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INTERVIEW
2022.08.26
【後編】装いは、裸になって本来の自分を見つけること / 「祭り、ふたたび」ヴィヴィアン佐藤インタビュー
Photo / Ayami Kawashima
Edit / Maru Arai
「いつもの自分」が見る世界と、「装いや化粧を変えた非日常の自分」が見る世界。同じ自分なのに、ものの見方や感じ方が変わるのはなぜだろう?
そんな両極の世界を日ごろから行き来しているのが、ドラァグクイーンであり、美術家、非建築家、映画批評家、新宿歴史家としても多様な活動を行っているヴィヴィアン佐藤さんです。
後編では、ヴィヴィアンさんの「装い」への考え方を中心に、祭りやアート、ヘッドドレスの関係性について、歴史を踏まえながら多角的に深掘ります。
ヴィヴィアン佐藤さんの記事前編はこちら!
表現も、批評も、街歩きも。やっていることの根本は同じ
―美術家、非建築家、映画批評家としても長年活動しているヴィヴィアンさん。多様な表現活動をされていますが、その幅はどのように広げていったのでしょうか?
表現は物心ついた時から当たり前のようにしていましたね。小学1年生の頃に、初めて水彩絵の具セットを買ってもらって、当時の私はお風呂とトイレ以外、四六時中その道具を身につけて、気が向いた時にいつでも絵を描いていたんです。
そして最初は画用紙だった支持体がやがて顔になり、絵の具が化粧道具になっていった。男の子だったけれど、お母さんの化粧品とか、ネックレスとかイヤリングとか、服などにも昔から興味があって、髪型を盛ることもヘッドドレスをつくることも、その興味の延長線上にありました。それ以外にも、美術作家として版画を描いたり、立体アート作品もつくったりしているし、映画や演劇の批評も表現と同じこととして、垣根なく表現活動を続けていますね。
ヴィヴィアン佐藤さんの作品《夜の薫》
《shadows of ghosts 2020》南魚沼市浦佐 八色の森池田美術館にて
―批評も鑑賞者ではなく表現者の立ち位置でなさっているのですか?
私はアーティストや映画監督は「作り手」、批評家や鑑賞者は「受け手」というように、ふたつを対立的に考えていないんです。例えば映画の批評を聞いて観たくなっても、そこで語られたことは、本質的には映画そのものではない。映画批評も落語みたいなもので、私の喋りのパフォーマンスとなるんです。
要するに鑑賞者にこそクリエイティブな対応が求められると思っていて。それぞれの人たちに固有の人生経験があり、それと作品と対峙した時の反応を照らし合わせて、自分のどこが反応したか、どうしてむかついて、どうしてそんなに感動して、何を想起したかを自分の言葉でどう語れるかが重要なんです。そして作り手側は、どうして今それを発表すべきだと考えたのかを示すことに責任を持ち、自己批評的な態度を取ることが求められている。
そうなってくると、作り手側と鑑賞者は対立するものではなく、結局同じことを相互にしているだけなんじゃないかと思うわけです。だから私は、歴史や出来事、違う文脈を見つけてきて、自分なりに作品を語るという批評のやり方をしているの。だから監督やプロデューサーが望むようなこともあえてせず、彼らが思ってもみないような作品の見方を提示しているんです。「豊かな誤読」です。
―新宿の街歩きツアーも企画されていますが、それもまたヴィヴィアンさんにとっては表現にあたるということなのでしょうか?
そうね。Wikipediaとかに載っていることではなくって、違う自分だけの文脈を見つけてきて話を紹介することが大事なの。
今は暗渠(あんきょ)になっているけれど、新宿二丁目には昔川が流れていたの。特に車も通れないような細い路地は元々川だった場所が多くて、苔が生えていたり、蔦が絡まる建物が多かったり、湿気が多いと目に見えてわかる。そしてその辺には、どういうわけか、レズビアンバーが多いんです。その理由ははっきりとはわからないけれど、それを私なりに解釈すると、すごく湿った道筋にそういう女性的なものが集まるからじゃないかって。風水の陰陽とか、エロティシズムとか、狂気と水と女性的な要素を結びつける「オフィーリア・コンプレックス」的なアイデアにも通じるというか。それが2丁目の中でも成り立っているのではないかという都市論としても語ることができるの。
―ヘッドドレスのワークショップでも、そういったものの見方を伝授されているということだと思いますが、ヘッドドレス制作における「盛る」という要素からは、何が見出せるものなのでしょうか?
