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INTERVIEW

2023.03.03

「新しい時代のアートの可能性が見えてくる」 / ラッパー・TaiTanが、ホテルとアートストレージが一体となった 〈KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS〉へ

Interview & Text / Miho Matsuda
Edit / Emi Fukushima
Photo / Shimpei Suzuki

いきなり街中のギャラリーに足を踏み入れるのは少し勇気がいるもの。
でも、カフェや書店、クラフトショップ……など展示空間だけではない機能を併せ持つスポットならば、気軽に気負わず楽しめるのではないでしょうか。扉を開けた先には、作品とともに新たな刺激や興味との出会いが待っているかもしれません。
この企画では、日頃からアートに親しむクリエイターや表現者と共に、アート+αの特徴を持つスポットを訪れ、その見方や楽しみ方を紹介していきます。

今回ナビゲートしてくれるのは、ヒップホップグループ〈Dos Monos〉のラッパーで人気Podcast番組『奇奇怪怪明解事典』やTBSラジオ『脳盗』のMCも務めるTaiTanさん。音楽、映画、アート……幅広くカルチャーに精通する彼が今回訪れたのは、ギャラリーのアートストレージ機能を持ったホテル、蔵前の〈KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS〉です。TaiTanさんの独自の視点からは、アートの可能性が見えてきました。

ストレージであり展示スペースでもあるという発想が面白い

TaiTanさんが訪れた〈KAIKA 東京〉は、客室数73室のホテルとカフェレストラン〈safn°〉、作品を公開保管する9つのアートストレージが融合したアートストレージホテル。1966年から倉庫として使われていた建物をコンバージョンして、2020年にコンテンポラリーアートの新しい拠点施設として開業しました。

「2021年にも日本橋のBnA_WALLがオープンするなど、最近、アートホテルが増えていますよね。そうした流れからKAIKA 東京のことも遡って知り、いつか行ってみたいと思っていました」

ここにあるのは、〈TOMIO KOYAMA PRIVATE〉や〈VOILLD〉など、東京都内を中心とした8つのギャラリーや個人のアートストレージです。それぞれが収蔵する作品が公開保管されています。まずは地下1階を訪れました。

現在は8つのギャラリーや個人がストレージを持っている。

「ストレージ内の使い方に関しては、コンセプトを共有した上で、具体的にはある程度ギャラリー側に任せているというのが面白いですね。アート×ホテルという業態の場合、ホテル側が象徴的なオブジェを用意したり、特徴的な内装にするために施工に予算をかけたりする場合が多いですが、開架型のストレージだったら、ギャラリーにとって作品を収蔵できるという利点があり、ホテル側としてもギャラリーにキュレーションしてもらえるというプラスの面があります。この発想を思いついたこと自体がまず素晴らしいなと思います」

ギャラリーが管理するスペースゆえ、作品の入れ替わりも早い。

©️VOILLD 普段は目にすることのできない梱包されたアート作品も見ることができる。

あくまでも倉庫としての機能であることから、ストレージ内に展示されている作品については、美術館のように詳しい説明はつけられていません。しかしそこには、気になる作品があれば、自分で検索して調べる楽しみを感じてほしいとのホテル側の思いも詰まっています。

ストレージエリアを出て1階へ。カフェやエントランス、エレベーターなど、館内の随所に、ホテルが独自に開催するアート作品のアワード『KAIKA TOKYO AWARD』の入選作品が展示されているのも注目すべき点です。才能あるアーティストの発掘を目的に2年ごとに開催されているアワードで、入選作の15点は、ホテルに2年間収蔵展示されます。これらの一部はホテルを訪れるゲストが購入することも可能。ホテル名の「KAIKA」には「開架」とともに「才能を開花させる」という意味もこめられているそうです。

屋上の入り口に展示されているのは、2020年の『KAIKA TOKYO AWARD』で秋元雄史賞を受賞した、 梶浦聖子による《色を聴くウサギ》。

アート作品が随所に散りばめられている共用スペースとは一転、73室ある客室は、機能的でモダンなインテリアが施されています。「客室がシンプルという点もいいですね」とTaiTanさん。アート鑑賞を目的とする滞在のみならず、浅草にも近いことから、観光やビジネスのためにホテルを利用する人も多いのだといいます。

シンプルなインテリアの客室。リモートワークや中長期滞在に適した客室も。

「デスクワークが捗りそうです」とTaiTanさん。

「アートホテルというと、アート作品のような客室で宿泊する側が緊張することがありますが、KAIKA 東京は、部屋ではゆったり過ごしながら、ホテル内のあちこちで作品を見ることができる。その距離感が心地いいのかもしれませんね」

 

惹かれるのは、時代の流れや文脈から捉えるアート。

そもそもTaiTanさんがアートに興味を持ったのは大学生の頃。村上隆による芸術運動「スーパーフラット」のコンセプトや、バンクシーのゲリラ的な表現・発信の方法などの側面から、「同時代にこんなにも面白いことを考える人が存在するのか」と興味をもったのだとか。中学生の頃に果たしたニルヴァーナなどの音楽との主観的で衝撃的な出会いに比べ、アートはもう客観的な視点から惹きつけられたといいます。

