• ARTICLES
  • アーティスト 國久真有 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.34

SERIES

2025.02.26

アーティスト 國久真有 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.34

Photo / Shin Hamada
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は作家自身の身体を軸にコンパスのように円弧を描いていく「WIT-WIT」シリーズなどを制作する國久真有さんのルーツに迫る。

SERIES

アーティスト 寺尾瑠生 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.33 はこちら!

アーティスト 寺尾瑠生 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.33 はこちら!

SERIES

アーティスト 寺尾瑠生 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.33

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:國久真有

1983年大阪府生まれ。2003年ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校ファウンデーション・ディプロマ・イン・アート・アンド・デザインコース修了。2015年神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科芸術工学専攻博士後期課程満期退学。 近年の個展に2022年「國久真有―絵画を生きる」(西脇市岡之山美術館、兵庫)、同年「THE BUTTERFLY DREAM」(SOKYO ATSUMI、東京)、2024年「令和4年度咲くやこの花賞美術部門受賞記念展示『PLATEAM -儚さと無我を愛する、ぐるぐる-』」(クリエイティブセンター大阪、大阪)、グループ展に2019年「六甲ミーツ・アート芸術散歩2019」(六甲、兵庫)、2020年「fの冒険~7人のアーティストによる平面表現の魅力~」(あまらぶアートラボ「A-Lab」、兵庫)、2024年「川崎市市制100周年記念展 芸術は、自由の実験室─夏のアートキャンプ」(川崎市岡本太郎美術館)など多数。2019年に第22回岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞、2022年に令和4年度咲くやこの花賞 美術部門(現代美術)を受賞。

RE001_identity34_mayu-kunihisa

《WIT-WIT HOLE WIDE LONG BLACK》(2025/アクリル絵の具、キャンバス/H300 × W1000 × D3.5 cm) 撮影:田中 美句登

 

RE002_identity34_mayu-kunihisa正面《WIT-WIT HOLE WIDE LONG PLATEAU》 (2024/アクリル絵の具、キャンバス / H300×W1941.6×D3.5cm)、下《WIT-WIT HOLE WIDE LONG - Live painting -》 (2025/アクリル絵の具、キャンバス / H300×W1000×D3.5cm) 撮影:田中 美句登


003_identity34_mayu-kunihisa
《WIT-WIT HOLE WIDE LONG PLATEAU》 (2024/アクリル絵の具、キャンバス / H300×W1941.6×D3.5cm)   ©佐藤克秋 画像提供:川崎市岡本太郎美術館

 

tony_pic

國久真有さんに質問です。(とに〜)

今回のゲストは画家の國久真有さん。自身の身体を軸にして、腕のストロークと遠心力を利用してコンパスのように円弧を描き重ねていく。そんな独自のスタイルで制作を続けるアーティストです。川崎市岡本太郎美術館での公開制作中にご本人とお会いしましたが、作品のダイナミックな印象とは対照的に、どちらかといえば小柄な方であることに驚かされました(僕の中で勝手に筋骨隆々の人物像をイメージしていました。それも、利き腕だけ太い)。この身体からあれほどの大作が生み出されているだなんて! あの時は、興味津々でいろいろ質問してしまいましたっけ。結果2時間くらいお話していたような(笑)。まだまだ興味が尽きないので、今回も質問に付き合って頂けましたら幸いです。


Q01. 作家を目指したきっかけは?

身体に合っていたため。

高校でインテリアデザインを学び、卒業後はファッションを学ぶためにロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校に入学した國久さん。「課題でいろいろな美術館に行って、たくさんのコンテンポラリーアートを観ました。血液で作った彫刻があったり、オイルを流したプールみたいな作品があったり、美術館の中ではアーティストが作品を通して“僕はこういうふうに生きているんだ!”って考えを発表し合う会議のようで、アートっていいなって思いました。自分もファインアートをやってみたくなりました」。それからファッションから彫刻コースへと舵を切り、卒業して帰国すると神戸芸術工科大学に入学、絵画制作をスタートさせた。

Q02. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

物事を上手くこなしていたなら、デザイナー。

 

Q03. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

バーネット・ニューマンの絵。高校の多様で自由な友だち。ロンドンでの生活。

「ロンドン時代、バーネット・ニューマンの絵に出合いました。今まで絵画をあんまり上手く観ることができなかったのですが、ニューマンの絵と対峙した瞬間、樹海に囲まれたようなイメージにつつまれたんです。その絵は大きくて真ん中に線が描いてあるだけなんですけど、そこから空間がブワーッと広がったように伝わった気がして、平面の中から空間を想像するような体験に衝撃を受けました」


Q04. 職業病だなぁと思うことは?

