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  • 料理家・寺井幸也のうつわ選びの視点 「自宅に迎えるまで積み重ねた思いで、幸福感が変わる」 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.31

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2025.01.15

料理家・寺井幸也のうつわ選びの視点 「自宅に迎えるまで積み重ねた思いで、幸福感が変わる」 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.31

Interview&Text / Tomomi Fujisawa
Photo / Ryusei Nagano
Edit / Miki Osanai & Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、彩り豊かな家庭料理「YUKIYAMESHI(幸也飯)」のケータリング事業を展開する、料理家の寺井幸也さん。テーブルコーディネートも手がけ、料理を盛り付けるうつわにもこだわる寺井さんが紹介してくれた「はじめて手にしたアート」は、バイカラーの色合いが美しい一点もののうつわでした。

うつわや花器をはじめ、ご自宅のリビングを彩るアートピースの多くは、制作過程にリスペクトを感じられるもの。「必ずしも生活に必要なわけではないけれど、自宅に迎えるまでに思いが積み重なったうつわで食べる料理は、お腹だけじゃなくて心まで満たされるんです」と、うつわから感じる幸福感について語ってくれました。

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高橋愛 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.30はこちら!

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高橋愛を成長させたアート体験「モノクロの作品が自分に必要なことを自覚させてくれた」 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.30

  • #高橋愛 #連載

# はじめて手にしたアート
納得できる釉薬の色をつくるためのこだわりを聞いて、驚くとともに、いち料理人として共感するような気持ちにもなりました

YUKIYAMESHIは、寺井さんがプロデュースするケータリングブランド

うつわをアートと捉えるか、生活雑貨とするかは人それぞれだと思いますが、僕が日頃から大切に使っているうつわの多くは作家さんの手がけた一点もので、それらは単なる食器ではなくアートでもあると思っています。

「はじめて手にしたアート」と聞かれて、真っ先に思い浮かべたのは、陶芸家・修復家の竹村良訓さんのうつわです。

竹村さんの作品は、時代ごとの変化がはっきりと感じられるのがおもしろいんですよね。初期はバイカラー、続いて淡い色合いにドットがあしらわれたシリーズが登場し、その後、徐々に渋さのある落ち着いたトーンに進化していきます。

寺井さんがお手持ちの竹村さんのうつわの中でも初期の作品。「鮮やかな青とピンクのバイカラーは、初期の竹村さんを象徴する作風だと思います」と寺井さん

竹村さんの作品は、時間をかけてコツコツ集めてきましたが、作風の変遷から竹村さんの心境の変化も感じ取れる気がしています。

仲のいい友人たちに声をかけて、千葉にある竹村さんの工房へ伺うツアーを組んだこともあります。現地では見学だけでなく、作陶もさせていただくなど、とても貴重な体験をさせていただきました。

そのときに竹村さんから、「納得できる釉薬の色をつくるために、3、4ヶ月かけることもザラにある」と聞き、驚きましたね。しっかりと納得の色合いを出せるのも竹村さんの技術があってこそ。制作過程の一つひとつに職人魂が込められていることを再認識して、尊敬の気持ちが湧き上がってくるとともに、つくること・表現することが仕事であるいち料理人として共感するような気持ちにもなりました。

すべて竹村さんのうつわ。「30点くらいはあると思います」

 

# アートに興味をもったきっかけ
ウェブ連載でスタイリングの幅を出そうとし始めたことから、うつわへの関心が広がっていきました

祖父は民宿を営んでいて、僕はそこの子どもとして育ったので、大皿や一般家庭では触れ合うことの少ない作家さんのうつわなどに、幼い頃から自然と触れていました。

とはいえ、自分が主体的に陶芸の世界に触れていくようになったのは、料理家として活動を始めてから。そのきっかけをくれたのも竹村さんでした。

2018年にウェブメディアで週一回、お花やうつわと一緒に僕のレシピを紹介する連載をもつことになったのですが、毎週違う雰囲気でスタイリングをする必要があり、当時は撮影のたびにうつわをリースしていました。

しかし当然ながら、月に何回もリースするとそれなりに出費がかさんでしまい……、あるとき、「いっそ、思い切って買ってしまおう!」と決意しました。自分の気に入った器を買い集めていったほうがいいな、と思うようになって、最初に集めはじめたのが竹村さんの器だったんです。

料理だけではなく、食卓を囲む空間も丸ごと彩るように日頃からダイニングテーブルには必ずお花をいけている。「お花が充実していないと落ち着かないんです」と寺井さん

一点ものに感じる「よさ」は、たとえ同じ作家さんの手がけた同じシリーズでも表情が全然違っていて、ほかとは被らないということ。そういったよさを理解してから、自分好みのたった一枚」を探す時間がすごく好きだなと自覚するようになり、集めることにどんどんハマっていきました。

 

# 思い入れの強いアート
自宅で愛用しているのは、料理に合わせやすく、作家さんのアイデアや作品に込められた思いに共感できるうつわたちです

2匹の愛猫と暮らす寺井さんの、ご自宅のダイニング

竹村さんの作品のなかで、僕がよく使っているのはドット模様のうつわ。

竹村さんのうつわのなかでも「お気に入り」という一点を手に取る寺井さん

見た目がシンプルな料理や、メインではないちょっとした副菜などドットのような模様と合わせると、単調にならずに見栄えがよくなるという理由で、お気に入りのうつわです。

それから、セラミック・アーティストのミチコ セキさんの手がける『CERAMICHI』というシリーズのうつわも大好きで、よく使っています。

実用性を備えたアートピースのうつわをはじめ、花器やオブジェを手がけるアーティストです。割れたお皿をリメイクしてアクセサリーに変身させるなどの取り組みもしていて、サステナブルな視点も魅力的だと感じています。

