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2024.11.27
【後編】都市の裏側に隠れた、自由を覗きに行こう / 連載「作家のB面」 Vol.28 SIDE CORE
Photo/Shiori Ikeno
Edit/Eisuke Onda
Illustration/sigo_kun
アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。
前編ではSIDE COREによる都市ツアーを取材。後編ではスタジオや各スポット、車内など、アーティスト自身が“移動”を繰り広げる中で聞いた「作品」と「都市」の関係性についてをお届け。自由へと踏み出すきっかけは、誰しもの日常の中にある。
「移動」から読み解くSIDE CORE作品
BKL STUDIOで後編の取材スタート
ーー前編ではBKL STUDIOの周辺の景色やスポットをいくつか案内してもらいました。みなさんの日常生活が作品に対して与えた影響を教えてください。
松下:そうですね。たとえば、大田市場には荷物の積み下ろしに使われる木製パレットがあります。あそこに行けば不要になったパレットがあることを今なら知っていますが、行く前はわからなかった。日常の移動で得た気づきに対して「あれ使えそうじゃない?」とか「これってどうなの??」という話は、それこそ昼ご飯の時間によくするよね?
大田市場で回収した不要木材を利用した作品《stranger’s storage》。自分たちがよく行く東京のエリアマップを立体的な地図にし、場所での記憶や感情などが収納されている作品。写真は2022年PARCELでの個展「patchwork my city」より。Photo:Yutaro Tagawa
高須:現在、ワタリウム美術館で展示している、湾曲させた単管パイプに球を流し込んで音を鳴らす作品《コンピューターとブルドーザーの為の時間》は、須田さんの鉄工所で作ってもらったしね。
ワタリウム美術館で2024年12月8日(日)まで開催してる「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット」。2階に展示されている《コンピューターとブルドーザーの為の時間》。Photo:大野隆介
西広:3階の映像作品もそうですよ。羽田空港近辺にトンネルがあるんですが、普段は車で通るトンネルを歩いて通ったんです。
高須:あのときも車で通ってるとき「ここのトンネルの壁、異常に汚い」みたいな会話からだったね。
西広:個人的に感じることとして、汚れていたりゴミが多く捨てられているような場所は管理する人がいない分、自由があるんじゃないかなと思います。
同じくワタリウムの3階に展示している映像作品《untitled》。トンネルの壁を人が肩を擦って歩くことで、蓄積した汚れの一部分を身体に移しながら形跡を残していく。アーティストのKINJOさんが協力で参加。Photo:大野隆介
高須:私が自由を感じるのは水辺。都市での自由な行動が制限されていく中で、水辺や湾岸部にはまだ自由が残されている気がします。
西広:湾岸でも観光地化されてきれいな散歩道になっているケースは都内に多く見受けられますよね。その点、京浜島はいい意味で手つかずなところが良さだったり。
松下:JANGO(高須)がいう水辺は、元来あらゆる階層の人が集まれる余白のある場所だよね。たとえば、路上生活している人の隣で釣りしている人や、ランニングしている人もいる。ヨットハーバーに高そうなヨットを乗り付ける人がいたり、もちろんグラフィティがあったり。昔の公園みたいな感じかな。ところが日本に今ある公園や広場は、どちらかというとより権威的な空間で、余白や自由ではなく秩序が存在している。その秩序を変化させることができる都市空間はどこにあるのか。それが僕たちの作品にある「都市空間における表現の拡張」で、京浜島エリアで日常を送る理由ともつながっているんだと思います。
前編の取材中、運河沿いで黒鯛を見る3人。松下さんは「普段通り慣れているはずの橋も、低い位置から見上げるだけで印象がだいぶ変わる」という
ーー居心地の良い距離感が存在する都市、京浜島。そういった魅力を感じる場所は都内では他にも思い当たりますか?
松下:たとえば墨田区にあるヒロセガイさんが主宰する京島駅(*1)周辺も魅力的な場所です。都市となると難しいけど、ピンポイントだと原宿のブロックハウス(*2)。小野寺(宏至)さんや伊藤(悠)さんとの緩やかな関係性はとても心地いいです。あとはワタリウム美術館もそう。たぶん僕たちはコミュニケーションが中心ではなく、作ることが中心にある空間に親近感を覚えるんだと思います。個人的な「情」だけで動かない関係性が重要ってことかも。人が好きだからではなく、コンテンツに応じて濃密なコミュニケーションが発生している感覚というか。
*1……渋谷区神宮前に位置し、水曜だけオープンするカレー屋、ギャラリー、ファッションブランドYANTORの店舗などを備える複合型スペース。オーナーは小野寺宏至、ギャラリーのディレクションやプロデュースを伊藤悠が務める。
*2......アーティストのヒロセガイが運営している、墨田区京島にある古民家でありオルタナティブスペース。多くのアーティストが訪れる場所。
高須:たしかにそうだよね。トーリー(松下)の話を聞いて、ワタリウム美術館館長の(和多利)恵津子さんが「昔は街に親近感があって人間と建物の仲が良かった」と言っていたのを思い出しました。今回の展覧会についても「青山周辺はだいぶ変わってきたけど、人と街の距離を取り戻すような展示だね」と言ってくれたのは嬉しかったです。
ワタリウムで開催中のSIDE COREの個展では建物の外にも作品を展示している。Photo:大野隆介
人がいない「暗部」で、自由を見た
渋谷川の暗渠でのパフォーマンス:10月に開催された都市型フェス「DEFOAMAT」より。Photo:Anna Miyoshi
ーー都市の解釈はそれこそ多様ですが、SIDE COREの作品は多数側がイメージする都市(たとえば人や建物で賑わいを見せる場所など)を感じさせないですよね。
松下:それは同じ都市でも人と違う道を通り、違う場所に行き、あえて夜中に歩いてみることで、自分たちが自由に行動できる空間や状況を探しているからです。なぜそんなことをするかというと、公共空間というのは本来誰がどこに行ってなにをしてもいいはずなのに、ルールに縛られてそれができなくなっているから、そうではない場所に意識を向けているんだと思います。
ーー今回の展覧会でも街歩きをしながら歴史やストリートアートを解説するツアー「night walk」を開催していました。どんなきっかけからはじまったんですか?
