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- 大自然の中でデジタルとアナログを横断する。中西伶のアトリエ / 連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」Vol.4
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2026.03.25
大自然の中でデジタルとアナログを横断する。中西伶のアトリエ / 連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」Vol.4
Edit & Text / Eisuke Onda
制作途中の作品や散らばった画材、机や棚から、その作家の個性が滲む。アトリエに訪れると、作品の奥にある思考の一端を垣間見ることができる。連載「部屋は語る〜作家のアトリエビジット〜」では、現代作家たちの創作空間を紹介していく。
第4回は絵画を軸に多様なメディアで発表を続けるアーティスト・中西伶のアトリエを訪れた。
富士山の麓近くの大きな建物





都心から車で約2時間。富士山の麓から山道を進んだ先に、大自然に囲まれた静かな別荘地がある。その一角に、白く大きな建物が姿を現した。扉を開くと、大きな窓から差し込むやわらかな自然光に満ちた開放的な空間が広がる。ここはアーティスト・中西伶さんのアトリエ。
中西さんはグラフィックデザインをルーツに持ち、絵画を軸にしながら立体や陶芸、さらには畳など、多様なメディアで作品を発表してきたアーティスト。デジタル技術を起点にアナログな手法を組み合わせながら、現代という状況の中で「アートの価値とは何か」を問い続けている。
「この時代に僕たちが置かれている状況を考えると、昔の画家だったらどんな作品をつくったのだろう、と想像することがあって。今はデジタルやAIがある時代。そういう環境の中で、絵描きとして何ができるのかを考えています。自分の内側から出てくるものだけでなく、できるだけ人に伝わる作品でありたいとも思っています」
アトリエには制作途中の大きな作品や画材、PC、骨董品などが並んでいる。広い空間を歩きながら、中西さんの創作の鍵を探っていく。
前回は大庭大介さんの京都のアトリエへ
四軒目の作家
中西伶

1994年 三重県生まれ。2016年に渡米し、山口歴のアシスタントとして作品制作に携わる。 2019年に帰国後、 静岡県を拠点に国内外へと展示発表を続ける。 従来の絵画の制作方法にプリンティングを組み合わせたアプローチで作品を制作する。 近作では、グラフィックのほか、3Dモデリング、AI、NFTなどの技術を掛け合わせながら時代の動きによって変化し続ける価値について問い、制作を通して表現の本質を模索している。


フォトスタジオからアトリエへ

中西さんがこの場所をアトリエとして使い始めたのは、5年ほど前のこと。アメリカで山口歴のアシスタントを務めたのち帰国、自身の制作拠点を探す中でこの場所と出合った。
「もともとは写真家の伊島薫さんがフォトスタジオとして運営していた場所らしいんです。実は友達のお父さんで、ちょうど借り手を探しているという話を聞いて、すぐに連絡しました。来てみたら自然に囲まれていて、天井も高いし空間も広い。そこがすごく気に入って、アトリエ兼住居として使わせてもらっています。都心と違って周りにノイズもないので、制作に集中できるのもいいですね」

アトリエスペースは3階分の吹き抜けになっており、頭上には天窓がある。フォトスタジオ時代の名残で、光量を調整することも可能だという。「実は今でも、友人の映像作家やカメラマンに頼まれて、ファッションのルック撮影やMV撮影で使ってもらうこともあるんですよ」

大きな絵を制作できる広いスペースの脇には、画材を収納する大きな棚が設けられている。「友人に作ってもらった棚なんですけど、この奥にPC専用の作業スペースがあるんです。大きな空間は気に入っているんですが、デジタルの作業をするときは、むしろ少し狭い空間の方が集中できるんですよ」

アトリエには、中西さんの作品のほか、友人の作品なども所狭しと並んでいた
骨董品に馴染むアートを目指して

再びアトリエに戻ると、「この書道の作品、実は横山大観なんですよ」と教えてくれた。
「『被褐懐玉』って書いてあるんですけど、なんだかいつも大観に怒られているような気がして、気が引き締まるんです」そう語ると嬉しそうに棚に並ぶコレクションの数々を見せてくれた。これまで集めてきた美術作品や骨董品、自身の作品、標本などが所狭しと並んでいる。
「コレクションするのが好きなんです。最近は特に骨董や民芸品に興味があります。ものに込められたストーリーを知って買うこともあれば、形が気になって直感で買うこともあります。もともと古いものは好きだったんですが、帰国してから自分の国のアイデンティティが何なのかを改めて理解するために日本のカルチャーをもっと追いかけてみようと思うようになりました。骨董屋や骨董市にもよく行きますが、楽しいですね」

「これ、最近買ったんですけど自慢していいですか?」
そう言って手に取って見せてくれたのは、山形の民芸品「オタカポッポ」。魔除けや縁起ものとして親しまれてきた木彫りの鳥だ。
「鳥の形を模した民芸品なんですけど、造形がすごく直立していて、鳥というより抽象的な彫刻のようにも見えるんですよね。コレクターの間では羽の状態が良くてシンメトリーなものが価値があるらしいんですが、僕はこの朽ちた質感や、欠けていることで生まれる台座とのバランスも気に入っています。他にも、昔のお寺の端材や、お菓子の木型など植物モチーフがデフォルメされた古いものを集めたりしています。身近にそういうものを置いておくと、ものの見方が少しづつ開いていく感じがあったり制作のインスピレーションになるんですよね」

