- ARTICLES
- Wade and Letaと鈴木マサルが語る、生活に新たな視点をもたらすカラフルなアートの力
INTERVIEW
2024.05.08
Wade and Letaと鈴木マサルが語る、生活に新たな視点をもたらすカラフルなアートの力
Text / Fumika Ogura
Translator / Saori Bradley
Edit / Eisuke Onda
GINZA SIX ガーデン(屋上庭園)に設置された目が覚めるようなカラフルなインスタレーション。制作したのはNYを拠点にするアーティストユニット・Wade and Leta。
そんな二人のファンだと語るのは、色鮮やかな作品で世界を魅了する日本人テキスタイルデザイナーの鈴木マサルさん。
晴天の屋上。作品を鑑賞しながら初対面した三人は色とりどりな空間の中でお互いの美学を語り合う。
ARTIST
Wade and Leta (ウェイド アンド レタ)
ブルックリンを拠点に活動するクリエイティブ・スタジオ。独自の多様性とパフォーマンスを重視したカラフルで視覚性に富んだ作品を数多く制作。写真、映像、インスタレーションなどさまざまな表現方法は多岐にわたる。写真右がWade、左がLeta。
鈴木マサル
ファブリックブランドOTTAIPNUを主催。 色鮮やかなプリントファブリックを中心に生地本来が持つ魅力にあふれたコレクションを展開する。自身のブランド以外にも、マリメッコ、カンペール、ユニクロなどでテキスタイルプロダクトを発表。
複雑なようでとてもシンプル。日本的な感性を感じる二人
Wade and LetaがGINZA SIXガーデン(屋上庭園)に作ったインスタレーション《Falling Into Place》で対談スタート
――まず、鈴木さんがWade and Letaの存在を知ったきっかけから教えてください。
鈴木:コロナ禍になる前、たまたまネットでWade and Letaの展覧会の情報を見て、二人の作品にすごく引き込まれたんです。「新しい人が来たな」という感覚になったのを覚えています。その展覧会には行けなかったこともあり、今日はお二人と話せるのを楽しみにしていました。大ファンなんです。
Wade and Leta《Paint Your Own Path》 2022年 クライアント: Toyota / Bonnaroo / Saatchi & Saatchi
Wade and Letaによる中国での展覧会「Big Bang! Solo Exhibition」展示風景 2023年
鈴木:僕からはお二人の作品がすごくシンプルな仕事に見えたんですが、色をつけることで、特別なものとして昇華されているなと感じました。そのシンプルな考えが、とても日本的だなと思って、親しみが沸きましたね。
Wade and Leta:ありがとうございます。私たちの作品は、幾何学的だったり、ブライトカラー(ビビット色に白をプラスした色)を用いたりしているので、一見ごちゃっとした印象を受けると思うんですが、鈴木さんが仰ってくれているように、できるだけ削ぎ落として、シンプルにしていくことを心がけています。私たちは強烈なインパクトを残すものや、幾何学的なものをモチーフに作品を作っていますが、鈴木さんの作品は、自分の手から生み出すナチュラルな造形が美しいなと感じました。
鈴木:嬉しいです。
DESIGN DISTRICT香港 2023年 会場 : 香港、荃湾 デザイン : 鈴木マサル キュレーション : WAY OF DIFFERENCE
SECOND COLOR 2022年 アイテム : アップサイクルバック パターンデザイン : 鈴木マサル メーカー : カンペール
Wade and Leta:私たちが作品を制作するとき、モチーフや色をここから増やすのか、減らすのかを葛藤することがよくあるのですが、鈴木さんも制作中にそういう気持ちになることはありますか?
鈴木:ありますね。僕も基本的に削ぎ落としたいタイプです。お二人がおっしゃるように色を使うとシンプルではないような印象を受けると思うんですが、考え方としては、なるべく削ぎ落としていくことで、作品をまとめていきたいと思っています。
Wade and Leta:コンセプトがシンプルだったとしても、色を入れていくことによって、やりすぎた感じになってしまいかねないので、そのバランスを取ることをいつも考えています。
Wade and Leta《Falling Into Place》 撮影:Yasuyuki Takaki
鈴木:以前、お二人のインタビューを読んだとき、制作をするときは最初に根幹となるものを決めてから作業をし始めるというのがとても印象的だったので、今日こうして実物を観て、その言葉が表す意味を実感できました。
Wade and Leta:今回の作品は、子どものころ遊んだブロックからインスピレーションを受けて制作しました。さまざまな形にくり抜かれたブロックを、形ごとに隣同士で置くのではなく、バラバラに配置することで、想像力を掻き立てられるようなものにしました。大きな立体物ですし、カラフルなので、情報量が多い印象を受けるかもしれませんが、根本的な考えは、シンプルです。
鈴木:手からバシャっとブロックを広げたような配置なんですが、どの位置から見てもかっこいいので、計算されていないようで、とても計算されたレイアウトなんだなと感じました。
Wade and Leta:鈴木さんが仰ってくれた通りです。いつも3Dで作品を制作しているのですが、それぞれのピースの重なり方や、色の見え方など、本当に細かく色んな角度から見ています。鈴木さんの作品を拝見していて思ったのですが、表と裏で別の色や形をプリントされているのを見て、私たちの作品のコンセプトと、似ているところがあるなと感じました。鈴木さんの作品は平面ですが、見え方によって、形や色が変わって見える。テーマとしてはすごくシンプルですが、計算された美しさを感じられますよね。
色そのものが持つ温度感と、組み合わせでその色がどう輝くか
――鈴木さんも、Wade and Letaも色使いが特徴的なアーティストですが、どのようなことを意識して作品に色を用いているのでしょうか?
