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2024.11.27

【前編】南東京に浮かぶ人口島で、自由につながる都市ツアー / 連載「作家のB面」 Vol.28 SIDE CORE

Text/Keisuke Honda
Photo/Shiori Ikeno
Edit/Eisuke Onda
Illustration/sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話を深掘りする。

JR品川駅から南に車を走らせること約30分。向かう先には、SIDE COREが運営するスタジオがある。今回は「都市」への視点を作品にするアーティスト・コレクティブの「日常」に同行することに。物作りを地盤にしたアーティフィシャルアイランド「京浜島」から、SIDE COREがガイドする都市ツアーのスタート。

INTERVIEW

ARToVILLAには2回目の登場となるSIDE CORE

ARToVILLAには2回目の登場となるSIDE CORE

INTERVIEW

アーティストが動き続けることで生まれる祝祭 /「祭り、ふたたび」SIDE COREインタビュー

  • #SIDE CORE #特集

二十八人目の作家
SIDE CORE

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高須 咲恵(JANGO)、松下 徹(トーリー)、西広 太志(DIEGO)を中心に、2012年に発足したアーティスト・コレクティブ。美術史や日本の歴史、都市空間のあり方をストリートアートの文脈から読み解いた作品を発表する。大田区京浜島でスタジオ「BKL STUDIO」を運営。

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SIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work tokyo_spiral junction》2022 森美術館 Photo:Natsuko Fukushima, Tokyo Art Beat

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ワタリウム美術館で開催した「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット - ワタリウム美術館」Photo:大野隆介

 

湾岸エリアにあるスタジオ

SIDE COREのメンバーの案内のもと拠点のある京浜島周辺を案内してもらった。主な解説は取材班のドライバーも担当してくれた松下徹さん

ーー今日は「都市」をテーマにいくつかのスポットを巡るということでスタジオに集合しました。これからどんな場所に向かうんですか?

松下:どこに行きましょうか(笑)。まずここに集まった理由は、B面というテーマでお話しするなら僕たちの日常を見せた方がいいかと思ったからです。このあとみんなで昼ご飯を食べに行き、そのあとはこのスタジオの大家である須田さんと話したり、近くのスポットを車で回ったり。普段僕たちが目にしている日常風景を案内しながら、最後は一緒に都心に出たいと思います。

まずは京浜島のスタジオに到着。外壁の巨大壁画は、ポーランドで活動するアーティストZBIOKによるもの

ーーでは、SIDE COREの日常に同行させてもらうということで。その前に、なぜ京浜島にスタジオを......?

松下:最初から京浜島にこだわっていたわけではなかったんです。活動の舞台こそ都心部が中心ですが、広くて自由に使えるスペースとなると都心部にスタジオを構えるのは条件的に難しくて。京浜島は羽田空港の開発と同時期に拡大化された工業団地なんですけど、都心部までのアクセスの良さに加えて人混みや高層ビルによる圧迫感がなくて開放的なところが気に入っています。

西広:大家の須田さんもこのスタジオのすぐ隣で鉄工所を営んでいたり、このスタジオの1階の半分は金属加工会社さんとシェアしていたり、人との関わり合いという点でも面白い場所ですね。

ちょうどスタジオではSIDE COREとともにスタジオを借りているアーティストのBIENが制作をしていた

ーーどこか下町風情というか、趣を感じます。

松下:須田さん含め、住民の方たちのおかげですね。以前は京浜島で「鉄工島フェス」という音楽・アートイベントが催されたこともあります。商工会のみなさんに協力してもらい、路上を封鎖して近隣の工場をステージにしました。このフェスを開始した背景には、漫画家の根本敬さんがこのスタジオの1階で完成させた巨大絵画《樹海》(*1)のお披露目があって。《樹海》はつい最近まで行われていた東京都現代美術館の「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」で展示されていましたし、雑誌『美術手帖』で連載していたルポ漫画『根本敬ゲルニカ計画』が単行本化されています。

