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INTERVIEW

2023.03.31

「“いいな”の積み重ねで、アートの世界は広がっていく」耳で聴く美術館・avi

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Quishin

アートに関心を持ち、美術館へ足を運んだことのある人は少なくないと感じます。一方で、「もう一歩深く、アートの世界へ踏み込んでいくためには、どうすればいいんだろう?」と疑問を持っている人も多いのではないでしょうか。

特集「アートを観たら、そのつぎは」では、自分なりの視点でアートを楽しむ人に「アートの見方」をガイドしてもらいました。紹介してくれたのは、TikTokやYouTubeなどでアートや若手アーティストを紹介する「耳で聴く美術館」を手がけるaviさんです。

「『いいな』と感じる経験の積み重ねでアートの世界は広がっていく」「生き方のお手本を増やすと自分の人生が生きやすくなる」。aviさんのお話は、展覧会などでのアートの見方だけでなく、私たちの毎日を豊かに、生きやすくするための視点を与えてくれるものでした。

# 美術館に行く前に
「『楽しかった』を積み重ねていくために、準備が大切」

アートに興味があって、たまに美術館に行くという方は少なくないと思いますが、行った先で楽しいと感じるためには「事前準備」が大切だと考えています。

現代アートに惹かれているのに日本画を扱っている美術館に行ってしまったら、つまらないと感じてしまうかもしれない。そういった事態を避けるために、自分がどんなアートが好きで、好きなアートを扱っている美術館はどこにあるのか調べておく必要があると思っています。

美術館という場所はスーパーのように、生きていく上で絶対に必要な場所ではありません。スーパーはレジに苦手な店員さんがいても食材を買うために行くけれど、美術館は一度苦手だと感じてしまったら二度と行かない場所になってしまう可能性があります。

一回一回の「楽しかったな」という経験が積み重なって、その人にとって楽しい場所になっていくのが、美術館なんです。「美術館の空気感っていいな」「美術館に行っている時間っていいな」のように、「いいな、いいな」という経験を積み重ねていくことで、「自分が関心のなかったジャンルも覗いてみよう」とアートの世界が広がっていくと思います。だからこそ、最初の入り口を間違えないための準備を大切にしたいですよね。

アートと音楽の領域を横断したMEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」にて、TikTok LIVEをしたaviさん

 

# 美術館でのアートの見方
「全部の作品を順番に見なくていい」

美術館に行ったとき、私はできるだけストレスなくアートを見るようにしています。具体的にやっているのは、「展覧会に行ったら全部の作品を見なくてもいい」「なるべく軽装で作品と向き合う」ということ。

人気の展覧会で入り口付近の作品に人が集中しているのは、一個一個の作品を見ていくのが正しいルートだと多くの人が無意識で思い込んでいるから。でも、最初からすべてを見ていったら最後のほうで疲れちゃうかもしれないし、最後のほうに自分が好きな作品があるかもしれない。だからとにかく目につく作品の前に優先的に足を運ぶようにしているんです。

コートやバッグを預けて軽装にするのは、アートと自分が1対1で対峙する空間において、必要のないものをできるだけ取り払いたいから。そのために展覧会には必ずひとりで行くようにしています。

私自身は現代アート、中でもジェームズ・タレルをはじめ没入感のある作品が好きです。たとえば、クリスチャン・ボルタンスキーの「心臓音のアーカイブ」。心臓音に合わせて電球が明滅する作品に最初は不安感を覚えましたが、次第に安心感へと変わっていくような体験をしました。ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーが手がけたThe Killing Machineも、最後には泣いちゃうくらいの恐怖体験をした作品で、本当に記憶に残っています。

没入型の作品を見るときは、絵画を見るときよりも自分の心の変化を見ています。音声ガイダンスなどで情報をしっかりと取りに行きながら、自分の心の変化にも注目してみることが展覧会を200%で楽しむコツかもしれません。

 

# 美術館を出たあとは
「アートって数年経って思い出すことがあるから、図録を買ったほうがいい」

展覧会を回ったあとは、図録を買うのをオススメします。図録は、アート体験を記憶として残してくれるものだからです。

一度見た美術作品や一度行った展覧会のことって、数年経ったときに日常の何かとリンクして、「あの作品なんだっけ?」と思い起こしたりすることがあるんです。そんなときに図録を使ってどんな作品で、なんの展覧会だったのかを探せると、アートの体験は蓄積されていきます。

