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2023.05.12

【前編】ルールがあるから、レースはいい。北海道のアーティストが「カーレース」に挑む理由 / 連載「作家のB面」Vol.13 SHINSAKU DW

Text / Yutaka Tsukada
Photo / Ryosuke Uehara(KIGI)
Edit / Eisuke Onda
Illustration / sigo_kun

アーティストたちが作品制作において、影響を受けてきたものは? 作家たちのB面を掘り下げることで、さらに深く作品を理解し、愛することができるかもしれない。 連載「作家のB面」ではアーティストたちが指定したお気に入りの場所で、彼/彼女らが愛する人物や学問、エンターテイメントなどから、一つのテーマについて話してもらいます。

第13回目に登場するのはSHINSAKU DWさん。話のテーマは長年挑戦している「カーレース」について。取材は北海道・帯広にあるアトリエ兼、車を整備するガレージに伺って行った。まず最初は車に惹かれた理由からお届けします。

十三人目の作家
SHINSAKU DW

板状のアルミニウムの上に銀色のペイントを使って描いた2つの抽象絵画を一定の決まりに従って裁断、互い違いに並べ直した上で土台に取り付け、似て非なる2つの絵画を生み出す──といった制作を長年にわたり行ってきたアーティストSHINSAKU DW。極めてミニマルな幾何学形状で表現された作品は、観る者の視点をずらしたり、錯覚を起こさせたりしながら、豊かな鑑賞体験を生み出していく。

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《FRANNY AND ZOOEY》(2012 / シリーズ「corridor」より)©SHINSAKU DW

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©SHINSAKU DW

 

調子がいいと、車と身体が一体化する

ーーカーレースに出場するようになったきっかけを教えてください

SHINSAKU: 田舎の生まれというのもあって、いちばん最初に運転したのはトラクターでした。また家が農業をやっていたということもあり、トラックも運転していました。当然整備もしなければいけないので、乗り物は身近な存在だったんです。

最初に出場したレースは、車ではなくバイクでした。でも、バイクは転んだりするとすぐ骨折してしまう。一生懸命やっていたのでずっと乗り続けるつもりだったのですが、仕事のことを考えると洒落にならないので、車をやるようになりました。ただ、最初にやったゴーカートはバイク同様危なかった。僕は練習で2回肋骨を骨折しています。ゴーカートはシートが小さくて、タイヤもすごくグリップするので、ギャップに乗った時の衝撃がすごいんです。ひびで済みましたが、肋骨は固定できないぶん、呼吸をするたびに痛くて大変でした。

バイクとゴーカートは身体をさらけ出していることもあり、まさにスポーツなんですが「これはまずい」と思い、怪我のリスクがそこまで大きくないカーレースに参加するようになりました。ファミリーカーベースの車を使っても、レースでちゃんとスピードを出して集団で乗ってると迫力を感じます。そのあたりは、やっぱりモータースポーツなんだなと思いますね。面白いことに、いい感じで乗れているときはスピードが出ているにもかかわらず、時間がゆっくり流れているように感じるんです。本当に調子がいい時は車の屋根から自分の首が出て、車と一体化してる感覚になるんですよ。友達に言ったら「『きかんしゃトーマス』かよ!」って爆笑されましたが(笑)。

SHINSAKUさんが出場したトヨタの主催する「Yaris Cup 2023 西日本シリーズ」。ドライバーネームは「えふで校長」で、車体番号は「404」

ーー現在はどんなレースに出場しているのでしょうか?

SHINSAKU:いわゆる草レース、耐久レースというのにも出ますが、今参加しているのは、出場者の車種などを統一する「ワンメイクレース」です。今年4月1日にはトヨタの主催する「Yaris Cup 2023 西日本シリーズ」に参加しました。これはトヨタの製造するYaris Cup Carという同じ車両を使って速さを競うレースです。決勝には進めなかったのですが、コンソレーションレースという、予選落ちしてしまったレーサーが出場するレースで4位になることができました。

そのレースでは2位と3位、そして自分と通るコースがいくつかの場所で錯綜していたので、3位の車と接触などのアクシデントが起きそうでした。そしたら一気に2位に上がれるので、4位につけて様子をうかがっていたのですが、そういうことは結局起こらず……言い訳ですけどね。

ーーYaris Cupは年間何レースあるのでしょうか。

SHINSAKU:東日本で7戦、西日本で7戦あります。とはいえ全部出なきゃいけないわけではないので、ドライバーはみんな自分が出られるレースを選んで参加しています。Yaris Cupは全国規模のものですが、北海道で行われるレースもあるので、今は十勝スピードウェイと富士スピードウェイを中心に出場しています。

 

レースの勝ち負けに惹かれている

写真上:ガレージにはたくさんの車とバイクが置かれていた。写真下:カーレースで使用する愛車の前のSHINSAKUさん

ーーレースの練習はどのようなことをされているのですか。

SHINSAKU:十勝スピードウェイは自宅から比較的近くにあることもあって一番利用しています。富士スピードウェイや鈴鹿サーキットに遠征して練習することもありますよ。鈴鹿はガードレールが近いんですけど、富士はそうではないので、練習がしやすいですね。余談ですが、公道を走っても問題ないナンバー付きの車なので、練習にはレース用の車を自宅からそのまま乗っていくんです。もちろん、公道ではめちゃくちゃ安全運転ですよ。

札幌には東京バーチャルサーキットというレーシングシミュレータートレーニングジムの札幌校があるので、そこでシミュレーター(実際のレースさながらの体験ができる機器)に月3〜4回、4時間くらい乗ってますね。シミュレーターもいいやつだとお尻に伝わってくる情報にリアリティがあるんですよ。ブレーキを踏むと座席がガツンと動くようになってたりね。それで自分の走りが記録されて、ブレーキやステアリングがどうだったのかを具体的なデータとして波形にしてくれるんです。それをもとに、ジムの人から指導を受けることができます。お手本と比較されるから、叱られちゃうこともあるんですけど。あとシミュレーターは重いタイヤを交換しなくていいですし、ぶつかってもケガしない、ガソリンもオイルも洗車も必要ないという利点もあります。

ーーレースに使う車両のメンテナンスについても聞かせてもらっていいですか?