*1…….特殊漫画家と名乗り、独特な作風が90年代のサブカルチャーシーンに大きな影響を与えた根本敬。彼が会田誠のアドバイスのもとピカソのゲルニカと同じサイズで描いたのが《樹海》。ちなみに高橋コレクション展ではSIDE COREやBIENなどの作品が飾られたゾーンの後にこの作品が展示されていた。

ーーなるほど! SIDE COREだけではなく、ほかのアーティストもここで作品制作が行えるんですね。

松下:日本国内はもちろん、海外から来るアーティストたちも使えるように考えて作っています。最近だと僕たち3人のほかに、BIEN、COOPTORiSがここを使う固定メンバーです。

西広:あと最近だと「ATAMI ART GRANT 2024」に作品を出展するためにサンフランシスコのTyler Graces Ormsbyという友達のアーティストが日本滞在中ここで制作していました。

展覧会ごとに出る木材は近くの公園に持っていくと、子供たちが焚き火や工作に使ってくれる

廃材を再利用した植物ポットはもちろんDIY。水を与える高須さん

 

お隣の大家さん、須田鉄工所を訪問

スタジオを出て大家でもある隣の須田鉄工所へ行き、須田さんに挨拶

ーー須田さん、こんにちは。須田さんとはこうやって頻繁に会う間柄なんですね。

松下:はい。スタジオにいると須田さんがお菓子を持ってきてくれたり、ご飯をご馳走してもらうこともあります。逆に僕たちは作品が売れたら須田さんにご馳走します(笑)。屋上の景色が素晴らしいので行ってみませんか。

須田鉄工所の屋上を使って撮影。須田さん曰く、「昔は周りになにもなくて富士山が見えるくらい見晴らしが良かった」のだそう

松下:島や河原の周辺に動物や植物を放置しにくる人が昔から多いみたいで、須田さんは捨て猫を見つけては病院に連れて行き、去勢手術をして面倒を見ていると聞きました。鉄工島フェスのときも須田さんには大変お世話になりました。では、ぼちぼち飯にしましょう。

須田さんの事務所を後にし、車で向かったのは大田市場の横丁内にある「三洋食堂」。店前で今日のおすすめを聞き、メニューをオーダー

ーー町の定食屋「三洋食堂」。みなさんが常連だということがお店の人との会話から漂ってきました(笑)。

松下:スタジオから近いので利用頻度は高いですね。市場内でもいくつかよく行くお店があって、ここ以外なら蒲田や大森、天王洲方面とか。大田市場は、今でこそ家電の街というイメージが強い秋葉原にあった神田青果市場が前身なんですよ。昼はこうして大体みんなで食べにきます。午前中から打ち合わせや制作で忙しいし、昼くらいは時間を作りたいなと(笑)。ごはんがてら、最近あったことや作品について話したりしています。

新鮮な海鮮を使った揚げ物や刺身が人気。写真はエビとホタテのフライ定食

ーー作品制作で多忙な時期はどうしても不規則な生活になったりしませんか?

高須:よくありますけど、子どもが生まれてからライフスタイルはけっこう変化しました。割と健康的になりました。

三洋食堂の店主と多くの注文をさばく素敵なお孫さんに写真を撮らせてもらった

 

京浜島を散策!

食事を済ませたあとに向かったのは、スタジオにほど近いとある橋の下

ーーこんなところにグラフィティ! 正直、意外というか......。

西広:僕たちが京浜島に来た2016年ごろはあんまりなかったと思います。渋谷のような都心に比べて人が少ないので、ゆっくり描けるし、安全とも言えます。時間があるときはこうやって京浜島の周辺を探索するようにしています。昔は空港に向かうモノレール沿いとか京急線沿いに大きなピースがたくさんあって、見るのを楽しみにしていました。数年前に、京浜島の入口にコンテナを積み上げて保管している場所があって、その一番上のコンテナに、スペインのグラフィティライターのスローアップが描かれているのを見つけてびっくりしたことがありました。写真を撮ってインスタのDMで彼に送ったら、なんとスペインで描いたもので、そのコンテナが偶然京浜島に積み上がっていたんです。やっぱり海や空港が近いので、海外とのつながりを感じることが多いです。

