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2023.02.03
美術館は変わり続けている? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.10
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata
19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。2022年2月からは大好きなフランスに留学中で、古典絵画から歴史的建築、現代アートまで、日常的にさまざまなカルチャーに触れているようです。
そんな和田さんと、Vol.10から3回にわたってお話しするテーマは「変わりゆく美術館」。1793年のパリのルーブル美術館の設立が近代美術館の始まりだとすると、美術館は、2023年の今日まで、世界情勢や人々の価値観とともに様々なアップデートを試みてきました。絵画や彫刻にかぎらず、映像作品やインスタレーション、参加型アートなどの多種多様な作品が展示されるようになり、時にはワークショップやディカッションを行う場として機能していることからも、美術館の大きな変化がわかります。
「和田彩花のHow to become the DOORS」は、今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに紐解いていく連載シリーズ。 Vol.10は、キュレーターの難波祐子(なんば・さちこ)さんをゲストに迎えて、特に美術館のあり方に大きな影響を与えた「参加型アート」について歴史的観点からお話ししていきます。
美術館に背を向け、街に飛び出したアーティストたち
和田:本来美術館は「芸術作品を静かに鑑賞する場所」という前提があり、絵画や彫刻などの静的な作品しか飾られない時代も長かったと思います。今日では、本当に多種多様なアートを美術館で目にするようになりましたが、いつ頃から絵画や彫刻以外の芸術作品が登場したのでしょうか?
難波:1950年代頃までは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)などが中心となって、20世紀のアメリカ美術を圧倒的な影響力を持って国内外に紹介していました。1960年代に入って、そういう権威主義的な美術館や、商業主義のシステムにのっとって作品を売買する商業画廊を批判するような表現活動をアーティストたちが行うようになっていきました。
和田彩花さん、難波祐子さん(Photo by Kenichi Aikawa)
和田:なるほど。むしろ美術館の中では発表できないような表現や、取引の対象にならないような表現をしたいという挑戦的なアーティストが増えてきたんですね。
難波:そうなんです。1960〜70年代はベトナム戦争などをきっかけに、世界各地で色々な反戦運動や体制批判が起こった時代だったので、当時は世界全体で大きなエネルギーが渦巻いていたのだと思います。日本でも安保闘争などの学生運動やデモが起こるなど、権威主義・商業主義といった既存のシステムに対抗していくような時代の流れがありました。
和田:当時のアーティストは、具体的にどのようなアクションを起こしたんですか?
難波:特に1960〜70年代は、美術館の外に出て、街中でゲリラ的にパフォーマンスをしたりとか、即興でインスタレーションを作ってみたりとか、実験的に一過性の作品を作るアーティストが世界各地で登場しました。例えば日本では、高松次郎さん、赤瀬川原平さん、中西夏之さんの3名が1963年に結成した「ハイレッド・センター」という前衛芸術家集団が、東京オリンピックがあった1964年に、銀座の路上を全身白衣で清掃する《首都圏清掃整理促進運動》というパフォーマンスをしています。
またアメリカでは、ゴードン・マッタ=クラークというアーティストが、郊外の一軒家をチェーンソーで真っ二つに切断してアートとして見せたり、ニューヨーク・マンハッタンのSoHo地区で「フード」というレストランを運営したりしていました。「フード」ではアーティストが日替わりでシェフになり、いろんなメニューを提供するのですが、単なるレストランではなく、アーティストをはじめ当時の文化人たちが集ってコミュニケーションを楽しむための、場作りとしてのアートでした。
和田:美術館での展示が絶対ではなくなった途端、一気に食事を取り入れたアートまで登場するなんて、まさに激動の時代ですね。
「いま・ここ」を分かち合える参加型アート
和田:やはり絵画や彫刻のように一方的に見て感じて終わりなのではなく、時間や体験を共有することが参加型の作品の醍醐味なのでしょうか?
難波:まさにおっしゃる通りです。場作りとしての参加型アートは、背景が異なる一人ひとりの体験をシェアしながら、日々の生活では気づかなかったような新しい発見をもたらしてくれます。最初は美術館の外でしか行われなかったような実験的な表現も、今では美術館の中でも展開されるようになっています。
和田:ずっと権威主義・商業主義的だった美術館が、取引も展示もやりづらい作品を迎え入れるようになったのはなぜなのでしょうか?
