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INTERVIEW

2022.09.30

CIRCUS(鈴木善雄・引田舞)が選ぶ「祭り、ふたたび」を感じる作品たち。自分の高揚感に従ってアートを見つめる

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Quishin
Photo / Takako Iimoto

世の中はコロナ禍によるステイホームの期間を経て、人々が集い、語らい合う日常が少しずつ戻ってきました。溜まっていたエネルギーを放出するかのように、芸術祭やフェスなど「祭り」も動き出した背景から、ARToVILLAでは7月から9月にかけて、「祭り、ふたたび」特集を実施しています。

今回は、店舗の内装設計やディレクションを行い、古今東西の古道具や作家作品の買い付けもするユニット「CIRCUS(サーカス)」の鈴木善雄さん、引田舞さんご夫妻が登場。特集テーマに紐づくアートコレクションをご自宅で紹介していただいたほか、祭りとアート選びに共通するもの、自分の感受性を取り戻すためのアートの見つめ方まで教えてくれました。

祭りとアート選び、共通するのは「高揚感」

ーー「CIRCUS」というユニット名はもちろん、古今東西の古道具や作家作品を通じて人が集う場をつくり続ける、おふたりと祭りには何か近しさを感じるのですが、CIRCUSにとって祭りとはどんなものでしょう?

鈴木:祭りとサーカスはすごく共通する部分があると思っていて。一番は、高揚感。CIRCUSというのは僕がつけた会社名で、由来は字面のとおり、サーカスからです。サーカスって暗闇の中にぽつんとテントが光っていて、外から見たら静かで緊張感があるものなのに、中に入るとワッと玉手箱のように何かが広がっていく高揚感がある。そういうふうに緊張感や高揚感を感じるのは、祭りも同じですよね。

僕らはモノを通じて気持ちが高ぶるような感覚を得てもらいたいという思いで、古今東西の古道具や作家作品を買い付けしたり、イベントを企画したりしています。たとえば新木場の複合施設「CASICA」(ふたりがトータルディレクションし、店内に並ぶ雑貨アイテムの買い付けも行う)では、什器の引き出しなどわかりにくいところに、あえていいものを入れて宝探しのような仕掛けをしたりしていたことも。

引田:CIRCUSには「人が集まる」というテーマがあって、そこも祭りとの接点があるのかな。仕事もプライベートも境目なく、様々な作家さんやブランドの方々をお呼びしてイベントを企画したり、自宅に招いたりしています。何か、いろんな人が集うこともそうですけど、人との出会い、つながりを私たちは大切にしているのだと思います。

ーーたとえばCASICAには、現代の作家作品から古道具まで、時代の新旧、国内外を問わないアートやモノが幅広く並んでいます。ご自宅はどうでしょう? アートやモノによって境界線のないような空間になっているのでしょうか。

引田:そうですね。家の中でも、古い時代のものと現代の作家作品が同じ空間に同居したりしています。私たちはスッキリとした空間より、好きなものに囲まれた方が落ち着くかもしれないですね。自宅3階の生活空間はもともと3部屋に分かれていたけれど、壁をすべて取り払ってひとつの部屋にしました。

引田:夫婦間でも、私がわりと新しいものや作家さんの作品が好きで、夫が古物など古くて歴史あるものが好き。小さい息子も買い付けに連れて行ったりするので、自然とみんなの要素がミックスされた空間ができあがります。

鈴木:それってつまり、僕らが自分の感覚を大切にして選んでいるということ。流木みたいな自然物だったり、誰がつくったものかもわからないものだったりしても、感情が動いていいなと思ったらそれが正解だと思っています。「美術館に行っても、どうアートを見たらいいかわからない」というのはよくある話だと思いますが、アートも、有名か無名か、高いか安いかは関係なくて、ただ好きか嫌いかで選んでいいはず。

だから僕らは、100人中99人がいいなと思うものばかりを選ばないようにしてます。今回紹介する作品もそうですが、いつも100人中たったひとりが喉から手が出るほど欲しがるようなものを選んでいます。

 

CIRCUSがセレクトした、「祭り、ふたたび」感じる6つの作品

 

①『夜の木』のシルクスクリーン

鈴木:『夜の木』というのは、インドで出版している絵本。この絵本を日本で出版したタムラ堂さんが、僕らの事務所もある吉祥寺にいらっしゃったという縁から、うちで取り扱いをさせてもらうことになりました。このシルクスクリーンを見たとき、植物と一緒に置いたら楽しそうだなと思ったので、自宅の温室に飾っています。この作品のある温室に料理を広げたりキャンドルを置いたりして人を集めてみるなど、ちょっとした非日常を楽しんでいます。

引田:購入するときはいつも、最初の第一印象で決断することが多いです。だから、あとから「やっぱりあれを買えばよかったかな」と購入しなかった作品について話すことは滅多にありません。

 

②版画 / 野口寛斎

引田:野口さんは陶芸家でフラワーベースを中心に制作されています。その野口さんがCASICAで個展を開いたときに、「最近は版画にもチャレンジしている」と伺い、その中のひとつを購入しました。

