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2022.11.04
徳永啓太が考えるアートとファッションの関係性 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.5
Edit / Emi Fukushima
Photo / Shimpei Suzuki
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
今回お話を伺うのは、ファッション・ジャーナリストの徳永啓太さん。雑誌やWEBサイトなどの多くの媒体に記事を寄稿したり、テレビ出演や講演会の登壇、ファッションブランド〈doublet〉の2022-23秋冬コレクションにモデルとして登場したり。あるいは、東京2020パラリンピックの開会式でDJを務めたりと、さまざまな活動を行っています。アートはファッションとも非常に関わりが深いもの。徳永さんと”アート的なもの”との出会いにも、ファッションの存在が密接に関係していました。
機能性を超え、デザイナーの思いが込められているものこそがアートだ
――徳永さんは、いつからアートに興味をもったのでしょうか。
最初に好きになったのはファッションでした。それから、デザイナーがインスパイアされた作品を通してだったり、ファッションに関連するアートを調べたり。今は仕事の一環としてアートに触れています。
ファッションにもアートから影響を受けたものや、服そのものが、アートピースと言っていいようなものがあるんですが、僕はクリエイターの”意志”が入っているものこそが“アート”なんじゃないかと思うんです。衣服としての機能性だけではなく、デザイナーに「このメッセージを伝えたい、そうしないと気が済まない」という思いがあるなら、それはアートと呼んでもいいんじゃないかと。
――初めてアート作品を購入したのはいつですか?
今も部屋に飾っている絵があるんですが、これは学生時代に通っていた、地元・愛媛の〈ALLOYD〉というセレクトショップが閉店するときに、オーナーから譲ってもらったものです。もう10年ぐらい前のことになります。当時僕は東京にいたのですが、閉店すると聞いて、そのためだけに愛媛に戻ったんです。この絵はずっとお店に飾ってありました。僕もオーナーに詳しく尋ねなかったので詳細は不明なんですが、そのお店に服を卸しているデザイナーが、趣味として描いたものだそうです。

独特の色合いが目を惹く、徳永さんが初めて手にしたアート作品。
――徳永さんにとって思い入れのあるお店だったんですね。
そうですね。僕が最初にファッションに興味をもったのは〈NOZOMI ISHIGURO〉というブランドがきっかけでした。当時の『TUNE』や『FRUiTS』というストリートファッション誌に〈NOZOMI ISHIGURO〉と一緒に〈ANREALAGE〉が掲載されていて、その〈ANREALAGE〉を扱っているということで〈ALLOYD〉の存在を知ったのですが、学生時代は本当によく通いました。
――そこからファッションの道を志したんですか。
どうしても東京に行きたくなって、就職を理由に上京して、しばらく会社員をしながら服を買っていました。そのうち、もっとファッションのことを知りたくなって、ファッションクリエイションについて学べる学校「coconogacco ここのがっこう」のことを友人から教えてもらい、半年コースに入学しました。そこでは、自分とは何かを突き詰めるような授業があったんです。例えば、「自分の内面を表すものを次週、持ってきてください」という課題がありました。絵でも日用品でもアウトプットは服じゃなくてもいいから、モノを介して自分とは何かをプレゼンする授業がありました。学校を主宰するデザイナーの山縣良和さんがイギリスで学んでいたとき、日本にはこういう教育はないと感じたそうです。その授業を通して、自分は服を作るより文章で発信したほうがいいと思い、自分でメディアを立ち上げて、文章でファッションを発信し始めました。2013年頃からは今のような形で活動をしています。
――これまでに見てきたショーや数々のブランドの中で、特に印象に残っているものは?
山縣良和さんのブランド〈writtenafterwards〉が2012年に発表した「The seven gods」というコレクションです。実際にショーを見たんですが、かなり巨大な作品もあり、衣服の機能性は完全に超えていますし、とにかくすごかった。今もこれ以上の衝撃にはなかなか出会えません。

〈writtenafterwards〉の「The seven gods」より。 写真提供:writtenafterwards
それから、〈HENRIK VIBSKOV〉というデザイナーも印象に残っているひとりです。この人は服のデザインだけでなく、空間構成やパフォーマンスなど全て自分でディレクションします。彼の20年に渡る活動の集大成のような3組の本「『HENRIK VIBSKOV』BOOK 1+2+3 (1997-2020) SIGNED EDITION BOX」は、行きつけのショップに入荷したと教えてもらってすぐに購入しました。彼が2017年に東京で開催したショーを見たのですが、ビジネスになるかどうかではなく、自分の好きなことを突き詰めているような作品だと感じました。彼は、ファッション関係者だけでなく、建築家などからも注目されているのですが、同業者からすると、この自由さをきっとうらやましく感じるんじゃないかな。僕もファッションを嫌いになりそうな時に、たびたびこの本を見返します。

