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INTERVIEW

2023.04.21

デザイナー・建築家のDODI™がホームセンターに行って考えた、“新しい”アートの飾り方

Photo / Shin Hamada
Text&Edit / Eisuke Onda

部屋の中に飾った一枚の絵。お気に入りだけど、もうちょっと違う飾り方はできないものか。それに押入れには立体作品も眠っている。うーん、もっと気軽に部屋の中でアートを楽しみたい。

そんな悩みを解決するためデザイナーで建築家のDODI™さんに、アートと暮らすための"アイデア”を提案してもらった。訪れたのはアーティストでありアートをコレクションする光岡幸一さんのお宅。

紹介するのは簡単で、しかも作品の印象を変えてくれるDIYばかり。肩の力を抜いて挑戦してみたら、新しく、刺激的な暮らしが“はじまる”かもしれないね。

提案する人:DODI™

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さまざまなアート展示やアパレルショップのインテリア設計を担当する建築家・デザイナー。例えばバスケットボールを構造体に用いたりするなど、物に備わったポテンシャルを考えながらのデザインが得意。

提案する場所:光岡幸一 宅

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インスタレーションやパフォーマンス、写真、ドローイングといった手法を駆使して作品制作するアーティストの光岡幸一さん。東京都の36平米の賃貸マンションに暮らす。所有する作品は平面10点、立体5点。

 

アートを飾るときの悩み

「友達の作品を買うこともあるし、自分の作品と交換することもあるんですけど、それを続けていたら部屋中に作品がある状態になりました(笑)」と語るのはアーティストの光岡さん。

部屋に入ってみると、なるほど。至るところに絵画や立体作品が並んでいる。現在の悩みをヒアリングしてみると──。

悩み1:陶芸作品ってどうやって飾れば

「陶器の作品をたくさん持っているのですが、飾っていたら倒れないか心配になります。賃貸マンションだと飾る場所も限られているのと、地震なんかも気になります。耐震のために作品をガチガチに固定しちゃうと邪魔になっちゃうのでバランスも難しいですね」

悩み2:ZINEの置き場所が難しい

「アーティストのZINEを買うのが好きなんですけど、本棚に入れると読まなくなるんですよね(笑)。薄くてどこにあったのか忘れてしまう。作品を飾るみたいに部屋の中にZINEを飾れたら良いのになって思います」

悩み3:部屋だと普通に飾ってしまう

「自分の展示だと、気楽に遊ぶ様な感じで作品を飾るんですけど、自宅となるとスイッチが変わってしまいます。人の作品だからというのもあるのか、カチッと整然と飾る事が多いのですが、もうちょっとラフな感じに飾れたら楽しそうですよね」

光岡さんの悩みを解決するためにDODI™さんはホームセンターに向かった。

 

アイデアはホームセンターの中に

DODI™さんが訪れたのは〈ホームズ葛西店〉。関東エリアを中心に全国展開する島忠ホームズの中でも超大型の店舗だ

〈ホームズ葛西店〉

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日用品はもちろん、木材や金属、ガラス、布など様々な素材から、配管や工事現場のアイテムまで、都内屈指の品揃え。
住所:〒134-0084東京都江戸川区東葛西9-3-6
公式HPはこちら

到着するなり立ち止まるDODI™さん。沈黙すること5分。あまりにも長いので話しかけると「ちょっと妄想してました」とニヤリ。

「ホームセンターっていろいろな物が置いてあるじゃないですか。その質量とか材質をたしかめながら“物に備わっているポテンシャル”について考えていました。例えばハサミから“切る”って機能がなくなったら変な形だと思うんですけど、素直に“形”としてみた時に新しい使い方ってなんだろうって。日常的なものにちょっとした操作を加えることで、新しい用途をみつける。そんなことが今回はできないのかなと考えています」

店内を歩いたり、立ち止まったりしながらアイデアを練る。そんなDODI™さんの背中にカメラを向けた。

光岡さんからもらった作品リストを入念に見つめる

動き出したDODI™さん、まずは木材をチェック

板を重ねてみたり、たわんだ木材を観察してみる

なにやら不思議な物と出会い興味津々

時折取材班を巻くような行動をみせ、さまようこと2時間、未だ購入するものは決まらない

カーペット売り場で閃いたのか、スケッチをはじめる。何かが動き出す予感!

