miki Osanai
Photo / Madoka Akiyama
Edit / Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

今回お話を伺うのは、シンガーソングライターの藤原さくらさん。天性のスモーキーな歌声で聴く人を惹きつける藤原さんは、幼い頃から音楽だけでなく漫画やアニメ、作家のつくる一点ものの作品に触れて育ち、上京後は音楽活動を通してアートへの関心が一層深まっていったと言います。

音楽活動のかたわら陶芸も楽しむ藤原さんの、アートへの興味はどのように膨らみ、現在の楽曲制作にどんな影響を与えているのでしょうか。「アートも音楽もビビッとくるかどうか。自分が興味のあるものに着目し、素直でいること」と語る、アートへの想いを聞きました。

# はじめて手にしたアート
「展示会で見かけたアートに一目惚れして、お迎えすることになりました」

福岡にある実家が雑貨屋なので、作家さんがつくる一点ものの置き物や陶器などが身近にある環境で育ちました。「アート」という言葉を広く捉えて考えてみると、はじめて触れたものは幼い頃に手にした手作りの置き物だと思います。

なんとなくですが私の中で「アート=絵」というイメージがあり、地元にいたときまではそれらをアートとは認識していなかったように思います。ただ、今思い返すとあれもアートだったのかなと。

自分ではっきりと「アートを手にした」と感じたのは、ここ数年のことです。HONGAMAさんというイラストレーターの方の絵を購入したときに実感しました。絵を買うのは人生ではじめての経験だったので、そのときのことは今も印象に残っています。

藤原さんがはじめて購入したHONGAMAさんの作品

出会いは偶然でした。フォトグラファーの大辻隆広さんたちと一緒に制作しているZINEの展示会をTOKYO CULTUART by BEAMSで行うことになったので、会場に下見に行ったんです。その会場にHONGAMAさんの絵が飾ってあり、一目見た瞬間にすごくタイプだと感じたんですよね。

その後、47都道府県を回る弾き語りツアー『heartbeat』のグッズを企画していた時に、「デザインはHONGAMAさんにお願いしたい!」と依頼したら、なんと快諾してくださったんです。そういった経緯で知り合うことができました。

この絵は、代官山のギャラリー「Lurf MUSEUM(ルーフミュージアム)」で開催されたHONGAMAさんの展示を見に行った時に出会って購入したのですが、羊に組み込まれた人間が笑顔で「HELP」と言っている。「こんな狂気でシュールな感じ、他にない」ってもう、ビビッときました。「アート買っちゃった!アートは自分で買えるものなんだ」と実感した出来事でしたね。

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SIRUP / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.21はこちら!

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SIRUPの「社会とのつながりが見えるアーティスト」に寄せる共感と信頼 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.21

  • #SIRUP #連載

 

# インテリアやアートに興味をもったきっかけ
「音楽に出会う前、実は漫画家になりたかったんです」

小さい頃から絵を描くことがすごく好きでした。

父からギターを譲り受ける小学校5年生まで、将来は漫画家になりたいと思っていたくらいです。女の子のイラストや動物の絵をひたすら描き続けていて、インターネット上に自作の漫画をアップしていた時期もありましたが、それ以上に音楽が楽しくて、最終的には今の道に進むことを選びました。

とはいえ、絵を描くことを辞めたわけではなく、コロナ禍では自分のイラストを施したグッズをつくったり、去年、下北沢で行った陶芸作品の展覧会では40点ほどの置き物をつくったり。

展覧会では、自分の作品に値段をつけるという行為がとても難しいなと感じました。葛藤もありましたが、ありがたいことに、作品も完売したのでほっとしました。これもアートを通じてのいい経験ですね。

漫画や陶芸は音楽とは違うジャンルですが、「自分の頭の中にある世界観を形に残して他者に伝えゆく」という共通点はあるように思います。このおもしろさを幼いころから感じていますが、やっぱり今でもそれが楽しいんですよね。

 

# 思い入れの強いアート
「アートとの距離を近づけてくれたのはHONGAMAさんの絵でした」

どれも思い入れがあるのでひとつに決めるのは難しいのですが、自分とアートの世界がつながったのはHONGAMAさんのおかげだと思います。はじめて買ったアートは、より心に残るものですよね。

HONGAMAさんは、『heartbeat』ツアー公演を見にきてくださったのですが、ツアータイトルが書いてあるおばけの置き物をサプライズでプレゼントしてくれたんです。本当にかわいいし、私のためだけにつくってくださった一点ものなので、すごくうれしかったです。

ツアータイトルが入ったHONGAMAさんからのプレゼント

これまで私の中では、作家さんやアーティストの方は雲の上の存在というか、私とは違う遠い界隈の方々だという思い込みがあって。それがHONGAMAさんとご一緒する機会に恵まれたことで、アーティストの人柄や考え方により深く触れることができ、アートは想像するよりも遠くないと気づけました。

アート作品や家に飾れる置き物を、姉とプレゼントしあうこともあります。姉は民芸品が好きで、よく一点ものの作品や展示会で見た絵をくれるんです。上京したての頃は、母が仕送りの荷物と一緒に送ってくれた置き物にも癒やされていました。

左から、「さくらに合うと思う」という言葉とともに母からもらったあんみさんの作品、姉が送ってくれたそのだゆみさんの置き物

マネージャーがくれた花瓶や、自分で買った外山翔さん作の一輪挿しもお気に入り。

一点ものだからこそ色合いや柄が全部違っており、「これは私しか持っていない」というところに惹かれます。アートにとても詳しいわけでは無いので、自分の感性に従い「いいな」と思ったものを選んでいます。

マネージャーからもらったという室井夏実さんの花瓶。「みんなから『これは誰の作品?』と聞かれることも多いです」と藤原さん

 

