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INTERVIEW

2023.03.17

「好きなアートを紐解けば自分を知れる」市川紗椰が選ぶ、アートがもっと楽しくなるブックリスト5冊

Interview&Text / Mai Miyajima
Edit / Miki Osanai & Quishin
Photo / Naoya Ohkawa(Booklist only)

ARToVILLAでは2022年10月から、音楽やファッションや映画など、さまざまな入り口からアートを手にする楽しさへといざなう特集「アートを観たら、そのつぎは」を実施しています。

アートはただ鑑賞してもいいものだけど、知識や理解が少しでも深まれば次からもっと楽しくなるかもしれない。そこで今回は「アートにまつわる本」のご紹介を。選者は、大学で美術史を学び、現在もアートに親しむモデル・タレントの市川紗椰さん。

マンガや評論、街歩きが楽しくなる建築写真集など、バラエティ豊かな5冊をセレクトしてくれました。

 

好きなアートがわかると、自分のことがよくわかるようになる

テレビやラジオのアート番組でナビゲーターを務めたり、雑誌の連載で各地の美術館をめぐるなど、アートへの造詣が深いモデル・タレントの市川紗椰さん。大学では美術史を学び、現代アートや漫画などのサブカルチャーに詳しいことでも有名です。そんな市川さんは、幼い頃から絵を描いたり物をつくることが好きで、アートを楽しむ上でも特に「色」が持つ魅力に惹かれていたそう。

「見ると元気になったり、しょんぼりしたり、心に直接訴えてくるような色の力に惹かれていました。色って言語化できないところも面白いですよね。私が見ている青とだれかが見ている青はまったく違うかもしれないのに、それを一生知らないまま生きていく感じがたまらなくいいな、と。アートもイヴ・クラインやマーク・ロスコ、パウル・クレーなど色が象徴的な作家が好きです」

大学では美術史を専攻し、1960〜70年代のアメリカの抽象表現主義と、第二次世界大戦前の日本の前衛美術について学んだ市川さん。美術作品には当時の政治と社会と経済の運動がすべて込められており、その歴史的側面に興味を持ったと話してくれました。

「もうひとつ、アートを知ると当時の歴史的背景がわかると同時に自分についてもよくわかるようになります。このアートが好きということは、自分が何に惹かれているかを知ることでもある。それがアートを見ることの楽しみであり真髄なんじゃないかと思っています」

 

市川紗椰さんが選ぶ「読めばアートがより楽しくなる」5冊の本

今回は市川さんに、アートに興味を持ち始めてきた人にオススメの5冊を挙げてもらいました。アートへの理解を深めたり知識が増えれば、鑑賞するのもさらに楽しくなるはずです。

 

“現代にも続く日本人のアート観に気づく本”

①『ヘンな日本美術史』山口晃(祥伝社)

「現代アートや漫画などでも活躍する人気の日本画家・山口晃さんの著書です。

山口さんの本はどれも読みやすくオススメですが、特にこれは鳥獣戯画や洛中洛外図屏風など日本美術の基本を押さえつつもふふふと笑えるような部分を指摘していて、画家の方ならではのユニークな視点が面白いんです。

日本人は昔からヘンなものを取り入れてあえてハズすという美意識があったとか、洛中洛外図屏風には3D的な空間性があるとか、現代にもつながっている日本人のアート観にも触れられています。

取り上げている日本美術は昔の作品ですが、表紙や挿絵などを山口さんご本人が描かれていることで現代アートとも地続きになっていることが視覚的に感じられる点も印象的です」

 

“美術作品を『フラットに観る』ことを追求した名著”

②『見るということ』ジョン・バージャー・著、飯沢耕太郎・監修、笠原美智子・訳(ちくま学芸文庫)

「イギリスの作家・美術評論家であるジョン・バージャーが1970年代に書いた論文をまとめた本で、タイトルどおり『見るということ』について書かれています。

美術作品は本来その場所に行かなければ観られないものだったのが、写真や映像の誕生によって制作者の“演出”込みで私たちに届けられるようになりました。

たとえばゴッホの『カラスのいる麦畑』を、穏やかな音楽とともに見せたらのどかな麦畑に見えるけど、『これは自殺する前、最期に描いた絵』として悲しい音楽にのせて流すとすごく暗い絵に見える。そういう演出による効果を意識して、いかに作品をフラットに見るかということについて説明した本です。

