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INTERVIEW
2026.01.28
TOKYO ART BOOK FAIR 2025で1万円あったら何を買う? #1 小林エリカが出会った、心を動かす世界のアートブック
Edit / Eisuke Onda
Illustration / Makiko Minowa
2025年の開催で15回目を迎えたTOKYO ART BOOK FAIR。今回は初めて2週末にわたって開催され、国内外から約560組の出版社やアーティストらが出展した。
ARToVILLAでは、会場を訪れたクリエイターたちに1万円を手渡し、気になる本を自由に選んでもらう企画をお届けする。初回は、作家/アーティスト・小林エリカさんに参加してもらい、実際に会場で本を買ってきてもらった(少しの予算オーバーはご愛嬌)。
世界のアートや出版文化に触れられるまたとない機会。小林さんが会場で出会い、心を動かされて手に取ったアートブックの数々を紹介していく。
TOKYO ART BOOK FAIRとは?
TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)は、アートブックやZINE(自主制作出版物)に特化したアート出版の祭典で、2009年のスタート以来、アジア最大級の規模で国内外のクリエイターや出版社が一堂に集うイベント。15回目となる2025年は、初めて2週末にわたって開催され、各週末ごとに出展者が入れ替わる仕組みで、多彩な表現に出会える場となった。国内外から約560組の出版社やアーティストらが出展し、展示・販売のほか、トーク・ワークショップ・ライブ・サイン会など多彩なプログラムも展開された。
■Week 1
2025年12月11日(木)- 14日(日)
■Week 2
2025年12月19日(金)- 21日(日)
公式サイトはこちら
(選者)
小林エリカ
作家、マンガ家、アーティスト。目に見えないもの、時間や歴史、家族や記憶、声や痕跡を手がかりに、入念なリサーチにもとづく史実とフィクションを織り交ぜた作品を制作する。
CASE1
作家 / アーティスト・小林エリカさん
「金額オーバーして買って、食べて、大満足の1日じゃ」
あんたら若いもんは知らないじゃろうがな、TOKYO ART BOOK FAIRはその遥か昔の黎明期、ZINE'S MATEという名前でそれは小さくはじまっておったのじゃ。わしゃ、その時代から、Art Bookを愛し、Art Bookを作り、Art Bookを求め続けてきた。いまや、こうして東京都現代美術館を舞台に、世界からやってきたものたちがArt Bookをやりとりする光景をまえにして、感無量じゃ。
という昔語りをしたくなるほど私はこの場を愛してきました。通い詰めれば毎年そこでしか会えない顔ぶれにも同窓会のごとく再開できたり、新たな出会いもあったり。この度、1万円でお買い物、という企画でしたが、気づけばたった1日で完全に大幅に金額オーバー(自腹)、あれもこれもまだ紹介したいものがあったのに(2week目ごめんなさい!)と無念も残りますが、戦利品をうっとり眺めては、やっぱりArt Bookが大好き♡

今回私としての最大かつ新たな出会いは、ナイジェリアの首都ラゴス出身で現在はドイツ、ベルリン在住のKaro Akpokiereの作品群(本人が店番していてお話できました)。
こちらのタブロイドは、Karo Akpokiereが韓国へ旅行した際、ソウルに到着して早々に財布を紛失(表紙はその紛失届)。韓国警視庁の紛失物管理システムに自分の財布があらわれるかどうかをひたすらチェックし続け、そこに表示された物品(誰かが紛失したが見つかったもの)を、描き続けたものだとか(なんと帰国後も2年間)。残念ながら、財布は見つからなかったらしいが、この作品群ができあがったそう。
他にも、ラゴスをテーマにしたタブロイド『MEGACITY TIMES』PROTESTS IN LAGOS ISLAND SECEDES FROM LAGOS MAINLANDや、ラゴスの地名を並べた風刺的なポスターなども。

これは!と入手したのは、シンガポールから出展していたThe Slow Pressの『How to Cook a Prickly Pear』。直訳すると「プリックリー・ペア(ウチワサボテンの実)の料理方法」。
シンガポールからアメリカ、ロサンジェルスへ移民したMun Yiが、地元のマーケット食材を使って故郷シンガポールの料理に想いを馳せる、越境するミニブックシリーズ。
私が購入したのはそのシリーズのうちの1冊、「MASA / HARINA / KUEH TUTU」(4巻目)。
クエ・トゥトゥ(KUEH TUTU)は蒸した米粉にヤシ糖やココナッツをくわえたシンガポール伝統的なお菓子と、中南米のトウモロコシ粉(MASA)に水やラードを加えた蒸し料理タマレスが出会う、「スパイシーで棘のあるラブレター」。
「わたしたちしょっちゅうサンバル・パーティー(シンガポールをはじめとする東南アジアで使われる唐辛子ベースの調味料サンバルをまんなかに、幾種類もの食べ物を持ち寄り人が集まり語らう場所になるらしい)もやっているよ!」と話してくれて食コミュニティー活動も楽しそうでした。

中国のYin Er, Cang Jian and MOGが2019年に中国、上海で立ち上げたセルフパブリッシングスタジオ「桂林公園 Grilling Park」の『BREAK THE RESTRICTIONS』。
Yin Erがコロナによる厳戒態勢のロックダウン中に描いた人々のポートレート。上海では46日間の厳しい封鎖措置が取られていたそう。
タイトルの「BREAK THE RESTRICTIONS」(規制を破れ!)と呼応するように、封鎖をイメージしたテープのページを1ページずつ破りながら中のドローイングを見てゆく仕掛けになっているのも秀逸。
こんな風にして、「BREAK THE RESTRICTIONS」をやっていきたいよね!と私もページを破る手に力がこもりました。