写真左はウスカビガの標本。「家の近くに生息していることを知って、最近虫取り網を買って捕まえました。ふわふわしていて可愛いですよね」。右は神社で使われていた木材の破片

「最近は、過去の民芸品や時代を超えてきた作品と自分の作品が並んだときの違和感がない状態をつくりたいと思っています。過去から残り続けた作品がどんな強度を保っているのか、またどういうストーリーを作る器量がその作品にはあったのかを意識して鑑賞や制作をしています」
グラフィックデザイナーのルーツ


アトリエにはさまざまな種類の画材が並んでいるが、中西さんの作品制作はまずPCから始まる。
「アーティストになる前はグラフィックデザイナーとして活動していたこともあって、制作の最初の段階でPCを使ってイメージを組み立てるという方法は昔から変わっていません。例えば花を描く場合は、花を構成する素材を集めたファイルをつくって、そこから組み合わせて花の形をつくっていきます。その素材自体は完全に1から色と形の組み合わせで作っています。過去作品や自分で撮影した写真から持ってくることもありますが、今の自分の美意識に刺さるまで色味を変えたりシェイプの調整を繰り返します」


中西さんは、デジタルで構造を組み立てたのち、それを絵画として展開していく。
「自分にとって絵の具を扱うことは、どこかアンコントローラブルなものだったんです。そもそも自由度が高い絵画の制作に対してどう制約を加えたり、どういったルールを持ち込むのかがスタイルを生むことだとすれば、僕はデジタルツールを扱うという形で絵画の中にひとつの制約を作っています」
制約を作る制作の中で考えていることがある。
「膨大な情報があふれるこの時代で、何かを選び取る姿勢を持たなければ、生きているだけで色んなものごとに流されてしまう気がするんです。個人的には情報の量ではなく、入ってくる情報に対して自分がどうバランスを取っていくかが大切な時代になっていくんじゃないかなと思っています。自分の立ち位置を明確にしつつ、物事に取り組んでいればトレンドや何が新しいものなのかを意図しなくとも時代の空気感みたいなものが作品を纏っていくような気がしてます。そこに全力で取り組んでいれば過去と未来をつなぐ現代にしか出来ない制作ができると思うんです」

アーティストと協働のかたち

アトリエには花をモチーフにした彫刻作品も置かれていた。立体作品を制作する際には、彫刻家と協働しながら制作を進めるという。
「これは友人に造形してもらった作品です。僕は彫刻を作る時も絵画と同じように、まずデジタルで3Dのイメージを作って、それをもとに彫刻作品を制作していきます。一度形になったらいろいろな角度から写真を撮って、修正指示を出しながら調整していくんです」
近年では陶芸作品やアクセサリー、さらには畳作家とのコラボレーションなど、さまざまなメディアへと制作の幅を広げている。
「陶芸など、歴史的背景のある創作物があった場合、ストーリーなどを知りながらその道のプロの方達と一緒に制作できるのがすごく楽しくて。偶然出会ったこの人とお仕事したいなって思う事があったり、ありがたい事にそれが作家さんであったり、職人さんであったりしています。そんな顔の見える方達や、理解ある友人たちとの関係性が、モチベーションを維持したりいい作品の制作につながっている気がします」

中西さんの図案をもとに、畳の老舗・田中疊店とコラボレーションした作品
近年の制作を考えるうえで、中西さんの関心はAIにも向けられている。
「よく、昔の画家だったら今の時代にどんな作品をつくるんだろうって考えるんです。それぞれの時代に、その画家なりの問題提起や解決の形があったと思うんですが、今の時代に絵描きとしてどんな役割があるのかを考えています。そんなときにAIエンジニアの人と出会って、いま自分専用のAIを開発しているんです。これまで制作してきたイメージソースを読み込ませて、そこから新しいイメージを生成するような仕組みですね」
中西さんは、AIの扱い方についても慎重に考えている。
「AIって、莫大なイメージソースから簡単に画像を生成できますよね。でもそれだと、自分の手から離れすぎてしまう感じがあるんです。だから僕はここまでだったら自分の作品と言える手応えみたいなものから逸れないようにAIを扱えるように気をつけています。自分の作品と言えないものまで自分が生み出したような気がしてしまう瞬間があってこれはまずいなと思って。なので自分が生み出したイメージだけをAIには学習してもらうようにしています。それと、自分の役割でない領域に関しては素直に詳しい友人や力を借してくれる方々にご依頼出来るような環境を整えておこうとも思っています。それが人にできる事とAIに出来る事の違いをより自分の中で整理する作業にもつながっていく気がしていますね」

Information
中西 伶、入江 広基、サトウ リホミ、平野 啄也
「GROUP SHOW 2026」
■会場
京都 蔦屋書店 5F エキシビションスペース
京都市下京区四条通寺町東入御旅町二丁目35 京都髙島屋S.C
■会期
2026年2月20日(金)~3月28日(土)
11:00~20:00 ※最終日は18:00閉場
ARTIST

中西伶
アーティスト
1994年 三重県生まれ。2016年に渡米し、山口歴のアシスタントとして作品制作に携わる。 2019年に帰国後静岡県を拠点に国内外へと展示発表を続ける。 従来の絵画の制作方法にプリンティングを組み合わせたアプローチで作品を制作する。 近作では、グラフィックのほか、3Dモデリング、AI、NFTなどの技術を掛け合わせながら時代の動きによって変化し続ける価値について問い、制作を通して表現の本質を模索している。
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