橋の下に描かれたグラフィティ

松下:都心とはまた違う場所の見方があって面白いんですよ。あとこの辺りは釣りをする人が多くて、中には誰もいない場所で釣りたいから立ち入り禁止のフェンスをむりやり切ってしまう人もいます。釣り人が開拓した抜け道がグラフィティライターのスポットとつながっているっていうのもなんだか妙な話ですよね。では、日も暮れちゃうので、次行きましょう!

羽田空港の滑走路の目の前へ。メンバー内で唯一釣りをする松下さんは、この近辺を釣竿持参で移動することもあるのだとか

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後編はこちら!

後編はこちら!

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【後編】都市の裏側に隠れた、自由を覗きに行こう / 連載「作家のB面」 Vol.28 SIDE CORE

  • #連載 #SIDE CORE

SIDE COREメンバーが「売店」と呼ぶスタジオ最寄りのスポット。時間がないときはここへ足を運んでさっと食事を済ませることも

ーー行く先々で、住民の方々とのフレンドリーな会話が印象的でした。

松下:この島では物作りが主な産業なので、僕たちがアーティストだからといって変に警戒されたり、「そんなことして食っていけるのか?」とか追求されたりしないんですよ。「へぇ、そういう物を作る仕事もあるのか」くらいに思ってくれる距離感がすごくちょうどいいというか。

ーー京浜島周辺のさまざまなスポットを巡ったわけですが、移動することやそこに費やす時間にはどんな意味がありますか?

松下:自分たちには京浜島と都心部を行き来、つまり移動する日常があります。移動とは、近代化がもたらした一つの特権で、好きなときに好きな場所に行けるという「自由につながる最低条件」みたいなものなんじゃないかなと。その中で、自分たちが生活する都市をどう捉えるか。都市は人が移動していくことによって空間もしくは状況が成立していると考えることもできると思うし、移動は僕たちに限ったことではなくて大勢に対して言えることだから.......、立ち話もなんなので続きはスタジオで話しましょうか。

気になるSIDE COREの「移動」トーク。後編では、これまでの作品を踏まえながらさらに「都市」へと踏み込んでいきます!

Information

SIDE CORE 展| コンクリート・プラネット

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SIDE COREの視点・行動・ストーリーテリングをキーワードに3つのテーマに分類した作品群を展示する。視点のセクションでは、主に路上のマテリアルを用いて、都市のサイクルをモデル化する立体作品の新作シリーズ。行動のセクションでは、都市の状況やサイクルの中に介入した行動/表現の映像・写真のドキュメント。そしてストーリーテリングのセクションでは、2023 年から継続したプロジェクト「under city」、東京の地下空間をスケートボードによって開拓していくプロジェクトの最新版を展示する。

◼︎会期
2024年8月12日(月・振休)〜12月8日(日)
◼︎開館時間
11:00〜19:00
◼︎休館日
月曜日
◼︎会場
ワタリウム美術館 + 屋外

公式サイトはこちら

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ARTIST

SIDE CORE

アーティスト

2012年より活動開始したアーティストユニット。メンバーは高須咲恵、松下徹、西広太志。ストリートカルチャーの視点から公共空間を舞台にしたプロジェクトを展開する。路上でのアクションを通して、風景の見え方・在り方を変化させることを目的としている。野外での立体作品や壁画プロジェクトなどさまざまなメディアを用いた作品を発表。近年の展覧会に「百年後芸術祭」(2024年、千葉、木更津市/山武市)、「第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで⽣きてる」」(2024年、横浜市)、「山梨国際芸術祭八ヶ岳アート・エコロジー2023」(2023年、山梨)、「BAYSIDESTAND」(2023年、BLOCK HOUSE、東京)、「奥能登国際芸術祭2023」(2023年、石川、珠洲市)。

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