SHINSAKU:今出ているトヨタのレースはみんな同じ車を使うから、最初は差がないと思ってたんです。トヨタのレースでは有利・不利の不満が出ないよう、すごくしっかりルールができています。タイヤも番号が付与されるので、勝手に変えちゃいけなかったり。だからめちゃくちゃ速い人も、めちゃくちゃ遅い人もいないというのはあるんですが、でもやっぱり運転技術以外の差も出てくるんですね。同じ道具を使ってる分だけ細かいメンテナンスだったり、 タイヤの空気圧やブレーキなどの調整の違いで。空気圧は走っていると上がって、後ろと前でバランスが変わってきたりもするし、ブレーキの効き方にも影響してくるんです。

始めたばかりのころは全く知識がなかったので、いろいろ大変でしたね。レース用のトヨタの車を新車で購入して、整備士さんと信頼関係を築きながら学んでいきました。レースに参加し始めたときは当時の最新モデルだったので目立ってしまって、「あいつもしかして速いんじゃないか?」と周りが色めき立っているのを感じたんですが、結果は遅かったので急に冷められてしまったということがありました(笑)。

そういうふうにトレーニングと勉強を続けていたのですが、あるとき関東のシリーズ戦のチャンピオンカーが売りに出たということを聞きました。買うつもりはなかったのですが、問い合わせをしてるうちに後に引けなくなってしまって、結局購入しました。でもとても参考になったことがあって、同じ車種なのに自分の車のほうが60キロも重かったんですね。チャンピオンの初期型の車は、それだけ軽く、加えて細かいところの調整の違いもわかって、買って良かったなって思いました。今は車の型も新しいものになり、素材も変わってきています。昔の車は堅い素材だったのでぶつかった時にはへこむんですが、最近のは薄くて軽い鉄板のせいか、乗員を守って破れるように壊れるんですよね。

こういうふうにドライビングのテクニックとメカニカルな知識を蓄積していくことによって、かじを取るのに大切なステアリングが上手くなったりだとか、ストレートでの車体安定性だとか、他の車に対する場所取りの強さといったレベルアップにつながっていきました。速く走るためには、本当にちょっとの違いが大切なんだなと思います。

ーーレースのどういったところに魅力を感じているのか教えてください。

SHINSAKU:よくよく考えてみると、わざわざレースに出なくても一人で走れば誰でも一番じゃないですか。でもたくさんの人と競い合って、あいつより速い / 遅いということがやりたいので出場しているんですよね。基本的に勝ち負けがはっきりしているところが好きなんです。それにワンメイクレースはルールも明確にあるので、その中で、みんなで集合知的にタイヤの空気圧とかに対する最適解を追っていき、先鋭化していくところも面白い。僕は絵画についても「美しさ」を追い求めているのですが、レースの場合は「速さ」が絶対です。だからそこで整合性であったりとか、数理性が重視される。だけど、速い人はやはり、走る姿が美しい。そんなところに僕は惹かれているのだと思います。

ガレージから移動して、SHINSAKUさんのアトリエスペースへ。後編ではSHINSAKUさんのアーティスト活動についてお聞きします

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【後編】ネットじゃわからない、その場で体験するアートの価値って? / 連載「作家のB面」Vol.13 SHINSAKU DW

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「404 NOT FOUND」SHINSAKU DW作品展

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北海道に在住するSHINSAKU DWにとって東京では初めてとなる今回の個展。本展のために制作された最新作と近作を合わせて展示します。また、彼の作品をモチーフとしたグッズも販売。通常のホワイトキューブとは一味違うOFS GALLERYの空間で、SHINSAKU DWの世界との出会いを楽しめる展示となっている。

会期:2023年4月28日(金)〜5月28日(日)※作家在廊日:5月28日(日)
会場:OFS GALLERY(東京都世田谷区池尻3-7-3 OFS.TOKYO)
時間:12:00〜20:00(展示最終日は18:00まで)
休廊日:火・水
主催:OFS GALLERY
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ARTIST

SHINSAKU DW

アーティスト

北海道帯広市生まれ。愛知県立芸術大学 美術学部美術科油画専攻卒業。クリフォード・スティルやフランク・ステラをはじめとしたアメリカの抽象表現主義やミニマリズムの作家に影響を受け作品を制作。一時期はドイツのみで新作を発表していた。現在は地元である北海道を拠点に制作活動を行っている。主な個展に「Das unsichtbare Sehen」(2012、MIKIKO SATO GALLERY、ドイツ・ハンブルグ)、「The Secret Life of Inanimate Object」(2006、豊田市美術館ギャラリー、愛知県豊田市)など。

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