四六時中絵のことやその周辺について考えている。

「大学の学部時代は、学内に落ちていた大量の石や立体物、廃材、ポスターの裏に絵を描いていました。卒業制作(写真)は一辺7メートルの立方体の家のような作品に(笑)。自分では絵画だと思って制作していたんですが伝わりにくかった様に思います。修士課程へ入る時、作品を言葉にする必要がありました。

007_identity34_mayu-kunihisa

この作品を言葉にすると、外側が真っ赤っかで印象的であり、建物の中に入ると母体につつまれた様な感覚になる。この言葉から、2002年にテートモダンで見たバーネットニューマンの作品を思い出しました。ニューマンの絵を観たときの感覚や感想とすごく似ている!って。こんなに大掛かりな設営をしなくても、平面絵画で叶うのだ…..と。そこには、四角形という秘密があるのではないか。四角形の秘密を知りたくて、修士課程のときにはずっと四角いキャンバスと向き合っていました」

008_identity34_mayu-kunihisa

「赤瀬川原平の本を読むとマンモスの時代から四角形があったとか。四角形は一番抽象度が高くて、没入感がある形です。たとえば丸いキャンバスの絵は、真っ先に“丸いな”って印象を受けるけど、四角形だとキャンバスに描かれた絵がまず印象に残りますよね。私たちは生まれた時から、四角形でおおわれた家で生活していて、それだけ馴染みがある形だから自然と受け入れられるのかなと。そんなことを考えていたら、今度は食パンが気になり出しました。パンってだいたい丸いのになんであいつだけ四角いんやろって(笑)。調べたら戦争が関係しているみたいで、戦時下、効率的にパンを輸送するために四角くなったらしい。……何が言いたいかっていうと、いろいろと疑っていくことも大切にしています」

Q05. 自身の身体をコンパスのようにして描くその独特なスタイルが生まれたきっかけは何ですか?

自分が出来る絵を描きたかったため。

アトリエにあった「WIT WIT」シリーズの《BLACK STROKE》(2024)。「描いていて後々にベトナムのサパの棚の風景を見たことが後押しとなって、制作した作品だと気がつきました」

「どうやったら自分らしい絵が描けるかなって考えていたとき、一番素直に描く方法が良いかなと思いました。それには、自分が居なくなるくらいに、自分になるのが良いのかと思いました。記号表現と呼ばれるような、モチーフは、花、魚、など、繰り返し繰り返し描いていました。自分を無くすと言うことは、無心に、何も考えないで描くのですが、その記号表現的な作画は、ジェリービーンズのような形をしたものになっていきました。

無心で描いているけれども、それは何を意味するのかと考えていたところ、ある時、サハラ砂漠の写真をネットで見つけました。その、砂の波紋と自分が繰り返し描いていたジェリービーンズの形が似ているなと思い、サハラ砂漠に見に行くことにしました。2週間の滞在では、朝陽と共にサハラへスケッチに出かけました。昼間は暑く、宿へ戻り、星空が綺麗に見えるまで、毎日スケッチをしていました。

また、絵画の秘密や要素を探るため、カナリア諸島、フェズの旧市街地等へ訪れ、立体作品、映像作品、ミクストメディア作品として昇華し、絵画の空間に迫る秘密を見ていきました。ある日、絵を描こうと、キャンバスに向かうと、真っ直ぐに線が引かれました。息をするように、やっと息が通った気持ちでした。すると、キャンバス外の、線の続きはどうなっているのだろうと気になり、工房の駐車場に10mのキャンバスを広げ、身体に沿うように、描いていきました。そこで、線の痕跡を脚立から眺めると、キャンバスには円がたくさん描かれており、私の身体は円を持っているんだと知ることができました。そこからこのシリーズの絵が始まっていきます」


Q06. 1枚の作品を完成させるのに、平均してどれくらいの時間がかかりますか?

サイズにもよりますが、リサーチを含めると数年から数ヶ月かかります。実際にキャンバスに描く事自体は早いと思います。

 

Q07. 1枚の作品を完成させるのに、平均して何色くらい使用していますか? 使う色はどうやって決めていますか?

4色から何百色と使う時もあります。サイズもいろいろなので、1色描いて長年置いている作品もあります。
その時に好きな色を購入して、その時に好きな色を選んで描きます。リサーチに行ける時に行っているので、帰って来た直後は、直前のリサーチでの事が色に反映されている場合が多いです。違う場合もあります。

「よく自然をお手本にして絵を描きます。やっぱり自然には敵わないなって思うところがあるんです。白い色を見るために南米に行ったこともありましたね。ウユニ塩湖とか南半球の光の質感をたしかめたくて巡りました」

Q08. どうなった時に、自分の中で作品が完成したと思えますか?