西広:たしか2016年頃ですかね。3人で街歩きしていることをトーリー(松下)さんが知り合いに話したら「面白そうだから連れて行ってほしい」と言われるようになって。それから「midnight walk」というプロジェクト名ができて、展覧会ごとにツアーするようになりました。たとえば外苑前ならここ、麻布だったらここという感じに、僕たちの中でスポットがある程度決まっています。そこを巡りつつ、街の変化に合わせて情報を常にアップデートするようにしています。
コロナ禍に誕生したオンライン型劇場THEATRE for ALLで鑑賞できる《MIDNIGHT WALK tour / TOKYO 2020》
高須:すごく単純な話だけど、移動と思考ってつながっていてリズムよく歩くことで脳が歩調に合わせて働きます。
松下:僕たちにとって街歩きはインプットでもあったけど、それ以上に人がいない夜中に街を歩いたりすることは楽しい遊びでした(笑)。それに徘徊という行為自体、都市における自由を獲得するための基本的な抵抗として、シチュアシオニスト・インターナショナルの理論においても定義されていますよね。
ーー作品やプロジェクトを発表するとき、大切にしていることはありますか?
松下:ストーリーテリング。鑑賞者自身が介入できる入り口を多く用意することは重要視しているかな。DIEGO(西広)はどう?
西広:作品が伝わってくれたらもちろん嬉しいけど、それよりも自分が面白いと思うものを作ることが大切って気持ちが強いかもしれないです。
高須:DIEGOはアイデンティティとしてグラフィティを大事にしなきゃって思っているのがよくわかる。グラフィティを通して面白いと思うことを意識的に大切にしてる。
松下:JANGO(高須)は社会問題の意識から物語を考えているでしょ。コレクティブなんだし、3人別々のレイヤーがあって当然だと思う。現代アートって一つの固有名詞に価値を付けていくために競い合う性質があると僕は思っていて、実際にも自分の名前をもっと出さなくちゃみたいな話ばかり。でも、そんなことより面白いことなのかどうかをそもそも問わなくちゃいけない。
高須:そうだね。「DEFOAMAT」(最近代官山で行われた音楽とアートを中心とした都市型フェス)でやった野焼きの場合だと、みんなで火を見ながら作品を作りたかったから、代官山で火を焚くためにどういう交渉をしてどんな手続きをすれば実現するかを考えていたかな。だってつい最近まで河原では焚き火したり、小学校には焼却炉があったから、自分たちが火の番をして、煙さえ出なければできるかなと。
24年10月に開催された都市型フェス「DEFOAMAT」では、渋谷川の暗渠(あんきょ)で土を採取し、代官山で野焼きするプロジェクト「RED EARTH ON RED FIRE」を発表した。写真右 Photo:Anna Miyoshi
渋谷川の土を使って野焼きしたやきもの
松下:周りはできないと感じるようなことでも、やってみたら意外と大丈夫だった経験が毎回必ずあるよね。僕たちの作品には看板や工事現場の道具などを使っていますが、ちゃんと話したら貸してくれることが多いんです。公共空間には自由がないと思考を停止せず、まず話してみたり、試してみるのは大切なこと。
ワタリウムの2階で展示している《東京の通り》は工事現場の道具をコラージュした作品で対面にあるカーライトに照らされて反射している。「よく見ると工事中のマークに個体差があって、それも面白いんです」とDIEGOさん。Photo:大野隆介
西広:こんなのができるんだって他の物作りする人にとってのサンプルになるような作品はけっこうあるんじゃないかな。
高須:スタジオもそうかも。このスタジオの場合は、人との関係性があってこそ成立してるけど、都心部に近い場所で広いスタジオが持てる可能性は0じゃないと知れば、制作の仕方も変化していくのかもしれない。
コロナ以降の世の中はより分断されて、今までより単純に人との距離や、コミュニティ同士の距離が遠くなったと感じます。だからこそ、自分たちはあまり勘ぐりすぎないようにしている。いろんな人と話したい。
若い世代が、新しいカウンターカルチャーの創造を追求している
ーーSIDE COREはアーティスト・コレクティブとしてこれまでに作品を発表してきました。一方で、キュレーション側としての動きも同時に行なっています。今後もどんな展開が待っているのか楽しみです。