本という形でこんなことができるんだ!と感動したのは、内モンゴル出身の二人組Amurhüü & Taukeszが作っている、最高に美しい2冊の本。
日本でもなじみが深い「スーホの白い馬」の物語には、ストーリー展開が異なる「ナムジルと天馬ジョノン・ハルの物語」もあるそう。それをモンゴル語(キリル文字)、日本語、モンゴル語(モンゴル文字)、中国語(漢字)、英語(アルファベット)が、チベット仏教の五色の祈祷旗(タルチョ)に着想を得たデザインで魅せる。
縦書きタイポグラフィーのフリップブックは絵巻物感もあって、広げるたびにどこまでも遠くへ行けそうなわくわく感がある。

本を買い漁るのに夢中になりすぎたところで、しばし一息、中国・瀋陽のインディペンデントアートブックストア「kaleidoscopestore」がつくる韓国のアーティスト、Bird PitことSeungwhan Kimの「READING MOOD」(読書気分)スタンプを。いちいち全部可愛くて、本好きにはたまらない品。私もしょっちゅう押したい。

会場を散策していたら千葉県松戸市に位置するアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR(パラダイス・エア)」のブースを発見。
以前、遊びに行ったPARADISE AIRは、地元と国際が入り混じり、カラオケやダンス、壁画制作からシリアスなパフォーマンスまで繰り広げられる、とても愉快で自由で楽しい場所だったから、そこで売られている本たちも気になる。
ベルギー生まれで東京を経て現在はロサンジェルスに暮らすというLina SuenaertとSIETSKE VAN AERDCの『NO DOGS NO MORE!』を入手。
2023年のロング・ステイプログラムでPARADISE AIRに滞在していて、展示も素晴らしかった韓国、ソウル在住のアーティスト・ユニット「手と顔」(Jeong Heejin[チョン・ヘジン]、Kang Jeong-ah[カン・ジョンア])のアートブックも見つけて嬉しい。

Yutaka Kikutake Galleryのブースでは、片山真理が新たに制作したダイアリーZINEの情報をSNSで見つけ、狙いを定めて入手! 新作《tree of life》がロンドンのVictoria & Albert Museumに収蔵されたことを記念して写真集が刊行され、それにあわせて、東京スタートでニューヨーク、パリ、ロンドンを巡ったワールドツアーの記録をまとめた一冊。写真集+ZINEという限定プレミア感。

好きなギャラリーのブースのチェックも欠かさずに。東京・大塚にあるギャラリーMISAKO & ROSENでは、アメリカを拠点にするアーティストWill Rogan のタブロイド・シリーズ遂に完結5巻目の『The Sun』Published by Hikotaro Kanehira and MISAKO & ROSEN)を。かつて新聞配達をしていたというWill Roganが、アメリカの新聞タイトル「Times」など冠して制作したシリーズは新聞そのものの在り方にまで想いを馳せられる。

毎年それぞれのZINEを楽しみにしている、グラフィックデザイナー/アートディレクターの井上庸子・中村至男・山下ともこの「上・中・下」ブース。山下ともこ『TYPE BAKERY』。パンの馬(!)Tシャツも可愛くて新年に着たいところだが、まずは本から。

Art Bookをたんまり買い込んだ後の〆は、アウトドアラウンジへ。現代美術ユニット「L PACK.(エルパック)」の美味しいコーヒーを。ちなみに、「L PACK.(エルパック)」が手掛ける「彫刻おでん屋台「LA」」のおでんは、先日のヴェネチア・ビエンナーレただなかのヴェネチア展覧会会場(蜷川実花 with EiM「INTERSTICE」at Palazzo Bollani、anonymous art project)でも出汁の香りを漂わせていて最高でした。

小腹が空いて見廻せば、美味しそうなヴィーガン・ピタサンドのフードトラックが。料理人yoyo.によるナチュラルワインと妄想中東料理のお店mountain groceryのお料理をここ東京で食べられるとは!
最後、一緒に行った人に現金借りてまで買って食べたという執念深さで、心もお腹もいっぱい満たされたTOKYO ART BOOK FAIRの一日でした。
おまけ

財布がすっからかんになっても、TOKYO ART BOOK FAIRはまだまだ楽しめます。
入り口で無料配布していたMuseum of Imaginary Narrative Arts[MINA]のカレンダー。1月ページには干支の馬の絵を私も描かせていただいてます!

People by TS. Photo では神田にあるTerrace Square PhotoのBryan SchutmaatとMatthew Genitempoの展覧会フライヤー・ポスターをいただきました。
(文・写真 小林エリカ)
ARTIST

小林エリカ
アーティスト
1978年東京生まれ。作家、マンガ家、アーティスト。目に見えないもの、時間や歴史、家族や記憶、声や痕跡を手がかりに、入念なリサーチに基づく史実とフィクションを織り交ぜた作品を制作する。著書に小説『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)、コミック『光の子ども』(リトルモア)などがある。主な展覧会は個展に「わたしはしなないおんなのこ/交霊」(2021年、Yutaka Kikutake Gallery、東京)、「 His Last Bow」(2019年、Yamamoto Keiko Rochaix、ロンドン、イギリス)、グループ展にグループ展に「Omoshirogara」(2022年、MuseumDKM, Duisburg、ドイツ) 、「りんご前線 — Hirosaki Encounters」(2022年、弘前れんが倉庫美術館、青森)、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(2019年、国立新美術館、東京)などがある。
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