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INTERVIEW

2022.10.14

「アートがあれば、空間が変わる」 / 永山祐子(建築家)がアートを観たら、そのつぎは?

Text&Edit / Eisuke Onda
Photo / Shiori Ikeno

アートを観た。作品に心を奪われた。じゃあ、その次は......どうしよう。 なかなか一歩踏み出せないかもしれないけど、勇気をふり絞ってギャラリーにいるアーティストに声をかけても良い。その絵が自分にとって掛け替えのないものだと感じるのであれば、購入し共に暮らしてみるのも良いかも。

そんな悩める人たちへ、アートをコレクションする先輩たちからのアドバイスを求めた。アートを好きになったきかっけは? どんなアートを購入した? 誰がおすすめ? なぜ買うの? どこに飾る? どうやって飾ってる?

第二回目に登場するのは建築家の永山祐子さん。幼い頃からアートに囲まれた環境で育ち、自宅と職場にも無数の作品を飾る永山さんに5W1Hの質問を投げかけた。

WHEN
アートを好きになったきっかけは?

「田中泯さんのアートキャンプ白州ですね」

今回の取材は四ツ谷にある永山祐子建築設計事務所で収録

私の父は出張に行く度に絵を買ってきていたので、幼い頃からアートに囲まれて育ちました。子供部屋には抽象画が飾ってあって「これなんなんだろう? 木かな?」とか想像しながら眺めていましたね。でも、一番アートを意識したのは大学3年生の頃に参加した田中泯さん主催の『アートキャンプ白州』。世界中のアーティストやパフォーマーが集まって舞台やワークショップをやるアートキャンプなんですけど、当時の私は舞台美術のボランティアを担当していました。そこで見た泯さんと観世英夫さんの二人が演じた『千年の愉楽』(中上健次原案の舞台)があまりに素晴らしくて……「ここに私ができることはないな」と思ったんです。そこから私は建築の世界に専念。よくよく聞いてみると、名和晃平くんも私と同じ日に泯さんのキャンプに行ってたみたいで、そこで感化されて彼はアートをやっています。だから、いろいろな人生を変えたキャンプでした。

 

WHAT
どんなアートを購入している?

「アーティストの人となりも含めて応援できると良いですよね」

所員の作業スペースに飾られた川久保ジョイ《淤岐ノ島》(2011年)の写真。「事務所を歩いていてこの写真とふと目があうと落ち着きます」と永山さん

一番最初に買った作品は写真家の川久保ジョイくんの《淤岐ノ島》(2011年)で、ずっと事務所に飾っています。ネットでこの写真を見たときにビビッときて、そしたら友人がジョイさんを紹介してくれました。会ってみたらとにかくマシンガントークで(笑)。金融トレーダーからアーティストになったという経歴も、話もとっても面白くて、その場で作品を買うことを伝えました。その後もジョイさんとは家族ぐるみで交流をしていて、作品も継続して買っていますね。だから、アートフェアとかに出向き実際にアーティストと話してみて、その人自身を応援するために作品を買うのもおすすめですよ。

 

WHO
誰の作品がおすすめ?

「佐々木類さんの作品です」

永山さんが購入した佐々木類《植物の記憶》

最近は私が会場構成を担当した『MEET YOUR ART FESTIVAL 2022』で知り合った佐々木類さんの《植物の記憶》を買いましたね。彼女はガラス作家で、これは板ガラスで植物を挟んだ作品です。ガラスで密閉した植物のまわりに生まれる独特なかたちをした気泡は植物自体から排出される空気。コロナ以降、植物がすごく元気になっているみたいで空気を排出する量が多く、こんなに膨らむみたいなんですよ。ガラスのかたちから植物が残した記憶を感じ取れるのがとっても素敵だなと思いました。

 

WHERE
どこに絵を飾っている?