松下:僕たちの視点と行動はストリートカルチャーや、現代アートなどいろんなものからの影響を受けています。もちろん、自分たちじゃなければ示せないビジョンがあって、やるからには新しいことに挑戦しながら実験性を示す必要だってあると思う。だから、“SIDE COREのオリジナリティ”を示すことよりもプロジェクトや作品の面白さの方が重要。たとえば僕たちは東京の地下空間でスケーターの森田貴宏さんとZ-FLEX JAPAN TEAMが主役となる映像作品(*3)を制作しましたが、次に同じロケーションで撮影した映像が今後出てきたとしてそれが模倣だということはありません。むしろ申請したら案外使える場所だから使ってほしいし、自分たちが思いつかなかったことを見たいです。
都市の地下空間をスケーターたちが滑走していく様子を撮影し、編集によって異なる空間同士を接続することで、一つの「巨大な地下都市」を作り出した作品。CCBTの協力によって、東京都のさまざまな機関に許可を得て撮影。登場するスケーターは、日本屈指のスケートビデオプロダクション”FESN”代表の森田貴宏とスケートチーム「Z-Flex」のメンバー嘉悦礼音、櫻井壱世。
松下:今までとは異なる方法で前進を示していくことが大切で、それが次の行動につながっていくし、次の世代にもつながっていくといいなと思います。必要であれば、自分たちの立場を“アーティスト“に固定しないで行動を起こせるようにしたいです。
西広:最近は若い世代と一緒に制作することも多くなり楽しいです。
松下:そうそう。プロジェクトを一緒にやっているアーティストチーム「TOKYO ZOMBIE」や高橋SHIONくんたちだね。小学生の頃から僕たちの展覧会に来てくれている子たちがアーティストになって、プロジェクトを一緒にやるようになってきました。社会に不平等があることを前提に、自分たちの自由を拡大していくんだって前向きな気持ちを若いときから持っているので、行動をともにすることでこっちが勉強できるところがあるくらいです。だから僕たちも人として、これからを頑張りたいなと。普段から都市を見ている人も「これは面白い」と思ってもらえることを一つでも多く作っていきたいです。
ーーこれからSIDE COREの活動がどのようにアートの中だけではなく、都市の中にも介入して、自由な広がりをみせていくのか楽しみです。今日はありがとうございました。
松下: ......、あ! そろそろ、ワタリウム美術館に向かわなきゃいけない時間だ。せっかくなんで、みなさんも一緒に遊びに行きましょうよ。
近所の保育園に子を迎え、ワタリウムへ向かう
訪れたのはワタリウムの地下にある書店でギャラリーのオン・サンデーズ。「ここオン・サンデーズは海外の貴重な本などをいち早く取り入れたお店なので、ちょうど展示もしていたのでどうしても最後に紹介したかったんです」と松下さん
ちょうどワタリウム地下のオン・サンデーズではDIEGOさんと宮入圭太さんの展示「SMALL FACTORY」の開催初日であった。*展示は現在終了
ワタリウム館長の和多利恵津子さんや展示初日に観に来てくれた友人たち。みんなで記念撮影。密着取材はこれにて終了!
Information
SIDE CORE 展| コンクリート・プラネット
SIDE COREの視点・行動・ストーリーテリングをキーワードに3つのテーマに分類した作品群を展示する。視点のセクションでは、主に路上のマテリアルを用いて、都市のサイクルをモデル化する立体作品の新作シリーズ。行動のセクションでは、都市の状況やサイクルの中に介入した行動/表現の映像・写真のドキュメント。そしてストーリーテリングのセクションでは、2023 年から継続したプロジェクト「under city」、東京の地下空間をスケートボードによって開拓していくプロジェクトの最新版を展示する。
◼︎会期
2024年8月12日(月・振休)〜12月8日(日)
◼︎開館時間
11:00〜19:00
◼︎休館日
月曜日
◼︎会場
ワタリウム美術館 + 屋外
公式サイトはこちら
ARTIST
SIDE CORE
アーティスト
2012年より活動開始したアーティストユニット。メンバーは高須咲恵、松下徹、西広太志。ストリートカルチャーの視点から公共空間を舞台にしたプロジェクトを展開する。路上でのアクションを通して、風景の見え方・在り方を変化させることを目的としている。野外での立体作品や壁画プロジェクトなどさまざまなメディアを用いた作品を発表。近年の展覧会に「百年後芸術祭」(2024年、千葉、木更津市/山武市)、「第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで⽣きてる」」(2024年、横浜市)、「山梨国際芸術祭八ヶ岳アート・エコロジー2023」(2023年、山梨)、「BAYSIDESTAND」(2023年、BLOCK HOUSE、東京)、「奥能登国際芸術祭2023」(2023年、石川、珠洲市)。
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