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INTERVIEW

2024.06.05

「同時代性」をテーマにした珠玉の現代アートコレクション / UESHIMA MUSEUM開館 植島幹九郎インタビュー【前編】

Photo / Daisuke Murakami
Text & Edit / Kaori Komatsu

事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎さんの現代美術コレクション「UESHIMA COLLECTION」を紹介する「UESHIMA MUSEUM」が6月1日にオープンした。

2016年にニューヨークでゲルハルト・リヒターの個展を見たことをきっかけにアート作品を収集するようになった植島さん。現在のコレクション点数は670点に及ぶ。出身校の母体である渋谷教育学園の敷地内に誕生した地下1階から地上6階の7フロアを占める「UESHIMA MUSEUM」には、その幅広いコレクションの中から様々なテーマに沿ってセレクトされた作品が展示されている。

「UESHIMA COLLECTION」の軸は「同時代性」。「少し先の未来をいち早く具象化し、より良い社会に向けて積極的に還元していくという過程はビジネスにもアートにも普遍である」という植島さんの考え方に則って集められたアート作品の数々からは、時代の重層性が見えてくる。

複数の顔を持つリヒターへの興味

──植島さんがアート作品を購入するきっかけは、2016年に現代アーティストの山口歴さんと一緒にニューヨークのマリアン・グッドマン・ギャラリーで開催されたゲルハルト・リヒターの個展を観に行ったことだったそうですね。

そうですね。2011年の東日本大震災の時に被災地でのボランティア活動に参加し、支援活動をされていた国際協力NGO「ピースウィンズ・ジャパン」代表理事の大西健丞さんと知り合ったことで、大西さんと繋がりのあるリヒターのことを知りました。大西さんは世界各地の紛争や自然災害の現場で支援を行う一方で、瀬戸内海にある無人島の豊島にリヒターの14枚のガラスからなる巨大な作品《14枚のガラス/豊島》を展示する小さな美術館を作られた方です。大西さんのお話を通じて、著名アーティストということだけではない、社会と深く関わろうとするリヒターの一面に興味を持ちました。美術館が出来るのと同じ頃、たまたま旅行で訪れたニューヨークのマリアン・グッドマン・ギャラリーでリヒターの個展をやっていたので観にいったところ、彼のペインティングの作品に衝撃を受けました。当時の私は自分の家やオフィス、経営していた飲食店に飾るためのアートを購入し始めた時期。山口歴さんの作品を購入していたこともあり、リヒターの作品も欲しくなって値段を聞いたんですが、衝撃的な金額で買えませんでした(笑)。でも、「欲しい」という気持ちがずっと強く残りました。

アート作品を購入するきっかけとなったのはリヒター。「UESHIMA MUSEUM」にはリヒターの作品《Abstrakte Skizze》が展示されている

──その後、美術館を開館したいという構想はどのように生まれていったんでしょう?

山口歴さんの作品をはじめ、20点ほどアートを購入してオフィスなどに飾っていたのですが、飾る壁がなくなったことで一旦購入するのをやめたんです。そこから6年後の2022年に事業拡大に伴ってオフィスを拡張し、壁が増えたことで、また「作品を購入したい」という気持ちが生まれました。そこで、世界三大オークションハウスであるフィリップスの日本代表を当時務めておられて、ゴルフ仲間でもある服部今日子さんに相談しました。服部さんが「まず世界5大ギャラリーのインスタグラムを見て、作者の名前やバックグラウンドや金額等に関係なく、自分の感性のみで好きだと思う作品を教えてほしい」と言ってくださった。

膨大な数の作品をインスタグラムで見た上で、「ベルナール・フリズの作品が好きです」とお伝えしたところ、フリズの作品を扱っているギャラリーであるペロタン東京を紹介していただき、フリズの作品を1点購入しました。それをきっかけに、いろいろなギャラリーやアートフェアに行くようになり、2022年は1年間で500点以上の作品を購入しました。さまざまなギャラリーの方や現代アーティストの方とお話しさせていただく中で、「作品は購入されてもどこにも展示されず倉庫に眠り続けるケースが多い」ということも知りました。私はアートは多くの人に共有されてこそ価値があると思っていて、アーティスト自身もそう思っている方が多いと感じ、自分がコレクションしたアートを広く共有する場を作りたいと思うようになりました。

2016年に購入した村上隆とヴァージル・アブローのコラボレーション作品。左が《Bernini DOB:Carmine Pink and Black》、右が《Our Spot 1》(UESHIMA MUSEUM提供)

──その後、2023年に北参道にプライベートスペースを作り、一部の作品を展示されたそうですね。

その前にすべての作品をプロのカメラマンの方に撮影していただき、日本語と英語、中国語で作品の解説を付け、ホームページとインスタグラムで公開することをはじめました。さらに、アートを飾るためだけのスペースを北参道に作ったのが2023年の1月です。それ以外にも、2022年と2023年に「Art Collaboration Kyoto」で展示をさせていただいたり、フィリップス東京で「UESHIMA COLLECTION」展を開催したこともあります。そんな中で、私の恩師である渋谷教育学園の田村哲夫学園長からいただいていた、渋谷教育学園内にあるブリティッシュ・スクール・イン・東京が麻布台ヒルズに移転するために、新たな借主を探しているというお話が私のなかで繋がり、文化・歴史的な背景や教育の場が敷地内にある場所で私のコレクションを一般公開する美術館を作るという提案をさせていただきました。そして田村学園長にその想いにご賛同いただき、実際にビルを借りることが決まり、具体的に話が進んでいきました。

「UESHIMA MUSEUM」は植島さんの出身校の母体である渋谷教育学園の敷地内にある(UESHIMA MUSEUM提供)

──2022年だけで500点以上の作品を購入されるというのはすごいエネルギーだと思うのですが、どんな風に突き動かされていたのでしょう?