ネイビーのライトカーペットを手に取りカートへ。本日はじめての一品

続いてロールされたカーペットが気になる様子。手で素材の感触をたしかめたあと、ベージュのカーペットを1メートルお買い上げ

物欲に火がつき、クランチや板、画鋲など細かい商品をカートへ。「僕はロースタートなタイプなので、後半、一気に加速するんですよ。だから、ホームセンターに行く時に大事なことはたっぷり時間をとること(笑)」とDODI™さん

購入する商品が決まり、レジへ向かう

入店して約3時間半、ようやくDODI™さんの買い物が終了。カーペットで何をするのだろうか? 再び、光岡さんのお宅へ。

 

いざ、実践!

「DODI™さんの展示空間が好きなので今日は楽しみですよ」と期待を膨らませる光岡さん。それを横目にホームセンターで購入したものを広げるDODI™さんは一言、「今日は重ねたり、布を折り曲げたり、刺したり、簡単な作業で成立する方法を考えてきました。真似をしてもらえたら嬉しいです」。ゆっくりと、動きはじめる──。

 

DIY1:陶器のショーケース

まずDODI™さんが取り掛かったのは乳白色のプラスチックケースを使った、陶芸や立体の作品を飾るためのケース。

 

●用意するもの
Nインボックスレギュラー×4
Nインボックス(W)フタ×1
はんだごて

●作り方

1:Nインボックスレギュラーの1個に、はんだごてを使って自由な形の大きな穴を開ける。残りの3個には、少しずつ小さくした穴を開けていく

*はんだごてで穴を開ける際に独特な匂いが出る場合がありますので、よく換気された環境で行うことを推奨します。

2:好きな作品を箱に入れて重ねていく

3:重ねて最後にフタを置いたら完成

DODI™:ケースに入れることでホコリをカバーする事ができるのと、乳白色のプラスチックのおかげで作品全体に光が回ります。その日の天気や室内の光量で作品の見え方が変わってくるのもポイント。今回はケースに開けた穴のサイズや形を下から上にかけて徐々に小さくするようにしましたが、これはやりたいように開けても大丈夫です。

光岡:光が透けてきれいですね。一番上の星のオブジェが小さな窓で切り取られているのも可愛いです。はんだごてでスッと穴をあけるだけで、こんなにも良くなるものなんですね。

 

DIY2:ZINEを飾るラック

次に作るのはZINEを収納するラック。購入した1mのカーペットをDODI™さんは事前に加工していたのでその説明からスタート。

 

●用意するもの
カーペット
結束バンド×4
画鋲(できるだけたくさん)

●作り方

1:カーペットを表面にして広げます。下から30センチの箇所で山折りにして、さらに10センチの箇所で谷折りにする。続いて40センチ箇所で山折りにして、また10センチの箇所で谷折りに。カーペットを折る際は一度、折り曲げる位置にカッターで切込みを入れると美しく仕上げられる

2:カーペットの両端の、山折りをした箇所を結束バンドなどで固定

3:蛇腹のカーペットを室内の壁に設置。L時の壁のほうが布にはりが生まれて安定しやすい

4:カーペットに画鋲を刺して固定していく

5:ZINEを入れたら完成

 

DODI™:こういうラックはお店でも売られていると思うのですが、常々“肩に力が入りすぎているなぁ”と感じていました。でも、こうやって折り紙のように折るだけでも成立するんです。工夫して自分で作ってみると、案外簡単にできることがわかります。そこが伝わるものとして作りました。

光岡:既製品で買う棚って寸法測ったり大変ですけど、これだったら大きかったら切ればいいだけだし簡単。こんな感じで作れるんだ!って驚きました。ダメだったらダメくらいでもいいんだよな。

DODI™:僕もそう思ってて、世の中にはストレスが多すぎる。この作り方は拡張性が高くて、部屋中にこれを巻けばすべてのところに棚があるみたいな空間も作れます。

 

DIY3:絵を飾るためのアレンジ

最後は平面作品を飾るためのアレンジです。まずは購入したタイルカーペットを使っていきます。

 