鈴木:メヘルガルというイランの遺跡があるんですけど、これはメヘルガルの土偶をモチーフに版画の平面に写した作品になります。野口さんは、プリミティブな宗教のように古来からあるエネルギッシュなクリエイティブを大切にしている方なので、大胆さも持ち合わせている。陶芸家でもあり書道家のような一面に、僕自身は魅力を感じています。

 

③ンチャク

鈴木:ブショング族というアフリカの部族が、冠婚葬祭のようなまさにハレの日に着用するドレスです。模様からも原始的なエネルギーを感じます。一生のうちに2枚つくれるかどうかというくらい貴重な布なんですよ。着方としては、体に巻き付けるような感じですね。

引田:一枚で6〜7メートルくらいの大きさはあると思います。細長いので壁にかけたりとか、天井から垂らして見せたりするようなアートとして購入しました。私たちが扱うものって一見、何に使うかわからないものが多いけど、こういうふうに使ってくださいとは限定したくなくて。むしろ、私たちが想像もしなかった使い方を楽しんでほしいなと思っています。

 

④オブジェ / O’TrunoTrus

引田:O’TrunoTrus(オートゥルノトゥルス)さんは沖縄を拠点にご夫婦で活動されているアーティストさんです。海の漂流物を拾ってきて、それに真鍮(しんちゅう)を加えて作品にしています。以前、沖縄の前におふたりが住んでいた淡路島に家族で行ったのですが、息子も一緒になって、海にある石などを拾って持って帰ったりしていました。漂流物を使ったりしていると、「海を汚さないで」など何かメッセージがあるように思われがちですが、このオブジェに強い意味を持たせないようにしているようです。

鈴木:僕らはクジラに見えるからこの作品をクジラと呼んでいますが、それが正解なわけじゃない。意味を持たせてしまうと、作家さんの思いが失われるので、それぞれが見たときに感じたことだったり、見えるものをそのまま受け取ればいいんじゃないかなと思っています。

 

⑤オブジェ / 栁川晶子

引田:栁川さんは器をつくられながら、こういったオブジェもつくられている作家さんです。普通は、成形したあとに乾かしてから釉薬をかけるのですが、栁川さんは焼く前に成形したものを水に浸すんですよ。そうすると、作為的ではないヒビが入ったり、釉薬が剥がれたりするそうです。その無作為の結果をおもしろいと感じられ、このような作風になっているのだとか。

このオブシェはふたりで栁川さんのアトリエに行って、こちらから頼んでつくっていただきました。惹かれたのは質感。身体の内なるもの、身体の一部のようなものを表現されていると伺ってより一層作品への興味も高まりました。

 

⑥バミレケ族の盾・アスマット族の盾

鈴木:丸いほうが中央アフリカのバミレケ族の盾で、縦長のほうがインドネシアのアスマット族の盾です。これらの盾は、神様に向けて収穫のお祝いをする祭事のときに使用するものになります。アフリカにパイプのある取引先の方がいるのですけど、その方の倉庫に行ったときに出会いました。アフリカの民族物は、国内では40、50年前に注目を浴びていて、そのときに買い付けたもので倉庫に残っているところからいただきました。アフリカのプリミティブアートはまた近年、流行してきているように感じますね。

 

ラベルを剥がしてアートを見つめてみよう

ーー特集「祭り、ふたたび」の背景にも関わりますが、コロナ禍で最近まで外との接点が少なく、禁止事項も多く、感受性を失いやすい時期でもあったと思います。少しずつ身動きできるようになってきた今、どんな姿勢でアートと接することが、おふたりのように、自分の感覚を取り戻すことにつながると思いますか?

鈴木:アートの話というよりは、もう少し俯瞰した視点での話になりますが、何かを選ぶという点では、僕らは子どもに対しては「あらゆる可能性を選択できる状況をつくってあげたい」といつも話しているんです。それはモノの選択でも、職業の選択においても同じこと。

引田:そうだね。それと、子ども目線に下がりすぎることなく、人間同士として対等に話すということを心がけています。それはなにか、私たちの手がける空間設計にも通じるところがあるかも。その空間に有名無名、値段の高い安い、アートか古物かは関係なく、その場に共存するすべてのモノを対等に扱いたいと思って空間をつくったり、作品を並べたりしています。

鈴木:買い付けしたものも、これは作家さんの作品です、これは古道具です、みたいなタグ付けをあえてしないんです。そういうラベルを見て、納得してほしくない。それって自分の感性を大切にすることとは逆のことだと思うので。ラベルで判断せず、いろんな選択肢を持っておくことが、自分の感覚を大切にして何かを選ぶことにつながっていくと思います。アートも、自分の感覚に素直になって、「好きだ」って思ったものを選べばいいんじゃないかな。

DOORS

CIRCUS

内装設計 / ディレクション / 古物卸

鈴木善雄さん、引田舞さんご夫婦による内装デザイン・ディレクションを行うユニット。都内で飲食店を経営しながら内装設計も手がけ、2016年に場所選定から内装設計、商品の買い付けまでをトータルでディレクションするCASICAがオープン。店舗のMD選定やVMDなども行う。引田さんはアパレルのプレスアシスタント、ラジオの構成作家を経て、結婚後に鈴木さんとCIRCUSを主宰する。アンティーク雑貨卸、個展のキュレーション、イベント企画も行う。

volume 03

祭り、ふたたび

古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。

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