「まるで宇宙のような幻想的な作風で、一目見た瞬間に惹かれました」

半円形と円の4分の1サイズのピースを、自分の好みや盛り付ける料理に合わせてカスタマイズできる造形も、すごいアイデアだなと感服します。

僕はひとピースずつ取り皿のように使ったり、焼き魚をあえてピースをまたいで盛り付けてみたりなど自由に使っています。CERAMICHIさんのうつわを使うと食卓が楽しくなりますね。

 

# アートのもたらす価値
なくても生活はできるけれど、あると心まで満たされるものだと思います

「ご飯を食べるだけ」であれば、必ずしもこういった一点もののうつわである必要性はありません。だけど、作家さんの人柄や作品の裏側にある技術、制作過程のこだわりなど、背景にまで共感できるうつわを使うようになってから、「なくても生きていくことはできるけれど、そういったものが日々の暮らしにあったほうが幸せ」という感覚がより強まっていきました。

ご飯を食べるときに使い捨ての紙皿を使っても、一枚1万円の思い入れのあるうつわを使っても、食べ物がお腹に入れば間違いなく「空腹感」は満たされます。けれど、愛着のあるうつわで食べるご飯には、「満腹になる」ことに加えて、心を豊かに満たすパワーがある。

それはうつわに限った話ではなくて、写真や絵など、ほかのジャンルのアートも同様だと思います。なくても生きてはいけるけれど、あれば日々の暮らしが彩られ、目にするたびに心が暖かくなるものだろうな、と。

「うつわは日常的に使うもの。目に触れる機会が多いからこそ、ある程度の金額をかけてもいいんじゃないかなとも思います」

とはいえ、「アートを買えば一気に日々の幸福感が高まる」という単純な話でもないとも思っています。料理に置き換えてみればよくわかる話で、素材へのどんなこだわりがあるのかや、誰がどんな手間暇をかけてつくったのかなど、何もわからずに食べるのと、よく理解して食べるのとでは、食べたときの満たされ方が変わりますよね。

料理でもアートでも、そのものに対する自分の思いがどれだけ積み重なっていったものか、あるいは、どんな思い出があるのかということが、いざ自分の空間に迎え入れたときの幸福感を左右するのではないかなと思っています。だから僕はもう、自分で実際に作品を見て、しっかりと作家さんから話を聞いたうつわしか買っていなかったりします。

 

# 追求し続ける「おいしさ」
おいしいってなんだろう? という本質的な問いを掘り下げていくと、手に取るうつわも自然と、本来的な強さや美しさを備えるものへと変わっていきました

自分自身の内面の変化を可視化してくれるのも、アートのよさだなと思います。

僕は料理家として「おいしいってなんだろう?」と考え続けてきましたが、ここ数年は、やはり産地に根ざした旬の食材を使って、そのよさを十分に引き出した料理であることが、「おいしい」なんじゃないか、というところに立ち返っています。

素朴だけれどもしっかりとした強さがあるものに「本来的なおいしさ」を見出そうとするなかで、手に取るうつわも自然と、素朴で、その土地に古くからある技術が継承されているものへと変わっていきました。「畑萬陶苑」のワイングラスや、文祥窯さんのお皿が、その代表的な例ですね。

有田焼の一種である鍋島様式染付に赤、黄、緑の3色の上絵の具を使い、品格のあるデザインが特徴。佐賀の熟練職人さんがひとつひとつ丁寧に手で描いている

創業98年の伊万里鍋島焼の窯元である畑萬陶苑さんは、和のスタイリングに合うワイングラスを探すなかで出会った窯元です。どうやったらおいしく食べてもらえるんだろうか、と長い歴史のなかで考え尽くされた技術がベースとしてあって、そのうえに緻密で繊細な絵付けが施されています。

文祥窯さんは、400年前から日本で磁器を生み出した陶工たちの思いと向き合い続けている窯元。昔ながらの技法を継承し、“その土地” に根差したうつわづくりをされているというところに美しさを感じ、こちらのお皿を選びました。

僕がつくる幸也飯はこれまで、試行錯誤で培ってきた色彩感覚によって、たくさんのお客様や友人に喜んでもらってきました。視覚的な喜びにつながる「華やかさ」はこれからも大切にしていきつつ、食材やうつわの背景にある技術や伝統、人の思いについても伝えられるような表現を、もっと追求していきたい。柔軟に両者を掛け合わせ、新しい「おいしい」を届けられたら幸せですね。

 

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DOORS

寺井幸也

料理家・YUKIYAMESHIプロデューサー

彩り豊かな家庭料理をメインにしたケータリング「YUKIYAMESHI」を主宰。大手企業やイベントケータリングを数多く手がけるほかファッション誌やWEB媒体におけるフードスタイリングやレシピ提供、飲食店プロデュース、企業との商品開発、イベント出演など『食』を起点に幅広く活動中。2024年にはオイシックス・ラ・大地株式会社グループの株式会社ノンピの傘下に入り、CSSO(Chief Sustainability Story Officer)に就任しサステナブルな取り組みにも携わる。

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