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ESSAY

2022.10.05

ミュージシャンが綴るアートのこと。/ Vol.04 オカモトレイジ(OKAMOTO'S)

Text&Edit / Eisuke Onda
Illustration / Natsuki Someoka

夏はイベントで全国を駆け巡るミュージシャンの方々に、この時期に鑑賞した特別なアートの話を綴ってもらった。1年の中でも一番祭りが多い季節、芸術祭で、美術館で、ギャラリーで、あるいは街の中で、いったいどんな作品に刺激を受けたのか?

最後に登場するのはロックバンド・OKAMOTO'Sのドラマーであり、ジャンルレスに現代のシーンが交差するエキシビジョンマッチイベント「YAGI」のキュレーションを担当するオカモトレイジさん。これまでに交流のあったアーティストたちの話や、この夏に久しぶりにブッキングを担当したライブハウスの出来事から感じとったアートとは?

『red cloth 19th ANNIVERSARY -YAGI NO TAIBAN-』

2022年8月24日に新宿red clothで開催したオカモトレイジ企画の対バンイベント。出演はWaater、Psychoheads、Gliiico、WOOZ。転換のDJをオカモトレイジ(OKAMOTO’S) and YAGI friendsが担当。

ゴミがアートになるとき

アートって日本だと”美術”とも訳すじゃないですか。それって、ゴミみたいなものを美しく見せる術なんだと俺は思うんです。たとえば美術館みたいに天井が高くて白い壁に囲まれた空間の中にシャツが脱ぎ捨てられてなんか説明が書いてあったらアートに見えてくるわけでしょ。別に嫌味じゃなくて、そのゴミを鑑賞して何かを感じることが人生において大切なんだと思うんですよ。

それこそ俺の周りのアーティストだとヤビク(・エンリケ・ユウジ)は旅先で持ち帰ったゴミをコラージュの素材にして制作活動をしていて。そのゴミの一つ一つにはヤビクにとって大切なストーリーがあるから、こっちが質問するといっぱい答えてくれるんですよ。だから、もしかしたら他人から見たらゴミでも、美しいカタチにすればアートになるんじゃないかなと。

ヤビクは最初は洋服がつくりたくて文化服装学院に入ったけど中退して、それで働いてみたけど速攻で辞めて……まあ社会的には難ありかもしれないわけで(笑)。だけど、古本が好きだったからコラージュの制作をはじめてInstagramに投稿して、そしたら、ファッションブランド<TTT_MSW>の玉田翔太がたまたま見つけて俺に教えてくれたんですよ。いや、むちゃくちゃカッコいいなと。俺がやっているアートエキシビジョン『YAGI EXHIBITION』(2017年)にも出店してほしいからインスタのDMで声をかけたんですよね。出店したら作品は完売。その後はトントン拍子で、現代アートのギャラリーで展示したり、最近だと韓国のアートフェア『KIAF 2022』に出展したり......いまや完全にアートの世界で食ってますよね。

ヤビクのコラージュ作品。Acrylic Painting, Collage on canvas(330×410)2020

で、実はここからが本題なんですけど、「祭り、ふたたび」ってテーマを聞いたときに紹介したいと思ったアートがライブハウスで見た”ライブ”についてなんですよ。

それは今年の8月24日に俺が企画した対バン『red cloth 19th ANNIVERSARY -YAGI NO TAIBAN-』で、出演したのはWaater、Psychoheads、Gliiico、WOOZという結成してまだ日も浅い4組。

まず、なんでこのライブを企画したのかってところから話します。コロナ禍の間ってライブハウスも営業していなかったから、その時期に結成したバンドは箱の伝手もない。さらに先輩ミュージシャンとも繋がりがない奴は自粛が明けても対バンに呼ばれない。そんなライブなんて全然できない状況に悩んでいたWaaterと、その弟分のPsychoheadsと彼らが所属しているトランスイベントクルー〈XPEED〉のパーティーで出会ったんですよ。会ったときに「ライブハウスでライブしたいんですよね」って相談されたから、じゃあやろうって話になったんです。他に誰をブッキングするか考えていたときに出会ったのが、〈XPEED〉の客だったWOOZ。彼らのライブも見たかったからちょうどいいなと。でも、そのメンツじゃ〈XPEED〉のパーティーだから、ちょうど拠点を日本に移してきたGliiico(日系フィリピン人でバンクーバー出身の3人組)を呼んだんです。そいつらは前者と違ってチルなダンスチューンをやるんですけど、そのミックス具合が面白そうだなと。

Waater(左上)、Psychoheads(右上)、Gliiico(左下)、WOOZ(右下)

ライブ当日。音が鳴り出した瞬間から、もう最高。……いや、歌も演奏技術も決して上手いわけではないし、歌詞もほとんど聞き取れない。そんなライブなんだけど、その場に居た全員が楽しそうにしているんですよ。客はほとんど20代くらいかな。なんなら最前列はライブを終えた他の出演者ばっかりで、しかも超盛り上がって(笑)。将来に希望がぜんぜん満ちてないし、先が見えないし、金もねえし、そういう奴らが集まっている。でも、楽器鳴らしてなんか大騒ぎして、ステージに立って、この瞬間だけはスターになれる。それが、なんかよくわからないけどすごく美しいと感じたんですよ。すげぇアートだなって。

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そこにラッパーのkZmも見に来ていて絶賛してましたね。自分のイベントにも呼びたいからって出演者と連絡先を交換していて。クラブだとベロベロになっちゃうけど、ライブハウスだとシラフの関わり方があるのもなんか懐かしかったな。ライブの後、行けるやつは打ち上げに行ってボーリングしたり、バッティングセンター行ったり、みんな超楽しんでいましたね。GliiicoとPsychoheadsもめっちゃ仲良くなっていたし......それも含めてなんか祭りがふたたび来たなって感じました。久々に味わったキラキラとした夜だったなぁ。

最初に話したヤビクのアートがそうだったように、今回のライブをたまたま見ていた誰かの存在や、出演者どうしの交流で今後なにか起きる可能性だってある。そう考えると、どんなゴミみたいな環境にいたとしてもみんな何かつくったほうが良いと思うんですよ。それで作った人も、見た人も、みんなの心が満たされて世の中が回っていくのが理想じゃないっすかね。

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DOORS

オカモトレイジ(OKAMOTO'S)

ミュージシャン

1991年生まれ、東京都出身。同級生と結成したロックバンド・OKAMOTO'Sのドラマー。バンドで活動しながらも、DJやイベントオーガナイザー、モデルなど活動は多義に渡る。ジャンルレスで現代の様々なシーンが交わるエキシビジョンマッチイベント「YAGI」のキュレーションを担当する。10月14日から公開する映画『もっと超越した所へ。』に出演。本作ではじめての演技に挑戦する。

volume 03

祭り、ふたたび

古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。

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