●用意するもの
タイルカーペット ハーゲン NV 50X ※店内在庫限りで終了
カッター
画鋲×8

●作り方

1:飾る作品のサイズに合わせて、タイルカーペットにコの字の切り込みを入れる

2:壁にカーペットを貼り付けて、コの字の切込みをグニャりと曲げる

3:曲げた箇所にキャンパスの作品を引っ掛けたら完成。引っかかりづらい場合は糸などで固定したり試行錯誤してみよう

 

DODI™:賃貸の壁ってだいたい白いクロスじゃないですか。白壁に飾るのもいいけど、作品とファブリックの相性もあると思うんです。だから、色が選べる既製品のカーペットを使うことでぐっと作品の印象を変えることができると思うんです。

光岡:なるほど! 背景に黒を置くことでグッと作品の印象が変わりました。作品にあった色を考えながらカーペットを選ぶのも楽しそうですね。

最後にもう一つトライしてみたいものがあると、DODI™さんは購入したまま手つかずの木の板とクランプを使ってなにやら作り始めた。

1:白木 「1820×12×60」と「白木910×12×60」を格子状に並べて、重なった場所を「Cクランプ50mm」で固定

2:私物のカラーボールを輪ゴムで止めてなにか作る

3:2の工程をやっぱりやめて光岡さんが展示で使った作品をひっかける

4:完成?

 

DODI™:これは板をクランプで止めただけなんですけど、クランプの取手に長尺の作品を引っ掛けられればなと。使い方は自由に考えても大丈夫です。

光岡:すごくDODI™さんの作品っぽいですね。ボールを引っ掛けた状態もめちゃくちゃいい感じでした。僕の作品とセットで買ってくれる人いないかな(笑)。

DODI™:よろしくお願いします(笑)。

光岡:今日は面白かったです。最初はどうなるかと思ったんですが、素材がサッサッと簡単に部屋に入ってくるような体験でした。作品の取り扱いって難しいなと思っていたんですけど、これくらいラフでいいんだなって。

DODI™:自宅に作品を飾るとなると、いろいろな制約があるかと思う、ラフに暇だからやるくらいの感じでいいと思います。

光岡:たしかにそうですね。みんなで話しながら作る感じも楽しかったです。一人でDIYをやるのが億劫な人は友達呼んでやるのも良いなと。いやぁ、部屋がいい感じになりました(笑)。

DOORS

DODI™

デザインスタジオ/建築家

私たちは、2021年に数人の協力者によって設立されたデザインスタジオです。私たちのゴールは、クライアントやコラボレーターを、彼ら自身が何者であるかを伝えるだけでなく、何者かを明らかにするプロセスに参加させることです。この進め方は、ブランドと作品の進化を探求する継続的な関係性につながっています。

ARTIST

光岡幸一

アーティスト

愛知県生まれ。名前は、字が全て左右対称になるようにと祖父がつけてくれて、読みは母が考えてくれた(ゆきかずになる可能性もあった)。宇多田ヒカルのPVを作りたいという、ただその一心で美大を目指し、唯一受かった建築科に入学し、いろいろあって今は美術家を名乗っている。矢野顕子が歌うみたいに、ランジャタイが漫才をするみたいに、自分も何かを作っていきたい。一番最初に縄文土器をつくった人はどんな人だったんだろうか?  最近注目している芸人は「ゴスケ」と「ママタルト」「ハイツ友の会」。主な個展に2019年「あっちとこっち」(外苑前FL田SH/企画 FL田SH)、2021年「もしもといつも」(原宿 block house /企画 吉田山)。 2021年写真新世紀優秀賞(横田大輔 選)、広島市現代美術館企画「どこ×デザ」蔵屋美香賞受賞。

volume 05

はじめていい。
はじまっていい。

新しいことは、きっと誰でもいつでも、はじめていいのです。
だけど、なにからはじめたらいいかわからなかったり、
うまくできない自分を想像すると恥ずかしかったり、
続かないかもしれないと諦めてしまったり。
それでも、型や「正解」「普通」だけにとらわれずに
はじめてみる方法がきっとあるはずです。
この特集では「はじめたい」と思ったそのときの
心の膨らみを大切に育てるための方法を集めました。
それぞれの人がはじめの一歩を踏み出せますように。

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