特に小さい作品は難しい場合が多いのですが、わからない時は放置しています。大作はだいたい終わりがわかります。これなら立てて見たいなと思うからです。


Q09. ここ最近、目を丸くしたしたことを教えてください。

時よ戻れ、と思った瞬間がありました。目がちょっと丸くなってたかもしれないです。足をハブに咬まれたので驚きました。
その前に驚いた事を越えたと思います。身体には気をつけたいです。

 

Q10. 「実はこう見えて私○○なんです」。この場を借りてカミングアウトをよろしくお願いいたします。

効率主義。

國久さんの1日の頭のなかをグラフ化してみた図。生活のなかにやはり「色」が根ざしている


Q11. 三千円あったら何に使いますか?

絵の具を買う。

 

Q12. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

天井が高く、3mの木材が立てられること。

「自分は色がすごく好きなんですけど、選ぶときは感覚です。自分にも分からないですが、最近は青を使って描いてましたね。1週間くらい前に宮古島に行って、その時に見た海から影響を受けたのかもしれません」


Q13.
 自分の作品に対する感想で、特に印象に残っているものがあれば教えてください。

空白部分についていろいろ話してくださる事があるのですが、神の領域、や、宇宙空間だという感想です。
描かない部分について話してくださるのは楽しいです。

 

Q14. これから実現させたい野望があれば教えてください。

砂漠に絵を展示したいです。

「誰かが私の絵を観たときに、“気持ちいいな”って思ってもらえるような。そんな絵ができたら完成かなって」

Q15. 世の中にある丸いものの中で一番好きなものは何ですか?

あらゆる初めの粒。

さすが色にこだわりの強い國久さん。アンケートの回答用紙が過去一カラフル。卒業文集の寄せ書きページを思い出してしまいました(笑)。
と、それはさておき。身体の動きから生まれた円弧をひたすら重ねたもので、特に山や森、海といった具体的なモチーフを描いているわけではないのに。國久さんの作品と向き合うと、そこに自然を感じることが何度もあり、かねがね不思議に思っていたのです。サハラ砂漠やウユニ塩湖など、世界中の大自然を巡られていたと知って、腑に落ちるものがありました。作品にそれらで実際に経験したことが投影されていたのですね。これからも國久さんの作品を通じて、いろいろな自然を追体験させてくださいませ。くれぐれもハブにはお気をつけて。(とに~)

Information
『アートフェア東京』

■会期
3月7日(金)~9日(日)11:00~19:00 
※最終日の9日(日)のみ17:00まで 

■会場
東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1

出展ブース:C001
出展作家:江上越、國久真有、杉田万智、鈴木ヒラク、長島伊織、古川みさき(五十音順)

■入場料

1DAYチケットB(前売チケット): 4,000円(税込) ※3/6まで販売
1DAYチケットC(当日チケット): 5,000円(税込)
※小学生以下は、大人同伴に限り入場無料

アートフェア東京のHPはこちら
Artglorieux GALLERY OF TOKYOの出展作品に関するお問い合わせはこちら

artist-identity_bnr

 

ARTIST

國久真有

アーティスト

1983年大阪府生まれ。2003年ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校ファウンデーション・ディプロマ・イン・アート・アンド・デザインコース修了。2015年神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科芸術工学専攻博士後期課程満期退学。 近年の個展に2022年「國久真有―絵画を生きる」(西脇市岡之山美術館、兵庫)、同年「THE BUTTERFLY DREAM」(SOKYO ATSUMI、東京)、2024年「令和4年度咲くやこの花賞美術部門受賞記念展示『PLATEAM -儚さと無我を愛する、ぐるぐる-』」(クリエイティブセンター大阪、大阪)、グループ展に2019年「六甲ミーツ・アート芸術散歩2019」(六甲、兵庫)、2020年「fの冒険~7人のアーティストによる平面表現の魅力~」(あまらぶアートラボ「A-Lab」、兵庫)、2024年「川崎市市制100周年記念展 芸術は、自由の実験室─夏のアートキャンプ」(川崎市岡本太郎美術館)など多数。2019年に第22回岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞、2022年に令和4年度咲くやこの花賞 美術部門(現代美術)を受賞。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

新着記事 New articles

more

アートを楽しむ視点を増やす。
記事・イベント情報をお届け!

友だち追加