「バンクシーは "Art as news”のように、事件性を作り出してメディアに報道させるところまでを作品として計算しているでしょうし、アンディ・ウォーホルは“Making money is art and working is art and good business is the best art of all.=お金を稼ぐことはアートだ。働くこともアートだ。ビジネスで成功することが最高のアートだ。”と言っていた。つまり、”アートとは何か”という定義がアーティストそれぞれによって異なると思うんです。彼らが何を考えてこのコンセプトに至ったのか、作品の背景や周囲を巻き込んでムーブメントとなっていく過程を含めて、アートを見るのが好きなんです」

最近では、作品の撮影が可能な美術館やギャラリーが一般的になりつつある中、SNSで拡散されることによって、若い世代やカジュアルにアートを楽しむ人も増えています。

「昨年、東京オペラシティ アートギャラリーでライアン・ガンダーの展示が行われました。彼はコンセプチュアルアートの分野で活躍しているアーティストなんですが、会期中は、やたら彼の作品がTikTokで“被写体”として流通していたんですよ。壁に穴が空いていてネズミが出入りする作品で、それがどんどん広がっていき、作品がアーティスト本人が意図していないだろう人たちのところにまで届いています。美術館やギャラリー側の伺いしらないようなところまで広がっていく特異な状況にこそ、興味が湧いてきますね」

 

SNSと繋がり、別の業態と繋がり…アートの広がり

取材当日、ホテル内にある「GALLERY ROOM・A」にて、瀧澤美希さんによる初個展「what do you value?」が開催されていました。ここは、アートコミュニケーションプラットフォーム〈ArtSticker〉が運営する空間です。アーティストご本人がちょうど在廊していたので、TaiTanさんは熱心に作品について質問していました。

2023年1月14日〜2月12日まで開催されていた、瀧澤美希による初個展「what do you value?」。

作品をじっくり見つめるTaiTanさん。

「展覧会に行って、本人が在廊されていたら、作品について話を伺うことはよくあります。先日も、一見ソフビ作品のような木の彫刻を手がけるアーティスト・コムロタカヒロさんの展覧会でも、作品の面白さに惹かれて、ご本人とつい話し込んでしまいました。アーティスト本人に話を聞いてみたいという単なる興味なんですが、こういう会話から、今後、何か一緒にできることがあればいいですよね」

小説家の筒井康隆やFranz K Endoをフィーチャーした楽曲「だんでぃどん」や、台湾のIT担当大臣を務めたオードリー・タンとの「CIVIL RAP SONG ft. Audrey Tang」、さらにはテレビ東京の停波帯を活用した番組を制作し、その中でいきなり新曲を発表する試みなど、自らのクリエーションの中でアーティストたちとのさまざまなコラボレーションを行っているTaiTanさん。そこには、新鮮で純粋にアートを楽しむ姿勢が見え隠れします。

「自分はアートについて専門的に勉強したわけでも、幼少期から好きだったわけではないのですが、アートの持つ力にはすごく面白さを感じています。今自宅に、友人のアーティスト・サエボーグの作品を飾っているんですが、好きなアートがひとつあるだけで、空間に広がりが生まれるし、シンプルに好きな作家の活動への応援にもなるので、気持ちがいいんですよね。そしてアートが今、SNSという新しいツールや、ホテルをはじめとする別の業態と繋がって、新しい広がり方をしているのも面白い。KAIKA 東京からはその最前線が垣間見ることができて、刺激的な時間になりました」

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KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS

住所:東京都墨田区本所2-16-5
客室数:73室
レストラン:朝食7:00〜10:00(9:30L.O.)カフェ&レストラン10:00〜22:00(フード21:00L.O. / ドリンク21:30L.O.)不定休
アートストレージ:地下のストレージの見学は宿泊者のみ。毎週土日20:00から宿泊者限定でホテルスタッフによる「ART STORAGE TOUR」開催。1Fのストレージはレストラン利用者も見ることができる。

詳細はこちら

GUEST

TaiTan

〈Dos Monos〉ラッパー

HIP HOPグループ「Dos Monos」のラッパー。2018年にアメリカのレーベル「Deathbomb Arc」と契約。これまでに3枚のアルバムをリリース。Spotify独占配信中のPODCAST番組『奇奇怪怪明解事典』やTBSラジオの『脳盗』ではパーソナリティをつとめる。また、クリエイティブディレクターとしても¥0の雑誌『magazineⅱ』やテレ東停波帯ジャック番組『蓋』などを手がけた。2022年には、『奇奇怪怪明解事典』書籍版を刊行。

volume 04

アートを観たら、そのつぎは

アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。

どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?

観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。

アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。

誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。

そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。

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