特に今はなんでも事前に調べられる時代なので、写真を観て満足してしまったり、情報によって先入観を持ってしまったりする。

それってすごくもったいないことだなと。この本を読むと事前情報なしにアートを生で見ることの大切さに気付きますし、有名な作品だからいいんじゃなくて、自分が好きだからいい作品なんだと自分の価値観で自由にアートを楽しめるようになると思います」

 

“美術史に欠かせない贋作の歴史を知る”

③『にせもの美術史』トマス・ホーヴィング・著、雨沢泰・訳(朝日新聞社)

「美術に興味を持ったら、偽物(贋作)について考えるのもオススメです。

この本はメトロポリタン美術館の元館長によって書かれたものですが、どうやって贋作を見破るかという話や、オークションに横行する贋作の話など美術史の闇の部分にも触れています。

美術史とは贋作と戦ってきた歴史でもあり、ともに成長してきた側面もある、切っても切り離せない関係なんですよね。贋作とは、あえて広めるためにつくっているもの、騙そうとしていないものもあれば、騙そうとしているものもあります。

私がよく思うのは、絵の価値ってなんだろうということ。

紙とインクと額縁に5億円の価値はなくて、歴史的背景や文化的価値などからみんなでその価値を決めただけですよね。じゃあ贋作はまったく同じものなのになぜ価値がないの?というのを考えるのが大切なんだと思います。

『どの美術館にも絶対いくつか偽物はある』という話をよく学芸員さんから聞くのですが、自分がそれを見て心が動くならそれでいいじゃないかとも思うんです」

 

“史実の間を妄想で埋める美術界のifマンガ”

④『ジラソウル -ゴッホの遥かなる道-』沼野あおい(KADOKAWA)

「こういう作品があったら読みたいなと思っていたときに、『ついに出た!』のがこのマンガです。

絵の英才教育を受けて写実的な絵ばかりを描いていた幼少期のピカソが、まだ絵が全然売れない37歳のゴッホと出会っていたら……?というストーリー。

この時代の美術史が好きな人は、こういう妄想をするのがとにかく楽しいんです。芸術家たちの活動した年代が重なっていて、交流があったことを示す文献が残っている人たちもいるので。

ピカソは少し年代が下でまだ子どもなので、ゴッホとの出会いが少しSFチックに描かれています。2022年12月に第1巻が出たばかりなので、追いかけやすいと思いますよ」

 

“いつもの街歩きがアート鑑賞に変わる一冊”

⑤『シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド』鈴木伸子・著、白川青史・写真(リトルモア)

「これ、すごく楽しくて好きなんです。東京交通会館や中野ブロードウェイなど、1960-70年代の高度成長期の東京に建てられたビルを紹介する本。

古いビルなので一見派手さはないし、色もない。でも中に入ると凝った装飾がされていたり、妙な重厚感があるんですよね。私はタイルやアーチの形、看板のフォントなどが好きで注目してしまいます。

建築もひとつのアートだと思いますし、もともとこの時代の建物には惹かれていたのですが、何て表現していいかわからなかったんです。でもこの『シブいビル』という表現を見たときに、『ああ、これだ!』とすごくしっくりきて。

シブいという言葉は英語にはなくて、翻訳するのもとても難しいのですが、日本人は『シブい』という感覚を共有していますよね。このシブいビルたちは耐震の問題で取り壊しが始まっているものも多いので、ぜひ見に行ってほしいです。日常の散歩や移動を楽しい時間に変えてくれる一冊です」

 

美術館は軽い気持ちで観に行っていい

市川さんオススメの本を読んでさらにアートへの興味が湧いたら、またぜひ美術館やギャラリーへ。これまでと違った視点が生まれているかもしれません。

「美術館って、もっと軽い気持ちで行っていいと思っています。私はアート鑑賞のために予定を空けるということはほとんどなくて、仕事の合間など時間が空いたときにふらっと行くことが多いです。鑑賞するときも全部の作品の前で立ち止まってきちんと観ないといけないということもなくて、飛ばしながら観たいものだけ観て帰ってきてもいい。そのくらいの気持ちでどんどん出かけてみてください」

DOORS

市川紗椰

モデル・タレント

1987年生まれ。4歳から14歳までをアメリカ・デトロイトで育つ。ファッションモデルとしてデビューし、ラジオやテレビなどでも活躍中。「鉄道」「相撲」「ハンバーグ」など好きな物にかける情熱が強いことから「マニア」としてメディアに登場することも多い。アートについては大学で学んだ美術史から現代アートまで興味も幅広い。

volume 04

アートを観たら、そのつぎは

アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。

どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?

観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。

アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。

誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。

そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。

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