日本では数十冊しか流通していないという、〈HENRIK VIBSKOV〉のショーをまとめた作品集「『HENRIK VIBSKOV』BOOK 1+2+3 (1997-2020) SIGNED EDITION BOX」。
――〈writtenafterwards〉や〈HENRIK VIBSKOV〉などのクリエイションのどんなところに惹かれるんでしょうか?
他の人とは全く違うことを考えているであろうデザイナーによるものだからでしょうか。「どうしてこれを作ったのか」と質問したとき、予想とは全く違う答えが返ってくると、もっと話を聞きたくなります。障害のある人によるアート「アール・ブリュット(アウトサイダー・アート)」のように、生きるために作った作品も好きです。アートやパフォーマンスを生業にしている人は、それをやらないと満足できない、どうしても何かを作らずにはいられない人たちだと思う。そう考えると、アーティストはなんて生きづらい人たちなんだろうと親近感を感じますね。誰もが世の中に対して、何かしら思うことがあるはず。それをファッションやアートで表現する人にはとても興味がありますね。
アートが与えてくれるのは、新しい側面から考えるきっかけ
――アートやデザイナーの意志が込められた服から、徳永さんはどんな影響を受けますか?
僕は日頃から考えることが癖になっているんです。中でもアート的なものや映画などに触れると、まず一旦、持ち帰って、作者が何を伝えたいのか熟考する。すると、これまでこういう目線で考えたことがなかったと気付くことがあるんです。だから、アートやファッションは、僕に考えるきっかけをくれることが多いですね。

ファッションが嫌いになりそうになった時、あるいは自分を奮い立たせたい時に、アートブックを開いて刺激をもらうのだという。
――なるほど。徳永さんは幼い頃から考え込むタイプだったんでしょうか。
地元に、寝たきりで声は発せられるけれど自発的には会話ができない友人がいるんです。彼とはこちらから「こうしたい?」と質問して、笑ったら賛成しているんだと解釈する。そんなふうにコミュニケーションを取るんですが、彼が求めることを予想して選択肢を用意することも簡単ではないし、人間には二択で決められないことの方が多いですよね。きっと彼は毎日「そうじゃない」とイライラしながら生きているんだと思うんですけど、僕がいくら考えても、彼の気持ちと完全に一致することはないかもしれない。いつか、全てが彼の思い通りになるような1日はあるんだろうか、彼が考えていることが知りたいな、と思ったのがじっくり考えるようになったひとつのきっかけではあるかもしれません。
あとは今、友人にダウン症の子がいるんですが、彼は、自分は魔法を使えるけれど、それを世間に監視されていると思い込んでいるんです。魔法なんて使えないよって言っちゃえば話は終わる。でも彼の見ている世界を感じたくて、なぜそういう考えに至ったのか、理解したくてずっと話を聞いていると、面白いんですよ。アーティストやデザイナーもそうですが、なんでそうなったんだ! と予想できない人の考え方は面白いです。
――今徳永さんが注目しているアーティストはいますか?
ひとり挙げるとすれば、布施琳太郎さん 。〈PARCO MUSEUM TOKYO〉で夏頃に、個展 「新しい死体」を開催していたのですが、彼のお父さんは美術解剖学の専門家で、幼い頃から身近にあった「死体」を再解釈するというものでした。死体と聞くとグロテスクなものを想像しますが、彼の作品はシンプルで心が穏やかになるようなものでした。それから、彼は本をたくさん読んでいて、それをアウトプットするので、考えていることがダイレクトに伝わってきて興味深いんです。
彼が〈惑星ザムザ〉というグループ展のキュレーションをしているときも、これまでの、互いが密に繋がるコレクティブとは違って、互いの持てる力をドライに共有し合い、お互いの体温を感じないことが当たり前のような関係性を、すごく興味深く感じました。「新しい死体」展のときの美しい作品も含めて、彼はネットネイティブの世代なので、誰かと一緒にいる時に感じる温度感や汗水、血という生々しいものと乖離しているのかもしれないと思ったのですが、彼と同世代の人が作品をみると、作品からは狂気を感じると言うんです。世代の違いなのかもしれないけれど、それも含めて面白いので注目しています。
――最後に、これから挑戦したいことや、今後の目標を教えてください。
個人的なことでは、これまで他人に迷惑をなるべくかけないで生きていこうと思っていましたが、他人に迷惑をかけたりかけられたりして、生きてみてもいいんじゃないかと考えるようになりました。東京にいると一人で生活できてしまうし、コロナ禍も経験してさらに人と接さなくても生きていけちゃうことに危機感を覚えたんです。だから誰かと一緒に暮らしてみたり、人に興味があるという延長線上として、そういう試みをしてもいいんじゃないかと。
それから、自分が今までしてきた活動や見てきたものを、次の世代に引き継いでいくようなこともそろそろ始めようと思っています。若い世代の子がうちに遊びにきたときに、パッと手に取った本や資料から、新しい価値観に出会うきっかけになったらいいと思います。
DOORS

徳永啓太
ジャーナリスト
1987年愛媛県生まれ。先天性脳性麻痺により車椅子を使用。「coconogacco」にてファッションデザインを学ぶ。同じ頃より数多くのファッション関連イベントにも参加。2013年よりテキスタイルプリンタや刺繍ミシン、レーザーカッターといった機材のオペレーションや現場での運営に携わる傍ら、東京を拠点として数多くのコレクションショーや展示会へ出向き、ウェブサイトやフリーペーパーでその様子をレポート。2017年にジャーナリストとして独自のメディアを立ち上げる。ファッションと多様性を軸にしたジャーナリスト、DJやモデルと幅広く活動する。現在WWDJAPANにて「1%から見るファッション」を連載中。2018年VOGUE WORLD SELECT 100 STREET STYLE に選ばれる。
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