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INTERVIEW
2024.11.22
ロクロから生み出される記憶のパーツ / 陶作家・酒井智也がマンガから得た創作の宇宙
Text & Edit / Daisuke Watanuki
ARToVILLAでは2024年12月12日(木)から23日(月)まで、東京・池尻大橋のOFS GALLERYにて「ARToVILLA MARKET vol.3 ―読んで 創って また読んで」を開催します。今回は「マンガ」をキーワードに、アートとの新しい出会いをお届けします。
私たちにとって身近なカルチャーである「マンガ」。読んで感情を強く揺さぶられることもあれば、新たな気づきを得ることもある。マンガは、私たち一人ひとりの人生に大きな影響を与える存在です。それはアーティストにとっても同じこと。今回のARToVILLA MARKETの出展作家は、全員が創作の背景にマンガの影響がある作家たち。
出展作家のひとりである、酒井智也さんは、マンガやアニメ、アイドルといった推し文化などさまざまな要素を受け入れ、独自の発展を遂げる日本の現代文化を背景に陶芸作品を手掛けています。陶芸の道を志したきっかけや、幼い頃から慣れ親しんできたというマンガからの影響、現在の作風に至った経緯をお話しいただきました。
後悔しない生き方を模索して陶芸の道へ
──酒井さんが陶芸に出会った経緯から教えてください。
子どもの頃から絵画教室に通うほど絵画が好きで、ものづくりにも興味がありました。しかしその道に進むことなく、高校を卒業して自動車部品の工場に就職。旋盤を使った業務を担当し、部品を形成していました。転機は就職して2年目、自分と似た境遇の友人が亡くなったこと。「自分も明日には死ぬかもしれない」と感じるようになり、後悔のない生き方をしようと決めました。大学進学よりもはやく安定したい気持ちで就職しましたが、退職し、名古屋芸術大学へ進学しました。
専攻のなかで選んだのが陶芸です。絵画はずっと描いていた分、自分の才能に限界も感じていました。焼き物は、自分の限界に対して、焼く作業を加えることで思っていた以上のものが出来上がる可能性がある。自分の殻を破れる予感がしました。
昨年の4月に新しいアトリエ兼工房が完成。1階が工房スペース
ロクロを触ったときに、自動車工場のパーツづくりの旋盤の作業を思い出しました。回転させながら削ることで部品を作っていましたが、当時から回転体に惹かれていて、出来上がった小さな部品から広大な宇宙を想像したりしていました。
自動車部品工場で働いていたときに制作していたパーツの一部
ただ、機械の作業は同じ製品を正しく作ることが求められますが、陶芸のロクロはそうではない。自分の感覚、感情が手を通してダイレクトに表現されます。ロクロで粘土を形成していたとき、自分の深い記憶の断片や感情が回転体に入り込んだ気がして、その感覚に面白みを感じました。
──そこから作家の道へ進まれたんですね。
実は大学を出てから特別支援学校の教員として美術を教えていました。ただ陶芸は大好きで、家に工房を作って土日に制作していたんです。やはり本気で陶芸をしたいと思い、多治見市の意匠研究所で改めて陶芸を学び、独立しました。大学の頃は伝統工芸のような大きな鉢や器を制作していました。独立後、生計を立てるために実用的な器を作っていたのですが、まったく売れませんでした(笑)。そこで挑戦したのが、今まで作った細かなパーツを組み合わせた作品。古墳時代の「須恵器」には複数の器を組み合わせたものがあり、それらは儀式などで用いられたとされています。僕の作品も、組み合わせによりアート化できるのではないかと思ったことで今のスタイルにたどり着きました。
──パーツづくりから作品になる過程をもう少し詳しく伺いたいです。
まずはロクロで無意識に思い浮かんだパーツ部分をどんどん形成します。それらはたとえば子どもの頃にみたマンガやアニメから、自分の個人的な記憶まで、頭の中のイメージを抽象化したものを形にしています。それらを組み合わせることで、新たなものが出来上がるんです。
窯入れ前の作品を乾燥中
家に500冊! 身近な存在だったマンガ
──イメージの断片として、マンガというお話もありました。マンガはいつからお好きなんですか?
家族が好きで、家に500冊くらいあったんです。『YAWARA!』をはじめとするスポ根系から『幽☆遊☆白書』『るろうに剣心』『ガラスの仮面』まで、日常的にマンガを読んでいました。さらに土日になると家族でオープンスペースの漫画喫茶に行くのがお決まりの過ごし方だったので、本当に生活に根付いているものでした。
──特に記憶に残っている作品はありますか?
高橋よしひろ先生の『銀牙 -流れ星 銀-』です。週刊少年ジャンプに連載されていた動物マンガで、幼くして巨大な敵に向かう運命を持った熊犬・銀の冒険熱血青春ドラマを描いたもの。凶暴な人喰い熊と戦う作品で、夢中になって読んでいました。
写真は続編の『銀牙伝説WEED』
──どういうところに惹かれましたか?