図録はアルバムのようなものだと思います。たとえば家族旅行の写真を一枚一枚アルバムに残していると、「◯年前に行ったの、どこの遊園地だっけ?」のような曖昧な記憶でもアルバムから遡って名前や場所がわかるじゃないですか。逆に言うと、それがなければぼんやりした言葉しか残らないものだと思います。

図録には絵と作品名、キャプションなどの作品情報が載っているので、アート作品自体がその人の記憶に蓄積していくのを助けてくれます。それだけでなく、美術館の館長や展覧会を企画した学芸員の想い、海外からのコメントも寄せられているので、現場で見逃していたこともあとから回収できる貴重な資料なんです。

 

# ギャラリーならではのアート体験
「ギャラリーは生活とアートが近づく場所」

美術館とギャラリーの一番の違いは、アート作品を購入できるかできないかにあります。購入できるというのはつまり、アートを所有できるということ。自分の生活、もっと言うと、自分の人生と作品がグッと近づく場所がギャラリーではないでしょうか。

「我が家なら、この作品をどこに置こうかな」「玄関がいいかな、いやいや、手洗い場がいいかな」。こんなことを想像しながら、家具を選ぶ感覚でギャラリーの作品を見てみるのも楽しい気がします。

また、芸術系の学校に通う学生さんには、もっとギャラリーに足を運んでもらいたいと思っています。入場料無料でいろんな人たちの表現方法や画材を見れるのは、すごく貴重なことだと思うから。デザイナーや建築関係の仕事をしている方も多く訪れている印象です。

天王洲のアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」のアーティストトークショーに参加したaviさん

 

# アートを生活に取り入れるには
「作家の生き方を知ることで、選択肢が増える」

アートと生活が近づくのは、美術品を購入することだけではないと考えています。作家の何に悩み、幸せに感じ、そしてどう生きたかという「生き方を知る」こともアートと共に生きることだと思っているんです。

作家って、画家ひとつとっても絵を描かない人からすれば、距離が遠い存在と思われがち。でもたとえば、ゴッホが弟のテオに『花咲くアーモンドの木の枝』という作品を贈ったのは、テオが自分の子どもにゴッホと同じフィンセントの名前をつけたことをゴッホ自身がとてもうれしく思ったから。

@mimibi301 【モネ】#アート #TikTok教室 #耳で聴く美術館 #モネ ♬ コウを追いかけて (追逐阿航)--溺水小刀 - 南城住着一只猫

そういうふうに実は彼らも私たちと同じようなことに悩んだり、感動したりする存在なんです。作家の生き方を知ることで自分自身の生き方の例が増え、選択肢が広がると思っているので、私が発信するときも作品の技法や美術史の流れなどを紹介するのではなく、作家の生き様に焦点を当てるようにしています。

私たちの生きる社会ではまだまだ、みんなと同じ方向を向かないといけないと思い込んでしまったり、出る杭は打たれるような風潮が残っているように感じています。でも人間はみんな感じることや考えることが違う。「それでいいんだよ」と肯定してくれるのがアートの世界だと思います。

「そういう生き方があってもいいんだ」と生き方のお手本を増やしていくことで自分の人生が生きやすくなると、私自身も日々、アートを通して感じています。

TikTok:https://www.tiktok.com/@mimibi301

YouTube:https://www.youtube.com/@mimibi.art301/

Instagram:https://www.instagram.com/art_room301/

DOORS

avi

Art Influencer

大阪府出身。神戸大学の発達科学部に進学し美術教育畑で学んだのち、新卒で素材メーカーへ勤務。動物病院やギャラリーなどに務めたのち独立。2021年から動画クリエイターとして、TikTokやYouTube、Instagramなどで若手アーティストから近代以前の作家、展覧会情報まで幅広く紹介する動画を発信する。

volume 04

アートを観たら、そのつぎは

アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。

どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?

観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。

アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。

誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。

そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。

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