Wade and Leta:例えば、赤は温かいや、青は冷たいなど、色というものに対して元々あるイメージがあると思うんですが、そういったものは全く考えていません。色そのものが、重なりあったり、隣り合うことで、同じ色でも深みが出たり、あるいは塗っている面が広く見えたりするなど、そういった目の錯覚や、発見を感じながら作っています。私たちの作品を観ることで、脳にどう働きかけられるのかもすごく考えていて、肌で感じるというか、人間の感情的な部分に訴えかける作品というのを意識しています。もちろん、色そのものが持つ温度感のようなものも大切にしていて、バランスを取ったりすることもしています。鈴木さんはどうですか?
鈴木:二人に同意することばかりです。基本的には、そのときにこうしたいと思った自分の気持ちを信じて色使いを考えています。色単体だと、好ましくない色というものは存在しないので、結局、組み合わせでその色がどう輝くかなんですよね。お二人の今回の作品も、単体では彩度の高い色を使っているわけではないのに、すごく輝いて見えるのは、やっぱり色の組み合わせの素晴らしさかなと思いました。パステル調の色が多いのに、すごくビビットに見えますよね。色数も少ないのに。
Wade and Leta:鈴木さんが仰ったように、色数が少ないのにもっと使っているように見えるのがポイントで、最終的に色を決める際にそこが一番迷う部分です。制作する過程をお話しすると、最初は全てグレーからスタートするんです。そこからどんどん色を決めていきます。クライアントからの案件も同様の方法でやっているんですが、最終確認は欠かせません。色っていうものは、すごく難しいものなんです。全体を通してみたときに誤差がないかどうかっていうのは、必ず確認します。
――色決めは二人で進めていくんですか?
Wade:色の部分に関しては、Letaの色彩感覚をとても信頼しているので、主に彼女が進めていきます。それを形にしたときに、いい感じにバランスが取れているのかを確認するのが、僕の担当です。色はライティングによって、見え方が大きく変わってしまうので、色々な光のもとで確認をするようにしていて、1日のなかでどの時間帯であっても、自分たちが求めている印象になるように調整していきます。先ほど、鈴木さんは色を選ぶとき、自分の感覚で選ぶと仰っていましたが、その感覚というのはどのようなところからインスピレーションを得ているのでしょうか?
鈴木:常日頃から自分自身が見てきたものが、どんどん蓄積されて、あるときにアウトプットされるのだと思います。色って、場所や時代背景などで、どんどん変わっていくものだと思うので、そのときアウトプットされたものが、たとえ今の時代(モード)にマッチしていなくても、これはこの先必ず来るはずだ、みたいなものがあるときは、無条件にそれを信頼する感じですかね。色って派手だからいいというわけでもなくて、この色はこういう役割を果たして欲しいっていうように、その作品に対して合う色を与えてあげるような感覚で考えています。
Wade and Leta:その直感的なものや、感覚的なものはみんなが持ち合わせているものではないと思うので、鈴木さんを特別にしているものなんだと思います。
鈴木:お二人にすごく聞きたかったことがあるんですが、アジアやヨーロッパなど、展示をする場所によって、色のチョイスや作品の考え方などは変わるんでしょうか?
Wade and Leta:例えば、日本が桜の時期で、ピンクを入れたいなと思うことはあったとしても、その場所に合わせて自分たちのスタイルを変えていくようなことはないですね。基本的にどこに居ても、自分たちの軸のようなものは変わりません。
生活をカラフルにすることの喜び
――鈴木さん、Wade and Letaのお二人が、色使いで影響を受けたアーティストはいますか?