#アートの飾り方 
「ひとつだけしかない作品を自分の家に飾るのは素敵なことだと、最近気がつきました」

一緒にZINEを制作していた大辻さんはアートへの造詣が深い方なのですが、「家中のアート作品を数カ月に一度入れ替える」というお話をしてくれたことがありました。その頃の私は、家に絵やポスターはあるのに、壁にかけず床に置いて立てかけていたんです。

大辻さんの話で、壁に変化をつけることは楽しいことなんだと気づき、ハッとしたというか。アートを飾るだけで、殺風景だった場所がパッと華やぐし、「かわいい」と思えるものが目に入ると心の健康にもいい。それがきっかけで飾る楽しさを知った気がします。

20代前半頃まではモノにはあまりこだわりがないタイプで、収納ひとつを例に挙げても、プラスチックのケースに適当に入れていましたが、いつの間にか「永く使えるものがいいな」「これが家にあったらかわいいな」というような観点で考えるようになっていました。

今では、家具を中心にアートを選ぶのではなく、アートに合う家具を探すという順番になっています。普通の棚にポンッと置くよりも、こだわりの棚や家具に飾りたいというマインドになったのは、まさにこの子たちのおかげですね。

自宅では制作部屋にもかわいい置き物などを飾っています。どちらかというと、パキッとしたものよりも、顔がついたものや、ふわっとしたゆるいものが好き。制作部屋にはシルバニアファミリーや丸っこい置き物、そのほかに植物もすごくたくさん。自分の心がときめくものを大切にしています。

曲づくりにおいてもこれといったジャンルを絞らずに、オーガニックな生音で全部録る曲もあれば、トラックメインの曲もあったり。アートも音楽もそのときの自分が「ビビッ」とくるかどうかを大切に選んだりつくったりしているので、結構感覚的な人間だと思います。

だから私は、東京のように美術館での展示も多くてアーティストの催し物もある刺激的な街がすごく好きなんです。そういう場所に身を置くことでいろんなものに触れられたり、それが新しい出会いになったりするのを実感しています。

 

#アートがもたらす価値についての考え
「音楽制作にはない感覚がアートにはあって、それがとてもおもしろく感じます」

ニューアルバム『wood mood』のビジュアルは、アートディレクターの佐藤裕吾さんに紹介していただいた古田和子さんにお願いしました。次に買うアートは古田さんの作品と決めています。

2024年4月3日(水)にリリースしたニューアルバム『wood mood』

古田さんが描く絵は動物が多く、すべてにストーリーが込められているんです。たとえば、昔住んでいた家につがいの鳩が遊びに来ていたシーンを切り取ったものなど。一枚一枚の作品に対するストーリーを伺うと、まるで作品が自分の子どもであるような愛を持っているので、本当に大切な作品たちなのだと感じます。

たったひとつしかない愛情のこもった作品が売れたときに、悲しくなってしまわないのかと伺ったところ、「寂しい気持ちはあるけれど、大切にしてくれる方々なので安心している。お嫁に出す感覚」と話されているのを聞き、とてもおもしろいなぁと思いました。

音楽というのは、形のないものですし、自分の手元から完全に無くなるという感覚を持ちづらいんですよね。

 

#アートと近づくために
「アートを飾ることで変わる自分の暮らしを想像してみると、手に取りやすくなるかもしれないですよね」

自分が心から惹かれる一点ものの作品を飾ることならではのよさがあるので、アートは好きだけどグッズで十分と思っている方にこそ、ぜひ本物を買ってみることをオススメしたいですね。

美術館に飾られているような有名な作品というとやはりハードルが高いですが、SNSで見つけた作家さんやカフェで行われている展覧会の作品など、自分がビビッときたものを買って飾ってみると、そのアートによって、お部屋が輝いているように見えると思います。

それから、私は楽器を集めるのも好きで19世紀のギターとかも持っているんですけど、海を渡って自分の手元にあることに、すごくロマンを感じるんです。使えるアート作品だと思ってます(笑)。

とはいえ、アートって高いし、素敵だけど自分が手を出していいものなのか……と躊躇する気持ちもわかります。私も以前はそうで、「アートは美術館などで観るもの」と勝手に思い込んでいました。そういった考えが変わったきっかけは、HONGAMAさんの絵を購入したり、大辻さんにアートを飾ることの楽しさを教えてもらったりだったのですが、自分自身のお買い物の仕方を見つめ直したことも大きかったように思います。

大人になるにつれ少しずつですが、洋服も家具も、自分にご褒美をあげるような感覚でいいものを買いたいというふうに変わってきました。そういう感覚に変化していった時期とアートに手を伸ばすようになった時期が、重なっている気がします。

だからまずは、「これを買って飾ったら自分の家での暮らしや価値観はどう変わるんだろう?」と、ちょっと自分ごとに寄せた想像をしてみると、アートを手に取りやすくなるかもしれないですね。

Information

5th Album『wood mood』
FS_wm_Jacket

■発売日
2024年4月3日(水)

■価格
¥4,180(税抜価格¥3,800)

■Sakura Fujiwara Tour 2024 wood mood
4月14日(日)福岡・ZeppFukuoka
4月21日(日)宮城・仙台PIT
4月28日(日)愛知・ZeppNagoya
4月29日(月・祝)大阪・NHK大阪ホール
5月19日(日)東京・NHKホール

hajimeteart

 

DOORS

藤原さくら

シンガーソングライター

1995年、福岡出身のシンガーソングライター。幼少期からジャンルを問わずさまざまな音楽に親しみ、10歳の時に父より譲り受けたギターがきっかけで音楽の道に。2015年3月、ミニアルバム『à la carte』でメジャーデビューし、16年4月にはドラマ『ラヴソング』で俳優デビューを果たす。

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