基本的に何にでもハマるととことんハマるタイプなんです(笑)。いろいろなことを調べていく中で好奇心が増していき、夢中になる。2022年はアートに夢中になり、ビジネスは別の役員に任せて、国内外のいろいろなギャラリーや美術館を周りながらたまにLINEで役員と会話をして、それが終わればまたすぐにアートを鑑賞するという生活をしていました。ずっと移動をしながら仕事をしていた感覚があります(笑)。

──最初に購入された20点の内、特に思い入れがある作品というと?

2016年に購入した山口歴さんの作品は、2009年頃の作品でしたが、購入した際に2016年当時の山口さんの感性からするとちょっと違うので、「作品に上書きしてからお渡ししますね」と言われました。その後上書きした作品を渡していただいたのですが、その後2023年に北参道のスペースにあわせて山口さんとやりとりをさせていただいた時に、再度2016年の作品を見て「今の私の感性とは違う」とまたおっしゃり、さらに作品に上書きされたんです。それで、2009年、2016年、2023年と3つのタイミングでの山口さんのテクニックや感性がミックスされた作品になりました。そうやってアーティストの方との直接的な関わりの中で作品が進化していくのが非常に面白いと思いました。山口さんには、また5年後くらいに上書きしていただきたいと思っています(笑)。

一般非公開のExextive Suiteには杉本博司の作品や奈良佑希の作品が飾られている

 

新たな気付きを得たシアスター・ゲイツとの会話

──特にアートの面白さを発見した出来事はありますか?

2022年のあいちトリエンナーレのオープニングの打ち上げに参加させていただいたところ、隣に座ったのがたまたまシアスター・ゲイツでした。そこでどんな作品を制作しているのかという話になり、今「UESHIMA MUSEUM」の2階に展示してあるネオンの作品「Slaves, EX Slaves」の写真を携帯で見せてくれたんです。あの作品は、1990年にある社会学者が作った黒人奴隷比率のグラフがモチーフになっているんですよね。奴隷制度や多様性について考えるきっかけとなるような作品の歴史的背景やコンセプトをアーティストご本人に説明していただいたことで新たな気付きを得て、より現代アートの面白みを感じました。

現在開催中のシアスター・ゲイツの個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(森美術館)のポスターが貼ってあるExextive Suite

──アートを生活に取り入れることでどんなポジティブな影響を感じていますか?

毎日いろいろな作品を直に見ることができるのがとても楽しいです。私は自分がやっている事業に対し、日々多くの決断をしなければいけないのですが、ふと顔を見上げてアートが目に入ると視点がずらせるんです。ずっと思考をする中で、映画やドラマを見ると違う世界に没入できて脳がリフレッシュすることができるのと同じように、アートを見るとその世界に没入できて思考がずらせる。日々その楽しさを感じています。

──植島さんが作品を所有されているリヒターやオラファー・エリアソンは社会的なコネクトが深いアーティストですが、そういったアーティストのアートから何かヒントをもらった経験はありますか?

具体的にビジネスに直結するわけではないのですが、私は常に「今の社会の課題は何なのか」「社会のニーズは何なのか」「社会の課題とニーズに対して自分が与えられる付加価値はなんなのか」といったことを念頭に置きながら、あらゆるニュースや出来事を俯瞰して見ています。アートはものの見方を変えるきっかけになるので、アートを通じてビジネスにおいて違う視点を持つことはできると思っています。

名和晃平の作品は2階のほか、外からも見渡せる1階エントランスにも設置されている

──今「UESHIMA MUSEUM」に展示されている作品数は植島さんのコレクションの約8分の1にあたるそうですが、今後はどういったテーマで作品を見せていきたいと思っていますか?

6月1日の一般公開に向けて0から1を作ることでいっぱいいっぱいで、やっとその作業が終わったところなので、その先のことはまだ具体的には決めてはいません。今後は半年から9ヶ月程度の周期で展示替えをする予定です。昨日も1点作品を購入したんですが、いろいろなアーティストの方やキュレーターの方とテーマを考えていこうと思っていて、それがすごく楽しみです。

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作品体験に寄り添うMUSEUMへのこだわり / UESHIMA MUSEUM開館 植島幹九郎インタビュー【後編】

  • #UESHIMA MUSEUM #植島幹九郎

Information

info_UESHIMAMUSEUM

UESHIMA MUSEUM

多様な文化の交差点として発展を続ける街、東京・渋谷に2024年6月1日オープン。「同時代性」をテーマに国内外の幅広いアーティストの現代アート作品のコレクションを行うUESHIMA COLLECTIONの650点を超える作品の中から、様々なテーマに沿って選び抜いた作品を、一般に公開する。

住所:東京都渋谷区渋谷1-21-18 渋谷教育学園 植島タワー
開催時間:11:00~17:00(事前予約制)
休館日:日曜・月曜・祝日

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GUEST

植島幹九郎

UESHIMA MUSEUM館長

Kankuro Ueshima Collection 創設者。1979年千葉県生まれ。1998年渋谷教育学園幕張高等学校卒業、東京大学理科一類入学。東京大学工学部在学中に起業し、事業家・投資家として多角的ビジネスを展開している。

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