基本的にお化粧したり着飾ることは、「変身したり、何か別のものになったりするから楽しい」とみんな言うんだけれど、私はお化粧をすることや盛ることは、実は削ぎ落とす行為で、どんどん裸になって本来の自分を見つけていくことだと思うんです。ヘッドドレス制作もそうで、脳や皮膚とか、そういったものをちょっとだけ拡張するような作業なんですよね。感覚を少し、頭蓋骨から体の外に神経を少し伸ばすようなイメージというか。普段見えなかったり感じなかったりするようなものを、敏感にキャッチするアンテナや網のような役割がある。
―ヘッドドレスをつけることで、ものの見え方も変わってきそうです。
ヘッドドレスをつけるかつけないかで、同じ美術館、映画館、街にいても、見え方はずいぶん変わります。それは視野が広がるというより、視野が変わるという方が正しくて、チャンネルが変わるから普段は気づかない景色が見えてくるんです。
そういう視点から歴史を振り返ると、ヨーロッパでは宮廷にいた女性や日本の公家、殿様、花魁、銀座の高級店のママもドラァグも、みんな自分とは違う身分や社会制度の人、違う立場に人に置かれている人たちとやり合うための「ツール」として頭を盛っていたとも言える。または古今東西の民族衣装では、人間以外の自然や精霊、神や悪魔のような存在と、もしくは現在ではない、過去や未来と接触する道具であったのかもしれない。
―アートには媒介の役割があるという話が出ていましたが、ツールを変えることで場と人とアートの関係性も変わってくるということでしょうか?
ロラン・バルトの「作者の死」の考え方にあるように、そもそも作品はすべて、人と対峙してはじめてその存在が成立するもの。見る人がそこにいなければ作品は存在し得ないということがあり得るわけじゃない?
「ベートーヴェン症候群」みたいに作者の生活や人生とか気持ちばかり想像するのではなく、先ほど言ったような鑑賞者に求められるクリエイティブな対応を引き出すツールをなにかしらの形で取り入れることで、アートという媒介の捉え方も変わってくるでしょうね。
ふたたびの、祭りに向けて
―これから祭りの復活が期待されますが、そこでやっていきたいことを教えてください。
直近だと、10月に墨田区で行う予定のヘッドドレスのワークショップでしょうか。ヘッドドレスをつくって、それをつけて写真を撮りながら街を練り歩き、船に乗って隅田川をずうっと登っていく。最終的に浅草で降りて、隅田公園の盆踊りに参加する予定です。そこでは岸野雄一さんらが参加するユニット、ヒゲの未亡人のDJで、80年代のアメリカのポップスとか、90年代のボン・ジョヴィ、荻野目洋子などの曲に合わせて踊る。みんなが知っている懐かしい音楽を聴き、街の翳りをスパイスにノスタルジーを感じながら踊る盆踊りって、どこか心地よかったりするんですよね。
私は非日常とか天変地異が意外と好きで、東日本大震災の時だって、日本中が大変なことになって、この辺も全部のお店が閉まって、美術館もコンサートも、テレビのCMまでなくなった。そこで自分は何ができるかなと思ったときに、真っ先にやらなきゃいけないと思ったのが、「お化粧」だったんですよ。「非常時だから今やるべきじゃない」ということで止めてしまうことは、これまで要らないことをやっていた証明を自らしているようなもの。だからこそ非常時にドラァグをした。
本来みんなで阿呆になることって楽しいことなんです。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々。そういう一体感をまた感じていけたらいいなと思います。
取材協力
キャンピーバー新宿店
東京都新宿区新宿2-13-10武蔵野ビル1階
Webサイト
infomation
隅田川で咲く花でヘッドドレスをつくってみよう
講師:ヴィヴィアン佐藤
詳細はこちら
日時:2022年10月9日(日)13:30〜17:30まで
場所:築地本願寺慈光院(墨田区横網1-7-2)
対象:子ども(小学3年生〜中学生まで) シニア世代(おおむね60歳以上)
定員:30名 ※申込多数の場合は抽選。
参加費:子ども:¥1,500(内 乗船料 ¥200) シニア:¥3,000(内 乗船料 ¥400)
まごと割:ペア申込みで500円割引 申込方法 LINE・メールにて受付(質問は電話でもOK)
申込締切:2022年9月20日(火)
申込多数の場合は抽選。結果はメールで9/25(日)までにお知らせ。
1参加者氏名(ふりがな) 2年齢(学年) 3電話番号(当日連絡がとれる) 4メールアドレス 5写真送付先住所 6保護者氏名(参加者が子 どもの場合)を下記までお寄せください。
NPO法人 トッピングイースト
電話 :080-9671-7507(不定休11:00-18:00)
メール: hokusai@toppingeast.com
LINE:https://lin.ee/HGSqMgD
DOORS
ヴィヴィアン佐藤
作家、映画評論家、非建築家、ドラァグクイーンなど
青森県七戸町をはじめとした地域のイベントをディレクションするとともに、日本各地でヘッドドレスワークショップを開催。詳細は、ヴィヴィアン佐藤のSNSで随時更新中。
volume 03
祭り、ふたたび
古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。
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