人間にとって犬ってわりと身近じゃないですか。物語は犬同士の会話を人間の言葉に置き換えているので、感情移入もしやすいつくりになっていました。犬たちは普通に喋りながら群れで結束して、宿敵である強い熊に立ち向かいます。描写はとてもリアルで怖く、子供なりにゾクゾクとする感覚を楽しめました。近年は市街地周辺にも恒常的にアーバンベアが出没していますよね。この作品に触れていたからか、そういうニュースも気になっています。なんでこんなに熊に興味を持ってしまうのかと自分でも思うのですが、熊に食べられる行為が気になっているのだと思います。人間の一番怖い死に方を想像したときに、 自分は交通事故や病気ではなく、熊に襲われることだと思いました。人間は日頃からほかの生物に捕食されることはないですよね。 そう思うと、熊に食べられるのは一番恐ろしい。
──さきほどご友人の死の話もありました。死のイメージが酒井さんに何かしら影響を与えていそうですね。
とにかく死が恐ろしい。僕の場合、作家活動も死への抵抗みたいな感じがあります。要は作家活動って、自分というものを世の中に提示して、言葉じゃなくて本質的なところを理解してもらい、それを受け入れてもらうことだと思っています。それは自分の生きた証拠を残す作業でもあるんです。
──ほかに気になった作品はありますか?
日頃からたくさんマンガやアニメを見ているので、限定するように作品を挙げるとそこに自分の人間性を見出されてしまいそうでソワソワしてしまうのですが(笑)、羽海野チカ先生の『ハチミツとクローバー』は美大の話として面白く読みました。美大が身近になり、そこで新しい世界が待っているというイメージが湧き、自分が美大に進む際の後押しになってくれた作品です。
「ここまで学部が違う人同士が仲良くなるのはまれですが、美大あるあるが多い作品でした」
もう1冊は大学時代に読んだ浅野いにお先生の『おやすみプンプン』。精神安定には向かないマンガですが、自分の暗い部分と共鳴する描写がたくさんあって惹かれました。特に主人公が鳥の形をしているところに感動。人間をここまで抽象化させつつ、感情はしっかり表現されていて、ストーリーも違和感なく読み進められる。ちょっとシュールで、でも人には言えないような暗いポイントもあるあるのように出てくる。リアルな現実世界とリンクできるような作品でハマりました。
「大学時代は特に浅野先生のマンガに救われていた気がします」
作品をどう見るかによって人のルーツが見えてくる
──作品制作をする上で、マンガやアニメからはどのような影響を受けてきましたか?
自分の記憶を思い出すときはいつも、記憶を2次元に変換して思い描いてるんです。立体的な3次元ではなくて、写真や映像として捉えるようなイメージです。その2次元のイメージを回転体のアウトラインにピタッとリンクさせることで作品を制作しているところがあります。作品を作るときはもちろん360度で見えるんですけど、すごく裏表のしっかりあるような感覚で作っていて、それはマンガやアニメという2次元表現で育った影響かなと思います。
──マンガやアニメの記憶が抽象化されたパーツもあるんですよね。
生み出すパーツは、人から見たら見たことがあるような無いような抽象化されたものですが、その記憶が100%自分のオリジナルとは言い難いと思います。人の記憶は目にしたもの、聞いたものなど、さまざまな影響がある。そこにマンガやアニメの記憶が入っていないとは言い切れないでしょうね。そして、無意識的に生み出したパーツを意識的に触ることで、抽象と具象の間、意識と無意識の間のようなものを制作することで、作品は他者とも共有できる記憶の塊になっていくんです。鑑賞者は僕の作品から固有の記憶を蘇らせてしまうこともある。相手が僕の作品をどう見るかによって、その人のルーツが見えてくることがあると思っています。
たとえば、日本人であれば僕のとある作品をみて「ポケモンに見える」と感じるかもしれない。でも、ポケモンを知らない人は別のなにかに見えるかもしれない。それを自覚することによって、自分のルーツを探してほしいと思っています。無意識的な記憶のパーツを組み合わせると意識的になり、色彩も含めるといろんな微妙な記憶がMIXされる。完成されたものをみて、鑑賞者は想像力を掻き立て、自分の持つ記憶と照らし合わせて鑑賞することになります。
「穴を2つ開ければ、それが目に見えてしまう人もいる。みんな、記憶から眼の前にあるものが何かを推測するんです」と酒井さん
──芸術とポップカルチャーは対局で語られることもありますが、一方を軽視することなく作品づくりをしている姿勢に好感を持ちました。
自分が今の社会とつながる意識を持ったときに、ポップカルチャーはすぐ傍にあったものなので、それを通した表現をすることは必然だと思っています。逆にまったく影響を受けていないと言ってしまうことに、不自然な感覚を覚えてしまいます。
新作の「SPIRIT series」。アトリエの壁には酒井さんとともに12月のARToVILLA MARKETに参加する星山耕太郎さんの作品も飾られていた
──「ARToVILLA MARKET vol.3」にはどのような作品を出品予定ですか?
マンガがテーマということで、ちょっと有機物のような「ReCollection series」の作品を出そうと思っています。人によっていろいろな見方があると思います。まず直感的に観ていただいて、どのように見えるのか、その見え方の理由を探ることによって、ご自身のルーツを探求していただけたらうれしいです。また、用途性のある一輪挿しシリーズも出品する予定です。気軽に観に来てください。
同じく「ARToVILLA MARKET vol.3」に参加するイラストレーター・平沼久幸さんのインタビューはこちら!
ARTIST
酒井智也
陶作家
自己の記憶、他者の記憶、時代の記憶などをテーマに、いくつかのシリーズを発表してきた。共通するのは、記憶と共にある「想い」を粘土とロクロ技法を通して、抽象的なイメージとして具現化することである。
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