難波:いろんな理由がありますが、一番大きい理由は、東西冷戦が終わりベルリンの壁が崩壊したことだと思います。1989年にベルリンの壁が崩壊し、資本主義などの絶対的な体制や、それまで人々が信じてきた価値観が一気に崩れる中で、美術館自体も社会に開かれた場所を目指すようになっていきました。またアーティストの側も大きな権力に争うような体制批判ではなくて、自らの日常に寄り添った事象を作品に反映したり、人々の参加を促すような表現活動にシフトしていきました。美術館側の思いと、美術館の外で活動していたアーティストの思いが、二つ巴のように交わっていったんです。
和田:最初は美術館への反抗として、美術館の外で行われていたパフォーマンスやインスタレーション、参加型アートが、結果的に美術館の中と外を繋ぐことになったんですね。
一方で、先ほど例にあがったゴードン・マッタ=クラークの建築の作品などは、美術館内での展示となると、エネルギッシュで型破りなオーラの再現が難しそうです。個人的には、昨年森美術館で開催されたChim↑Pomの回顧展の記録写真を見たときにも、パフォーマンスやインスタレーションなど一過性の強い作品の再現の難しさを感じました。
難波:そうですね。美術館側も、Chim↑Pomのように既存の枠をはみ出すことを重要としているアーティストを美術館で扱う矛盾については、自問自答を繰り返してきたと思います。どうすればChim↑Pomのようなアーティストが、美術館という場所性を逆手にとって活用できるのか、すごく考えたのではないでしょうか。
和田:ごちゃごちゃとした新宿・歌舞伎町を舞台にした作品が六本木の森美術館で展示されるという企画自体はとても面白かったですが、リアルタイムでChim↑Pomの作品を見てきたファンとしては、美術館の中に展示するのはあくまでも再現にとどまるということに気付かされました。一過性が強い作品などは、美術館展示の際に、その背景にあるジレンマや調整のプロセスを想像するのも面白いですね。
アートを通じた新しい対話、人とのかかわり
和田:アーティストというと、漠然とアトリエに籠って黙々と制作しているようなイメージがありましたが、今日の難波さんのお話を通じて、アーティストも交流の場を求めていることがわかり、少し身近に感じられて嬉しいです。私も普段アートやフェミニズムについて学び合うコミュニティでお話をしたり、イベントに参加することがあり、そのたびに家族や友達とはまた別のところで繋がることの温かさを感じています。
難波:それはよかったです! 和田さんが参加されているようなプロジェクトのようにジェンダーやフェミニズムといった社会課題をアートやディスカッションを通じて考えるような取り組みは、近年、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」という一種の参加型アートの手法として、盛んに取り入れられています。2000年代以降のアートは、人類学や医学、科学など、異なる分野と領域横断的にコラボレーションする動きが一つのトレンドになっているんですよ。
和田:なるほど! 参加型アートというと、チームラボなどのインタラクティブなメディアアートのイメージが強いですが、今までになかった新しいコミュニティを作っていくのも、また別の参加型アートなんですね。
難波:様々な参加型アートや、その展示のプロセスにも興味を持っていただけたということで、次回は過去に私がキュレーションした参加型・体感型アートの展覧会「こどものにわ」についてお話ししていきたいと思います。
和田:ありがとうございます。次回も楽しみにしています!
連載『和田彩花のHow to become the DOORS』
アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。
DOORS
和田彩花
アイドル
アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。 「LOLOET」HPはこちらTwitterはこちらInstagramはこちら YouTubeはこちら 「SOEAR」YouTubeはこちら
GUEST
難波祐子
キュレーター
弘前れんが倉庫美術館アジャンクト・キュレーター。東京藝術大学キュレーション教育研究センター特任准教授。東京都現代美術館を経て、国内外での展覧会企画に関わる。著書に『現代美術キュレーター・ハンドブック』『現代美術キュレーターという仕事』〔ともに青弓社〕など。企画した主な展覧会に「こどものにわ」(2010, 東京都現代美術館)、「呼吸する環礁:モルディブ-日本現代美術展」(2012, モルディブ国立美術館、マレ)、「坂本龍一:seeing sound, hearing time」〔2021, M WOODS Museum | 木木美術館、北京〕など。
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