「空間の印象を変えてみたい場所」

川久保ジョイが2013年、2016年に制作した福島第一原発から30km圏内の土中に埋めたフィルムを現像した写真作品。Image courtesy of Yoi Kawakubo and Yamamoto Keiko Rochaix. Photo: Ken Kato for the Shiseido Gallery, 10th Shiseido Art Egg. ©️Ken Kato, 2016

私は比較的に大きめの作品を買うことが多いですけど、アートには空間をガラッと変えてくれる効果があると実感します。家を建てるタイミングでジョイくんの3部作《千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば》を購入しました。緑、オレンジ、紫のカラフルな3つの写真作品で、どこにどれを飾ろうかな?と考えたときに緑色の写真を玄関に置いてみたんです。そしたら夜の光で玄関が緑に染まり、まるで空間全体がアートのように見えてきました。それぞれの写真も家の中に飾ってみると、時間によって、光の当たり方が変わると空間が変化していくのを感じましたね。だから、空間の印象を変えたいとき、アートを飾るのも一つの手だと思います。……まあ事務所の方はもう飾る場所がなくて、空いてる場所に作品を飾る状態になっていますが(苦笑)。

 

HOW
どうやって絵を飾る?

「大切なのは寸法と光」

最近、事務所の壁に飾った西川茂《Sealed House》。「空いたスペースに明るい色が欲しかったんです」と永山さん

買うときは作品の寸法を気にしますね。まあ、直感で買ってしまって飾れないことも多いですけど……。あと、大事なのは光です。どんな自然光が入るか、照明器具は何が使えるのかを考えた上で作品を配置すると見え方もガラリと変わると思いますよ。私は整然と飾ってしまうことも多いのですが、壁一面にさまざまなアートをコラージュするように並べるのも憧れますね。私の夫でアーティストの藤元明が言ってたんですけど「コレクターこそアーティスト」だと。どんな作品を買うか、どうやって飾るかが自己表現になっているからこそ、コレクターもプレイヤーなんですって。私ももうちょっと頑張りたいなと思っています(笑)。

 

WHY
なぜアートを購入するのか?

「生活の中に余白や隙間をつくってくれるから」

建築の仕事をしていると空間に対してどうしても建築の論理で考えてしまいます。でも、アートは全く違います。作品が生活空間の中にあるだけで、余韻や隙間を生み出してくれる気がしています。それは植物とも同じで、自分とは全く違う文脈の論理で作られたアートには生活とは異なる時間軸が流れていると思います。だから奥行きが生まれて、家でも事務所でもふと作品を目にすると、「心地よい」と感じるのかもしれませんね。

写真の手前は山梨のGallery Trax で購入した中島あかねの作品、奥は福津宣人の結婚式の際に頂いたという作品。「事務所には小さい絵とかたくさんあって、ちょこちょこ衝動買いしちゃうんです」(永山さん)

大きな黒い絵は今西真也《INAZUMA 29》

infomation

ARToVILLA MARKET

 

ARToVILLA-Market_web-banner

ARToVILLA主催、現代アートのエキジビション兼実験店舗「ARToVILLA MARKET」を開催いたします。
永山さんが推薦するアーティストも出展予定です。

■会期
2022年11月11日(金)〜11月13日(日)

■会場
FabCafe Tokyo, Loftwork COOOP10
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7道玄坂ピア1F&10F
神泉駅から徒歩5分、渋谷駅から徒歩10分
Google map

■入場料
無料

詳しくはこちら

DOORS

永山祐子

建築家

青木淳建築計画事務所を経て、2002年に独立。代表作に「女神の森セントラルガーデン」「豊島横尾館」「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」などがある。またアートイベント「TOKYO 2021」を企画するなど、アートと建築の間でより良い空間や都市の形態を思考する。設計を手がける高さ約225メートルの高層建築「東急歌舞伎町タワー」が2023年に開業予定。

volume 04

アートを観たら、そのつぎは

アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。

どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?

観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。

アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。

誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。

そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。

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