Wade and Leta:たくさんいますが、荒川修作とマドリン・ギンズの建築物には影響を受けました。彼らの作品は、その建築物に足を踏み入れることによって、自分の子ども時代や、過去に経験したことを感じさせます。そういった作品体験の深みの部分にインスピレーションをもらったので、自分たちの作品にも活かせられたらなと思っています。色の使い方もそうで、二人の作品は、限られた色しか使ってないのに、それが判別できなくなるような感覚がありました。それらは、自分たちにとっても新たな気付きになりましたね。
鈴木:僕もたくさんいますが、基本的には、マリメッコだったり北欧のテキスタイルに影響を受けています。暗くて長い冬を過ごすために、生活に色を取り入れるようなシンプルな考え方や、色彩感覚にはインスピレーションをもらい続けてきましたね。
――では、皆さんにとってアートの原体験も教えてください。
Wade:最初はポケモンです(笑)。ゲームに出てくるキャラクターを、ダンボールで型作って、遊んだりしていました。
Leta:子どもの頃に育った環境がすごく田舎だったので、どこかへ行くとなったら遠いことがほとんどだったんです。だから、自由があまりなくて、どこか隔離されているような気持ちになることが多かったんですよね。そのときにハマっていたのが、「ファイナルファンタジー」。自分が絶対に体験できないようなことを、ゲームの中で体感できることに、すごくワクワクしたのを覚えています。もうちょっと大人の回答をすると(笑)、母親に初めて連れてってもらった美術館が、ニューヨークの「MoMA」でした。そのときに興味を持ったのが、絵ではなく彫刻物で。立体的であるということが、自分と同じ世界にいるように感じさせられたので、今のような作風に行き着いたのかもしれません。
鈴木:今思い返してみると、大学時代の出来事が今の仕事に繋がっているように思います。グラフィックデザインを勉強したくて美大を受けたんですが、ことごとく落ちて。唯一受かったのが、染織科だったんです。工芸的な授業が多かったので、もっとデザインをやりたいなと思っていたときに、たまたま図書館で読んだ本に載っていたのが、マリメッコのテキスタイル。それがとてもかっこよくて、心に刺さったんです。そこからテキスタイルがどんなものかを調べていくようになりました。
Wade and Leta:自分が行きたかった道ではなかったところから、今の仕事に繋がっていったんですね。面白いです。
――最後に、ファッションでもインテリアでも、暮らしの中に色を取り入れることの魅力はどんなところにあると思いますか?
Wade and Leta:私たちは1920年代に建てられたアパートに住んでいるんですが、メンテナンスの意味も込めて、少しでも綺麗に見えるように壁の色をカラフルにしています。ひとつの部屋から違う部屋を見るときに、違う色が必ず重なるように塗っているのですが、家のなかに居ても、常に色の重なりが見えて、自分たちに新たな視点を加えていくような感覚があります。
鈴木:僕自身は綺麗な色を身につけていたいので、ワードローブはカラフルなものが多いですね。これは日本にいるからかもしれないですが、日本人って、綺麗な色だなと思っても、あまり目立ちたくないという気持ちが根本的な部分にあるからなのか、ついニュートラルなものでまとめてしまうことが多いと思うんです。だけど、「好きだな、綺麗だな」と思ったら、取り入れてみるのもいい。それでしか味わえない喜びがあると思うので、ぜひ生活に色を取り入れてみて欲しいです。僕も自宅では、一つの壁だけオレンジ色に塗ったりしています。
Information
「Falling Into Place」
GINZA SIX ガーデン(屋上庭園)にWade and Letaによるインタラクティブな新作アートパークが日本初上陸。 それぞれが欠けたパズルのピースのような空虚さ(Void)を持つ6つのカラフルな構造が立ち並び、訪れる人々が思い思いの過ごし方をすることにより、完成されたピースとなるアートを表現する。
■会期
2024年4月2日(火)~5月31日(金)
■会場
GINZA SIX ガーデン(屋上庭園)
開放時間 7:00〜23:00
くわしくはこちら
ARTIST
Wade and Leta
アーティストスタジオ
Wade and Letaは、“Music for Your Eyes”をモットーに、ニューヨーク州・ブルックリンを拠点に活動するクリエイティブ・スタジオ。独自の多様性とパフォーマンスを重視したデザインの融合を得意とし、従来のアイデンティティから、カラフルでエモーショナルな視覚性に富んだ作品まで、あらゆる分野を活かして満足感のあるビジュアルを提供し続けています。
ARTIST
鈴木マサル
テキスタイルデザイナー
2004年からファブリックブランドOTTAIPNUを主催。 色鮮やかなプリントファブリックを中心に生地本来が持つ魅力にあふれたコレクションを展開。自身のブランド以外にも、マリメッコ、カンペール、ユニクロなど、国内外の様々なブランドからテキスタイルプロダクトを発表。テキスタイル以外にも家具や建築空間など様々なシーンに向け、パターンデザインや自身のテキスタイルを軸にしたデザインを展開しています。 東京造形大学教授、有限会社ウンピアット 取締役。
新着記事 New articles
-
INTERVIEW
2024.11.20
日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)
-
SERIES
2024.11.20
東京都庁にある関根伸夫のパブリックアートで「もの派」の見方を学べる / 連載「街中アート探訪記」Vol.34
-
SERIES
2024.11.13
北欧、暮らしの道具店・佐藤友子の、アートを通じて「自分の暮らしを編集」する楽しさ / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.29
-
NEWS
2024.11.07
アートと音楽で名古屋・栄を彩る週末 / 公園とまちの新しい可能性を発明するイベント「PARK?」が開催
-
INTERVIEW
2024.11.06
若手アーティストのための場所をつくりたい━━学生スタートアップ「artkake」の挑戦
-
SERIES
2024.11.06
毛利悠子の大規模展覧会から、アートブックの祭典まで / 編集部が今月、これに行きたい アート備忘録 2024年11月編